澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

人権と憲法擁護の志ある人にだけ「合格おめでとう」

昨日(9月8日)、司法試験の合格発表があった。試験問題漏洩事件が大きな話題となっている中でのことである。
1850人の合格者すべてに、「おめでとう」などとはけっして言わない。この中に、高村正彦や北側一雄、あるいは稲田朋美、橋下徹などの後輩が確実に潜んでいるからだ。権力や資本にシッポを振ることを恥と思わぬ弁護士や、スラップ訴訟請負常連の弁護士などもいる。
 
そのような連中を除いて、とりわけ「平和と人権と民主主義」擁護の志を堅持しようという未来の法曹に心からおめでとうと言いたい。これからどのような法律家になろうかと、悩んでいる合格者諸君にも祝意を表して、法律家としての生きがいを探して欲しい。

志ある合格者に「登科後」という唐代の詩を贈る。登科とは科挙に合格すること。作者孟郊は46歳にして進士に合格した。合格翌日の伸びやかな心境を詠ったもの。

   昔日齷齪不足誇
   今朝放蕩思無涯
   春風得意馬蹄疾
   一日看尽長安花

読みは、昔日の齷齪(あくせく)誇るに足らず、
      今朝放蕩として思い涯(はて)無し。
      春風意を得て馬蹄はやし、
      一日看尽くす長安の花。

作者は、今朝は昨日までとは打って変わってどこまでも伸びやかな心もち。春風のなか得意満面で軽やかに馬上の人となっている。当時、合格発表は牡丹の季節。科挙の合格者には、長安城内の貴族の家々が牡丹の花を見せた。皆、合格者には一目置いて扉を開けたのだ。作者は、広い長安で、家々の牡丹を見尽くしているというのだ。家々のもてなしは、牡丹だけではなかったのかも知れない。

なお、1858年清末に科挙で賄賂を取っての不正合格が発覚した。驚くべきことに、不正を犯した考査官2名だけでなく、不正合格者も死刑に処せられたという(宮崎市定「科挙」中公新書・101頁)。

私が司法試験に合格したのは、1968年といういまは昔のこと。苦学生だった私が司法試験を目指したのは、誰でも受験が可能で合格すれば司法修習生として公務員に準じた給与の支給を受けられることが大きな魅力だった。

私は文学部の出身だから、授業での法学の勉強はしなかった。当時予備校や塾などという存在はなく(あったかも知れないが知らなかった)、模試すら受けたことはない。友人の司法試験グループに入れてもらって勉強した。いまなら、法学未習コース。司法試験とは、受験まで金がかからず、合格すれば給与が支給された。当時、この制度のおかげで、私のような貧乏学生が法曹になった。

合格して司法修習生として採用になったのが、1969年の4月。最初の給与をもらったときは本当に嬉しかった。それまでは、身を粉にして不定期な学生アルバイトで生計を立てていたのだから。勉強しているだけで、安定した給与の支給を得られるなど、夢のような話しではないか。そのとき、けなげにも思った。私はいま、社会からの恩恵を受けた立場にある。社会は私に、相応の期待をしているのだ。この期待に応え、将来社会に還元しなければならない。そういう意識は、その後弁護士となってからも持ち続け、いまもある。

現在司法修習における給費の制度は廃止されている。貸費の制度はあるようだが、どうせ弁護士は儲け仕事なのだろうと位置づけられたことになる。若い弁護士諸君が給費制復活の運動をしている。日弁連も支援しているが、十分に大きな運動にはなっていない。人権擁護に奉仕しようという弁護士を求める社会の期待はなくなったのだろうか。

いま、全国の弁護士会が、戦争法案反対で大きな運動を巻き起こしている。先年には、特定秘密保護法反対にも熱心だった。平和・人権・民主主義、そして憲法を擁護する姿勢において、弁護士会はきわめて真っ当である。十分に社会からの期待に応える活動をしていると思う。給費制復活の世論が盛りあがってもよいはずではないか。

私は、弁護士とは成熟した市民社会が創造した反権力の職業だと思っている。いざというとき、法を武器にして、弱者の人権のために権力や金力に怯むことなく対抗してたたかう専門職である。在野であることが絶対の基本であり、多数派の同調圧力や常識にもとらわれない、真の意味で自由人としての存在でなければならない。

新合格者諸君。今日は、思う存分牡丹の香りに酔え。明日からはぜひ、人権のために研鑚せよ。
(2015年9月9日・連続892回)

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Published in 水曜日, 9月 9th, 2015, at 19:20, and filed under 弁護士.

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