澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

拝啓 高市早苗様。日本の鹿にだけでなく、マルタの猫にもご配慮を。

(2025年10月16日)
 私はマルタの一市民です。かつてはマルタ騎士修道会で名を馳せた地中海の島国は、今、猫の島として知られ、島内には人口40万の倍の数の猫がのびのびと暮らしています。この島では、人と共生しているたくさんの猫の微笑ましい光景を目にすることができます。マルタは〈猫の楽園〉なのです。

 私たち島民は、長年かかって、人と猫との共生の文化を創り大切に育ててきました。餌やりや健康管理など島民みんなで猫を大切にしてきました。その歴史は、紀元前に遡ることができます。

 この文化に共感を寄せる多くの外国人が、癒しを求めて私たちの島にやってきます。しばし猫と人とが仲良く暮らすマルタならではの文化に触れて、心を和やかにされています。

 ところが、外国からこの島にやってくる人のすべてが、心優しい人とは限りません。中には、トンデモナイ人もいるのが現実です。この夏、たいへん痛ましい猫の虐待事件が起きました。今年の6月以降、マルタ北部のスリーマという街で、体の一部を切断され死んでいる猫が相次いで見つかったことから大騒ぎとなりました。殺された猫の中には、近隣住民に親しまれ「プーパ」と名付けられていた猫もいました。この島では、野良猫も名前をもっているのです。

 そして8月1日外国人男性が猫への虐待と殺害の容疑で逮捕されました。彼は、少なくとも5匹の野良猫を殺傷したとされ、猫を地面に叩きつける様子が防犯カメラに映っていました。逮捕時には、猫をおびき寄せるための餌や、指紋を残さないための手袋を所持していたと報道されています。

 マルタの社会に衝撃を与えたこの犯人が、31歳のオカムラという日本人だったのです。彼は、猫を虐待し殺した罪で起訴され、10月14日現地の裁判所は、禁錮2年、罰金1万5000ユーロ(約253万円)の判決を言い渡しました。併せて動物飼育禁止40年の措置も科されたました。控訴の有無については、まだ分かりません。

 ところで、日本の最大政党の新総裁となられた高市早苗さん。日本人が、マルタの猫を殺害して、逮捕されたという現地では大きな衝撃と憤激を巻き起こしているこのニュースをご存知ではなかったのでしょうか。有罪判決が言い渡された今、どのような感想をお持ちでしょうか。

 あなたが、「奈良の鹿を足で蹴り上げる、とんでもない人がいる」と、日本国民に語りかけたのは、自民党総裁選が告示された9月22日でした。日本人がマルタの猫の殺害で逮捕されたことは8月1日の直後から報道されていたということです。

 あなたは、「外国から観光に来て、日本人が大切にしているものをわざと痛めつけようとする人がいるんだとすれば、何かが行き過ぎている」と述べています。確証なく自信ないままに、「そんな人がいるんだとすれば」と言っていますが、マルタの人々が大切にしている猫は、日本人に殺されたことが証拠によって明らかにされたのです。しかも、犯人の日本人が反省している様子はありません。

 高市さん、おそらく、あなたはこう言いたいのでしょう。
 「日本人は、優しい心をもった人ばかり。外国人はその心を傷付ける」「日本人は、平和を望む人ばかり。外国人はその平和を傷付ける」「だから、優しく平和な日本を守るためには、外国人に油断してはならない。私は外国人を厳しく規制して優しく平和な日本を守ります」

 奈良の鹿は、日本人の優しさや平和の象徴とされただけでなく、高市さん、あなたの排外主義政策の小道具として使われ、総裁選勝利に役立った様子です。わざわざ奈良の鹿に言及した政治家として、マルタの猫との共生に象徴される文化を傷付けた日本人の所業にも一言あってしかるべきかと思いますが、高市さん、いかがでしょうか。もしかして、沈黙を押し通すつもりなのでしょうか。

 でも、私は思うのです。マルタの猫を殺されたことは悲しいことですが、だからと言って猫の殺害犯をことさらに日本人であると強調して鬱憤を晴らすことは控えなければなりません。日本人を「猫殺し」の国民性、残逆な民族と言い募ることは明らかに間違っています。優しい日本人、平和を愛する日本人が大多数であることはよく分かっています。そして、どこの国にも、どの民族にも、少数の犯罪者があることは克服し得ない現実と認識するしかありません。奈良の鹿も同じことと考えたいと思います。

 問題は別のところにあります。2024年9月、米大統領選テレビ討論会で、共和党のドナルド・トランプ候補は、「オハイオ州に流入してきた移民の連中が犬や猫などのペットを食べている」と発言して物議を醸しました。フェイク常習のアメリカ大統領や、高市さんあなたのような政治家が、不確実な動物虐待の事実を、特定の人々を貶めるために使おうとするのは見苦しい。犬や猫や鹿の扱いを、自分の主張に合わせて切り取り、排外主義煽動の道具とすることは控えていただきたいと思います。日米の政治家の情けなさを際立たせるだけのことですから。

 高市さん、あなたの言動は、マルタの猫が大きく目を見開いて見詰めていますよ。

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