澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

NHKのトップに位する経営委員会委員長・森下俊三。この人物は、NHK支配のために送り込まれた政権の手先である。その森下俊三の任期が本日で終わる。NHK情報開示訴訟判決がこの人物を断罪した。在任中の判決が明らかにした森下の違法は、同時に安倍晋三や菅義偉の責任をあぶり出している。安倍・菅・森下、みんなちがって、みんな悪い。

(2024年2月29日)
 2月が終わることを「逃げる」と表現する。短い2月の終わりを惜しむ奥床しい響きがある。が、誰にも惜しまれることなく、本日、跡を濁し、砂を蹴って「逃げる」人物もいる。奥床しさとは無縁の、NHK経営委員長森下俊三である。

 放送法33条1項は経営委員の任期を3年とし、同2項が「委員は再任されることができる」としている。森下俊三の経営委員任期は3期、9年に及ぶ。第1期と2期とは内閣総理大臣安倍晋三の任命によるもので、3期目は菅義偉内閣総理大臣の任命。安倍も菅も、公共放送の運営のトップにふさわしい人物を任命することはなく、NHKという公共放送を権力の道具として使えるように、政権の手先を送り込んだのだ。

 森下俊三は、2018年3月13日経営委員長代行者に就任し、翌2019年12月24日には経営委員長に就任して今日に至り、2024年2月末日の今日、任期が切れてようやくにしてNHKを去る。

 もちろん、無事に任期を全うしたわけではない。9日前の2月20日、経営委員会委員長としての職務に違法があったとして、文書開示請求をした視聴者100名に、判決によって損害賠償を命じられている。NHKに対する視聴者の信頼を傷付けること甚だしい。安倍も菅も、その任命責任を問われる事態となっている。目利きができないばかりに、おおきな目算外れとなった。

 それにしても、判決の言い渡しが森下在任中に間に合って良かった。2月20日判決の、原告団・弁護団声明は以下のとおりである。

                              

声  明

1 本日、東京地方裁判所民事第26部(大竹敬人裁判長)は、被告NHKに対し、経営委員会の議事の録音データの提出を命ずる画期的な判決を言い渡した。
さらに、開示すべき債務を履行しない被告NHKの債務不履行損害賠償請求、および被告森下の開示妨害の不法行為損害賠償請求についてもこれを全面的に認めた。
2 本件訴訟は、わたしたち100人余が原告となり、NHK経営委員会の森下俊三委員長によるNHK会長厳重注意を巡る経営委員会の「議事録隠し」を発端とし、被告NHKに対し議事録および録音データの開示を求め、被告森下に対し損害賠償を請求して提訴したものである。
3 本日の判決は、被告NHKに対して、当該録音データを抹消したとの被告主張を排して、その開示を命じたものである。
 また、被告森下に対しては、「議事録音データ」の存在を知りつつ、開示するための措置を講ずることのなかったことを違法とし、不法行為損害賠償責任を認めた。
いずれも私たちの主張を認めた素晴らしい判決である。
4 被告森下の「議事録隠し」の動機は、自らが行った放送法第32条(委員の権限等)が禁じる「個別の放送番組の編集」への違法な介入を隠蔽することにあったことは明らかなのであって、反省と陳謝の意を表明し、直ちに経営委員(長)を辞任すべきである。
5 私たちは、今後とも放送法の精神に基づき、NHK及び経営委員会が「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって」「放送が健全な民主主義の発達に資するよう」(放送法第1条)努力することを求めるとともに、そのために一層の監視・激励を行なっていくことを表明するものである。

2024年2月20日

NHK文書開示等請求訴訟原告団
同          弁護団

 以上のとおり、「被告森下の『NHK会長厳重注意』が「個別の放送番組の編集への介入」として違法であり、その隠蔽のための議事録の不作成も、開示の拒否も違法なのだ。森下俊三、ガバナンスもコンプライアンスも無茶苦茶なのだ。

 だから、声明は「反省と陳謝の意を表明し、直ちに経営委員(長)を辞任すべきである」と要請した。にもかかわらず、本日で森下の任期切れである。思えば、これまで、いったい何度、森下に辞任を要求してきたことだろうか。本日、森下の反省の機会も辞任の機会も、永久に「逃げる」ことになる。

《NHK文書開示請求訴訟》判決言い渡し法廷と報告集会のご案内

(2024年2月14日)
 《NHK文書開示請求訴訟》の判決が今月20日(来週の火曜日)に迫っている。

判決当日の予定

  2月20日(火)
  14:00 判決言い渡し(東京地裁415号法廷)
   傍聴券配布も抽籤もありません。
   直接、地裁4階の415号法廷にお越しください。

  15:00?17:00
   判決報告集会(於:日本プレスセンタービル10Fホール
   裁判所から間近・千代田区内幸町2-2-1)
 (15:30 記者会見(於:裁判所2F司法記者クラブ記者会見室)

《NHK文書開示請求訴訟》とは

◎ この訴訟の原告は、NHKを行政のくびきから解放して、独立したジャーナリズムに育てようという、壮大な志を持つ市民運動に携わってきた114名。被告は、NHKと現職の経営委員会委員長・森下俊三。
  NHK運営の透明性を確保し、視聴者への説明責任を全うさせようという情報公開請求なのですが、その実質において情報公開を妨害してきた被告森下の法的責任と森下を任命した安倍晋三・菅義偉の政治責任を問う訴訟となっています。

◎ 原告の主たる請求は、「第1316回経営委員会(2018年10月23日開催)議事録」の全面開示です。併せて、議事録の正確性を検証するために不可欠な録音データの開示も求めています。形式的にはその開示の義務は被告NHKにありますが、実質的にその義務を妨げているのは被告森下の責任であるというのが原告の主張です。

◎ 議事録開示を求めている「第1316回経営委員会」では、経営委員会が当時のNHK会長上田良一氏に、口頭での《厳重注意》を言い渡しています。その表面上の理由は「ガバナンスの不徹底」「視聴者目線に立っていない」という名目ですが、経営委員会は明らかに外部勢力と一体となって、NHKの番組制作現場に圧力をかけたのです。だから、この部分については、放送法が命じている議事録の作成も、その公表もなかったのです。

◎ この訴訟の第1回口頭弁論期日(2021年9月)を報告する原告団ニュース冒頭の大見出しが、「番組妨害・議事録隠し・放送法違反の森下俊三氏が経営委員長の職に留まることを許さない」というものです。このよくできたスローガンが、原告・弁護団の一貫した合い言葉です。

◎ ことの発端は、2018年4月に、NHKの看板番組「クローズアップ現代+」が「日本郵政のかんぽ生命不正販売」を取りあげたこと。この番組が、日本郵政の不興を買って、制作現場のみならずNHK執行部までもが、日本郵政グループの上級副社長であった鈴木康雄氏(元総務次官)を先頭とする攻撃にさらされました。
  このとき、防波堤となるべき経営委員会は、あろうことか、日本郵政側に立って番組制作現場とNHK会長を攻撃したのです。経営委員会がした「会長厳重注意」はその番組攻撃の一端でした。
 原告らはこの事態を看過しがたく、経営委員会議事録の完全開示を求めて本件提訴に及んだのです。そうしたら、「議事録のようなもの」が提出されました。しかし、明らかに正規の議事録としての手続を踏んだものではなく、その記載内容の真偽を確認する術もありません。反訳の元となった録音データの提出を求めたところ、都合よく「既に消去した」というのです。誰が、いつ、なぜ、どのように、消去したとは言わずに、「ともかくデータを消去した。現在存在しない」とだけ言います。到底信じがたく、この録音データの開示も、判決の重要テーマとなっています。

◎ 経営委員は、内閣総理大臣が任命します。12人の経営委員が経営委員会を構成し、NHKの最高意思決定機関となります。経営委員会はNHK会長の選任・罷免の権限をもち、NHKの執行部は制度上経営委員会に従わざるを得ません。
  NHK執行部には、経営委員会議事録の開示や公表を拒否する動機は考えられず、また、経営委員会の意向を確認せずに独自の判断で開示することができようはずもありません。議事録開示の拒否も遅滞も、そしてNHKホームページへの公表をしないのも、すべては経営委員会の意向であることが明らかです。

◎ 下記は原告最終準備書面の末尾です。
 「放送法33条1項は経営委員の任期を3年とし、同2項が「委員は再任されることができる」としている。被告森下俊三の経営委員任期は以下のとおり3期に及ぶ。第1期と2期とは内閣総理大臣安倍晋三の任命によるものであり、3期目は菅義偉内閣総理大臣の任命である。
  ?(第1期)2015年3月1日に就任、任期は2018年2月末日まで
  ?(第2期)2018年3月1日に再任、任期は2021年2月末日まで
  ?(第3期)2021年3月1日に再々任、任期は2024年2月末日まで
  また同被告は、第2期再任直後の2018年3月13日経営委員長代行者に就任し、翌2019年12月24日には経営委員の互選により経営委員長に就任して今日に至り、2024年2月末日まで経営委員長の任にあることを予定されている。
  被告森下の4期目の再任は考えがたく、2024年2月末日が経営委員3期目の任期末であり、同時に経営委員長の地位も終了するものと考えられる。
  被告森下の経営委員長在任中の2024年2月末までに、経営委員としての、また経営委員長としての責任を明確にする貴裁判所の判決の言い渡しを求める。」

  以上の最終準備書面を陳述したのが、2023年11月21日。判決期日は、3か月後の24年2月20日に指定され、森下俊三は現役の経営委員会委員長として、この判決を聞くことになりました。

                  

判決予想パターンと評価の基準

◎請求の趣旨
? 被告NHKは原告らに対し、下記各文書をいずれも正確に複写(電磁的記録については複製)して交付する方法で開示せよ
 1.放送法41条及びNHK経営委員会議事運営規則第5条に基づいて作成された、下記各経営委員会議事録(「上田良一会長」に対する厳重注意に関する議事における各発言者ならびに発言内容が明記されているもの)
  ?「第1315回経営委員会議事録」(2018年10月 9日開催)
  ?「第1316回経営委員会議事録」(2018年10月23日開催)
  ?「第1317回経営委員会議事録」(2018年11月13日開催)
 2.下記各経営委員会議事録作成のために、各議事内容を録音または録画した電磁的記録。
  ? ? ? (同上)
? 被告らは連帯して各原告に対し各金2万円ならびにこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払い済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え

◎請求の要約
  対NHK ※開示請求  議事録(A)  録音データ(B)
        ※2万円の債務不履行損害賠償請求(慰謝料+弁護士費用)(C)
  対森下俊三※2万円の不法行為損害賠償請求(慰謝料+弁護士費用)(D)

◎判決の予想パターン
? 予想される判決(主文)の内容
  対NHK ※議事録開示請求(A)
        作成されていなく、結局不存在として請求棄却もあり得る
       ⇒その場合、議事録作成義務(法41条)違反の責任が問題となるが、
        その責任主体は経営委員長。NHKの責任を認定するかは微妙。
        ※録音データ開示請求(B)
        データ消去の主張・挙証不十分として請求認容の可能性大
       ※損害賠償請求(C) 認容か棄却かは微妙。理由に注目。
  対森下  ※損害賠償請求(D) 請求認容あって当然。
? 判決理由における注目点
 ?「経営委員会議事録」「録音データ」の各存否に関する判断理由
 ?経営委員会議事録不作成の経営委員長・NHKの責任についての説示
 ?議事録不作成の動機としての32条2項違反にどこまで踏み込むか
 ?被告森下の法的・道義的責任にどこまで言及するか。

◎判決評価の基準
?提訴段階では、「会長厳重注意」の議事内容を確定することが主目的だったが、
  訴訟の性格が、《議事録開示請求訴訟》から《森下の責任追及訴訟》に変化。
?いま最大の関心事は、判決が被告森下らの「ガバナンスに名を借りた番組制作への介入」批判にどこまで踏み込むか、ということ。
?形式的には、主文においてAはともかく、B+C+Dを獲得できれば、「画期的勝訴」と言ってよい。また、Dの認容あれば「勝訴・政治的勝利」というべきだろう。

              

《NHK文書開示請求訴訟》経過と概要

原告 受信契約者(視聴者) 114名
被告 NHK(形式上の被告)
   森下俊三(責任追及対象としての被告)

? 提訴前の経過(2018年)
04月24日 「クローズアップ現代+」「かんぽ生命の不正販売問題」放映
07月07日 同月14日 NHKネットに続編制作のための被害情報募集動画掲載
07月11日 郵政3社社長連名での会長宛抗議文
08月02日 郵政3社社長連名での会長宛動画削除要求書
08月03日 NHK8月10日放映予定の続編延期を決定
被害情報募集の動画掲載を取りやめ
(「金融商品トラブル」番組でかんぽ生命不正販売を取りあげる予定が発覚)
09月25日 郵政の上級副社長鈴木康雄 森下を訪問
10月05日 日本郵政から経営委員会宛に抗議文
10月23日 1316回経営委員会 上田会長厳重注意
10月25日 同月30日に予定されていた「金融商品トラブル」番組内での
     「かんぽ生命不正販売」問題放映をカットする決定。
? 提訴前の経過(2019年)
09月26日 毎日新聞朝刊が、1面トップで「NHK経営委 会長を注意」の記事
09月30日 毎日新聞続報「『厳重注意』議事録なし」の記事
「『かんぽNHK問題』野党合同ヒアリング」の連続開催
  ? 10月3日(出席経営委員・森下俊三、甲6)「議事録は作っておりません」
  ? 10月4日(出席経営委員・高橋正美、甲7)「探したが議事録はない」
  ? 10月8日(出席経営委員・森下俊三、甲8)「議事録はない」
  ? 10月15日
  ? 10月16日(出席経営委員・森下俊三、甲11)「議事録はある」
  ? 2019年10月30日
  ? 2019年12月24日
09月11日 衆議院予算委員会 議事録ないことを前提の質疑(甲9)
09月15日 NHKのサイトに若干の書き足し修正
? 先行する開示の求めに対する審議委員会答申
2020年05月22日 797・798号答申 「開示せよ」→従わず
2021年02月04日 814・815・816号答申 「開示せよ」→従わず

? 訴訟の経過
(※裁判所、◎原告、?被告NHK、★被告森下、?★形式NHK・実質森下)
◎2021年4月7日 文書開示の求め(これに対する2度の延期通知)
◎2021年6月14日 第1次提訴(原告104名・被告2名〈NHKと森下〉)
 a 被告NHKに対する文書開示請求
   開示請求対象文書の主たるものは、下記経営委員会議事録の未公開部分
   「第1315回経営委員会議事録」(2018年10月 9日開催)
   「第1316回経営委員会議事録」(2018年10月23日開催)上田会長厳重注意
   「第1317回経営委員会議事録」(2018年11月13日開催)
 b 被告両名に対する損害賠償請求(慰謝料・弁護士費用、原告1人各2万円)
?★同年7月9日 「3会議の議事録(のようなもの・粗起こし)」を開示
◎同年 9月16日 第2次提訴 (原告10名・被告2名)1次訴訟に併合
☆同年 9月15日 被告NHK答弁書(現時点では対象文書は全て開示済み)
★同年 9月21日 被告森下答弁書(不法行為はない、請求棄却を求める)
◎同年 9月23日 原告 被告NHKに対する求釈明
◎同年 9月24日 原告 甲1の1?4 NHK開示文書提出
※同年 9月28日 第1回口頭弁論期日(103号)
 (西川さん・長井さん・醍醐さんの原告3名と代理人1名の意見陳述)
☆同年 12月3日 被告NHK準備書面(1)「現時点で、所定の議事録作成手続は完了しておらず、放送法41条の定める議事録とはなっていない」
★同年 12月3日 被告森下 準備書面(1) 「本件各文書はいずれも開示済」と言いつつも、「粗起しのもので、適式の議事録でない」ことを自認。
★同日  被告森下丙1?32号証 提出
◎2022年1月12日 原告第1書面(被告森下の求釈明に対する回答)提出
☆同年 1月17日 被告NHK 乙1(放送法逐条解説・29条部分)提出
※同年 1月19日 第2回口頭弁論期日(103号)
★同年 2月28日 被告森下 準備書面(2)
◎同年 3月 2日 原告第2準備書面
◎同年 4月 7日 原告第3準備書面
☆同年 4月22日 被告NHK 準備書面(2)
★同年 4月22日 被告森下 準備書面(3)
※同年 4月27日 第3回口頭弁論期日(103号)
◎同年 4月28日 原告第4準備書面(求釈明)
★同年 6月14日 被告森下 準備書面(4) (電磁記録は消去済みである)
☆同年 6月21日 被告NHK 準備書面(3)
◎同年 7月 1日 原告第5準備書面(求釈明)
※同年 7月14日 進行協議
★同年 8月22日 被告森下準備書面(5)  (求釈明に対する回答)
☆同年 8月25日 被告NHK 準備書面(4)
◎同年 8月30日 原告第6準備書面
※同年 9月 6日 第4回口頭弁論期日(103号)
☆同年 10月14日 被告NHK 準備書面(5)
★同年 10月14日 被告森下準備書面(6)
◎同年 10月16日 原告請求の趣旨の変更(縮減) 開示請求文書の特定。
  議事録(未公表部分)と録音データ。以後、録音データの存否が主たる争点に。
◎同年 10月16日 原告第7準備書面
※同年 10月26日 進行協議(415号)
◎同年 11月16日 原告第8準備書面
★同年 12月13日 被告森下準備書面(7)
☆同年 12月14日 被告NHK 準備書面(6)
◎同年 12月20日 原告証拠申出書
※2023年6月7日 口頭弁論(人証調べ)期日 中原・森下・長井 尋問
◎同年 7月4日 原告・追加の証人採用についての意見
※同年 7月10日 Web進行協議
◎同年 8月2日 原告第9準備書面 甲4?12
★同年 8月7日 被告森下準備書面(8)
※同年 8月9日 Web進行協議(裁判所・原告の挙証責任論に同意の心証を開示)
★同年 9月12日 被告森下準備書面(9)丙39?41提出
◎同年 9月21日 原告第10準備書面提出
※同年 9月28日 Web弁論準備期日
◎同年 11月14日 原告第11(最終準備書面)提出
※同年 11月21日(火)10時15分? 103号法廷 口頭弁論期日・結審予定。
※2024年2月20日 判決言い渡し 415号法廷 その後記者会見と報告集会

本郷のご近所の皆様、ご通行中の皆様。ご存じのとおり、裏ガネ問題で自民党が大きく揺れています。ずるい、汚い、ウソつき自民党の正体が、誰の目にも露わになっています。皆様も、さぞお腹立ちのことでしょう。

(2024年2月13日)
長いあいだ、ずるい、汚い、ウソつきは、総理であり総裁でもあった安倍晋三の専売特許でした。モリ・カケ・サクラ、クロ・カワイ。つまり、森友学園事件・加計学園問題・桜を見る会事件、黒川検事長問題・河井夫婦の事件。どれもこれも、ずるい、汚い、ウソつきの手口。ウソつきはアベの始まり、とまで言われました。

しかし、この度の政治資金パーティー裏ガネ問題で、ウソつきが明らかになったのは、ひとり安倍晋三だけではありません。100人に及ぶ自民党の最大派閥・安倍派の議員全体が、ずるい、汚い、ウソつきだということが分かってきたではありませんか。いや、安倍派ばかりではなく、さらに多くの自民党議員が、ずるい、汚い、ウソつきだったことが明らかになりつつあります。

今世論は、厳しく自民党政治を批判しています。2月4日の前橋市長選挙では、自民公明推薦の現職が、立憲・共産・国民・社民の支援を受けた新人に敗れました。票差は6万対4万。保守の地盤で、自民党は惨敗と言ってよい。

今月に入ってからの最新のJNN(TBS系)世論調査では、岸田内閣の支持率は、23.7%。11月に過去最低となった内閣支持率は4か月連続で最低を更新し続けています。驚くべきは、内閣不支持率74.2%という数字。2か月連続で過去最高を更新だそうです。

JNN世論調査では、自民党の支持率が24.4%。2012年末に自民党が民主党から政権を奪取して以来、過去最低とのこと。麻生政権末期の2009年の5月(22.5%)以来の低支持率だとのこと。民主党に政権を譲り渡した当時の自民の支持率なのです。

国民世論は、今のところ自民党政治の狡さ、汚さに怒っていますが、この怒りは政治改革に向けられなければなりません。そのためには、自民党政治の根本を掘り下げ、本来あるべき民主主義の政治制度を考えてみる必要があります。

国民世論は、政治資金パーティーのキックバック・裏ガネ問題をきっかけに、カネにまみれ、カネに汚い自民党政治に怒りを向けています。国民から五公五民と言われる高額な税金を取りあげ、零細事業者にもインボイスを押し付けておきながら、自分たちはチャッカリと税金のかからない裏ガネを懐にしている。しかも、至れり尽くせりの歳費や活動費を保障されていながらのこと。怒りたくもなるのは当たり前。

この国民の怒りの正当性は、自民党政治の本質が金権体質にあることを見抜いているところにあります。アベ政治には、タカリの企業が付きものでした。東京五輪、アベノマスク、大阪万博、規制緩和…。政治がカネを動課すところに利権がうごめき、政治家に近い立場にある業者、典型的には電通やパソナなど。濡れ手で粟の中抜きが行われる。ここに国民の怒りが集中してきました。

が、実は、自民党の金権体質はもっと根深いものと言わねばなりません。自民党とは、財界・大企業・大金持ちのための政党なのです。彼らの武器がカネです。財界・大企業・大金持ちが要求するものは、カネによる、カネのための政治。そのためになら、金を注ぎ込んで惜しくない。惜しくないどころか、尻尾を振ってくれる政治家に、餌になるカネをばらまきたいのです。

しかし、民主主義は人間の幸福を最大限に実現するための制度です。これに対して、企業が投じるカネは、利潤を生むための手段に過ぎません。民主主義の制度に参加する権利と責務とを有するのは主権者国民であり、有権者です。企業は参加の資格はありません。企業がばらまくカネで、民主主義をゆがめてはならない。ここがポイントです。

政治にしても選挙にしても、その主体は主権者である国民であり有権者です。決して、政治家や政党だけのものではありません。

カネがものを言うこの世ですが、民主主義をカネで動かしてはなりません。分かり易いのは、カネで一票を買ってはならない。それを票の買収という。カネで選挙運動員を傭ってはならない。これを運動員買収という。選挙も政治活動も、無償が大原則です。金持ち有利にしてはならない。カネで民主主義をゆがめてはならない。

現実には、カネにまみれた自民党。金権体質の金のある方に擦り寄って、カネを目当ての、カネのための政治が行われています。

自民党には、金持ちと大企業からのカネが集まってくるのです。だから、金持ちと大企業本位の政治になる。分かりやすい話です。物価は上がり庶民の生活は苦しくなるばかり。貧困も格差も広がっています。にもかかわらず、株価だけは上昇し、企業の大儲けは膨らむばかり。政権与党が企業献金で政治を行っている結果ではありませんか。

民主主義とは、人間の政治です。人間の幸福を実現するためのもの。本来、民主主義にカネを介在させてはならない。カネは、人の幸福ではなく、カネが生む利潤を最大限とする政治を求めます。企業は民主主義の邪魔にならなすように存在しなければならず、企業には政治主体となる資格がありません。

自民党政治は、庶民に消費税の増税を押し付け、その分そっくりを大企業・大金持ちの利益のために、法人税を減税して来ました。庶民に冷たく、財界・大企業にこの上なく暖かい政治。これが、財界の武器である自民党への企業献金投入の大成果です。

いま、抜本的にカネによる汚い政治を、庶民の福祉を目指す政治へ転換する絶好のチャンスではありませんか。軍拡増税の岸田政治、九条改憲を党是とする自民党政治を転換するチャンスでもあります。

政治改革の方向として、大事なことを確認しておきたいと思います。

何よりも、企業・団体による政治献金・選挙資金献金の禁止です。政治資金も選挙資金も個人献金だけにしなければなりません。企業献金は、金額の多寡にかかわらず、その実質において買収であることを肝に銘じるべきでしょう。

民主主義社会では、政治活動も選挙運動も、その主体は主権者国民であり、具体的には有権者なのです。企業は便宜的に法人格を付与された存在ですが、主権者の一人でも、有権者でもない。もちろん、投票権も持たない。その企業がカネを政治に注ぎ込むのは、民主主義に対する介入であり、民主主義政治過程の撹乱でしかない。この原則をしっかり確認しなければなりません。

なお、安倍一強政治のおぞましさを招いたのは、政党本位の選挙の実現を唱った小選挙区制です。結局、選挙制度改革の失敗は明らかなのですから、小選挙区制を廃止して、比例代表制の選挙制度を目指すべきです。早急には意見がまとまらなければ、当面、中選挙区制の復活でもやむを得ないと思います。

最低限の改革として、政治資金の透明性確保の徹底と罰則強化、とりわけ連座制の創設は避けて通れません。

この問題が、今国会の最大テーマになります。今のこの怒りを忘れず、民主主義のアクターは、私たち自身であることを意識しつつ、国会の論戦を見守りたいと思います。

いったいどうして「建国記念の日」が紀元節と同じ日なんだ? それって、このご時世の世迷い言? 天皇と国家が一心一体だって? どこのどなたのご冗談?

(2024年2月11日)
どの民族にも伝承されてきた神話がある。それぞれの神話は、個性豊かに古代社会の成り立ちや往時の人々の生活のあり方を語って耳を傾けるに値する。面白く興味は尽きない。が、近代に至って権力によって語り直された異形の「再生神話」は、権力の思惑を露骨に反映した薄汚さを払拭できない。当然のことながら、後世に作られた国家神話には警戒しなければならない胡散臭さがつきまとう。

王権神授説の根拠に利用された神話や伝説の類がなべてそのような胡散臭いものであるが、維新政府がでっち上げた万世一系神話の醜悪さは際立っている。荒唐無稽な天皇の祖先神にまつわる神話が、ことさらに歴史と混同されて、近代天皇制を権威付ける根拠として再利用された。紀元節は、日本という国家の起源を、実在しない神話上の初代天皇の即位の日を恣意的に推測して決められたものである。何の根拠もない国家の起源は、その天皇制国家の存立そのものの危うさ、はかなさをよく表している。

どの時代のどの出来事をもって、現国家の起源とするか。極めてイデオロギー色の濃い作業である。天皇の権威を最大限に活用しようと試みた維新政府が、天皇神話を活用して架空の神武即位の日をもって紀元節を定めたことは、異とするに足りない。政府は天皇を教祖ともし現人神ともする新興宗教としての国家神道(「天皇教」)を創設し、その信仰を国民に押し付けることによって新たな国民国家を形づくろうとした。当時、天皇くらいしか、手持ちの国民統合の方法を思い付かなかったのだろう。しかし、戦後は事情が異なる。初代天皇の即位日を国家の起源とする必然性はまったくあり得ない。むしろ、そうしてはならないのだ。「建国記念の日」を制定して紀元節を復活させたのは、愚策これに過ぐるものはない。

戦後に再出発した「日本国」は、戦前の「大日本帝国」とは原理原則をまったく異にする別異の存在である。むしろ正反対の相容れぬ存在と言ってよい。主権原理も、国家が尊重すべき価値観も、180度転換した。日本国憲法上、公務員の一人として天皇は残されたが、これは日本国憲法体系の中の不協和な夾雑物に過ぎない。天皇の存在は、日本国憲法における人権原理や民主主義、あるいは人間平等と言う大原則を不徹底とする汚点である。その天皇を万世一系と持ち上げ、実在するはずもない初代天皇の架空の即位日をもって「建国記念の日」とするのは、烏滸の沙汰というほかはない。

日本の社会と自然、そして民族的なアイデンティティは、敗戦を挟んで戦前と戦後が連続して当然である。しかし、国家は断絶しているのだ。主権者は天皇ではなく国民になった。政治の手法は中央集権ではなく、民主主義と分権になった。国是は、富国強兵ではなく国際協調と非武装平和になった。何よりも、個人の尊厳が至高の憲法価値となり、国家が個人の思想を束縛することは許されなくなった。

にもかかわらず、「建国記念の日」が紀元節と同じ日だって? いまのご時世に? 天皇と国家が一心一体だと? どこのどなたのご冗談?

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