澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

国民(私たち市民)の70年談話-戦後70周年を心に刻んで

私たちは、これまでにない危機意識の中で戦後70年目の8月15日を迎えようとしています。私たちにとっての8月15日とは、何よりもまず先の大戦で内外の人びとにもたらせた辛酸、苦痛、悲惨を心に刻む日であり、同時に、同じ過ちを繰り返さないために私たち自身の過去の歴史を真摯に省みるべき日でもあります。
先の大戦で日本は、アジア諸国を侵略し、植民地として、これらの国々とそこに住む人びとに、この上なく甚大な被害と苦痛を与えました。中国においては、人体実験をして生物兵器を開発し、また、毒ガスを使用するなど想像を絶する非人道的な方法で多くの死傷者をだしています。
日本軍が捕虜とした連合国兵士に対しても、捕虜に関する国際条約に反する扱いをし、多くの死傷者を生じさせました。
戦時中、朝鮮半島、中国、フィリピン、インドネシアなど多くのアジア諸国において、そこに住む女性を日本軍が関与して強制的に「慰安婦」と呼ぶ、性奴隷として、人間の尊厳と人権を深く傷つけました。慰安婦とされた女性の多くは、いまなおその時に受けた深い心の傷に苦しんでいます。
また、軍国化した政府が国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れました。軍関係者のみならず、おびただしい非戦闘員の戦争犠牲者を生み出し、この大戦での犠牲者だけで310万人にもおよぶ結果となりました。沖縄は、地上戦の戦場となり、住民の4人に1人が犠牲になりました。広島、長崎には原爆が投下され、人類で最初の被爆国となり、強制的に日本に連れて来られた在日外国人を含む多くの人命を失うとともに、今なお多くの被爆者が後遺障害で苦しんでいます。
私たちは、この深刻な歴史の事実を謙虚に受け止め、心に刻み、政府に対しては、被害を受けた国とそこに住む人々に対し、痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明することを強く求めます。また同時に私たち国民自身も、このような事態を防ぎ得なかったことに責任があったことを自覚し、戦後その自覚に基づく行動が必ずしも十分でなかったことを率直に認めて真摯に反省し、そのことを心からお詫びするとともに、近隣諸国の人びとと手を携えて揺るがぬ平和を構築すべき決意を再確認いたします。また、戦争と植民地支配の歴史がもたらした内外のすべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げ、この歴史の教訓を次の世代に語り伝えていくように努めるとともに、政府に対しては、近隣諸国と真の信頼関係をつくり出すことができる歴史教育を行うよう強く求めます。
日本は、非軍国主義化と民主化の徹底を求めるポツダム宣言を受け入れて、無条件降伏をしましたが、1945年8月15日は、また、新生日本の再出発の日となりました。その後、女性も含む普通選挙で選ばれた議員で組織された第90帝国議会(制憲議会)で、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の3大特色を有する日本国憲法の制定が審議されましたが、当時の内閣総理大臣吉田茂は、「戦争放棄」の規定をおくに至った動機について、日本が今後世界の平和を再び脅かすことがないように、平和主義と民主主義を徹底するためである旨述べております。
私たちは「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようすることを決意し、」(日本国憲法前文)「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、」(同9条)、全世界のすべての人びとが、「恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認」し、「専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占め」ることを誓い(同前文)、「不断の努力によって、これを保持し」(同12条)ていくことを心に刻みました(同97条)。

戦後、まもなく始まった東西冷戦の中で、1951年に政府は、連合国との間で講和条約を締結するとともに、アメリカとの間で安全保障条約を締結し、1954年には、アメリカの意向を受けて自衛隊を創設しました。ただ、沖縄は、その後も、アメリカの占領が長く続き、アメリカ軍の基地が集中することになり、今日の問題の原因を作り出すことになりました。
私たちの国では、以後、平和主義と軍事化の問題が政治の争点として一貫して続くこととなりました。私たちは、原水爆禁止平和運動、安保改定反対運動、沖縄復帰の運動など平和で真に自立した国となるべく運動を続けるとともに、砂川、長沼訴訟、厚木、横田、嘉手納等基地公害訴訟、教科書裁判、戦後補償裁判、「君が代」訴訟など多くの訴訟を提起するなどして、日本国憲法を血肉化するため努めてきました。
歴代内閣は、国民の強い声に押されて、憲法9条の下では、集団的自衛権の行使は認められないとの考えを示し、アメリカの軍備拡張の要求に対しては、憲法9条を盾に非軍事の政策を重視する対応をしてきました。このことが日本の経済発展をもたらす一因となりました。
東西冷戦中、世界では、朝鮮戦争、ベトナム戦争アフガニスタン紛争など多くの紛争が生じましたが、日本は、常に国民の強い意思を背景に、参戦したり、他国の戦争に直接加担することを避ける選択をし、広く非軍事で世界の平和に貢献すべく努めてきたことに対して、評価を得てきました。
私たちは、唯一の被爆国として、核兵器が非人道の極みであるとの自覚に立って、政府に対し、核抑止力に依らない安全保障の検討を求め、人類を破滅させる危険性のある核兵器の廃絶に向けた運動を継続してきましたが、今の時代にあって、ますますこのことが重要になってきています。
この戦後70年の中で、2011年の東日本大地震後の福島原発事故による地球環境の汚染は、持続可能な社会を破壊し、人類の生存を危険にさらすことを明らかにしました。核管理の難しさと人類の歴史を遙かに超える核廃棄物の無害化の時間にかんがみても、原発を廃止した上で、人びとが安心して生活し、住み続けることのできる持続可能な社会を創っていかなければなりません。
私たちは、戦後70年、憲法の精神を生かし、戦争をせず、戦争に加担もせず、非軍事で世界の平和に貢献したことが、アジアの近隣諸国との信頼関係を維持し、平和な世界を創っていくことを学びました。私たちはこの70年の貴重な経験を心に刻み、未来を考える礎にしてまいります。
私たちがこの夏かつてない危機意識を持つに至ったのは、安倍首相率いる政権与党が、閣議決定のみで集団的自衛権行使についての解釈を変え、今国会で、安全保障関連法案を強引に成立させようとしているからです。
しかしながら、安倍首相が、先の大戦で、日本がアジア諸国を侵略し、そこに住む人びとに甚大な被害と苦痛を与えたことを痛切に反省され、日本が再び世界の平和を脅かすことがないようにするため、現行憲法が制定されたことに思いが至ったならば、安全保障関連法案の提出は本来あり得ないことです。安全保障関連法案は、戦後日本の平和の歩み大きく踏み外すものであり、立憲主義にも反し、違憲です。私たちは、安全保障関連法案の廃案を目ざし、粘り強く活動していくこととします。
私たちは、この機会に改めて、戦後70年の間、日本が一度も戦争をせず、平和であり続けるためにたゆまぬ努力を続けてきた先人と、非軍事で世界の平和に貢献することの重要性を評価した国際連合および近隣諸国をはじめ世界の国々とそこ住む全ての人びとに心から感謝致すとともに、日本国憲法の理念に従い、全世界のすべての人びとが平和のうちに生存する権利を有することを踏まえ、非軍事であらゆる方法を駆使することにより平和な世界を構築するため不断に努力を続けていくことを誓います。
    国民(私たち市民)の70年談話実行委員会
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明日(8月14日)安倍政権の「戦後70年談話」が発表になる。内容は、蓋を開けてみるまでは分からない。

もとより天下に名だたる歴史修正主義のお家元・安倍晋三のこと。植民地支配は八紘一宇・五族協和と信じ込んでいるのだろうし、侵略も自存自衛の防衛戦争と言い張りたいのがホンネのところ。安倍談話を出すと言い出したころには、「村山(50年)談話・小泉(60年)談話を引き継ぐだけなら安倍(70年)談話を出す意味がない」と安倍カラーを出すことに意欲満々だった。

しかし、明らかに彼の思惑は外れた。今や、「国民世論環境の変化」による風圧は強い。到底彼の思い通りの談話が出せる情勢にない。彼の本心を披瀝する談話は、安倍内閣の存在そのものを吹き飛ばしかねない。彼は本心を口にすることはできない。いやいやながらも、植民地支配や侵略を表現せざるを得ないのだ。

とはいうものの、支持者の手前遠慮ばかりもしておられない。少しはホンネも語ってみたい。明日の安倍談話は、ジレンマの末に、自分を取り巻く状況をどの程度深刻にとらえているか、その認識の表明にほかならない。安倍が正確に事態を認識しているとすれば、耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍んででも、自身の本心から遙かに乖離した内容の発言をしなければならない。キーワードとを含んでの村山談話の承継やむなし、なのである。

本日(8月13日)安倍政権の談話に対峙する「国民の70年談話」が必要と考えた者が企画したシンポジウムが開催された。憲法が前提とした歴史認識を正確に踏まえるとともに、戦後日本再出発時の憲法に込められた理念を再確認して、諸分野での「戦後」をトータルに検証のうえ、「国民の70年談話」を採択しようというものである。

シンポジウムのタイトルは、「『国民の70年談話』─日本国憲法の視座から~過去と向き合い未来を語る・安全保障関連法案の廃案をめざして~」というもの。
3部構成で、途中に日フィルの弦楽四重奏の演奏がはいった。
◆第1部 「過去と向き合う」 有識者の講演
◇日フィルの演奏 「鳥の歌」など
◆第2部 「未来を語る」 会場発言リレートーク
◆第3部 「国民(私たち市民)の70年談話」の発表と採択

第1部の「過去と向き合うは」各パネラーからの以下のレクチャー。
■戦後改革における民主主義の理念と現状
  堀 尾 輝 久(元日本教育学会・教育法学会会長)
■人間らしい暮らしと働き方のできる持続可能な社会の実現に向けて
  暉 峻 淑 子(埼玉大学名誉教授)
■日本国憲法を内実化するための闘い─砂川・長沼訴訟の経験から
  新 井  章 (弁護士)
■日本国憲法の立憲主義体制を否定する強権政治
  杉 原 泰 雄 (一橋大学名誉教授)

第2部「未来を語る」は、シールズ、安保関連法案に反対するママの会、日本ジャーナリスト会議(JCJ)、杉並市民の会、「日の丸・君が代」訴訟原告団、婦人有権者同盟、日航乗員労働組合、沖縄からの報告、「女の平和」などの運動体から生き生きした報告がなされた。いろんな分野から、自発性の高い、創意と工夫に満ちた運動の報告は、実に新鮮で刺激的なものだった。戦後70年の今、安倍政権を樹立した反憲法勢力と、憲法を携えた国民運動がせめぎ合っていることを実感するとともに、戦争法案を廃案にして平和や憲法を擁護していく展望を与えてくれるものだった。

そして第3部で、前掲の「談話」が読み上げられ満場の拍手で採択された。

願わくは、明日の安倍談話が、最大限に彼の本心を押し殺し、「国民(私たち市民)の談話」にできるだけ近似したものとなって欲しいものである。
(2015年8月13日)

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