澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

米朝首脳会談の成果を大いに評価する。

6月12日米朝首脳会談は、大仰な「史上初」の「歴史的」セレモニーだった。私は、トランプや金正恩の個人的資質に関する否定的見解を変えるつもりはまったくないが、この会談の成果には評価を惜しまない。そして、この成果を第一歩として、朝鮮半島の非核化が実現し、さらには北東アジアの軍事緊張緩和が進展して真の平和に至ることを切望する。

しかし、アメリカでも日本でも、メディアには辛口の論評があふれている。北朝鮮悪玉論の枠組みからの視点を維持したまま、アメリカの北朝鮮への縛りが不十分ではないか、という論調である。流行り言葉になった「CVID」が盛りこまれていないのは失敗だった、北朝鮮にしてやられた、というわけだ。

本日の主要紙社説はおしなべて、その論調となっている。
朝日が、こう言っている。「その歴史的な進展に世界が注目したのは当然だったが、2人が交わした合意は画期的と言うには程遠い薄弱な内容だった。」「最大の焦点である非核化問題について、具体的な範囲も、工程も、時期もない。一方の北朝鮮は、体制の保証という念願の一筆を米大統領から得た。」「署名された共同声明をみる限りでは、米国が会談を急ぐ必要があったのか大いに疑問が残る。」

読売社説の小見出しをひろうと、「「和平」ムード先行を警戒したい」「合意は具体性に欠ける」「圧力の維持が必要だ」。

産経は、「米朝首脳会談 不完全な合意を危惧する」「真の核放棄につながるのか」「歴史的会談は、大きな成果を得られないまま終わった」「共同声明にCVIDの言葉が入らなかった点について、トランプ氏は「時間がなかった」と言い訳した。交渉能力を疑われよう」という。

毎日も同様だ。「非核化の担保が不十分」「トランプ流の危うさ」として、「注目されたのはトランプ氏が北朝鮮への軍事オプションを封印したと思えることだ。北朝鮮が合意を破った時は軍事行動も考えるかと聞かれたトランプ氏は、韓国などへの甚大な影響を考えれば軍事行動は非現実的との認識を示した。」「米韓軍事演習も北朝鮮の対応次第では中止する考えを示し、在韓米軍縮小にも前向きな態度を見せた。この辺は大きな路線転換と言うべきで、北朝鮮への軍事行動は不可能と判断してきた米国の歴代政権に、トランプ氏も同調したように映る。」と非難がましい。

砂漠で出会った水瓶に半分の水があったとする。瓶に半分の水の存在を歓喜をもってありがたいと思うか、それとも、瓶一杯に満たない水の量の少なさを嘆くか。

米朝間の軍事緊張が悪化の一途をたどって、「もしや開戦も」と深刻化していた事態が一変したのだ。軍事衝突の危険度進行のベクトルが緊張緩和と平和のベクトルへと向きを変えた。一触即発とさえいわれたチキンゲームからの解放こそが、この会談の評価すべき本質である。足りないところは、非本質的で副次的なものというべきだろう。

往々にして「予言は自己実現する」。この会談の成果を評価する国際世論は、平和の実現に寄与することになるだろうし、この会談を否定的にしか評価しない国際世論が主流となるなら、朝鮮半島の非核化も危うい。

「過去何度も北には欺され煮え湯を飲まされてきた」は、決して公平な見方ではない。見方を変えればお互いさまなのだ。そして、常に強大な側に寛容が求められよう。その意味では、米韓合同演習中止は素晴らしいことだ。これまでは、この軍事演習こそが、強大な側による弱小の側に対する一方的な威迫行為として、典型的な挑発だったのだから。

問題は、相互信頼から出発するのか、それとも相互不信からか、なのだ。これまでは相互不信のエスカレーションが暴発ぎりぎりのところまで進行した。核のボタンの大きさを競い合っていた愚かな2人が、10秒を超える握手をして、米朝両国関係を「敵対から友好へと転換させるために努力することで合意した」のだ。この第一歩に祝意を表するとともに、この偉大な一歩を後戻りさせることなく、歩ませ続ける国際世論の喚起に努めたいものと思う。

以下が?米朝共同声明の全文である。相互信頼の歩みの第一歩として、立派な成果ではないか。

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米朝共同声明全文(NHK訳)

トランプ大統領とキム委員長は、2018年6月12日に、シンガポールで、史上初めてとなる歴史的なサミットを開催した。トランプ大統領とキム委員長は、新たな米朝関係や、朝鮮半島における永続的で安定した平和の体制を構築するため、包括的で深く誠実に協議を行った。トランプ大統領は北朝鮮に体制の保証を提供する約束をし、キム委員長は朝鮮半島の完全な非核化について断固として揺るがない決意を確認した。

新たな米朝関係の構築が朝鮮半島のみならず、世界の平和と繁栄に貢献することを信じ、また、両国の信頼関係の構築によって、朝鮮半島の非核化を進めることができることを認識し、トランプ大統領とキム委員長は以下の通り、宣言する。

1・アメリカと北朝鮮は、平和と繁栄に向けた両国国民の願いに基づいて、新しい関係を樹立するために取り組んでいくことを約束する。

2・アメリカと北朝鮮は、朝鮮半島に、永続的で安定した平和の体制を構築するため、共に努力する。

3・2018年4月27日のパンムンジョム宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組むことを約束する。

4・アメリカと北朝鮮は、朝鮮戦争中の捕虜や・行方不明の兵士の遺骨の回収に取り組むとともに、すでに身元が判明したものについては、返還することを約束する。

史上初となる、アメリカと北朝鮮の首脳会談が、この数十年にわたった緊張と敵対関係を乗り越え、新しい未来を切り開く大きな転換点であることを確認し、トランプ大統領とキム委員長は、この共同声明での内容を、完全かつ迅速に実行に移すことを約束する。

アメリカと北朝鮮は、首脳会談の成果を実行に移すため、可能な限りすみやかに、アメリカのポンペイオ国務長官と北朝鮮の高官による交渉を行うことを約束した。アメリカのトランプ大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長は、新たな米朝関係の発展と、朝鮮半島と世界の平和や繁栄、そして安全のために、協力していくことを約束する。

ドナルド・トランプ 米合衆国大統領

金正恩 朝鮮民主主義人民共和国国務委員長

2018年6月12日
セントーサ島 シンガポール

(2018/06/13・毎日連続更新1900日)

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Published in 水曜日, 6月 13th, 2018, at 22:49, and filed under アメリカ, 北朝鮮.

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