澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

愚かなり 自民党女性局長

八紘一宇とは、かつての天皇制日本による全世界に向けた侵略宣言にほかならない。しかも、単なる戦時スローガンではなく、閣議決定文書に出て来る。1940年7月26日第2次近衛内閣の「基本国策要綱」である。その「根本方針」の冒頭に次の一文がある。

「皇国ノ国是ハ八紘ヲ一宇トスル肇国ノ大精神ニ基キ世界平和ノ確立ヲ招来スルコトヲ以テ根本トシ先ツ皇国ヲ核心トシ日満支ノ強固ナル結合ヲ根幹トスル大東亜ノ新秩序ヲ建設スルニ在リ」

紘とは紐あるいは綱のこと。八紘とは大地の八方にはりわたされた綱の意。そこから転じて全世界を表す。全世界を一宇(一つの家)にすることが、皇国の国是(基本方針)というのだ。一宇には家長がいる。当然のこととして、天皇が世界をひとまとめにした家の家長に納まることを想定している。「皇国を中核とする大東亜の新秩序を建設する」というのはとりあえずのこと、究極には世界全体を天皇の支配下に置こうというのだ。

「満蒙は日本の生命線」「暴支膺懲」「不逞鮮人」「鬼畜米英」「興亜奉国」「五族共和」「大東亜共栄圏」「大東亜新秩序」等々と同じく、侵略戦争や植民地支配を正当化しようとした造語として、今は死語であり禁句である。他国の主権を蹂躙し、他国民の人権をないがしろにして省みるところのない、恥ずべきスローガンなのだ。到底公の場で口にできる言葉ではない。

ところが、この言葉が国会の質疑の中で飛び出した。3月16日の参院予算委員会の質問でのこと、国会議員の口からである。恐るべき時代錯誤と言わねばならない。

私は世の中のことをよく知らない。三原じゅん子という参議院議員の存在を知らなかった。この議員が元は女優で不良少女の役柄で売り出した人であったこと、役柄さながらに記者に暴行を加えて逮捕された経歴の持ち主であることなど、今回の「八紘一宇」発言で初めて知ったことだ。

この人が「ご紹介したいのが、日本が建国以来、大切にしてきた価値観、八紘一宇であります」と述べている。こんな者が議員となっている。これが自民党の議員のレベルなのだ。しかも党の女性局長だそうだ。安倍政権と、八紘一宇と、愚かで浅はかな女性局長。実はよくお似合いなのかもしれない。

この人には、八紘一宇のなんたるかについての自覚がない。ものを知らないにもほどかある。いま、こんなことを言って、安倍政権や自民党にだけではなく、日本が近隣諸国からどのように見られることになるのか。そのことの認識はまったくなさそうなのだ。

自分の存在を目立たせたいと思っても、哀しいかな本格的な政策論議などなしうる能力がない。ならば、セリフの暗記は役者の心得。世間を驚かせる「危険な言葉」をシナリオのとおりに発することで、天下の耳目を集めたい。そんなところだろう。この発言には誰だって驚く。「八紘一宇」発言は確かに世間を驚かせたが、世間は何よりも発言者の愚かさと不見識に驚ろいたのだ。

発言内容を確認しておきたい。八紘一宇が出てきた発言は、麻生財務相に対する質問と、安倍首相に対する質問とにおいてのものである。質問は、租税回避問題についてであった。歴史認識や教育や教科書採択や、あるいは戦争や植民地支配の問題ではない。八紘一宇が出て来るのが、あまりに唐突なのだ。その(ほぼ)全文を引用しておきたい。

「三原参院議員:私はそもそもこの租税回避問題というのは、その背景にあるグローバル資本主義の光と影の、影の部分に、もう、私たちが目を背け続けるのはできないのではないかと、そこまで来ているのではないかと思えてなりません。そこで、皆様方にご紹介したいのがですね、日本が建国以来大切にしてきた価値観、八紘一宇であります。八紘一宇というのは、初代神武天皇が即位の折に、「八紘(あめのした)を掩(おお)ひて宇(いえ)になさむ」とおっしゃったことに由来する言葉です。今日皆様方のお手元には資料を配布させていただいておりますが、改めてご紹介させていただきたいと思います。これは昭和13年に書かれた『建国』という書物でございます。

『八紘一宇とは、世界が一家族のように睦(むつ)み合うこと。一宇、即ち一家の秩序は一番強い家長が弱い家族を搾取するのではない。一番強いものが弱いもののために働いてやる制度が家である。これは国際秩序の根本原理をお示しになったものであろうか。現在までの国際秩序は弱肉強食である。強い国が弱い国を搾取する。力によって無理を通す。強い国はびこって弱い民族をしいたげている。世界中で一番強い国が、弱い国、弱い民族のために働いてやる制度が出来た時、初めて世界は平和になる』

ということでございます。これは戦前に書かれたものでありますけれども、この八紘一宇という根本原理の中にですね、現在のグローバル資本主義の中で、日本がどう立ち振る舞うべきかというのが示されているのだと、私は思えてならないんです。麻生大臣、いかが、この考えに対して、いかがお考えになられますでしょうか。」

「三原参院議員:これは現在ではですね、BEPS(税源浸食と利益移転)と呼ばれる行動計画が、何とか税の抜け道を防ごうという検討がなされていることも存じ上げておりますけれども、ここからが問題なんですが、ある国が抜けがけをすることによってですね、今大臣がおっしゃったとおりなんで、せっかくの国際協調を台なしにしてしまう、つまり99の国がですね、せっかく足並みを揃えて同じ税率にしたとしても、たったひとつの国が抜けがけをして税率を低くしてしまえば、またそこが税の抜け道になってしまう、こういった懸念が述べられております。

総理、ここで、私は八紘一宇の理念というものが大事ではないかと思います。税の歪みは国家の歪みどころか、世界の歪みにつながっております。この八紘一宇の理念の下にですね、世界がひとつの家族のように睦み合い、助け合えるように、そんな経済、および税の仕組みを運用していくことを確認する崇高な政治的合意文書のようなものをですね、安部総理こそがイニシアティブをとって提案すべき、世界中に提案していくべきだと思うのですが、いかがでしょうか?」

三原議員は、麻生財務相に対する質問の中で、清水芳太郎『建国』の抜粋をパネルに用意し、これを読み上げた。こんなものを礼賛する感性が恐ろしい。こんな批判精神に乏しい人物を育てたことにおいて、戦後教育は反省を迫られている。この『建国』からの抜粋の部分について、批判をしておきたい。

『八紘一宇とは、世界が一家族のように睦み合うこと。一宇、即ち一家の秩序は一番強い家長が弱い家族を搾取するのではない。一番強いものが弱いもののために働いてやる制度が家である。』

そんな馬鹿な。国際関係を戦前の「家」になぞらえる、あまりのばかばかしさ。世界のどこにも通用し得ない議論。聞くことすら恥ずかしい。「世界が一家族のように睦み合うべき」とするのは、「一番強い家長を核とする秩序」を想定している偏頗なイデオロギーにほかならない。他国を侵略して、天皇の支配を貫徹することによって新しい世界秩序をつくり出そうという無茶苦茶な話でもある。「一番強いものが弱いもののために働いてやる制度」とは、「強い」「弱い」「働いてやる」の3語が、差別意識丸出しというだけでなく、「3・1事件」や関東大震災時の朝鮮人虐殺などの歴史に鑑み、虚妄も極まれりといわざるを得ない。こんな妄言を素晴らしいと思う歪んだ感性は、相手国や国民に対する根拠のない選民思想の上にしかなり立たない。

『これは国際秩序の根本原理をお示しになったものであろうか。現在までの国際秩序は弱肉強食である。強い国が弱い国を搾取する。力によって無理を通す。強い国はびこって弱い民族をしいたげている。』

日本こそが、近隣諸国に対して、弱肉強食策をとり、弱い国を搾取し、力によって無理を通して、弱い民族をしいたげてきた。八紘一宇の思想は、その帝国主義的侵略主義、他国民に際する差別意識の上になり立っているのだ。その差別意識は完膚なきまでにたたきのめされて、我が国は徹底して反省したのだ。今にして、八紘一宇礼賛とは、歴史を知らないにもほどがある。

『世界中で一番強い国が、弱い国、弱い民族のために働いてやる制度が出来た時、初めて世界は平和になる』

あからさまに日本を「世界中で一番強い国」として、自国が世界を支配するときに、世界平和が実現するという「論理」である。中国にも、朝鮮にも、ロシアにも欧米にも、「世界中で一番強い国」となる資格を認めない。日本だけが強い国であり神の国という、嗤うべき選民意識と言わざるを得ない。

いかに愚かな自民党議員といえども、一昔前なら、「八紘一宇」を口にすることはできなかったであろう。露呈された安倍政権を支える議員のレベルを嗤い飛ばす気持ちにはなれない。時代の空気はここまで回帰してしまったのか。民主主義はここまで衰退してしまったのか。自民党安倍政権の危うさの一面を見るようで気持が重い。

もしかしたら、日本の国力が衰退して国際的地位が低下しつつあることへの危機感の歪んだ表れなのかも知れない。それにしても、歴史と現実を踏まえた、もう少しマシな議論をしてもらいたい。
(2015年3月19日)

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