澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「自党ファースト」の参政党が、TBSテレビ『報道特集』に偏向報道攻撃。これは、批判の報道の萎縮狙いの不当な選挙戦術ではないか。

(2025年7月16日)
 参院選の投票日が間近である。選挙情勢の分析やら予測やらの報道がしきりである。前回参院選は2022年7月10日だったが、当時とは、まったく様変わりの選挙情勢だという。
 3年前の選挙直前の7月8日、安倍晋三元首相が銃撃されて政治地図が大きく塗り替えられるきっかけとなった。
 そもそも、自民党とは穏健保守から極右までの幅広い政治勢力の緩やかな連合体である。財界の権益擁護派もあれば、農民漁民の利益代表もある。宗教右翼に票田をもつ政治家も、国防族も文教族も外交族も、そして皇国史観や排外主義のイデオロギーにまみれた戦前回顧派まで多様な国民政党として長く政権を担ってきた。
 私が岩手で過ごした10年間余における地元の自民党県連の印象は悪くない。むしろ、地元の民意を汲んで中央の政界と対峙しようという姿勢すら感じさせて、これは手強いという思いが強かった。
 安倍晋三という、けっして保守本流とは言い難い極右政治家が長期に党内権力を握った自民党は、明らかにバランスを欠いた右翼政党になっていた。その安倍晋三亡き後、彼を支えていた党内右翼や有権者はどうなったか。重心を穏健保守に移した自民党に飽き足らない彼らは、党外に流出したのではないか。最近の世論調査や、選挙結果からは、そのように見える。
 財政、税制、外交、保健・福祉・経済振興、政治への信頼…。あらゆる側面での安倍政治の負の遺産に後継の自民党が苦慮している現状を好機として、極右政党が安倍支持勢力の受け皿を競っている。
 安倍後継を狙う極右勢力のスローガンは、反共と排外主義である。
 その中で、最も突出しているのが、参政党であるという。これに比較すると自民党などは、随分と礼儀正しく、真っ当に見える。こんな真っ当ならざる政党を大きくしてはならない。

 参政党は、「日本人ファースト」を呼号する。日本人と非日本人とを分けて、非日本人はセカンド以下の扱いとする。同じ社会に暮らす人間に、ファーストもセカンドもあり得ない。この人種や民族による差別は、排外主義として平和や国際協調の障害となる。さらには、血筋や門地に基づく差別の容認につながる。
 
参政党のホームページを覗いてみたら、「TBS『報道特集』の偏向報道に関する申入れと今後の対応について」と題する、お知らせが目に入った。2025.7.14付けである。その全文が以下のとおり。

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「令和7年7月12日にTBSテレビ『報道特集』で放送された特集企画「外国人政策も争点に急浮上〜参院選総力取材」は、当党の外国人政策について、著しく公平性・中立性を欠いた内容でした。

これに対し、当党はTBSに対し、放送内容の可及的速やかな検証と訂正を求める申入書を提出しました。しかし、TBS側からは以下の通り、「公益性・公共性のある報道である」として、構成の公正性や取材姿勢の偏りといった本質的な問題点には一切触れない回答が寄せられました。

極めて遺憾ながら、こうした対応により、当党と放送事業者との間で、BPO放送人権委員会の申立要件にあたる「相容れない状況」が生じたと判断し、正式に同委員会への申立てを行うことといたしました。

当党は今後も、政治的公平性を損なう報道に対して毅然と対応し、民主主義の根幹である言論の自由と公正な報道の確保を強く求めてまいります。有権者の皆様におかれましても、引き続き本件にご注目いただけますようお願い申し上げます。

報道特集回答
申⼊書への回答をお送りします
今回の特集は、参政党が⽀持を伸ばす中、各党も次々と外国⼈を対象とした政策や公約を打ち出し、参院選の争点に急浮上していることを踏まえ、排外主義の⾼まりへの懸念が強まっていることを、客観的な統計も⽰しながら、様々な当事者や⼈権問題に取り組む団体や専⾨家などの声を中⼼に問題提起したものです。
この報道には、有権者に判断材料を⽰すという⾼い公共性、公益性があると考えております。ご理解いただきますよう宜しくお願い致します。
2025年7⽉14⽇TBSテレビ『報道特集』

この番組を視ていない者には、何が問題なのかさっぱり分からない。「当党の外国人政策について、著しく公平性・中立性を欠いた内容でした」では、さっぱり迫力に欠ける。第三者の共感も得られない。これでは抗議の体をなしていない。ともかく気に入らない放送だったから、今後のために、牽制の一言しただけのこととしか考えられない。
 いったい、『報道特集』が参政党の外国人政策について、具体的に何を報じたのか。著しく公平性・中立性を欠いた内容とは微妙な言い方である。「事実無根で、真実性に欠ける内容」とは言わないのだ。いったい何をもって、「著しく公平性・中立性を欠く」と言うのか、その特定は参政党側にある。

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 これに対する、「報道特集回答」が、「今回の特集は、…排外主義の⾼まりへの懸念が強まっていることを、客観的な統計も⽰しながら、様々な当事者や⼈権問題に取り組む団体や専⾨家などの声を中⼼に問題提起したものです。」となっているのは、堂々たる回答ではないか。

 「TBS側からは…、『公益性・公共性のある報道である』として、構成の公正性や取材姿勢の偏りといった本質的な問題点には一切触れない回答」という参政党の「反論」は当たらない。どこにどのような構成の公正性にかかわる問題があり、なにゆえに取材姿勢の偏りがあるというのか、まったく明示していないのだから、これ以上の回答は出てくるはずがない。むしろ、具体的に指摘することは、自らの墓穴を掘ることになると恐れているとの推察も可能である。

 「当党は今後も、政治的公平性を損なう報道に対して毅然と対応し、民主主義の根幹である言論の自由と公正な報道の確保を強く求めてまいります」には、苦笑せざるを得ない。公平に見て、次のようなところだろう。
 「当党は今後も、『政治的公平性を損なう』という口実のもとに、自党に不都合な報道に対しては無理にも強い抗議で対応し、我が党を批判する報道の自由は、民主主義の根幹である表現の自由としても認めず、飽くまで『参政党ファースト』の姿勢を強く貫いてまいります」

 結局のところ、自党への批判の報道の萎縮を狙った不当な選挙戦術と言うべきであろう。TBSにこそ、毅然とした姿勢を期待したい。いや、全てのジャーナリズムに。

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