(2022年4月30日)
4月25日の那覇市臨時市議会。「本土復帰50年に際し、市民・県民の生命を守る任務遂行に対する感謝決議案」なるものが上程され、採決の結果賛成多数で可決となった。このタイトルには感謝の宛先についての記載はなく、決議の手交や郵送は行わないというが、自衛隊に感謝する内容である。自衛隊への「感謝決議」は県議会を含め、沖縄県内の市町村議会では初めてのことと報じられている。自民党議員が提案し、これに共産党が賛成にまわったことが、大きな話題となっている。
提案理由は以下のとおりである。
「本年で本土復帰 50 周年を迎えるにあたり、関係機関が行った緊急患者等の災害派遣で市民県民の多くの命が救われた。
よって本市議会は、関係機関に対し感謝の意を表すためこの案を提出する。」
採択された決議の全文を引用しておきたい。
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「戦後 27 年の米国統治を経て沖縄県が本土復帰をして、本年は 50 年の節目を迎える。
多くの離島を抱える島しょ県の沖縄は、これまで「島チャビ(離島苦)」に挑戦しながら振興発展の歩みを進めてきた。復帰とともに配備された自衛隊は、本来任務ではなかった緊急患者空輸を昭和 47 年、粟国島を皮切りに開始し、本市消防局や医療機関と連携しながら、本年 4 月 6 日に南大東島の緊急患者空輸をもって搬送数が総計 1 万件を超えるに至った。
その他にも災害派遣として市内外における不発弾処理や、行方不明漁船等の捜索など市民・県民の生命を守る活動を継続して行っている。
また、海上保安庁も同様に本土復帰以来、3 千百件余の離島患者空輸や漁船等からの救助をおこなっているほか、ドクターヘリも同様な任務を行い、この復帰 50年には様々な行政機関や医療機関などの連携と協力があり市民・県民の生命と財産が守られてきた。
よって本議会は本土復帰 50 年に際し、関係機関並びに関係各位における市民・県民の生命を守る任務遂行に対して、深甚なる敬意と感謝の意を表するものである。
令和 4 年(2022 年)4 月 25 日
那 覇 市 議 会
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市議会の定数は40。欠員が2で、採決に加わらない議長を除くと、決議の投票権者数は37。そのうち15名が退席して表決に加わらず、有効投票数は22となった。無所属の2人が反対にまわり、採決結果は賛成20、反対2。この賛成票20の中に、共産党の5票がある。
地元紙報道の見出しは、【自民・共産が賛成 那覇市議会 感謝決議 自衛隊 緊急搬送】(琉球新報)、【自衛隊に感謝決議 那覇市議会で県内初 離島患者の搬送1万件で】【自衛隊への感謝決議 「党派を超えて可決され喜ばしい」と岸防衛相 那覇市議会で共産も賛成】(沖縄タイムス)など。
採決時退席したのは、立憲民主・社大、公明、ニライ会派など。ときは、ウクライナ侵攻のさなか。ところは、参院選・知事選を間近にした沖縄の県庁所在地である。影響は大きい。なんとも、分かりにくいことが起きるものだ。
琉球新報社説の一節は次のように述べている。「共産党は決議が民生に限った内容だとして賛成した。これまでの自衛隊に対する党の立場とどのように整合を図ったのかは分かりづらい」。私も同様の感想を持つ。
今、「自衛隊に感謝を」「自衛隊を侮辱するな」「国土の防衛という崇高な任務に敬意を」という、意識的な世論づくりが進行している。当然のことながら、9条改憲の地ならしである。その策動に乗せられてはならない。にもかかわらず、9条改憲反対の中心勢力である共産党が、「自衛隊感謝決議に賛成」とは、いったいどうしたことか。
アジア太平洋戦争での唯一の地上戦において、日本軍の被害を経験した沖縄ではないか。住民がガマから追い出され、あるいは集団自決を強要され、「軍隊は住民を守らない」と骨身に沁みた沖縄県民ではないか。その地での自衛隊感謝決議自体が信じがたい。
「離党の患者搬送や、災害派遣や、あるいは不発弾処理や、行方不明漁船等の捜索等々の市民・県民の生命を守る活動に限っての感謝」だから問題ないと言ってはならない。自衛隊の『本質』『本務』は、紛れもなく軍事力の行使にあって、民生にはない。自衛隊の『非本質』的部門における『非本務』活動をもって、自衛隊の存在を肯定評価してはならない。
本来、必要な民生活動を自衛隊に任せていてはならない。それぞれの専門活動機関を創設し、専門性の高い活動を目指すべきである。離党の患者救援や災害派遣は、その用途に特化した機材や装備を有し専門的な訓練を積んだ機関に任せるべきべきである。軍事用装備品の流用で済ましてよいはずはないのだから。
そして、ことさらに自衛隊に感謝してはならない。全ての公務員が国民に奉仕しているのだ。警察も消防も清掃も海保も気象庁も、そして教育も司法も行刑も…。自衛隊の任務のみを崇高としたり、特別に感謝の対象とすべき理由はない。
さらに、日本国憲法は、武力を保持しないと定めている。自衛隊はその存在自体が違憲である可能性が高い。仮にこれを違憲な存在でないとすれば、専守防衛に徹した規模や装備や編成に限定しなければならない。果たして、自衛隊は違憲の存在ではないのか。この議論の徹底を躊躇させる空気はきわめて危険である。
自衛隊とは、暴走すれば、国民の人権も民主主義も破壊する危険な暴力装置である。これに対しては、徹底した文民(主権者国民)の統制下に置かねばならない。自衛隊のあり方に対する批判を躊躇させる空気が社会に蔓延したときには、軍国主義という病が相当に進行していると考えざるを得ない。その病は、国民にこの上ない不幸をもたらす業病である。予防がなによりも肝腎なのだ。
だから、自衛隊感謝決議は、自衛隊批判を口にしにくくする空気作りの第一歩として危険なのだ。ましてや、共産党が賛成となればなおさらではないか。革新を名乗る党が、このような決議に賛同してはならない。猛省を促したい。
(2022年4月29日)
本日は「昭和の日」。大型連休の初日だが、東京は生憎の本降りの雨。しかも肌寒い。ツツジも、サツキも、フジも、冷雨にうたれて気の毒の限り。
このぐずついた天候のごとく、このところよいニュースがない。コロナ・ウクライナ・知床事故・道志村…。そして、諸式の物価高である。世の物価はなべて上がるが、賃金は上がらない、年金は下がる。株価だけが人為的な操作で持ちこたえ、持つ者と持たざる者との格差拡大に拍車がかかる。これでどうして、政権がもっているのやら。さらには、敵基地反撃能力だの、中枢機能攻撃だの、核シェアリングだの、防衛費倍増だの。ヒステリックで物騒極まりない見解が飛びかっている不穏さ。
そう思っていたら、北海道新聞のデジタル版に、以下の記事。
「改憲の賛否再び拮抗 9条改正「不要」57% 本紙世論調査」というのだ。これは朗報である。闇夜に一筋の光明とは大袈裟だが、元気が湧く。
「5月3日の憲法記念日を前に、北海道新聞社は憲法に関する全道世論調査を行った。
憲法を「改正すべきだ」は42%(前年調査比18ポイント減)、
「必要はない」は43%(同13ポイント増)
で拮抗(きっこう)した。
前年は新型コロナウイルスへの不安の高まりなどを背景に改憲意見が強まったが、再び賛否が二分する状態に戻った。
戦争放棄を定めた憲法9条については「改正すべきではない」が前年から横ばいの57%で、「改正すべきだ」の35%(同1ポイント減)を上回った。
自民党などはロシアによるウクライナ侵攻を機に9条改正に向けた議論の進展を図っているが、市民の間に改憲論は強まっていないことが浮き彫りになった。」
これが、憲法記念日直前の、全道の憲法意識なのだという。これから、順次全国の世論調査が実施され結果が発表されることになるだろうが、「市民の間に改憲論は強まっていない 」とは幸先のよい調査結果ではないか。
いま、ロシアのウクライナ侵攻を奇貨として、反憲法勢力が懸命に笛を吹いている。曰わく、「自分の国は自力で防衛しなければならない」「平和を望むなら、軍事力の増強が不可欠である」「それに桎梏となっている憲法を、とりわけ9条を変えなければならない」と。
この笛を吹いている側の勢力が、自・公・維・国の保守4党。しかし、国民はけっしてこの笛に踊らされてはいないのだ。むしろ、平和への危機意識が「9条守れ」の声に結実しているのではないか。道新の世論調査が、貴重なその第一報となった。さて、これから、メーデーがあり、憲法記念日となる。改憲阻止の世論を大きくしていきたいもの。
ところで、「昭和の日」である。昭和という時代は1945年8月敗戦の前と後に2分される。戦前は富国強兵を国是とし、侵略戦争と植民地支配の軍国主義の時代であった。戦後は一転して、「再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることの決意」から再出発した、平和憲法に支えられた時代。戦前が臣民すべてに天皇のための滅私奉公が強いられた時代であり、戦後が主権者国民の自由や人権を尊重すべき原則の時代、といってもよい。
本日は、戦前の軍国主義昭和を否定し、戦後の平和主義昭和を肯定的に評価すべき日でなくてはならないが、なんと、本来の「昭和の日」に、もっともふさわしからぬ人物の誕生日を選んだことになる。疑いもなく、昭和天皇と諡(おくりな)された裕仁こそが、戦前の狂信的軍国主義を象徴する人物にほかならないのだから。
あの昭和前期の軍国主義の時代、国民には裕仁や軍部の手口が、見えなかった。いま、プーチン・ロシアが、隣国ウクライナに侵略戦争中の「昭和の日」を迎えてこのことを思い起こすべきだろう。
プーチンの国内世論の支持はすこぶる高いと報じられている。皇軍の侵略を支えた日本国民の民意はそれを圧倒するものだったろう。プーチンの手口はヒロヒトの軍隊とよく似ている。戦前の日本の歴史を見据えて、プーチン・ロシアの責任を見極めよう。そして、プーチンもヒロヒト同様に、内外に戦争の惨禍をもたらした戦争犯罪者であり、平和への敵であることを確認しなければならない。
戦前の軍国主義昭和を否定し、戦後の平和主義昭和を肯定する立場からは、憲法の理念を擁護し、憲法の改正を阻む決意あってしかるべきである。そうであって初めて、「昭和の日」の意義がある。
(2022年4月28日)
石原慎太郎教育行政時代の悪名高き「10・23通達」から18年余。都立学校での「日の丸・君が代」強制の嵐はおさまることなく、猛威をふるい続けている。
本日、第5次処分取り訴訟の第4回口頭弁論が、東京地裁709号法廷で開かれた。原告側が2通の準備書面を提出し、原告2人、代理人1人が、口頭で意見陳述をした。裁判官諸氏はよく耳を傾けてくれたと印象をもった。
本日の法廷での、意見陳述、私も代理人席で聞いて感動した。弁護士として、自分が受任した人の発言に感動し、自分が受任している事件の意義を再確認するのは、至福のひとときである。
「日の丸・君が代」の強制に服することができないと決意した人々とは、教育という営為を真剣に考え、子どものことを真面目に考える、優れた教師なのだ。自分に忠実でなければならないとする高潔な人々なのだ。その真面目さ、高潔さへの共感が感動となる。そしてその感動は、東京都教育委員会や背後で指図している東京都知事の理不尽への怒りとなる。
本日の代理人意見陳述の原稿をご紹介したい。とても分かりやすい。誰にも、説得力があると思う。ぜひ、ご一読いただきたい。
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原告ら代理人国旗国歌法立法趣旨に関する意見陳述要旨
原告ら訴訟代理人白井劍です。このほど提出した準備書面(6) では、国旗国歌法の立法趣旨からして起立斉唱の義務づけは許されないことを述べました。その要約に6分ほどのお時間を頂戴いたします。
国旗国歌法の法案作成過程では、国旗国歌の尊重義務が条項から慎重に除外されました。2009年8月18日付朝日新聞には、法案作成に携わった人たちのインタビューが載っています。
当時の官房副長官はこう述べています。「尊重義務などを書けば,罰則がなくても『義務を守らないのは,けしからん』などと言い出す人がいるかもしれない。そうした余地はないほうがいい』」。
当時の内閣法制局長官はこう言っています。「君が代を歌わないことをとやかく言われたり,国旗に敬礼しなければいけなかったりする社会は窮屈だ。歌いたくなければ歌わずに済む社会が私はいい」。
内閣官房長官であった野中広務氏は、法制化から4年経って10・23通達が発出されたのちに、教職員に対する懲戒処分について日弁連のインタビューに答えて、「立つ,立たん,歌う,歌わんで処分までやっていくというのは,制定に尽力した私の気持ちとしては不本意で,そのような争いを残念に思っております」と語っています。
国旗国歌を尊重することを義務づけすべきでないとして、国旗国歌の尊重義務が法案作成過程で慎重に除かれたのです。
しかし、それでも国会審議が進むにつれ国論を二分する国民的大議論が沸き起こりました。これを反映して国会でも白熱した議論になりました。政府は、「強制しない」、「教育現場での取り扱いに変更をもたらさない」と、くり返し一貫して答弁しました。
内閣総理大臣「学校における国旗と国歌の指導は・・義務づけを行うことは考えておらず,現行の運用に変更が生ずることにはならない」。
内閣官房長官「学校現場におきます内心の自由というものが言われましたように,・・式典等においてこれを,起立する自由もあれば,また起立しない自由もあろうと思うわけでございますし,斉唱する自由もあれば斉唱しない自由もあろうかと思うわけでございまして,この法制化はそれを画一的にしようというわけではございません」
文部大臣「教育の現場というものは信頼関係でございますので,・・処分であるとかそういうものはもう本当に最終段階,万やむを得ないときというふうに考えております」。
政府委員「単に起立をしなかった,あるいは歌わなかったといったようなことのみをもって,何らかの不利益をこうむるようなことが学校内で行われ・・るということはあってはならないこと」。
そうして、ようやく成立にこぎつけたのが経過です。法制化直後の文部省通知も、「学校におけるこれまでの国旗及び国歌に関する指導の取扱いを変えるものではありません」と確認しています。
教育公務員に対しても義務づけはしない。教育現場での取扱いを変えない。この国の立法府におけるその確認が、東京都においては一片の行政通達で簡単に反故にされてしまいました。それから18年余りが経ちます。
10・23通達の異常さの本質は,「多元的価値を認めない」ことにあります。日の丸に向かって起立して君が代を歌うことだけが正しい。この価値観を生徒たちに教える。それが10・23通達の狙いだと都教委自身が述べています。将来,生徒が社会に出て,「国歌斉唱をする場に臨んだとき,一人だけ,起立もしない,歌うこともしない,そして,周囲から批判を受ける,そのような結果にならないよう指導する」と都教委の答弁書に述べられています。
「周囲から批判を受ける結果にならないよう指導する」と都教委は言います。都教委のいう「指導」が効果を上げれば,尊重義務規定などなくても,国旗に向かって起立し国歌を斉唱しない人は、間違ったことをして「周囲から批判されるべき」人である、ということにされてしまいます。「指導」の効果を上げるため、教職員に起立斉唱を命じ懲戒処分を科して、「指導」を徹底しているのです。「指導」を受けた生徒が卒業して次々と社会に出ていく。時が経過すれば、「指導」の効果は、生徒を介して広く一般社会におよびます。それは、国旗国歌法に国旗国歌の尊重義務規定を入れたのと実質的に同じです。
法案作成過程で慎重に尊重義務規定が除外されました。国会審議でも侃々諤々の議論を経て義務づけしないとくり返し確認されて成立にいたりました。その法律の立法趣旨を下位規範である通達が打ち破るという倒錯が起きています。起立斉唱の義務づけは、国旗国歌法の立法趣旨からも許されないことといわねばなりません。
以上
(2022年4月27日)
NHK情報開示請求訴訟、本日の103号法廷でのパワポの概略は以下のとおり。
NHK情報開示等請求事件
第3回期日
東京地裁令和3年(ワ)第15257・24143号
原告ら代理人弁護士澤藤大河
原告第3準備書面の概要
1.被告NHKの文書開示義務は未履行
2.被告NHKに対する文書開示請求権の根拠
3.各被告への損害賠償請求の根拠
被告NHKは請求にかかる文書を開示したのか
開示請求文書目録
(1) 2018年4月24日に放送された「クローズアップ現代+」を巡ってNHK経営委員会でなされた議論の内容(上田良一会?に対して厳重注意をするに至った議論を含む)がわかる一切の記録・資料
(2) 「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」が提出した答申第797号、第798号、第814号、第815号、第816号を受けて、NHK経営委員会が行った当該議事録等の開示を巡る議論の内容がわかる一切の記録・資料
提訴への経緯(1)
? 本件訴訟は、放送法において法的な義務とされている経営委員会議事録の公表がされず、開示にも応じないことから、なんとか、その内容を開示させようと提起された。
? 放送法41条は経営委員会委員長に議事録を作成し公表する法的義務を課しているが、その公表手続は被告NHKが実行しなければならない。
? しかし、被告NHKは議事録を公表しなかった。
提訴への経緯(2)
? 2名の視聴者が情報開示請求
? 被告NHK、8点について開示拒否(2018年10月23日)
? 審議委員会がすべて開示すべきとの答申(2020年5月22日)
? しかし、なお下記3点の文書が不開示とされた
「第1315回経営委員会議事録」(2018年10月9日開催)
「第1316回経営委員会議事録」(2018年10月23日開催)
「第1317回経営委員会議事録」(2018年11月13日開催)
提訴への経緯(3)
? 新たに3名の視聴者が議事録について開示請求
? NHK不開示決定
? 審議委員会は3件について、すべて開示すべきと答申(2021年2月4日)
? しかし、NHKは、この開示請求に対してもなお開示しないまま現在に至っている。
原告の開示請求には議事録が含まれる
原告開示請求対象の第1項
(1) 2018年4月24日に放送された「クローズアップ現代+」を巡ってNHK経営委員会でなされた議論の内容(上田良一会?に対して厳重注意をするに至った議論を含む)がわかる一切の記録・資料
経営委員会の正式な議事録があれば、「NHK経営委員会でなされた議論の内容・・・がわかる・・・記録」に該当し、当然、本件訴訟の開示請求の対象となる。
議事録はないのか?
? 被告NHKも被告森下も、正式な議事録は存在しないとしている。
? しかし、議事録作成は放送法41条で被告森下に課された義務
? 議事運営規則(丙2)は、議事録「公表」義務の一部免除は認めても、「作成」義務免除の例外は認めていない。
? 今までの経営委員会については議事録を作成しているのに、本件にかかる会議だけ議事録を作成しない不自然さ。
? 何より、先行する開示請求にかかる手続きでは、議事録が存在することを前提に進んでいる。
審議委員会は何を見たのか?
? 審議委員会答申は、議事録を開示すべきとしている。
? 存在しない書面を開示せよと答申したのか?
? 開示すべきかどうか、審議委員会は現物を見て判断したはずではないか?
? これらの開示請求手続きで、議事録「不存在」の主張は一切なかった
? 今まで、4年間も議事録が存在することを前提に手続きが進んできたのに、いきなり「実はない」と言われても・・・・・
本件訴訟における開示請求の履行はない
? 原告の請求は、「一切の記録・資料」の開示
? 当然、録音・録画も含まれる。
? いわゆる「粗起こし」の正確さをみれば、録音・録画が存在する可能性は極めて高い。
? にもかわらず、NHKは録音・録画を提出していない。「粗起こし」は、電磁的記録を文字におこしたものであることを明示しておらず、「電磁的記録の開示」にはあたらない。
議事録は本当に不存在なのか?
? 今までの手続きで、存在を前提に4年間もやりとりがなされてきた議事録について、突然不存在と主張する。
? しかし、被告NHKは、存在可能性が極めて高い経営委員会の録音録画データを提出していない。誠実でなく信用できない。
? 原告としては、議事録が不存在とはとうてい考えられない
? 議事録不存在については、被告において蓋然性をもって証明されなければならない。
? 議事録の存否を明らかにするための被告森下の尋問が必要である。
被告NHKに対する損害賠償請求の根拠
? 被告NHKは、原告らの情報開示請求について、受信契約に基づく債務を負っている。
? この点、被告NHKは、情報開示制度は契約に基づくものではないとするが、「合意」に基づくものとしている。
? いずれにせよ、少なくとも合意に基づく法的効果としては、契約と同様となる。
? 被告NHKには開示すべき債務がある。
? 原告の請求はこの債務不履行損害賠償請求である。
被告NHKの開示義務履行遅滞
? 被告NHKは、開示請求から47日以内に開示する法的義務を負っていた。
? 具体的には2021年5月24日の経過を持って履行遅滞となった。
? 請求にかかる文書がすべて開示されていたとしても、5月24日から開示までの履行遅滞がある。
? 請求にかかる文書が開示されていないということなら、現在まで履行遅滞が続いている。
被告森下の損害賠償義務
? 被告森下は、被告NHKにおいてなすべき開示の履行を妨害した不法行為を行った。
? 放送法41条違反の公表義務を怠ったことから、一連の活動として履行を妨害している。
? 被告森下が放送法41条に基づき公表していれば、そもそも開示請求にいたらない。
? 被告森下の放送法41条違反行為に始まり、一連の行為として、被告NHKに絶対に本件議事録を開示させないように活動した。
被告森下が何をしたか?
? 被告森下が、被告NHKにどのように働きかけたのかは、原告らにはわからない。
? しかし、被告NHKには、議事録を不開示にする動機がない。審議委員会の答申が出ている以上、これに反対する理由がない。
? 被告森下には、議事録を不開示にする動機がある。自らの放送法32条2項に違反して、放送に介入した行為を隠蔽する必要があるという強烈な動機である。
? また、被告森下には、働きかけることのできる能力もある。経営委員会委員?として、NHKの最高幹部の人事権も有している。
被告森下の尋問が必要
? 被告森下が、被告NHKにどんな働きかけをしたのかは、原告らには具体的にはわからない。
? しかし、前述のように、被告森下が働きかけた蓋然性が高い。
? 働きかけをした被告森下、働きかけられた側NHK会?を尋問して明らかにする必要がある
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原告は、本件の提訴後に原告らに公開された「粗起こしの議事録草案」の取り扱いについて被告両名に提案した。
これは、適式の議事録ではないものと明記された代物である。このままでは、被告NHKの文書開示義務の履行があったと認めることはできない。内容の真実性を確認するすべもない。
しかし、他の議事録と同様に、適式の手続きを履践してこれに所定の責任者が署名捺印のうえNHKのサイトに掲載するのであれば、議事録と認めよう、というものである。これに対して、被告NHKは異議を述べなかった。「経営委員会委員長である被告森下の意向次第」という姿勢。
ところが、被告森下は「ノー」なのだ。驚くべき頑なさである。
それなら、原告は徹底して請求を続けるというしかない。「41条に基づいて経営委員会委員長が作成した議事録があるはずだから、これを開示せよ」「これが存在しないと言うのなら重大な任務違背だ」と追求するも、「ない」との回答。
さらに、本日の法廷では以下のことが問題となった。
原告が開示を求めているのは、「一切の記録・資料」であって、当然に電磁的記録を含む。音声記録か画像記録か、元データがあるはずだから提出せよ。それと照合することによって、「原告らには公開されたが、国民には公表されていない、《粗起こしの議事録草案》」の正確性を確認することができる。
これに対する被告森下の回答が驚くべきものである。「消去して、現在存在しない」というのだ。文書の隠匿の次は、廃棄である。とうてい納得できない。これから、この点が大きな問題となる。
まずは、誰が、いつ、なぜ、どのように、消去したのかを問い質さなければならない。また、復元可能性についても追求しなければならない。そして、被告森下の悪性を明確にし、その任命者である安倍政権の責任も追及しなければならない。
(2022年4月26日)
NHKと森下俊三経営委員長の両名を被告として、NHKの報道と経営の姿勢を問う《NHK文書開示請求訴訟》。その第3回口頭弁論が、明日・4月27日(水)14時から東京地裁103号法廷で開かれます。
法廷では、原告主張の要約をパワーポイントを使って、原告代理人が説明いたします。ぜひ傍聴をお願いいたします。
なお、傍聴券の配布は1時20分からとされています。1時20分までに地裁庁舎入り口での抽選に参加すれば、おそらく全員が傍聴可能です。万が一、満席で入廷できなかった方は、参議院議員会館102会議室で、15時30分開会の報告集会にご参加下さい。こちらでは、詳しい資料を配付し、法廷よりも時間をたっぷりとって、パワポの解説を繰り返します。
この訴訟は、興味津々の進行となっています。これまで意図的に隠蔽されていた問題の経営委員会議事録(「NHK会長を厳重注意した会議の議事録」)が、明日の法廷の進行次第では、NHKのホームページへの公表が実現することになりそうなのです。そうなれば、この提訴の大きな成果です。ぜひ、この法廷の進行にご注目ください。
放送法第41条は、経営委員会委員長(被告森下俊三)に経営委員会議事録の作成と公表を義務付けています。この「公表」の実行は、NHKがそのインターネットホームページ(NHKの公式サイト)に掲載して、視聴者の誰もが閲覧できるようにすることになっています。NHKは、4月22日提出の準備書面において、経営委員長(被告森下)の指示さえあれば、ホームページへの掲載に何の差し支えもないことを明言しています。
放送法で義務付けられている経営委員会議事録の公表がなぜ実現しないのか。その責任は、NHK執行部にではなく、もっぱら被告森下俊三の側にあることが明白になりつつあります。放送法32条2項によって禁じられている番組編成に対する露骨な介入の違法を隠蔽しようとしていたことが明らかになっていると言って差し支えないからです。法廷では、この点をパワーポイントを使って、原告代理人が説明いたします。
「クローズアップ現代+」の「かんぽ生命保険違法勧誘問題」報道に端を発した「会長厳重注意の議事録」隠蔽は、放送法違反の違法行為を重ねた被告森下俊三の責任だけでなく、これを選任した政権の責任問題が浮かび上がっています。
なお、簡単に、これまでの経緯を確認しておきます。
本件の原告となった110名は、NHKの報道姿勢を正す市民運動に参加してきた者として、「かんぽ保険違法勧誘問題」報道に対する日本郵政グループ幹部からの介入とこれに呼応した経営委員会の動きにを重大視し、先行する経営委員会議事録開示請求に対するNHKの不開示決定を許せないと考えました。
そのため、「もしまた、NHKが議事録を不開示とするときには文書開示請求の訴訟を提起する」ことを広言して、「文書開示の求め」の手続に及び、所定の期間内に開示に至らなかったため、昨年6月14日に本件文書開示請求訴訟を提起した。その結果、ようやく7月9日に至って「議事録と思しき文書」(被告NHKはこれを「議事録草案」と呼んでいます)が開示されました。
おそらくは、これだけで大きな成果です。この「議事録草案」では、森下らが、日本郵政の上級副社長鈴木康雄と意を通じて、「クローズアップ現代+」の《かんぽ生命保険不正販売問題報道》を妨害しようとたくらんだことが浮かび上がっているからです。経営委員会の無法に、NHK執行部と番組作成現場が蹂躙されている構図なのです。結局は安倍政権以来、政権が関わる人事の全てがムチャクチャなのです。
もっとも、この「議事録草案」は、所定の手続を経て作成されるべき「議事録」ではありません。放送法41条では、「経営委員会委員長は、経営委員会の終了後、遅滞なく、経営委員会の定めるところにより、その議事録を作成し、これを公表しなければならない」とされていますが、そのようにして作成され、公表されなければならない議事録の開示はまだないことになります。
被告森下が、この「議事録草案」を適式な「議事録」であって、遅ればせながらも文書開示義務は履行済みだというのであれば、その議事録は「公表」されなければなりません。NHKの公式サイトに公表する決断が求められています。今さらこれを躊躇する理由は、天下に違法を知られたくないからという以外は考えられません。いまだに適式の議事録が作成されておらず、公表もされていないとすれば、森下の責任は重大です。
NHKが暴走することのないよう、放送法は、NHKの最高意思決定機関として経営委員会を置き、その重責を担う経営委員12名を「国民の代表である衆・参両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する」という制度設計をしました。当然に良識を備えた経営委員の選任を想定してのことなのです。
ところが、この経営委員の選任が、安倍政権以来ムチャクチャというしかないのです。政権の思惑で送り込まれた、明らかな違法をして恥じない経営委員たちが、今回の事件を起こしているのです。この訴訟は、その問題に切り込んでいます。
ぜひとも、ご注目ください。
(2022年4月25日)
似合いというものがある。あるいは釣り合いというべきか。鶴には亀、梅に鶯、富士には月見草。翁には嫗、ロミオにはジュリエット、そして、ヒトラーにはヒロヒトである。ウクライナ政府の公式ツイッター上の動画で、せっかくヒトラー・ムソリーニと並べられていた昭和天皇(裕仁)の顔写真が、自民党経由の外務省の要請で削除されたという。おやおや、なんという不粋な。お似合いの仲を裂かれて、ヒトラーもヒロヒトも、泉下でさぞ無念の思いではなかろうか。
ウクライナ政府が、「ファシズムとナチズムは1945年に敗北した」という字幕と共にこの3名の顔写真の動画を掲載したのは、4月1日のことだという。もちろん、プーチン並みの戦争犯罪者としての非難の意を込めてのことである。
戦前の日・独・伊枢軸3国が侵略国家であり、反人権・反民主主義の全体主義だったことも、その各国の象徴たる人物がヒトラー、ムソリーニ、そして紛れもなくヒロヒトであったことも、世界に共通の常識である。その全体主義好戦国家の敗北は世界的に見れば慶事であった。このキャプションも、プーチン非難にピッタリのお似合い3人組写真掲載も、怒る筋合いはなく、謝るべきことでもない。
但し、ウクライナ政府には、ちょっとした誤解があったようだ。ドイツやイタリアと同様に、日本も全体主義の過去を清算した民主主義社会になっていると思い込んでいたのではないか。実はそうではなかったことに今ごろ気が付いて、愕然としているのだろうと思う。え?、日本ってまだ戦前と同じなのか?。
もしかしたら、ウクライナ政府の実務担当者は、ヒロヒトが戦後も天皇として生き延びたことを知らなかったのではないか。また、戦前は神であった天皇が戦後公式には人間となったが、洗脳から逃れられない多くの民衆からいまだに神同然の信仰対象となっていることも。戦前は臣民であった国民が戦後公式には主権者となったが、実は多くの民衆がいまだに臣民根性そのままであることも。さらには、枢軸時代の国旗や国歌だった「日の丸・君が代」を、日本だけが旧態依然として後生大事に護持していることなども。
ヒトラー・ムソリーニの思想を清算し克服してきた今のドイツやイタリアは、ヒトラーを批判してもムソリーニを非難しても、なんの問題も起こらない。両国ともに、世界の常識が通じる国になっているからである。ところが、日本はそうなっていない。天皇をヒトラーと並べれば、キリスト教徒がイエス・キリストを侮蔑されたごとくに、イスラム教徒がマホメットを誹謗されたごとくに、ヒステリックに喚くのだ。神聖な天皇教の教祖を、戦争犯罪人として扱ったなどとして。ヒロヒトの評価によって、日本社会の深層が炙り出される。
このヒステリックな抗議を受けて、ウクライナ政府は昨日、ツイッターに投稿した動画から昭和天皇裕仁の顔写真を削除し、謝罪した。やれやれというところだが、謝罪の言葉は難しい。ウクライナは世界の常識に従っただけ、なにも間違っていないからだ。「誤りを犯したことを心からおわびします。友好的な日本の方々を怒らせるつもりはありませんでした」とだけ述べたという。これが精一杯だろう。「怒らせるつもりはありませんでした」のあとに、「どうして皆さんが怒るのか、理解も納得もできてませんけれど…」という余韻が残る。
ナザレンコ・アンドリーという在日のウクライナ人の幾つかのツィッターが目にとまつた。4月24日付の以下のものが、その典型。正常な神経ではない。
「ウクライナ公式垢(ママ)は、本当に言葉が出ない程失礼なことをやらかした。「日本の教科書だって同じ歴史観」では済まされない。必ず責任者を特定して、直接抗議し、正しい歴史認識を教える。一般的なウクライナ人との感覚はズレがひどすごる。二度と広報に関わるべきではない。売国奴レベル。」
「正しい歴史認識」「売国奴」という言葉づかいは右翼のもの。右翼を代表するこの人物に聞いてみたい。「正しい歴史認識を教える」っていったい何を教えようというのか。まさか、昭和天皇(裕仁)に近隣諸国への侵略の意図も責任もないということではあるまい。それは、「正しい歴史認識」ではなく、「歴史修正主義」というのだから。
それ以外にも、幾つかのツィッターにお目にかかった。
ふざけるのもいい加減にしろ。ヒトラーと一緒にするな!
昭和天皇とアドルフ・ヒトラーを一緒にするな。日本にとってひどい侮辱だ。
(この種のツィートが少なくない。これは、深刻な社会心理学的研究テーマであろう)
金輪際ウクライナは応援しない!
支援を即、止めろ。そして支援した金も全て返してもらえ。
ウクライナを支援する気持ちがまったく失せた。謝罪がなければ、応援しない。
(結局は、ウクライナに対する日本の支援は反ロシアの感情だけからのもので、侵略戦争の被害救援という動機ではないようなのだ)
ゼレンスキーのパールハーバー演説で怒りの声をあげないからこうなるんだよ!
ゼレンスキーのパールハーバー発言を許すからこういうことになる!
(結局、ナショナリズムの呪縛から逃れられず、好戦的日本についての反省のない人々の妄言なのだ)
改めて思う。全ては、戦前の天皇制プロバガンダによるマインドコントロールを脱し切れていないことからの椿事なのだ。天皇制恐るべし、である。
(2022年4月24日)
本日でロシアのウクライナ侵略開始から2か月となった。この2か月間、戦争というものの悲惨さ、愚かさを噛みしめ続けてきた。いま、停戦への光明はまったく見えていない。この理不尽は、いったいいつまで続くのだろうか。
憎しみ合い、殺し合い、奪い合い、破壊し合い、欺し合い、環境を汚染するのが戦争である。どうしてこんなことが起きるのか。どうしたら、この不幸の源を世界から駆逐することができるのだろうか。
この戦争は明らかにロシアの側から仕掛けられたものである。軍事大国ロシアの大義のない隣国への侵略戦争。ロシア国内の開戦批判世論が、侵略に踏み切った政権を揺さぶることになるだろう、私は期待も込めて当初はそう考えた。
ところが、これまでのところそうなっていない。ロシア国民の政権支持率は、開戦後大きく上昇したという。政府系の世論調査機関の調査だけでなく、独立系の世論調査機関レバダ・センターの調査結果も、3月の支持率は83%を記録し、2月の71%から12ポイントも上昇したという。
そもそも戦争とはナショナリズムを高揚させ、政権の求心力を高めるものだからなのか。あるいはプーチン政権が国内向けプロバガンダに成功しているということなのだろうか。
だが、大局を眺めればロシアの軍事的な思惑は大きく挫折している。当初はウクライナの首都占領を目指した進軍は思わぬ反撃を受けて撤退を余儀なくされ、兵力を東部への侵攻に集中させてはいるが作戦の進展は思うとおりにはなっていない。制空権を掌握できないことは、侵攻当初から指摘されてきた。黒海艦隊の旗艦『モスクワ』の沈没もあり、兵の士気は低いと報じられてもいる。さらには国際世論の厳しい批判は身にこたえているに違いなく、国際的な経済制裁もこれから効果を発揮してくるだろう。軍事費浪費の負担に財政がどこまでもつのかという問題もある。
そんな状況で迎えた開戦2か月目の報道の中に、「侵攻継続以外の選択肢なし=支持率の低下懸念―プーチン政権」という〈リビウ発時事配信〉記事に目がとまった。
ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」が22日、ロシア大統領府に近い複数の関係者の話として報じたところによると、政権内では数週間前から戦闘終結に関するシナリオが検討され始めた。しかし、プーチン氏の支持率低下を避ける「出口戦略」を見いだせず、停戦交渉のための世論づくりを放棄し「すべて成り行きに任せる」ことになった、という。
この報道だけではその真偽を判断しがたいが、こうした方針に至ったことについて、以下のようにプーチン政権の判断理由が述べられている。一言で言えば、ロシアの中産階級の間では侵攻を支持する割合が高く、中途半端な形での幕引きで不満が高まることを警戒したからだというのだ。
「メドゥーザが引用した、13?16日にモスクワ市民1000人を対象に行われた世論調査結果によると、「実質的に何でも買える」収入を得ている層では、「軍事作戦の継続に賛成」が62%で、「停戦交渉に賛成」の29%を大きく上回った。収入的にその一つ下の層でも、作戦継続賛成が54%で、交渉支持は37%。これが「食費も十分でない」層になると、停戦派が53%と作戦継続派(40%)を上回った。
社会学者グリゴリー・ユジン氏はメドゥーザに対し、「ロシアの中産階級のかなりの部分が治安・国防関係者と中堅の官吏」であり、「政権の直接的な受益者」だと分析。大統領府に近い関係者も、米欧が厳しい経済制裁を科し、食品を中心に国内の物価が上昇する中でも、こうした層はそこまで影響を受けていないと指摘した。」
つまり、戦争継続には低所得層の賛意が得られないのだが、停戦には高所得層の反発が強く、停戦に踏み切る決断はしがたいというのだ。しかし、このままでは、確実に国民生活への戦争の影響は深刻化することにならざるをえない。戦争継続反対の世論が、政権批判の世論となって、停戦せざるを得なくなるに違いない。私は、再び期待を込めて、そう思い始めている。プーチン政権の国民的な支持基盤は、けっして盤石ではなさそうなのだ。
(2022年4月23日)
火事場泥棒という言葉がある。普段できないことを、どさくさに紛れて性急にやってしまおうという、姑息でみっともないやりくちへの非難として使われる。今、自民党がやろうとしている「敵基地攻撃能力」整備論が、まったくその卑劣な手口である。
一国の安全保障政策の基本を転換するについても、憲法解釈の明らかな変更に関しても、落ちついた国民的議論を尽くさなくてはならない。浮き足立つごとき火急のさなかに、これをチャンスと普段やりたくてやれないことをやってしまえという、防衛政策の大転換。これを「卑劣な悪乗り」と言わざるを得ない。
まさか、まさかと思っている内に、自民党内の「敵基地攻撃能力」整備論が、自民党安全保障調査会で党内意見として採用となった。本年暮れに政府の「国家安全保障戦略」(2013年制定)が改定の予定。その新たな「戦略」への正式な「提言」として、その反映を目指すことになるという。4月21日の同調査会全体会合でのこと。これは、「泥縄」ではない。プーチン・ロシアの侵攻を利用した「悪乗り」というほかはない。
評判の悪かった「敵基地攻撃能力」のネーミングは、「反撃能力」に変更された。しかし、その内容がマイルドになったわけではない。もっと露骨な「敵基地だけでなく基地を維持するためのその周辺機能」をも攻撃対象とし、「先制も辞さない攻撃」をも認容する恐れを内包している。さらには防衛予算の増額までが盛り込まれた。
まず、攻撃対象には「指揮統制機能等」が追加された。「指揮統制機能」の限定性は薄弱で、「等」は無限に拡散する。先制攻撃への歯止めはない。
防衛費は、国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に、5年以内の増額を提言した。
他国への武器供与に関する防衛装備移転3原則(旧「武器輸出3原則」)も、緩和の方向で見直すという。「侵略を受けている国に幅広い分野の装備移転を可能とする制度を検討」と踏み込んでいる。
いずれも、憲法の平和主義に対する挑戦的な内容。武力によらない平和の理念に逆行した、「武力の威嚇」による安全保障政策。これでは、近隣諸国の警戒心を高め、戦争への危険を招くことにならざるを得ない。
この「提言案」は、中国と北朝鮮、ロシアの軍事動向を問題視し、安全保障環境が「加速度的に厳しさを増している」と指摘し、他国の武力を牽制する武力の整備を強調する。
産経新聞が、高市早苗政調会長の記者会見発言を報じている。
『攻撃対象を「指揮統制系統を含む」としたことに関し、「かねてより相手の指揮統制機能を無力化することについては、非常に有効な手段であると私も考えていた」と語った』という。
正確な報道であるかは疑問だが、単純に軍事的な有効性だけを考えれば、「提言」も、これを支持する高市も正しい。が、もっと広い視野で、平和を維持するために有効か否かは、別問題である。外交には、明らかにマイナスでしかない。こういう「安全保障調査会」と「政調会長」をもつ自民党の防衛政策は危うい。
この自民党の「安保提言」に抗議する【平和構想研究会】(川崎哲代表)は、「憲法の平和主義の原則を逸脱」するものと厳しく批判している。その中に、次の一節がある。まったく同感、というほかはない。
「日本がこのような攻撃態勢をとれば、相手国も当然同様に反応をするだろう。いたずらに地域の軍事的緊張を高め、日本が攻撃される可能性をむしろ高めるものである。
こうした軍拡政策を、ロシアによるウクライナへの侵略戦争で人々が不安を抱いているのに乗じて提案することは、きわめて扇動的で挑発的な行為である。抑止力の強化という名目でとられるこうした政策は、実際には、日本の平和主義に対する不信を生み、周辺国を軍事的に刺激し、結果として戦争の危険性をむしろ高めるものである。」
(2022年4月22日)
ロシアの軍事侵攻によるウクライナの悲惨な事態に胸が痛む。これまで、その名さえ知らなかったマリウポリという都市の存在が、ここ数日特別の意味をもって脳裏を離れない。その市民の深刻な苦悩や恐怖を思わずにはいられない。
4月17日以来、マリウポリのアゾフスターリ製鉄所に立て籠もる守備軍と市民にに対する時間を切った降伏勧告が繰り返され、その都度胸が締めつけられる思いを余儀なくされてきた。いまもなお、その巨大な製鉄所の地下に、砲撃の恐怖と飢餓とに苛まれている多くの人々が身をひそめているという。
ところが、昨21日突然に様相が変わった。プーチンが、唐突に作戦変更を指示したようなのだ。報道では、プーチンはショイグ国防相にこう述べたという。
「工業地帯への強襲は、得策とは思えない。中止を命じる。兵士と将校の命と健康を守ることを考えなければならない。地下墓地のようなところをはいずり回る必要はない。ハエ1匹通れないよう、工業地帯を封鎖せよ」「“マリウポリ解放作戦”の完了を祝福する。感謝の意を隊員に伝えてほしい。南部の重要な拠点を制圧したことは成功だ。おめでとう」
なんというプーチンの言いぐさだろう。「マリウポリ全体では、約10万人が地下シェルターに隠れており、製鉄所地下には2000人が救出不可能な状況」と報じられている。息をひそめて「地下墓地のようなところをはいずり回る」10万の人々を、プーチンは「ハエ」にたとえたのだ。生死の境をさまよっている人々に対して、「ハエ1匹通れないよう封鎖せよ」と言った。それが、プーチンなのだ。
戦争だから仕方がない、とは言わせない。戦争を起こしたのもプーチンではないか。やむにやまれず起こした戦争だとも、言わせない。プーチンには、自らが起こした戦争での死者や戦争に苦しむ人に対する畏敬の念も、遺憾の気持ちも、憐憫も呵責も何もない。侵略戦争を起こし戦争犯罪を犯す人物とは、このような神経の持ち主なのだ。
確認しておこう。プーチン・ロシアの侵略行為は、国連憲章に違反の違法行為である以前に、明らかな大量殺戮であり、大規模強盗である。都市と建造物の破壊犯罪であり、放火犯でもある。さらに、おびただしい死体損壊、死体遺棄でもある。これに関しての、いかなる口実も言い訳も許してはならない。
また、改めて思う。プーチン・ロシアと同様に、これまでのあらゆる侵略も違法である。皇軍の侵略も、ベトナム戦争も、アフガン戦争も、イラク戦争も、イスラエルも…も。「どっちもどっち」で許すのではなく、「どっちも、けっして許してはならない」。アメリカもロシアも、ヒトラーもヒロヒトも、侵略戦争を起こし、戦争犯罪を重ねた国とその指導者は、徹底して断罪されなければならない。
私に分かることは、侵略者の違法とその悪辣さであって、しかるべき制裁が必要だということである。私に分からないのは、悪辣な侵略行為にどう対処すればよいのかということ。英雄的な徹底抗戦が正義なのか、交渉に妥協してでも停戦して人命を尊重すべきが正義なのか。あるいは、そのような問題の設定自体が間違っているのか。果たして、このような問に正しい解があるのだろうか。
分からぬままに、ひたすらに胸が痛む。これもプーチンの仕業である。
(2022年4月21日)
NHKと森下俊三(NHK経営委員長)の両名を被告として、NHKの姿勢を問う《NHK文書開示請求訴訟》。その第3回口頭弁論期日が、4月27日(水)14時から東京地裁103号法廷で開かれる。
この訴訟は、興味津々の進行となっている。これまで意図的に公表を避けられていた問題の経営委員会議事録だが、もしかしたら、この法廷の進行次第で、てNHKのホームページへの公表が実現することになるかも知れない。それが実現すれば、大きな提訴の成果である。この法廷にご注目いただきたい。
それだけでなく、放送法で義務付けられている経営委員会議事録の公表がなぜ実現しないのか。その責任は、NHK執行部にあるのではなく、もっぱら被告森下俊三ら経営委員会側にある。経営委員会が、禁じられている番組編成に対する露骨な介入の違法を隠蔽しようとしていたことが、ほぼ明らかになっていると言ってよい。
法廷では、この点をパワーポイントを使って、原告代理人が説明する。ぜひ傍聴をお願いしたい。傍聴券の配布は1時20分からとされている。
「クローズアップ現代+」の「かんぽ保険違法勧誘問題」報道に端を発した「会長厳重注意の議事録」隠蔽は、放送法違反の違法行為を重ねた本件被告森下俊三の責任だけでなく、これを選任した政権の責任問題を浮かび上がらせている。
なお、報告集会を参議院議員会館102会議室にて15時30分ごろより開催する。こちらにもぜひご参加をお願いしたい。
簡単に、これまでの経緯を確認しておきたい。
本件原告らNHKの報道姿勢を正す市民運動に参加してきた者として、「かんぽ保険違法勧誘問題」報道に対する日本郵政グループ幹部からの介入とこれに呼応した経営委員会の動きにを重大視し、先行する経営委員会議事録開示請求に対するNHKの不開示決定を許せないと考えた。
そのため、「もしまた、NHKが議事録を不開示とするときには文書開示請求の訴訟を提起する」ことを広言して、「文書開示の求め」の手続に及び、所定の期間内に開示に至らなかったため、21年6月14日に本件文書開示請求訴訟を提起した。その結果、ようやく同年7月9日に至って「議事録と思しき文書」(被告NHKはこれを「議事録草案」と呼ぶ)が開示されたのだ。
おそらくは、これだけで大きな成果である。この「議事録草案」では、森下らが、日本郵政の上級副社長鈴木康雄と意を通じて、「クローズアップ現代+」の《かんぽ生命保険不正販売問題報道》を妨害しようとたくらんだことが明確になったからだ。この局面では明らかに、経営委員会の無法にNHK執行部と番組作成現場が蹂躙されている構図である。結局は安倍政権以来、政権が関わる人事の全てがおかしいのだ。
もっとも、この「議事録と思しき文書」は、所定の手続を経て作成されるべき「議事録」ではない。放送法41条で、「経営委員会委員長は、経営委員会の終了後、遅滞なく、経営委員会の定めるところにより、その議事録を作成し、これを公表しなければならない」とされている、適式の「議事録」については、いまだに不開示ということになる。真実、放送法の規定に反して、いまだに適式の議事録が作成されておらず、公表もされていないとすれば、森下の責任は重大である。その理由はどこにあるのか。森下主導の経営委員会が、放送法(32条)に違反して、番組(「クローズアップ現代+」)制作に介入していることが明らかになることを恐れたからである。
責任は、経営委員会、なかんづく委員長・森下俊三にある。無法・横暴な経営委員会とその委員長によって、NHK執行部と番組制作現場の報道の自由が蹂躙されている構図である。NHKは、乙1号証として「放送法逐条解説・29条部分」を提出して、文中の「経営委員会は、協会(NHK)の最高意思決定機関として設置したものである」という記述にマーカーを付けている。「NHK執行部が、経営委員会にもの申すなどできようもない」という内心の溜息が聞こえる。
NHKが暴走することのないよう、放送法は、NHKの最高意思決定機関として経営委員会を置き、その重責を担う経営委員12名を「国民の代表である衆・参両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する」という制度設計をした。当然に良識を備えた経営委員の選任を想定してのことである。ところが、この経営委員会が、とりわけその委員長が、政権の思惑で送り込まれ、明らかな違法をして恥じない。この事態に、内閣と国会とはどう責任をとろうというのだ。
この訴訟は、その問題に切り込んでいる。ご注目いただきたい。