(2023年5月10日)
「法民」今号(578号)の特集は、私が担当した。考えさせられる論稿ばかりで、得るものが多かった。ぜひ、多くの方にお読みいただきたい。
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(目次と記事)
◆特集にあたって … 編集委員会・澤藤統一郎
◆日本におけるLGBTQと法政策の現状と課題 … 谷口洋幸
◆性的マイノリティの権利:出発点 ─ 国際人権法における議論状況 … 前田 朗
◆「性自認」問題の論争点と論争のあり方 … 齊藤笑美子
◆LGBTQ、SOGI(性的指向・性自認)に関わる差別に対し健康を守るために … 藤井ひろみ
◆LGBTQ+の権利保障をめぐる政治と法 ─ 台湾の経験に学ぶ … 鈴木 賢
◆同性婚法制化を求める取組み
─ 「結婚の自由をすべての人に」訴訟と公益社団法人の取組み … 三輪晃義
◆経済産業省事件 ─ トランスジェンダー女性の職場での処遇差別 … 立石結夏
◆日本の不名誉と怠慢 ─ LGBTQ+をめぐる政治的諸問題の諸相 … 北丸雄二
◆司法をめぐる動き〈83〉
・金沢市庁舎前使用不許可違憲訴訟 … 北尾美帆
・3月の動き … 司法制度委員会
◆連続企画●憲法9条実現のために(45)
・安保法制違憲訴訟をたたかう … 内山新吾
・山梨でのたたかい … 加藤啓二
◆追悼●日本一の労働弁護士?宮里邦雄先生の思い出? … 棗一郎
◆メディアウオッチ2023●《メディアの役割・国会の役割》
予算編成後に始まる財源論議 軍拡・戦後大転換に 憲法・歴史観欠くメディアの姿勢 … 丸山重威
◆とっておきの一枚 ─シリーズ?─〈№20〉
「心の共鳴板」が響く限り … 小野寺利孝先生×佐藤むつみ
◆改憲動向レポート〈№49〉
自衛隊明記の憲法改正を主張する自民党・公明党・日本維新の会 … 飯島滋明
◆連続企画・学術会議問題を考える(10)
日本学術会議法「改正」法案、今国会提出見送りへ!!
◆時評●日本学術会議は独立性を失うのか … 戒能通厚
◆ひろば●6団体連絡会に参加して … 宮坂 浩
「性的指向におけるマイノリティーの人権」(特集リード)
本号の特集は、比較的に新しい分野の人権とされる課題を取りあげる。
「ジェンダー」や「ジェンダーギャップ」という概念は、社会に定着していると言ってよい。「ジェンダーギャップ」の克服は、既に人権を語る者の共通の課題となっている。
しかし、「ジェンダー・アイデンティティ」というキーワードが社会に定着しているとは言いがたい。「LGBT」(あるいは「LGBTQ+」)や「SOGI」などの用語について共通の理解が既に確立しているとは思えない。多様な「ジェンダー・アイデンティティ」を人権として把握する社会意識はいまだに希薄である。
新しい人権を語るときには、人権論の基本に立ち返らねばならない。人権とは何であるのかという根源的な問いかけが必要となる。人権とは、個人の尊厳にほかならない。いかなる性的指向も尊厳をもって遇されなければならない。個人の尊厳を損なうものは、様々な態様の差別である。性的指向におけるマイノリティが、どのような制度や社会意識において差別されているか、その差別の実態を直視し、差別された当事者の痛みを理解し、その差別を克服の対象として自覚しなければならない。
これまで、差別といえば、民族や人種や国籍や性差や特定の出自・居住地・職業、あるいは身体障害や病気などの属性によるものであった。それぞれに長い反差別の運動があり、差別克服の理論の蓄積もある。しかし、性的指向のマイノリティーに対する差別については、問題が新しいだけに人権擁護を標榜する人々の中にも、理解の不十分を否めない。
本特集は、「性的マイノリティー」といわれる人々に対する差別の実態を踏まえて、その性的な指向を人権と把握する立場から、法論理や、訴訟、立法のありかたについての現状と議論の内容を報告し、人権擁護の立場に立つ者にとってのスタンダードを提供するものである。
さらに、少数者の性的指向について人権としての把握を阻んでいたものは、家父長的な家族制度やそれを支えてきた社会意識ではなかったのか。ジェンダーギャップ克服の課題と、ジェンダーアイデンティテイの多様性の承認とは、実は同根のものではないのかという問題意識を各論稿から読みとることができる。この点では、国際人権の議論で一般化しているという「交差性」(複合的な差別)の概念が示唆に富む。
本特集は8本の論稿から成る。いずれも時宜にかなった、読み応えのある内容となっている。以下にその概要を紹介しておきたい。
巻頭の谷口洋幸論文は、問題の全体像を明晰に解説し、「LGBTQ関連の法政策における注目される論題」として、「同性同士のパートナー関係」「性別記載の変更」「SOGI差別禁止法制」の三つの論題に着目し、現状と課題を概観している。問題状況とあるべき理念を把握するのに適切この上ない好論文となっている。
前田朗論文は、国連人権理事会の担当専門家が二〇二一年に発表した「包摂の法」の解説を通して、国際人権論におけるジェンダー・アイデンティティに関する議論を紹介している。いわゆる先進国が到達した法制度や、国際的な世論や政治的な対応の趨勢を理解することができる。
「LGBTQ」の中で、最大の論争テーマは、「T」(トランス・ジェンダー)における性自認問題である。人権を語る者同士でも、時に激論の対象となる。ここに焦点を絞って「論争のあり方」を論じた貴重な論稿が、齋藤笑美子論文である。これで論争に終止符を打つことにはならなかろうが、その視点はどちらの立場にも示唆に富むものである。なお、問題の本質を「強制異性愛や家父長制との闘いとして理解すべき」とする論者の指摘に真摯に耳を傾けたいと思う。
藤井ひろみ論文は、医学的見地からの性的マイノリティ論である。かつて医学界は、LGBTを異常性愛であり精神疾患であるとして、治療の対象にした。精神疾患視から、人権としての把握への転換が興味深い。なお、この論文の冒頭部分にキーワードとなる各用語の解説がある。ぜひ、これを参照されたい。
鈴木賢論文は、アジアの先進国・台湾における、法制化成功例の報告である。同論文は、法形成のための公式ルートとして、「立法(国会)」「司法(憲法裁判所)」「直接民主主義(国民投票)」があり、これをフル稼働させたことが台湾の成功につながったという。そして、国民的な合意形成に支障になったのは宗教勢力であったということも、参考にすべきであろう。
わが国における同性婚法制化を求める訴訟と運動についての報告が三輪晃義論文である。まず、「結婚の自由をすべての人に」訴訟の意義と狙い、そしてその到達点を確認している。そして、裁判以外での取り組みが、実に楽しそうに生き生きと報告されている。運動論として、興味深い。
そして、立石結夏論文が、トランス・ジェンダー女性の「経済産業省事件」についての一・二審の報告である。原告となった当事者は、性自認女性であるが、性別適合手術を受けることができない。最も厳しい立場の「性同一性障害」者である。職場での「女性としての処遇」を求めての訴えは、一審では国家賠償法上の違法として認められたが、控訴審では否定された。上告審判決はまだ出ていない。当事者の苦悩がよく分かる論文となっている。
最後の北丸雄二論文は、ジャーナリストから見た背景事情についての報告である。現政権の首相秘書官による差別的発言が世論の糾弾を受けるという事件が生じて、この問題は法的・社会的問題としてだけでなく政治問題化した現状にある。自民党右派は性的少数者に対する偏見に、宗教カルトあるいは宗教右翼からの掣肘もあって問題を解決できない。しかし、世界と仕事を行うグローバル企業にとっては、この日本の後れは、経済と雇用に影響する大きな問題と意識されているという。
すべての人権課題がそうであるように、当事者の苦悩、とりわけ差別に対する苦悩について、社会が理解し共感することが出発点である。この理解と共感が広がり、個人の尊厳に関わる人権問題との把握につなげることで道は開けるのであろう。その道は、まだ狭く険しいが、着実に開かれつつある。
(編集委員 澤藤統一郎)
(2023年2月1日)
2月となった。本日は、光の春の趣き。本日の毎日朝刊に、「きさらぎ」の語源を「衣更着」とするのは間違いという。寒さが強調される時季ではなく、むしろ、春に向けて草木が更に生えてくるという意味での「生更木(きさらぎ)」が正しいと述べられている。
「生更木」が正しく「衣更着」は間違いとは何とも不粋な断定。たしかに、季節感には「生更木」が合っているが、それでも長年にわたって馴染んできた「衣更着」は捨てがたい。「正しい」「間違っている」とは、いったいどういうことなのだろう。
これまで長年にわたって馴染んできた「自衛隊違憲論」も、「専守防衛」政策も、今や様変わりした防衛環境下では「間違っている」というのが、新安保三文書の立場。正しいのは、「軍事大国への大転換」であり、「敵基地攻撃能力の保有」である。そのためには「大軍拡・大増税」が不可避だというのだ。とんでもない。戦争への道の押し付けは御免を被る。
そこで、1月末に発刊の「法と民主主義」(2023年2・3月号【576号】)である。ぜひお読みいただきたい。その特集が、「軍事大国への大転換阻止を ― 安保3文書改定をめぐって」である。
この特集は、岸田内閣が強行しようとする防衛戦略を、歴史的に紐解き、その内容を詳細に検討して、日本の平和のためではなくアメリカの軍事戦略上の要請であるという本質を明らかにし、その危険が沖縄・南西地域に集中する実態を暴き、経済・財政面からの極端な不適切を明らかにする。そのことを通じて、憲法原則から如何に逸脱するかを明らかにして、「軍事大国への大転換」への対案としての外交のあり方、平和の作り方を論じる。時宜に適った特集として、自信をもってお勧めしたい。
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特集●軍事大国への大転換阻止を
― 安保3文書改定をめぐって
◆特集にあたって … 編集委員会・飯島滋明
◆「安保3文書」にいたる道 … 前田哲男
◆改定された安保政策3文書の危険性 … 大内要三
◆岸田大軍拡路線の本質 … 布施祐仁
◆安保関連3文書改訂と沖縄 … ?良沙哉
◆抜本的軍事費の増加・生存権とわが国財政 … 熊澤通夫
◆安保関連3文書の憲法学的検討 … 小沢隆一
◆新外交イニシアティブ(ND)提言「戦争を回避せよ」
── 対米外交の鍵は在日米軍基地の「事前協議」 … 猿田佐世
◆どのようにして平和を実現するのか … 稲 正樹
◆連続企画・学術会議問題を考える(8)
【緊急特集】市民と法律家の力で日本学術会議法改悪を阻止しよう
◆司法をめぐる動き〈81〉
・2022年参議院議員通常選挙 選挙無効確認請求事件
── 国会議員主権国家から国民主権国家へ … 伊藤 真
・12月の動き … 司法制度委員会
◆連続企画●憲法9条実現のために(43)
経済安全保障法の経済面での懸念点 … 阿部太郎
◆メディアウオッチ2023●《静かな「独裁者」》
「平和国家」から「軍事国家」へ メディアはまたも戦争に加担するのか … 丸山重威
◆とっておきの一枚 ─シリーズ?─〈№18〉
そこにいる当事者のために … 金井清吉先生×佐藤むつみ
◆インフォメーション
・改憲問題対策法律家6団体連絡会パンフレットのご案内
・敵基地攻撃能力の保有などを新方針とする安保関連三文書改定の閣議決定に抗議する法律家団体の声明
◆時評●社会保障を受ける権利に関し後退禁止の原則を認めない司法判断の危険性 … 今野久子
◆ひろば●第6回「『原発と人権』全国研究・市民交流集会in ふくしま」の開催に向けて … 海部幸造
なお、「法民」のホームページは、下記のURL。
https://www.jdla.jp/houmin/index.html
そして、ご購読のお申し込みは下記URLから。よろしくお願いします。
https://www.jdla.jp/houmin/form.html
(2022年11月2日)
「法と民主主義」(略称「法民」)は、日本民主法律家協会(略称「日民協」)の活動の基幹となる月刊法律雑誌です(年10回刊)。毎月、編集委員会を開き、全て会員の手で作っています。憲法、司法、教育、原発、国際情勢、天皇制、地方自治、沖縄問題、ジャーナリズム、戦争と平和等々の、情勢に即応したテーマで、法理論と法律家運動の実践を結合した内容を発信しています。
法律家だけでなく、広くジャーナリストや市民の方々からもご好評をいただいています。定期購読も、1冊からのご購入も可能です(1冊1000円)。
よろしくお願いします。
法と民主主義最新号・2022年11月号【第573号】の(目次と記事)は以下のとおりです。
特集?●大学・学問の軍事動員の危機を考える
◆特集にあたって … 編集委員会・米倉洋子
◆「軍事立国」と学術の論理 … 広渡清吾
◆経済安全保障推進法の狙いと危険性 … 井原 聰
◆国際卓越研究大学とは何か? … 小森田秋夫
◆国立大学法人化がもたらした諸問題 … 光本 滋
◆日本学術会議の存在理由 ── 任命拒否と軍事研究をめぐって … 杉田 敦
◆岡山大学における軍事研究、自衛隊との共同防災訓練について … 野田隆三郎
特集?●緊急特集第2弾・「統一教会問題」
◆特集にあたって … 編集委員会・丸山重威
◆宗教団体に保障される信教の自由の限界
── 旧統一教会問題を中心として … 芹澤 齊
◆旧統一協会による被害の救済と予防のために … 河田英正
◆憲法24条改憲を狙う政治・宗教右派の動き … 清末愛砂
◆司法をめぐる動き〈78〉
・国葬住民監査請求と訴訟の動向 … 稲 正樹
・9月の動き … 司法制度委員会
◆メディアウオッチ2022●《統一協会問題》
問われているジャーナリズム 宗教団体の政治関与と言論封殺 … 丸山重威
◆改憲動向レポート〈№45〉
統一協会と超濃厚接触政党「自民党」の「壊憲」「改憲」 … 飯島滋明
◆インフォメーション
・第52回司法制度研究集会のご案内
・安倍元首相の国葬強行に抗議し、国会での徹底検証を求める法律家団体の声明
◆時評●社会投企、ジェンダー・バランス、ウクライナ侵略 … 新倉 修
◆ひろば●「彼ら」による改憲策動を葬り去るために … 平松真二郎
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特集?が、他誌にはない重厚で貴重な執筆者と論稿だが、当ブログでは、特集?《緊急特集第2弾・「統一教会問題」》をご紹介したい。
本誌先月号は、《緊急特集・「国葬」と「統一教会問題」》を取りあげ、以下の4本の論稿を掲載し好評を博した。
◆「安倍国葬」は日本国憲法上で許されない … 石村 修
◆日本史のなかの「国葬」問題 … 宮間純一
◆統一協会の伝道手法とその破壊力 … 郷路征記
◆インタビュー●統一教会とは何か ─ 自民党との極まった癒着を問う … 有田芳生
本号の3論稿は、これに続いてテーマを統一教会問題しぼったものとなっています。憲法研究者と実務法律家がそれぞれの立場を鮮明にしているのが興味深いところ。
芹澤齊・青山学院大学名誉教授は、憲法学者として、問題をこう整理しています。
「本稿は、旧統一教会と信者の関係が形成される順に、?入信勧誘並びに信者生活の続行と霊感商法の関係、?それに密接にかかわる信者の負担――主として経済的負担――の問題、?それらの負担が信者の家庭生活、特に子どもに及ぼす憲法上の権利侵害問題、?個人の信教の自由と宗教団体の信教の自由の一般的関係、最後に?宗教法人解散請求の問題に触れることとしたい。」
そして今もっとも注目の集まる解散命令問題については、次のような見解を述べておられます。
「宗教法人とは、ある宗教団体が一定の要件を充足して所轄庁から『法人格』を認証された場合の資格であり、その『公益性』のゆえに税制上の優遇措置その他の特恵的地位を享受することができる。このことは逆に、宗教法人格取得の要件に明白に反するような活動をした宗教法人はその資格剥奪を意味する解散が認められる場合もあるということである。」「裁判所が解散を命ずることができる事由として、第81条第2項1号には『法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと』が定められている。」
「この解散命令を許容する事由は一般的基準としては極めてあいまい不明確であって、だからこそ解散命令が判例法上認められたのは、刑事事件の有罪判決が確定していたオウム真理教団と明覚寺の2例に過ぎないのである。旧統一教会の場合、前記の2例と同等か、またはそれらに準ずるといえるかは微妙であろう」
「この要件の不明確さに関連して、旧統一教会に対してしばしば浴びせられる『反社会的団体ないし組織』という非難の言葉があるので一言しておきたい。多くの人々から非難される活動=『反社会的』活動として宗教団体規制が正当化されるならば、それは将来にわたって大きな禍根を残すことになろう。なぜなら、規制要件があいまい不明確であるということは、濫用の危険があるということを意味する。そして、これらの漠然不明確な概念の濫用は政権に批判的な表現活動を行う組織や団体に向けられる虞が極めて強いということは歴史が示しているからである」
「したがって、筆者は、このような不明確な概念の下での解散命令には反対である。もし旧統一教会の解散がどうしても必要だというのであれば、解散事由の要件をもっと明確にし、要件該当性の有無がもっと客観的に行いうる法改正がなされてしかるべき後に解散命令が出されるべきであろう」
原理原則を大切にする、いかにも憲法学者らしい立場。それに対して、河田英正(弁護士「霊感商法被害救済全国弁連共同代表」)論稿は、被害救済と予防に携わる実務家として、解散命令発動積極説となっています。
「被害救済と予防の観点からの『積極論』」と、「要件曖昧故の権力の恣意的発動を招きかねないとする『慎重論』」。本誌がこの問題についてのそれぞれの立場からの、噛み合った論争の出発点となれば、編集委員会の一員としてありがたいと思います。
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(2022年5月6日)
「法と民主主義」2022年5月号【568号】が、連休にはいる前の4月27日に発刊になっている。特集は、「ロシア―ウクライナ問題」だが、メインタイトルは、「ロシアのウクライナ侵略に抗議する」。そして、副題が「9条徹底の立場から」。拠って立つ立場を明確にしての、平和論であり、9条改憲反対論の特集である。いずれも、時宜にかなった力作。掛け値なく読み応えは十分。学習(会)資料としても使える。ぜひ、ご購読だけでなく、熟読いただきたい。
特集・ロシアのウクライナ侵略に抗議する ― 9条徹底の立場から
◆戦争はやめろ! 絶対に殺すな! ── 特集にあたって … 新倉 修
◆巻頭論文●ウクライナ危機における国際法と国連の役割 … 松井芳郎
◆インタビュー●軍事侵攻の根本原因と市民社会の役割を考える … 君島東彦
◆ウクライナ戦争と日本政府の責任、そしてわれわれは … 和田春樹
◆歴史の針を巻き戻すプーチンの戦争 … 木畑洋一
◆軍事侵攻を契機とする反9条論と改憲論 … 清水雅彦
◆台湾有事の発生を阻止するための外交力こそ … 猿田佐世
◆ウクライナ侵攻を考える ── イラク訴訟の経験から … 川口 創
◆そして、誰もいなくなる前に ── 核兵器による威嚇を許さない … 和田征子
◆ロシアにおける「言論抑圧」 … 竹森正孝
◆ロシアの軍事侵攻に抗議する各地の運動 … 大山勇一
◆【資料】
・ウクライナ侵略をめぐる動き
・ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対する平和を求める声明等を発出した団体
◆連続企画・憲法9条実現のために(37)
「核共有論」の非現実性 … 前田哲男
◆司法をめぐる動き〈73〉
・旧優生保護法国賠訴訟 大阪高裁判決の意義 … 安枝伸雄
・3月の動き … 司法制度委員会
◆メディアウオッチ2022●《「核時代の戦争」と世論・情報・メディア その2》
君は「核戦争」を想定するのか? テレビ、新聞での議論を考える … 丸山重威
◆とっておきの一枚 ─シリーズ?─〈№12〉
明るいリアリスト … 松井繁明先生×佐藤むつみ
◆改憲動向レポート〈№40〉
敵基地攻撃能力について「〔基地だけでなく〕中枢を攻撃することも含むべき」と
主張する安倍晋三元首相 … 飯島滋明
◆インフォメーション
あらためて緊急事態条項創設改憲案に反対する法律家団体の緊急声明/
「改憲ありき」の拙速な憲法論議に異議あり(いま、憲法審査会は?4・7院内集会)
◆時評●プーチンによるウクライナ侵略 … 大久保賢一
◆ひろば●司法の限界? ── 一部に停止命令、一方で工事進行 … 丸山重威
https://www.jdla.jp/houmin/backnumber/pdf/202205_01.pdf
松井芳郎巻頭論文が必読であることは当然として、君島東彦インタビューが短いながらも印象的である。ウクライナ国内にも、ウクライナの軍事行動を批判する平和運動があることを紹介したあとに、次の言葉がある。
「日本国憲法の平和原理の核心は、安全を確保するために軍事力依存を極小化し(軍事主権の放棄)、他国との信頼関係を構築するというもの(共通の安全保障)です。安全保障のためにはなによりも武力紛争を「予防」するために積極的に行動することが大切です。21世紀に入って、『受け身の応答から積極的な予防へ』と言われるようになりました」
そして、「積極的な武力紛争予防」のキーワードが「信頼関係」の構築であるという。「市民に求められているのは、軍事力を使えない環境―信頼関係―を作る努力です」「国境を越えて連帯する市民、越境的市民の連帯が東アジアにおいて平和を構築する努力をしているのです」
また、清水雅彦論稿が、こういう比喩を述べている。耳を傾けたいと思う。
「人が強盗にあったとき、
? 強盗が刃物を持っていようが闘う
? その場から逃げる
? 強盗の要求通り財布を差し出す
という選択肢が考えられるが、?や?の選択を責めることはない。
しかし、これが国家による戦争だと、なぜ戦うことが当然かの議論になるのだろうか」
「今回の件でも、ウクライナ国民が
? ロシア軍と戦う
? 国内外に逃げる
? 降伏する
という選択肢から自身の判断で選択できるのが望ましく、兵役の拒否も保障されるべきである。特に?は屈辱的なことではあるが、犠牲者を最小限にする。時間がかかっても国際世論を背景にした非軍事・不服従等で抵抗するという選択肢もあるはずだ。単純に「非武装」「非戦」(無抵抗ではない)がダメとはならない」
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なお、「『維新』とは何か」を特集した「法と民主主義」4月号【567号】の売れ行きが好調で、在庫が枯渇しそうとの報告。ぜひ、こちらも、お早めの申し込みを。
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(2022年4月5日)
「法と民主主義」4月号(567号・3月末発刊)の特集タイトルは、「『維新』とは何か」というもの。下記の目次のとおり、維新を多面的によく語っている。維新という事象を考えるについて必読と言ってよい。
『維新』とは何か? その性格を表すのに、次の3ワードが必要にして十分ではないだろうか。
新自由主義・ポピュリズム、そして改憲策動。
このほかに、この特集を通読すると「成長至上主義」「幻想ふりまき」「管理・統制」「略奪型経済政策」「メディア露出」「新たな利権」「自助努力・自己責任」「反科学主義」「批判拒絶体質」「政権擦り寄り」等々の評価も述べられているが、概ね前記の3点で包括できるだろう。
維新と言えば、何よりも極端な新自由主義政党である。資本の利益のために、府民・国民の利益を切り捨てようという政党。それでいて、府民・国民の利益を擁護するごときポーズで幻想を振りまき、選挙民の欺瞞に一定の成功を収めてきたポピュリスト集団である。
だから、この特集の中の教育面解説「維新政治による教育破壊の“ほんの一部”」の記事の中にあるように、《気をつけよう「身を切る改革」 あなたの身》なのだ。維新は、容赦なく大阪府民・市民の身を切ってきた。そして、府外からの収奪も狙う。それでいて、「開発幻想」を振りまいているのだ。
そしていま維新は、現政権の言いにくいことを代弁して改憲策動の尖兵となり、「非核三原則の見直し」「核共有」の声を上げている。野党ではなく、与党の政策をさらに保守の立場から引っ張る存在である。
維新を語る際の最大の関心事は、いったい誰が維新支持の担い手なのかということ。近畿圏以外の人には、まったく分からない。この点について、特集リードの中に、次の一節がある。
「関西学院大学の冨田宏治教授が三年前に分析した論文(「維新政治の本質ーその支持層についての一考察」)は次のとおり、維新支持層のイメージを描いている。
そこに浮かび上がってくるのは「格差に喘ぐ若年貧困層」などでは決してなく、税や社会保険などの公的負担への負担感を重く感じつつ、それに見合う公的サービスの恩恵を受けられない不満と、自分たちとは逆に公的負担を負うことなくもっぱら福祉医療などの公的サービスの恩恵を受けている「貧乏人」や「年寄り」や「病人」への激しい怨嗟や憎悪に身を焦がす「勝ち組」・中堅サラリーマン層の姿にほかなりません」
本号の巻頭論文に当たる「日本維新の会の『支持基盤』を探る」(岡田知弘・京大名誉教授)は、この見解をベースにしつつも、維新は「さらなる成長を」というスローガンによる「開発幻想」を振りまくことによって、「勝ち組」以外からも集票したとみる。強固な支持層としての、新自由主義の利益に均霑する「勝ち組」 中堅サラリーマン層 と、「開発幻想」にすがるしかない立場の「非勝ち組」層。
しかし、現実の地域経済の衰退は覆うべくもないことを指摘し、在阪マスコミの維新擁護の報道を乗り越えて、「維新が振りまく幻想の危険性」と「真実にもとづく維新批判」の言論高揚の必要を説いている。
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特集●「維新」とは何か
◆特集にあたって … 岩田研二郎
◆日本維新の会の「支持基盤」を探る … 岡田知弘
◆在阪マスコミと中央政権が育てた新たな利権政党 … 幸田 泉
◆大阪IRカジノの問題点 … 桜田照雄
◆大阪都構想の問題点とその後の動き … 森 裕之
◆地域経済を疲弊させる維新の略奪型経済対策 … 中山 徹
◆維新府政のもとでのコロナ禍の保健所の現状 … 小松康則
◆維新政治による教育破壊の“ほんの一部”
?大阪は 維新政治で 滅茶苦茶に? … 今井政廣
◆維新政治による人権侵害と闘う弁護団活動 … 岩田研二郎
◆維新による公務員の団結権への侵害と反撃 … 豊川義明
◆改憲勢力としての日本維新の会 ── 憲法審査会での策動を中心に … 田中 隆
◆維新は政党政治の一翼を担えるか … 栗原 猛
特集外記事
◆連続企画・学術会議問題を考える〈5〉
「日本学術会議の在り方に関する政策討議取りまとめ(令和4年1月21日)/ CSTI有識者議員懇談会」をどう読むか … 広渡清吾
◆司法をめぐる動き〈72〉
・「日の君」再任用訴訟で逆転勝訴判決
── 再任用拒否の違法性を正面から認定 … 谷 次郎
・2月の動き … 司法制度委員会
◆メディアウオッチ2022●《「核時代の戦争」と世論・情報・メディア》
どんな理由でも戦争は認めない 不戦、非核、非武装の外交の確立を
── ウクライナ戦争を機に … 丸山重威
◆とっておきの一枚 ─シリーズ?─〈№11〉
「戦争の不条理」を胸に … 鶴見祐策先生×佐藤むつみ
◆改憲動向レポート〈№39〉
憲法改正を「今こそ成し遂げなければならない」と主張する岸田首相 … 飯島滋明
◆書籍紹介
◆インフォメーション
ロシアによるウクライナ侵攻に対し強く抗議するとともに直ちに戦闘行動を停止し撤退することを求める声明/ロシアのウクライナへの軍事侵攻に強く抗議し、ロシア軍の即時撤収を訴える声明/自民党改憲案(4項目改憲案)に反対し、改憲ありきの憲法審査会の始動には反対する法律家団体の声明
◆時評●地位協定と新型コロナ対策 ── 日伊の比較 … 高橋利安
◆ひろば●和歌山での憲法を守る取り組み ── 93回目のランチタイムデモ … 阪本康文
(2022年1月5日)
年末に、「法と民主主義」の特別号が発刊された。「創立60周年記念号」である。「創立50周年記念号」以来10年の法律家運動総括号となっている。
以下に目次を掲載する。絢爛豪華にして殷賑隆盛の壮観とはちとオーバーではあるが、なかなかのものと自讃している。私も、象徴天皇制について寄稿している。手に取ってお読みいただけたら、ありがたい。
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創立60周年記念●激動の10年と新たな展望 ―― 日民協この10年
◆巻頭言・60年、最初の一歩と次の一歩 … 理事長・新倉 修
■巻頭論文・激動の10年の政治史と日本民主法律家協会の役割 … 渡辺 治
■激動の10年の政治史と法律家運動
◆企画にあたって … 編集委員会・前事務局長 米倉洋子
◆原発差止訴訟のこの10年 ── 弁護団の奮闘と判決の推移、そして今後の展望 … 北村 栄
◆公害・環境法における理論(研究者)と実務(弁護士)の協働
── 建設アスベスト訴訟・福島原発事故賠償訴訟を例に … 吉村良一
◆秘密保護法の内容・問題点とその後につながる運動 … 清水雅彦
◆監視社会と戦争する国づくり
── 特定秘密保護法/刑訴法・盗聴法改悪/共謀罪/
デジタル監視法/土地規制法/内閣情報局 … 海渡雄一
◆戦争法反対・9条改憲阻止運動 ── 激動の10年 … 南 典男
◆機密費・財務省「森友学園」・「桜を見る会」追及とその闇を暴く運動 … 上脇博之
◆象徴天皇をめぐる議論状況この10年 … 澤藤統一郎
◆検察庁法改正反対運動の経緯と教訓 … 島田 広
◆「桜を見る会前夜祭」刑事告発の取組み … 小野寺義象
◆日本学術会議会員任命拒否問題と情報公開請求の取組み … 福田 護
◆原発事故から10 年
── 日民協の取組み、「原発と人権」の活動など … 海部幸造
◆改憲問題対策法律家6団体連絡会の活動 ── 憲法の危機に抗して … 大江京子
◆司法制度研究集会の10年を振り返る … 米倉洋子
■日民協創立の頃の息吹を伝え、60年を振り返る
◆日民協創立に至る迄 思い出すまま … 内藤 功
◆日民協創立の経緯とその「初心」 … 新井 章
◆『法民』とともに … 上条貞夫
◆鈴木安蔵先生の思い出 … 金子 勝
◆断想 野村平爾先生 … 大石 進
■これまでとこれからの日民協に寄せるおもい
―― 歴代理事長・事務局長・本部事務局員と現執行部員から
【理事長】
◆日民協活動の年月 … 久保田 穣
◆安倍改憲策動との闘いの3 年間 … 右崎正博
◆国際の平和と安全を実現する地球的な運動を … 新倉 修
【事務局長】
◆司法反動化に抗して ── 私の事務局長時代 … 鷲野忠雄
◆国際交流を実現した協会活動を振り返って ── 近況報告を兼ねて … 小野寺利孝
◆日本の司法の遅れを取り戻すために ── ドイツの司法の実態を学ぶ … 高見澤昭治
◆事務局長退任の日の「事務局長日記」 … 澤藤統一郎
◆事務局長雑感 ── 刺激をうけ、視野を拡げることのできた6年 … 海部幸造
◆原発、壊憲…未曾有の危機のなかで … 南 典男
◆事務局長時代を振り返って … 米倉洋子
◆「友情」「努力」「勝利」を体感できる日民協へ … 大山勇一
【本部事務局員】
◆京橋から四谷、そして新宿御苑へ … 林 敦子
【執行部員】
◆「手をとり合って」(クイーン) … 戒能通厚
◆インボイス中止のたたかい … 浦野広明
◆司法制度への恒常的問題提起を … 新屋達之
◆多様な「まなざし」 … 佐々木光明
◆土砂降りの日にすること … 永山茂樹
◆裁判官経験者としての活動参加と雑感 … 北澤貞男
◆日民協と法律関係労働組合 … 有村一巳
◆「危機の時代」の法律家の役割 … 飯島滋明
◆継続は力なり、でもそれだけでは不十分 … 辻田 航
◆メディアの変容とジャーナリズム … 丸山重威
◆次の60 年存続・発展のため … 奥津年弘
■日民協の未来を語る座談会
出席者・辻田 航/大住広太/宮腰直子/飯島滋明/
大江京子/米倉洋子/南 典男/新倉 修/大山勇一(司会)
■ともに歩んだ皆さんの連帯メッセージ
◆これからも司法の民主化をめざして … 中矢正晴
◆法務省の労働組合として … 西山義治
◆たたかいは続く ── 独立、平和、民主主義、基本的人権をまもるために … 山口真美
◆市民とともに9条をもう一度選び直したい … 小賀坂 徹
◆法律家に課された使命 ── 日本民主法律家協会創立60周年に寄せて … 阿部健太郎
◆働く者の権利擁護と団結の再生のために … 井上幸夫
◆若手会員とともに司法の民主化をめざして … 上野 格
◆共同の闘いで未来を変えよう! … 海渡雄一
◆日本民主法律家協会と日本国際法律家協会という二つの顔で人権活動にかかわって … 清末愛砂
◆「核兵器も戦争もない世界」を目指す取り組み … 森 一恵
◆憲法活かし、悪法阻止のたたかいに手を携えて … 岸田 郁
◆緊迫する情況の中での法律家の役割 … 山岸良太
◆国民審査運動の再生を … 瑞慶覧 淳
◆今こそ、憲法を実践するとき … 菱山南帆子
◆薩長連合のこと … 高田 健
◆とっておきの100枚 彼岸への伝言? … 佐藤むつみ
◆鳥生基金の創設にあたって 鳥生忠佑先生への感謝のことば … 大山勇一
◆改憲動向レポート〈№36(特別編)〉
壊憲・改憲の危機にある日本と法律家の果たすべき役割 … 飯島滋明
●年表・この6年の日民協のあゆみ(2015.9?2021.11)
●資料・総もくじ(500+501号?562号)
●インフォメーション
「法と民主主義」バックナンバー検索システムについて
なお、今回は「563・564号」の合併号として、特別の2000円(送料別)。
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(2021年10月27日)
「法と民主主義」の今月号(21年10月号【通算562号】)が、本日発行となった。
特集の表題は、「アジアの各地で闘う民衆ーそれぞれの課題と法律家の役割」というもの。本号の編集専任者は私である。
下記のURLをご覧いただきたい。
https://www.jdla.jp/houmin/index.html
そして、お申し込みは下記URLから。
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香港・中国・ミャンマー・タイ・フィリピン・アフガンなどの緊迫した情勢を、それぞれの国に深く関わっている方にご報告いただいた。総選挙を間近にしての今この各国の深刻な報告に目を通すと、不満だらけの日本ではあるが、それでも不十分ながらもこの日本に根付いている民主主義を貴重なものと思わざるを得ない。
各国の闘いが問うている課題はこの上なく重い。人権や自由を獲得するための権力との苦闘の歴史は、アジアの各地で今まさに進行中なのだ。そして、各国の状況の報告のあとに、各国個別の枠を越えた民衆の闘いの連帯や法律家の課題についての論稿を寄稿いただいた。特集全体で、「法と民主主義」らしい構成になったと思う。
「法と民主主義」・10月号の特集企画 リード
いま、アジアの各地で、多様な「民衆の闘い」が展開されている。闘いの背景も要因もその態様も一様ではないが、それぞれの人権課題・民主主義課題が、どの国にあっても凶暴な権力との深刻な対立によって、熾烈な民衆の闘いを余儀なくされている。そして、一国での闘いはいずれも困難な局面にあって、国際的な連帯と支援を求めている。
また、それぞれの闘いに法律家が関わり、一定の役割を果たしながらも、法律家自身も苦境の現状にある。現実は苛酷であり、人権や民主主義を獲得するための歴史の苦悩は、今なお進行中であることを実感せざるを得ない。
本特集は、この各国の実状をご紹介するとともに、国際法の課題や、国境を越えた法律家の連帯や支援の可能性についての問題提起とし、われわれが何をなしうるかを考える契機としたい。
今号の特集は、各論からの順序となる。まず、読者に関心の深い香港の民主主義の苦境と、その背後にある中国の立憲主義についての2論稿。併せて読むことで、顕在化した現実の厳しさと、さらにその奥にある厳しさの源泉を理解することになろう。
◆死にゆく「一国二制度」──香港で何が起きているか………鈴木 賢
◆「憲法あって憲政なし」の国で………石塚 迅
以下は、さらに苛酷で深刻な各国の民衆の闘いの現状の報告である。ミャンマー、タイ、フィリピン、アフガニスタン、それぞれの歴史的な背景事情の中での闘いの厳しさと、解決の難しさにたじろがざるを得ない。が、その困難な状況下で闘っている人々の崇高さに打たれる。
◆ミャンマー軍事政権との闘いの現状と日本における連帯・支援の課題………渡 辺彰悟
◆岐路に立つ「タイ式民主主義」………今泉慎也
◆フィリピンの超法規的殺人EJK(Extrajudicial Killing)………井上 啓
◆アフガン女性の闘う〈勇気〉を生み出したもの──長期的視野で築いてきた闘争 の歴史………清末愛砂
そして、以下の論稿が、各国の具体的な現状を考察するための総論となる。稲論文はアジアにおける人権課題を網羅的に俯瞰し、申論稿は国際法の枠組みを提供するもの、新倉論文は闘う民衆の国際連帯の可能性について論じ、笹本論文は、朝鮮半島の平和を素材に法律家の国際連帯の実践を報告する。それぞれ、有益なものとなっている。
◆アジア各地における「民衆の闘い」の現状と課題………稲 正樹
◆人権と民主主義を求める民衆の危機と国際社会─大国のエゴを超えて………申惠丰
◆アジア各地での民衆の闘いと国際連帯………新倉 修
◆朝鮮半島の平和プロセス実現のための、法律家の国際連帯………笹本 潤
ミャンマーの軍事政権との闘いについての、渡辺彰悟弁護士の報告の最後に、こうある。「ミャンマーの詩人KT氏は「彼ら(権力)は頭を打つが、革命は心にあることを分かっていない」と詠んだ(彼は拘束され尋問され死亡した)。この詩に込められた思いに連帯し、私達は日本がなすべきことを積み重ねたい。」
この一文を重く受けとめたい。
(編集委員・澤藤統一郎)
法と民主主義2021年10月号【562号】(目次と記事)
特集●アジアの各地で闘う民衆 ―― それぞれの課題と法律家の役割
◆特集にあたって … 編集委員会・澤藤統一郎
◆死にゆく「一国二制度」 ── 香港で何が起きているか … 鈴木 賢
◆「憲法あって憲政なし」の国で … 石塚 迅
◆ミャンマー軍事政権との闘いの現状と
日本における連帯・支援の課題 … 渡邉彰悟
◆岐路に立つ「タイ式民主主義」 … 今泉慎也
◆フィリピンの超法規的殺人EJK(Extrajudicial Killing) … 井上 啓
◆アフガン女性の闘う〈勇気〉を生み出したもの
── 長期的視野で築いてきた闘争の歴史 … 清末愛砂
◆アジア各地における「民衆の闘い」の現状と課題 … 稲 正樹
◆人権と民主主義を求める民衆の危機と国際社会
── 大国のエゴを超えて … 申 惠丰
◆アジア各地での民衆の闘いと国際連帯 … 新倉 修
◆朝鮮半島の平和プロセス実現のための、法律家の国際連帯 … 笹本 潤
◆特別寄稿 フランスにおける衛生パス … 植野妙実子
◆連続企画・学術会議問題を考える〈3〉
学術会議任命拒否情報不開示決定に対する審査請求のゆくえ … 三宅 弘
◆司法をめぐる動き〈69〉
・岡口判事に対する弾劾裁判について … 野間 啓
・9月の動き … 司法制度委員会
◆メディアウオッチ2021●《政権選択選挙》
選挙で問われる変節と政治姿勢 問われる「メディアの主体性」
ウソで情報操作する会社、政党? … 丸山重威
◆とっておきの一枚 ─シリーズ?─〈№8〉
人が裁かれる時 … 村井敏邦先生×佐藤むつみ
◆改憲動向レポート〈№35〉
本質は何も変わらない岸田自公政権 … 飯島滋明
◆インフォメーション
自公政権に終止符をうち、命と平和を守る憲法に基づく政治への転換を!
立憲野党は共同し、市民連合との合意を踏まえ、
政権交代に向けて全力を尽くすことを求める法律家団体のアピール
◆時評●大企業、軽すぎる税負担 ── 巨額増益の一方で優遇税制拡大 … 菅 隆徳
◆ひろば●今日の危機の内容と、打開する力としての民主主義 … 豊川義明
(2021年1月31日)
1月28日発行の「法と民主主義」1月号が、通算555号となった。毎年10号の発刊を、1号の欠落もなく50年余にわたって積み上げての555号である。編集に参加してきた者の一人として、いささかの感慨を禁じえない。
自らの画に自ら讃の趣ではあるが、最近の本誌は充実していると思う。本号も<第51回司法制度研究集会>特集を中心に読み応えあるものになっていると思う。
51回目となる司研集会のテーマは、「今の司法に求めるもの ─ 特に、最高裁判事任命手続きと冤罪防止の制度について」である。その趣旨は、以下のとおり。
第49回司研集会のテーマは、「国策に加担する司法を問う」。そして昨年の第50回は「いま、あらためて司法と裁判官の独立を考える、ー 司法の危機の時代から50年」であった。この両シンポジウムで、安倍政権になってからの最高裁の重要判決の中に、国の政策に積極的に加担するものが散見されると指摘され、共通認識となった。これにともなって、安倍政権下での最高裁判事任命の恣意性がクローズアップされてきた。
こうした流れを受けて今回は、最高裁判事任命のありかたを中心に、司法の独立や司法の人権保障機能強化のための提言ができないかという問題意識をもって集会を準備した。結局は、今回の実行委員会で具体的な政策提言などを作ることは困難として、集会の中で方向性が見いだせればということになった。
そこに10月1日菅首相が日本学術会議会員候補者6名の任命を拒否するという前代未聞の事態が起きた。この政権の問題性は今回の司研集会に色濃く反映され、非常に緊張感のある充実した集会になった。
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法と民主主義2021年1月号【555号】(目次と記事)
●特集のリード(PDF) ●時評(PDF) ●ひろば(PDF)
特集●今の司法に求めるもの ─ 特に、最高裁判事任命手続きと冤罪防止の制度について<第51回司法制度研究集会から>
◆特集にあたって … 日本民主法律家協会事務局長・米倉洋子
◆基調報告・今の司法、何が問題か ── 新聞記者の視点から … 豊 秀一
◆報告?・最高裁判事任命の問題点
── その基本構造及び安倍政権下の問題、改革の方向性 … 梓澤和幸
◆報告?・冤罪防止のための制度の実現を … 周防正行
◆質疑応答・発言
… 近藤ゆり子/明賀英樹/岡田正則/晴山一穂/西川伸一/森野俊彦
平松真二郎/澤藤統一郎/毛利正道/瑞慶覧淳/白取祐司
◆集会のまとめと閉会の挨拶 … 新屋達之
◆連続企画●憲法9条実現のために〈33〉
日本学術会議会員任命拒否と「科学技術・イノベーション基本法」… 南典男
◆司法をめぐる動き〈62〉
・大飯原発設置許可取消判決の意義と展望──大阪地裁2020・12・4判決 … 冠木克彦
・11/12月の動き … 司法制度委員会
◆メディアウオッチ2021●《政治とことば》
問われる政治家、リーダーの資質 「迷走」の要因はどこにあるのか? … 丸山重威
◆とっておきの一枚 ─シリーズ2─〈№1〉
被爆者として、被爆者によりそって … 田中熙巳さん×佐藤むつみ
◆改憲動向レポート〈No.30〉
「ずさんな議論」で改正改憲手続法案の早期採決を求める自民・公明・維新・国民民主党 … 飯島滋明
◆BOOK REVIEW●ティモシー・ジック著、田島泰彦監訳、森口千弘ほか訳
『異論排除に向かう社会─トランプ時代の負の遺産』(日本評論社) … 澤藤統一郎
◆インフォメーション
新型インフルエンザ等対策特措法等の一部を改正する法律案に反対する法律家団体の声明
◆時評●沖縄の米軍基地撤去は日本の歴史的責務 … 加藤 裕
◆ひろば●カジノ関連法の廃止を … 新里宏二
記事の紹介は下記URL
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集会でのメインの各報告は、本誌をお読みいただくとして、「フロア発言」の2件の抜粋をご紹介させていただく。森野俊彦さんと私のもの。
学術会議任命拒否と重なる裁判官の任命拒否
森野俊彦(弁護士・大阪弁護士会)
私は、いまは弁護士ですが、40年間裁判官をしていた者です。今回、日本学術会議の被推薦者6名の方が任命拒否をされましたが、私はそれを聞いて、50年前に私たちが経験した「任官拒否」を思い出しました。私たち60数名の任官希望者のうち7名が裁判官任官を拒否されました。私はその方たちと一緒に修習し、いかなる裁判官になっていくかを真剣に考え、任官し得たあかつきには、ともに少数者の権利を擁護する司法権の担い手として頑張っていこうと誓い合っておりました。
その方たちは、裁判官になって当然とも言うべき人で、裁判官にふさわしい人でありました。こうした人たちが拒否されたことは、本当に驚きでありました。せめてその拒否理由を明らかにすべきであると考えて、裁判官内定者55名のうち45名の不採用理由開示を求める要望書を最高裁に持っていきました。
拒否された人のうち六名が青法協に入っており、また経歴や人柄から推測しますと、おそらく最高裁はそういう方たちが裁判官として存在し活動することを絶対に避けたいと考えたのだと思います。つまり最高裁判所は、裁判所にとって都合が悪くなる可能性がある人は基本的には入れない。特に任官拒否は採用の問題ですから、入場門に立って入場を拒否すれば足りると考えたのです。
その年、私たちの10期上の13期の宮本裁判官の再任拒否もありました。私は紛れもなく思想信条を理由とする差別であったと考えます。その後、再任問題については、下級裁判官指名諮問委員会が設けられて一定の改善を見たのですが、それで裁判所の中が良くなったかというと、そうは言えないところがあるのです。残念なことに、裁判所内の民主化をめざす運動は、いまは風前の灯火です。われわれの時代には任官者の中にも結構骨太な、あるいは少数者の権利擁護こそ司法権の任務だと力説する方がいたのですが、現在そういった方が裁判官として入ってこれるかというと、それが難しい。採用の段階で選別されてしまうわけです。
最高裁判所の判事の任命は、まだ弁護士出身などいろいろなところから入ってくる部分があるのですが、国民の権利を擁護する、あるいは政府にノーと言える裁判官がどれだけ最高裁の判事になれるかということになると、これは極めて否定的なのですね。裁判官時代はともかく面従腹背して、それなりに出世をしないとだめなのです。だいたい現職で最高裁判所の判事になろうと思ったら、最高裁事務総局経験者、司法研修所の教官、最高裁の調査官などにならなければならない。それには、言いたいことも言わずに、しかし時々はこれはという判決も書かなければならない。残念ながら、今の裁判官にそんなことができるはずがない。
私の場合で言えば、青法協の会員でもありましたし、全国裁判官懇話会にも入りました。日本裁判官ネットワークを一緒にやって、そういう問題を市民とともに考えようと頑張ったのですが、残念ながら、裁判所自体を根本から変えるということにはなり得なかったのです。
どうしたらいいかということは、本当に難しい問題なのですが、ある日突然、いい裁判所ができるはずはないですね。時々いい裁判官が出るときがある。そういう裁判官を盛り立てるということも私は大切ではないかなと思っています。あとは、弁護士からの最高裁判事、少数意見がちゃんと書ける裁判官にもっともっと入っていってもらうとか、いろいろな方策が考えられます。どれも、けっこう厳しいこととは思いますが。(拍手)
50年前の苦い経験を繰りかえさないために
澤藤統一郎(弁護士・東京弁護士会)
私も森野さんと同じ23期で、50年前に同期の裁判官志望者7名が任官を拒否された事件に立ち会いました。このときの衝撃は非常に大きかった。
当時私たちは、私たちなりの常識的な裁判官像、あるいは裁判所、司法像を描いていました。憲法の理念を厳格に守る裁判所、これが当然のありかただと考えていたのが、どうもおかしい。そうではない権力の意のままになる裁判所がつくられてしまうのではないかという違和感と衝撃です。私たちが理解していた、三権分立とか司法の独立とか、あるいは裁判官の独立などとはまったく異質のものが、いま目の前に立ち上がろうとしている。そういう恐怖心を、50年前に感じたことを思い出します。
その同じ悪夢が、また今年の10月1日に繰り返され、現実の出来事として受け止めざるを得なくなりました。さきほど森野さんが発言されたとおり、50年前に私たちがいったい何を考えて何をし、それがどうしてうまくいかなかったのか。その教訓をもう一度きちんと整理すべきなのだと、あらためて思います。
50年前の苦い総括ですが、私は最高裁が成功体験を積み上げたのだと思っています。つまり最高裁は、判事補採用の段階で数名の任官志望者を拒否することによって、自らの思惑は公にせずとも、誰にでも忖度可能な状況をつくり出した。そして人事の問題だからと言う理屈で、決して採用を拒否をした理由を明らかにしない。それでいて、自分の組織の隅々にまで、トップが何を考えているか、トップに忖度をせず逆らえばどうなるのかを見せつける。そういうやり方で、巧妙に組織全体を動かしたのです。採用人事を梃子にして、全裁判官を統制し、裁判の内容まで変えてしまった。それをいま司法官僚ではなく、内閣総理大臣、行政のトップが真似てやろうとしている。
私たちは50年前の苦い経験から、その轍を踏まないように、いまの学術会議問題について、発言を継続していかなければならない。それが私たちの使命であろうと思っています。
(2020年11月29日)
11月26日、日本民主法律家協会の機関誌「法と民主主義」2020年11月号【通算553号】が予定どおりに発刊となった。
今号は、特集?「2020年夏 教科書採択をめぐるたたかいの成果と教訓」と、特集?「第5回 『原発と人権』全国研究・市民交流集会ーー福島原発事故から10年─これまでとこれから」の二本建て。「法民」ならではの内容で充実していると思う。
目次は以下のとおり。
特集 ? 2020年夏 教科書採択をめぐるたたかいの成果と教訓
◆特集にあたって … 編集委員会・澤藤統一郎
◆欺瞞と瑕疵事項だらけの教科書制度
──教育者・市民と法律家との連携による是正活動への期待 … ?嶋伸欣
◆「つくる会」系教科書の激減と今後の課題 … 鈴木敏夫
◆これが、問題教科書の内容だ … 石山久男
◆教科書づくりの現場からの報告 … 吉田典裕
◆教科書づくりの夢を語る … 関 誠
◆この夏、全国の運動はこうだった。
── 自由法曹団の取り組みについて … 穂積匡史
特集 ? 第5回 「原発と人権」全国研究・市民交流集会 in ふくしま オンラインプレシンポジウム 福島原発事故から10年─これまでとこれから
◆特集にあたって … 「第5回 『原発と人権』全国研究・市民交流集会 in ふくしま」実行委員長・礒野弥生
◆講演:技術の存否や倫理的側面の議論を
── 核燃料サイクルと核エネルギーのあり方を考える … 池内 了
◆報告:10 年目の被災地の今 … 伊東達也
◆報告:飯舘などリスクの高い復興を問う
── 復興核災害の危険性 … 糸長浩司
◆訴訟報告:被害者訴訟の司法戦略について
── 裁判の到達点と今後 … 南雲芳夫
◆訴訟報告:いわき避難者訴訟・第一陣
仙台高裁判決の意義と、上告審における東電主張の問題点 … 米倉 勉
◆各地からの報告 … 東島浩幸/谷崎嘉治/今大地晴美/佐藤嘉幸
◆集会のまとめと閉会の挨拶 … 松野信夫
◆司法をめぐる動き〈61〉
・安保法制違憲訴訟の意義と課題
── 前橋地裁判決を受けて … 大塚武一
・10月の動き… 司法制度委員会
◆メディアウオッチ2020 《菅内閣のメディア政策》
自著も改変、批判に「怒り」 「世論」狙って、あの手この手 … 丸山重威
◆改憲動向レポート〈No.28〉
日本学術会議問題の陰でも進む「壊憲」 … 飯島滋明
◆書籍紹介
◆時評 「デジタル化」と向き合う日本の民事司法 … 今村与一
◆ひろば 継承されるミーナーの精神 … 清末愛砂
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特集?のリードだけをご紹介しておきたい。編集担当者として、私が書いたもの。
本号の第一特集は、《2020年夏 教科書採択をめぐるたたかいの成果と教訓》である。教科書採択をめぐる運動に成果あったことを確認して、その成果を生み出した運動の教訓を汲み取ろうというもの。
教育をめぐる時代の状況が決して楽観できるものでないことは、共通の認識と言えよう。そのような中でも、各地の地道な運動が、貴重な「たたかいの成果」を生み出し得ることは、それ自体が学ぶべき教訓である。
学校教育において、教科書は重要な存在である。とりわけ、義務教育の授業で使われる「歴史」や「公民」の教科書の記述の在り方は、次代の国民の主権者意識に大きな影響を及ぼす。そのため、どのような教科書を作るか、どのような教科書を採択するかについて、自ずから熾烈なせめぎ合いとなる。その結果は民主主義の成熟度を示す象徴的なバロメータともなる。
近年、このバロメータの指し示すところが思わしくなかった。この国の政治の現状と符合して、歴史修正主義や国家主義、改憲指向の教科書の採択が無視し得ないシェアを獲得してきたからである。
今年・2020年は、4年に一度の中学校教科書採択の年、熱い夏の攻防の焦点は、「歴史」と「公民」の教科書だったが、「つくる会」系の、育鵬社・自由社の教科書採択は両者ともに激減した。企業としての採算点を大きく割り込んでいることが報告されている。もちろん、自然にそうなったのではない。各地で積み重ねられた、教科書採択をめぐる運動の成果である。
6件の論稿は、全体として、原理的な教科書検定や採択の制度や運用の問題点を指摘しつつも、今夏の運動が獲得した成果と意義とを正確に把握し、これを勝ち取った全国の運動を素描するものとなっている。
「欺瞞と瑕疵事項だらけの教科書制度」(高嶋伸欣・琉球大学名誉教授)は、本質的に戦前と変わりのない教科書検定制度とその運用の実態の問題点を指摘して、その打開のために法律家への連携を呼びかけるものとなっている。
「『作る会』系教科書の激減と今後の課題」(鈴木敏夫・教科書ネット21事務局長)は、一覧表にして教科書採択シェアの激変を解説している。実践に携わった立場からの現場の運動の報告として貴重なものである。
「これが、問題教科書の内容だ」(石山久男・教科書ネット21代表委員)は、問題教科書の、歴史修正主義・侵略戦争と植民地支配の美化・改憲への誘導の具体的記述についての明快な指摘である。その上で、具体的な改善の道筋を提言して示唆に富む。
「教科書づくりの現場からの報告」(吉田典裕・出版労連教科書対策部事務局長)は、教科書を作る側からの貴重なレポートである。教科書を使う側の視点しかない者には、気が付かない「現実」を教えてくれる。教科書に自由を取り戻すための提言も興味深い。
「教科書づくりの夢を語る」(関誠・公立中学校社会科教師)は、現役の歴史教員が、「子どもと学ぶ」教育実践の中から、「学び舎」の歴史教科書を作った報告である。筆者の「教科書は誰のものか」という問いかけは重い。
「この夏、全国の運動はこうだった。ー 自由法曹団の取り組みについて」(穂積匡史・弁護士)は、法律家の運動のありかたについての典型を示している。成果著しかった神奈川と大阪の具体例が報告されているが、学ぶべきところが大きい。
全体として、成果ばかりが強調されてはいない。運動あればこそ、多くの課題も見えてきている。まずは、その両面を共通の認識としたい。
(編集委員 澤藤統一郎)
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「法と民主主義」紹介のホームページは下記のとおり。
https://www.jdla.jp/houmin/index.html
お申し込みは、下記のURLから。
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(2020年11月14日)
素晴らしい小春日和の土曜日。午後は、引きこもっての「第51回司法制度研究集会」だった。昨年に続いて、今年も自由法曹団/青年法律家協会弁護士学者合同部会/日本民主法律家協会の共催。ズームで参加できるのが、ありがたい。
「今の司法に求められるもの ― 特に、最高裁判事任命手続きと冤罪防止の制度について」を総合タイトルとして、基調報告が豊秀一さん(朝日新聞編集委員)による「今の司法、何が問題か―新聞記者の視点から」。これに、梓澤和幸さんの「司法の民主化のために」と、周防正行さんの「冤罪防止のための制度の実現を」という報告。
今回の集会企画の段階では学術会議問題は出ていなかった。予定されたテーマとして学術会議問題関連のものはない。しかし、当面する最重要課題として学術会議問題を語らざるを得ない。司法を語りながらも学術会議問題を論じ、学術会議問題を論じつつも、司法を語る集会となった。
よく分かったことは、司法の独立侵害の問題と、学術会議の自主性侵害問題とは同質、同根の問題であること。そして、学術会議の会員任命問題と最高裁裁判官任命問題とについては、同じ法理で考えるべきことである。
司法の独立とは、権力分立を実効化するための制度である。司法部のみならず裁判官は、権力とりわけ行政権から独立して、権力の憲法や法からの逸脱を是正する機能をもたなければならない。行政権力から独立していない司法部も、司法官僚の権力から独立していない裁判官も、権力の暴走を止めることができない。
学術会議も、学術の国家的利用の在り方に関して、権力から独立して提言をなすべき存在である。政府からの掣肘を受けることのない、自律性あってこそ、学術を国策に反映させることができる。権力から独立していない学術会議では、権力の暴走を止めることができず、その使命を達することができない。
いま、司法の独立も、日本学術会議の自律性も危うい。ここを持ちこたえないと、大学にも、教育にも、メディアにも、法曹にも、文学や芸術や宗教にも、累が及ぶことになりかねない。そのような危機感をもたざるを得ない。
私も、ズームで短く発言した。次のような内容。
今回の6名の学術会議会員任命拒否は、49年前の23期司法修習からの裁判官希望者7名に対する任官拒否問題の再現という側面を持っている。
あのとき、採用人事を梃子として組織全体を統制する手法の有効性が確認された。司法部は成功体験を持ったのだ。「人事のことだから理由は言わない」という開き直りつつ、それでいて組織全体の萎縮効果を狙う狡猾さ。今度は、同じことを官邸が行っている。49年前のあの時の教訓をどう生かすべきかを総括し直さなければならない。
本日の司法制度研究集会の発言は、いずれ「法と民主主義」に掲載される。是非、ご一読をお願いしたい。
豊さんの基調講演も充実したものだったが、フロアからの岡田正則さんの発言がさすがに印象に残るものだった。その大要をご紹介したい。
6人の任命拒否が、違憲であり違法であることは明らかで、法律解釈論争は既に決着がついている。政権は既に詰んでいるのに、それでも「参った」と言わずに居直っている。そのような違法の居直りを許しているのが今の日本の政治状況なのだ。
自由・平等・連帯という市民革命のスローガンの内、利潤追求の自由のみが神聖化されつづけられる一方、歪んだ政治空間の中で本来の連帯が失われている。既得権益・特権を叩くという名目で、公務員や教員、正規労働者までが攻撃対象とされ、研究者や科学者などの専門家も同じような攻撃対象となっている。
さらに、国民に対する情報操作によって、任命を拒否された6名は、「反政府的傾向の連中」というレッテルを貼られつつあり、それゆえの混沌とした政治状況となっている。このままでは、大学の自治も、メディアの在野性も、日弁連の独立性なども、危うくなってしまいかねない。