澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

たった一人で、25万人の軍事組織に闘いを挑んだ人。

(2023年1月31日)
 私の手許に、三宅勝久著「絶望の自衛隊:人間破壊の現場から」(花伝社・2022/12/5)という新刊書がある。三宅さんと私は、共にスラップの被告とされた被害者という仲。同病相憐れむではなく、どちらかと言えば「戦友」に近い。とは言え、被告体験者としては三宅さんの方が10年も先輩。スラップ常習の武富士とスラップ常習弁護士を相手に、苦労は大きかったろう。

 三宅さんの仕事は、武富士追及のルポばかりではない。『悩める自衛官』『自衛隊員が死んでいく』『自衛隊員が泣いている』(いずれも花伝社)『自衛隊という密室』(高文研)などに続いての「絶望の自衛隊」である。「自衛隊の腐敗を追って20年、第一人者がとらえ続けた現場の闇に迫る」という惹句。

 この本の帯に、「隠蔽と捏造の陰で横行する暴力、性犯罪、いじめ。そして自殺…」「理不尽に満ちた巨大組織・自衛隊から、苦しむ者たちの声が聞こえるか?」「悪しき“伝統”と不条理がはびこる旧態依然の25万人組織、自衛隊─」とある。そう、この書は、「横行する、暴力、性犯罪、いじめ。そして自殺…」という理不尽に苦しむ隊員の声を集めたルポ。まさしく、「絶望の自衛隊」の姿が描かれている。

 しかし、帯の最後には、希望につなげてこう結ばれている。「ついに立ち上がった隊員たち、その渾身の告発を私たちはどう受け止めるべきか?」

 「ついに立ち上がって渾身の告発に及んだ隊員」の典型例として、五ノ井里奈さんが取りあげられている。「まえがき」と「あとがき」においてのこと。何とも、ひどい事件である。なるほど確かに「絶望の自衛隊」というほかはない、その隊員虐待体質と隠蔽体質。これは、輝かしい皇軍の伝統継承者という自衛隊の特殊な事情によるものだろうか、それとも日本社会の後進性を反映したものなのだろうか。

 五ノ井さんは、陸上自衛隊員として勤務中の21年8月、男性隊員から集団的な性暴力を受けた。その他にも、日常的なセクハラ行為も絶えなかったともいう。被害届を出して強制わいせつの罪名での書類送検までは漕ぎつけたが、被疑者らは否認。証拠不十分として不起訴となる。傷心の五ノ井さんは離隊やむなきに至るのだが、事件10か月後の22年6月、意を決して被害を世に訴える。

 インターネットで、実名を公表し顔を出しての告発。たった一人での、果敢な闘いを始めたのだ。その勇気、その志に、敬意を表せざるを得ない。

 局面は転換した。署名が始まって世論が動き、国会議員も支援に働いた。陸自と加害者は事実を認めての謝罪に追い込まれ、実行犯5人が懲戒免職となったほか、訴えを受けたのに十分な調査をしなかったなどとして上司にあたる中隊長ら4人が停職などの懲戒処分ともなった。なお、昨年9月、検察審査会が不起訴不当を議決してもいる。闘いは、既に五ノ井さんが勝利したと言ってよい。

 その五ノ井さんが、昨日(1月30日)、横浜地裁に性暴力加害者の元隊員と国を被告として提訴した。概ね下記のように報道されている。

 「陸上自衛隊内で性被害を受けた元自衛官の五ノ井里奈さん(23)が30日、国と加害者の元隊員5人を相手取り、計750万円の損害賠償を求める訴訟を横浜地裁に起こした。国に対しては、性被害を訴えた際に適切な調査をしなかった責任などを問う。提訴後に記者会見した五ノ井さんは『再発防止につなげ、自衛隊が正義感を持った組織になってほしい』と求めた。

 代理人弁護士によると、国が性被害の訴えを放置したことは安全配慮義務違反にあたるとして200万円の損害賠償を請求し、元隊員の男性5人からは性的暴行などにより精神的苦痛を受けたとして計550万円を支払うよう求めた」

 五ノ井さんとしては、加害者5人にも、国(陸自)にも、損害賠償を認めさせたい。が、加害者5人とその代理人は、「賠償は国がする。それで十分ではないか」という態度だったようだ。そこで、加害者個人には民事不法行為責任を、国には雇用契約関係を根拠とする民事責任を求めたのだろう。金さえ支払ってもらえば良いのではなく、責任を明確にして再発防止につなげたいという意思がよく見える。

 なお、本件を機に防衛省が全自衛隊を対象に実施した特別防衛監察では、パワハラやセクハラなど約1400件の被害申告があったという。記者会見で、五ノ井さんは「加害者たちは、本当には反省していないと感じた。このままではハラスメントの根絶は不可能だと思った」と強調している。

 下記は、NHKに投稿された、視聴者からの感想の一部である。

 「こういったことは表沙汰にされない。今までは国を支えてくれている隊という漠然としたイメージを持っていましたが、今回の訴えでイメージは一気に暗転しました。こういったことは組織的に軽く受け止められてきたのではないでしょうか。最終的に実名まで出さなくてはならなかった…調べてみればざくざく同じような問題が掘り起こされた…どこか裏切られたような気持ちです。日本の社会の性暴力などの問題に対する甘さが見られます」

 「彼女を復職させ、自衛隊のパワハラ、モラハラ根絶のための養成、管理をさせたらいいと思います。彼女はそれらをよく知っており、被害者の側を蔑ろにすることのない優しさとそれに闘う強さを兼ねていると思います。本当に自衛隊の幹部が反省し、変わりたいと思うのなら彼女のような人を起用して頂きたいです」

 なるほど、もっとも至極なご意見。あらためて思う。自衛隊には絶望だが、この事件を通じて見えてきた日本の社会の反応には、明るい希望も見えるのではないだろうか。

軍事費太って、民痩せる。

(2022年11月29日)
 平和国家だったはずの日本が揺れている。急転してくずおれそうな事態。ハト派だったはずの岸田政権、とんでもない鷹派ぶりである。

 富国強兵を国是とした軍国日本が崩壊し、廃墟の中で新生日本が日本国憲法を制定した当時、憲法第9条は光り輝いていた。その字義のとおりの「戦争放棄」と「戦力不保持」が新しい国是になった。

 「戦争放棄」とは、けっして侵略戦争の放棄のみを意味するものではない。制憲議会で、吉田茂はこう答弁している。「古来いかなる戦争も自衛のためという名目で行われてきた。侵略のためといって始められた戦争はない」「9条2項において一切の軍備と国の交戦権を認めない結果、自衛権の発動としての戦争も、また交戦権も放棄したのであります」。
 
 その後、戦力ではないとして「警察予備隊」が生まれ、「保安隊」に成長し、「自衛隊」となった。飽くまでも、軍隊ではないというタテマエである。さらに、安倍政権下、集団的自衛権の行使が容認された。それでも、政府は「専守防衛」の一線を守り続けてきたと言う。

 それが今崩れ去ろうとしている。いったい、この国はどうなったのか、どうなろうとしているのか。敵基地攻撃能力、敵中枢反撃能力、指揮統制機能攻撃能力の保有が声高に語られる。先制攻撃なければ国を守れない、と言わんばかり。

 これまで、防衛予算の対GNPは1%の枠に押さえられていた。岸田内閣は、これを一気に倍増するのだという。それも、今年末までに決めてしまおうというのが、岸田優柔不断内閣の一点性急主義。

 11月22日には、「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」なるものが、防衛費増額のために「幅広い税目による負担が必要」と明記した報告書を提出している。28日になって岸田首相は、NATOの基準を念頭に、5年後の2027年度時点で「防衛費とそれを補完する取り組み」を合算してGDP比2%とするよう浜田靖一防衛相と鈴木俊一財務相に指示した。「補完する取り組み」とは防衛力強化に資する研究開発、港湾などの公共インフラ、サイバー安全保障、国際的協力の4分野で、これまで他省庁の予算に計上されていたという。また、歳出・歳入両面での財源確保措置を今年末に決定する方針も示した。年末までには、安全保障3文書も公開されることになる。

 政府与党と維新・国民などは、「防衛力の抜本的整備だ」「大軍拡が必要だ」「そのための軍事予算確保だ」「福祉を削っても軍事費増額だ」という軍国モードに突入し、国民生活そっちのけで軍事優先に走り出している。本当にそれでよいのか。国民が納得しているのか。

 軍事拡大が国防に役立つかの議論はともかく、確実に国民生活を圧迫する。円安、エネルギー高騰、物価高、そして低賃金。庶民の生活はかつてなく苦しい。福祉も教育も、コロナ対策も、医療補助にも予算が不可欠な今である。国民生活に必要な予算を削る余裕はない。それでも、軍備拡大のための増税をやろうというのか。国民生活を削らねば軍備の拡大はできない。軍備を縮小すれば、その分だけ国民生活を豊かにできる。さあ、この矛盾をどうする。

 本日午前に開かれた自民党の会合では、軍拡財源確保のための増税には「反対の大合唱」が起きたとの報道。これは、興味深い。軍拡と軍事費倍増を煽っても、増税には反対というのだ。

 与党の税制調査会には「所得税、法人税を含めて白紙で検討する」(自民党の宮沢洋一税制調査会長)との声があり、基幹税の増税議論が行われる見通しだ。ただ、自民党内には増税に消極的な声も強く、調整は難航が予想されるという。一つ間違えば、国民から見離されかねない。

 さあ、防衛費増額の財源をどう手当てするのか。まさか、禁じ手の「戦時国債」発行でもあるまい。とすれば、軍拡は確実に民生を圧迫することになる。

えっ? 共産党が「自衛隊感謝決議」に賛同?

(2022年4月30日)
 4月25日の那覇市臨時市議会。「本土復帰50年に際し、市民・県民の生命を守る任務遂行に対する感謝決議案」なるものが上程され、採決の結果賛成多数で可決となった。このタイトルには感謝の宛先についての記載はなく、決議の手交や郵送は行わないというが、自衛隊に感謝する内容である。自衛隊への「感謝決議」は県議会を含め、沖縄県内の市町村議会では初めてのことと報じられている。自民党議員が提案し、これに共産党が賛成にまわったことが、大きな話題となっている。

 提案理由は以下のとおりである。

 「本年で本土復帰 50 周年を迎えるにあたり、関係機関が行った緊急患者等の災害派遣で市民県民の多くの命が救われた。
よって本市議会は、関係機関に対し感謝の意を表すためこの案を提出する。」

採択された決議の全文を引用しておきたい。

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 「戦後 27 年の米国統治を経て沖縄県が本土復帰をして、本年は 50 年の節目を迎える。
 多くの離島を抱える島しょ県の沖縄は、これまで「島チャビ(離島苦)」に挑戦しながら振興発展の歩みを進めてきた。復帰とともに配備された自衛隊は、本来任務ではなかった緊急患者空輸を昭和 47 年、粟国島を皮切りに開始し、本市消防局や医療機関と連携しながら、本年 4 月 6 日に南大東島の緊急患者空輸をもって搬送数が総計 1 万件を超えるに至った。
 その他にも災害派遣として市内外における不発弾処理や、行方不明漁船等の捜索など市民・県民の生命を守る活動を継続して行っている。
 また、海上保安庁も同様に本土復帰以来、3 千百件余の離島患者空輸や漁船等からの救助をおこなっているほか、ドクターヘリも同様な任務を行い、この復帰 50年には様々な行政機関や医療機関などの連携と協力があり市民・県民の生命と財産が守られてきた。
 よって本議会は本土復帰 50 年に際し、関係機関並びに関係各位における市民・県民の生命を守る任務遂行に対して、深甚なる敬意と感謝の意を表するものである。

令和 4 年(2022 年)4 月 25 日
那 覇 市 議 会    

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 市議会の定数は40。欠員が2で、採決に加わらない議長を除くと、決議の投票権者数は37。そのうち15名が退席して表決に加わらず、有効投票数は22となった。無所属の2人が反対にまわり、採決結果は賛成20、反対2。この賛成票20の中に、共産党の5票がある。

 地元紙報道の見出しは、【自民・共産が賛成 那覇市議会 感謝決議 自衛隊 緊急搬送】(琉球新報)、【自衛隊に感謝決議 那覇市議会で県内初 離島患者の搬送1万件で】【自衛隊への感謝決議 「党派を超えて可決され喜ばしい」と岸防衛相 那覇市議会で共産も賛成】(沖縄タイムス)など。

 採決時退席したのは、立憲民主・社大、公明、ニライ会派など。ときは、ウクライナ侵攻のさなか。ところは、参院選・知事選を間近にした沖縄の県庁所在地である。影響は大きい。なんとも、分かりにくいことが起きるものだ。

 琉球新報社説の一節は次のように述べている。「共産党は決議が民生に限った内容だとして賛成した。これまでの自衛隊に対する党の立場とどのように整合を図ったのかは分かりづらい」。私も同様の感想を持つ。

 今、「自衛隊に感謝を」「自衛隊を侮辱するな」「国土の防衛という崇高な任務に敬意を」という、意識的な世論づくりが進行している。当然のことながら、9条改憲の地ならしである。その策動に乗せられてはならない。にもかかわらず、9条改憲反対の中心勢力である共産党が、「自衛隊感謝決議に賛成」とは、いったいどうしたことか。

 アジア太平洋戦争での唯一の地上戦において、日本軍の被害を経験した沖縄ではないか。住民がガマから追い出され、あるいは集団自決を強要され、「軍隊は住民を守らない」と骨身に沁みた沖縄県民ではないか。その地での自衛隊感謝決議自体が信じがたい。

 「離党の患者搬送や、災害派遣や、あるいは不発弾処理や、行方不明漁船等の捜索等々の市民・県民の生命を守る活動に限っての感謝」だから問題ないと言ってはならない。自衛隊の『本質』『本務』は、紛れもなく軍事力の行使にあって、民生にはない。自衛隊の『非本質』的部門における『非本務』活動をもって、自衛隊の存在を肯定評価してはならない。

 本来、必要な民生活動を自衛隊に任せていてはならない。それぞれの専門活動機関を創設し、専門性の高い活動を目指すべきである。離党の患者救援や災害派遣は、その用途に特化した機材や装備を有し専門的な訓練を積んだ機関に任せるべきべきである。軍事用装備品の流用で済ましてよいはずはないのだから。

 そして、ことさらに自衛隊に感謝してはならない。全ての公務員が国民に奉仕しているのだ。警察も消防も清掃も海保も気象庁も、そして教育も司法も行刑も…。自衛隊の任務のみを崇高としたり、特別に感謝の対象とすべき理由はない。

 さらに、日本国憲法は、武力を保持しないと定めている。自衛隊はその存在自体が違憲である可能性が高い。仮にこれを違憲な存在でないとすれば、専守防衛に徹した規模や装備や編成に限定しなければならない。果たして、自衛隊は違憲の存在ではないのか。この議論の徹底を躊躇させる空気はきわめて危険である。

 自衛隊とは、暴走すれば、国民の人権も民主主義も破壊する危険な暴力装置である。これに対しては、徹底した文民(主権者国民)の統制下に置かねばならない。自衛隊のあり方に対する批判を躊躇させる空気が社会に蔓延したときには、軍国主義という病が相当に進行していると考えざるを得ない。その病は、国民にこの上ない不幸をもたらす業病である。予防がなによりも肝腎なのだ。

 だから、自衛隊感謝決議は、自衛隊批判を口にしにくくする空気作りの第一歩として危険なのだ。ましてや、共産党が賛成となればなおさらではないか。革新を名乗る党が、このような決議に賛同してはならない。猛省を促したい。

この産経論調は軍国主義復活に途を開きかねず、危険極まりない。

(2022年4月20日)
 いつからだろうか、何を切っ掛けにしてのことかの覚えはない。私のメールボックスに「産経ニュースメールマガジン」が送信されてくる。ときにその論説に目を通すが、愉快な気分になることはなく、なるほどと感心させられることも一切ない。とは言え、怪しからんと思うことも、黙らせたいと思うことも通常はない。そもそも思想信条も言論も自由なのだから。

 しかし、昨日送信を受けた「榊原 智コラム・一筆多論」には、看過し得ない危険を感じる。一言なりとも批判をしておかねばならない。ことは、自衛隊という軍事力=組織的暴力装置の取り扱いに関わるもの。この危険物の取り扱いに失敗すると、軍国主義復活につながりかねない。維新と産経がその先導役を買って出ているような臭いがするのだ。なお、榊原智とは産経の論説副委員長だという。

 論説の内容は、共産党委員長志位和夫の「新・綱領教室」出版発表会見での言説に対する批判である。「ロシアのウクライナ侵略があっても目が覚めないのか―」「日本の政党の防衛政策は合格点にあるとはいえないが、共産党と立憲民主党という左派政党の姿勢はとりわけ嘆かわしい」という調子。こういう批判・非難はいつものことで、とるに足りない。

 産経が問題にしたのは、志位委員長が言ったという「急迫不正の主権侵害には、自衛隊を含めてあらゆる手段を行使して、国民の命と日本の主権を守り抜く」という発言。

 産経は非難がましく、《共産は綱領で、「憲法9条の完全実施(自衛隊の解消)」「日米安保条約の廃棄」を目指している。一方、2000(平成12)年の党大会で、自衛隊の段階的解消を掲げつつ、侵略があれば自衛隊を「活用」すると打ち出した》と解説している。誰が見ても、共産党の綱領は憲法に忠実な姿勢であろう。産経の批判は、「共産党は憲法遵守の姿勢を貫いて怪しからん」と聞こえる。

 また産経は《日本維新の会の馬場伸幸共同代表が14日、「国防という崇高な任務に就く自衛隊を綱領で『違憲だ』と虐げつつ、都合のいい時だけ頼るとはあきれる」と批判したのはもっともだ」と言う。フーン、維新と産経、話が合うんだ。ここまでは、聞き流してもよい。問題は次の一文である。

 《自衛隊は政治の命に服すべき組織だが、政治家も含め国民は、諸外国の人々が軍人に対するのと同様に、自衛隊員に敬意を払い、支えるべきだろう。命がけで日本を守る決意をしてくれた人たちだ。「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め」ると宣誓している。》《共産は自衛隊攻撃を自衛隊と隊員に謝罪し、敬意を払うのが先だ。それなしに自衛隊「活用」を唱えても真剣に防衛を考えているとは思えない。参院選対策の戦術的擬態だと国民に見透かされるのがオチだろう。》

 国民に《自衛隊員に対する敬意》を要求し、共産党には《自衛隊と隊員に謝罪せよ》と言うのが産経の態度なのだ。

 ことさら確認するまでもなく、《平和を望むのなら、さらなる防衛力の増強と軍事同盟の強化に邁進せよ》というのが、自民・維新・産経の立場である。このことについては、論争あってしかるべきである。しかし、《自衛隊員に敬意を持て》《自衛隊と隊員に非礼を謝罪せよ》と言い募る産経の論調は、それ自体厳しく批判されなければならない。これは、危険な言説である。

 軍事力とは厄介なもの、日本国憲法はこれを保持しないと定めたが、現実には自衛隊という「軍事力」がある。暴走すれば、国民の人権も民主主義も破壊する。このような組織的暴力装置は、徹底した文民(主権者国民)の管理下に置かねばならない。だから、自衛隊について、「存在自体が危険」とも、「違憲であるが故に存在してはならない」とも、「直ちに廃止すべき」とも、「段階的に縮小すべき」とも、意見を言うことにいささかの遠慮もあってはならない。この点についての国民の批判の言論は、その自由が徹底して保障されなければならない。

 「国防という崇高な任務にまず敬意を」「命がけで国を守る人に批判とは何ごとぞ」という論説は、けっしてあってはならない言論封殺である。権力者にも、権威にも、そして危険物である自衛隊についての論議においても、国民の意見表明の権利は徹底して保障されなくてはならない。

 自衛隊のあり方に対する批判に躊躇せざるを得ない空気が社会に蔓延したときには、軍国主義という病が相当に進行していると考えざるを得ない。その病は、国民にこの上ない不幸をもたらす業病である。軽症のうちに適切な診察と治療とが必要なのだ。産経のように、これを煽ってはならない。   

軍隊とは、本質的に民主主義の敵対物である。

(2021年2月26日)
1936年2月26日、東京は雪であったという。降雪を衝いて陸軍青年将校のクーデターが決行された。反乱軍は、首相官邸を襲撃し「君側の奸」とされた政府要人を殺害したが、陸軍上層部の同調を得られなかった。海軍は一貫して叛乱鎮圧に動いた。結局、クーデターは失敗し首謀者の主たる者は銃殺、その他多数が厳罰に処せられた。

歴史の展開はこれで終わらない。この皇道派クーデターを押さえ込んだ統制派の「カウンター・クーデター」を担った統制派の手によって、軍部独裁への道が切り開かれていく。これが「2・26事件」である。

「2・26事件」とは何か。大江志乃夫の簡明な記述を引用しておきたい。

「いわゆる皇道派に属する青年将校が部隊をひきいて反乱を起こした「政治的非常事変勃発」である。反乱軍は、首相官邸に岡田啓介首相を襲撃(岡田首相は官邸内にかくれ、翌日脱出)、内大臣斎藤実、大蔵大臣高橋是清、教育総監陸軍大将渡辺錠太郎を殺害し、侍従長鈴本貫太郎に重傷を負わせ、警視庁、陸軍省を含む地区一帯を占領した。反乱将校らは、「国体の擁護開顕」を要求して新内閣樹立などをめぐり、陸軍上層部と折衝をかさねたが、この間、2月27日に行政戒厳が宣告され、出動部隊、占拠部隊、反抗部隊、反乱軍などと呼び名が変化したすえ、反乱鎮圧の奉勅命令が発せられるに及んで、2月29日、下士官兵の大部分が原隊に復帰し、将校ら幹部は逮捕され、反乱は終息した。事件の処理のために、軍法会議法における特設の臨時軍法会議である東京陸軍軍法会議が設置され、事件関係者を管轄することになった。判決の結果、民間人北一輝、西田税を含む死刑19人(ほかに野中、河野寿両大尉が自決)以下、禁銅刑多数という大量の重刑者を出した。「決定的の処断は事件一段落の後」という、走狗の役割を演じさせられたものへの、予定どおりの過酷な処刑であった。」

「実際に起こった二・二六事件は、『国家改造法案大綱』(北一輝)の実現をめざすクーデターが『政治的非常事変勃発に処する対策要綱』(統制派)にもとづくカウンター・クーデターに敗北し、カウンター・クーデター側の手によって軍部独裁への道が切り開かれるという筋書をたどった。」

北一輝『日本改造法案大綱』の冒頭に、「天皇は全日本国民と共に国家改造の根基を定めんが為に、天皇大権の発動によりて3年間憲法を停止し両院を解散し、全国に戒厳令を布く」とある。当時の欽定憲法でさえ、軍部にはなくもがなの邪魔な存在だった。この邪魔な憲法を押さえ込む道具として、「天皇大権」が想定されていた。

軍隊は恐ろしい。独善的な正義感に駆られた軍隊はなお恐ろしい。傀儡である天皇を手中に、これを使いこなした旧軍は格別に恐ろしい。

軍事組織は常に民主主義の危険物である。軍隊のない国として知られるコスタリカを思い出す。彼の国では、国防への寄与という軍のメリットと、民主主義に対する脅威としての軍のデメリットを衡量した結果として、軍隊をなくする決断をしたという。軍を維持する費用を、教育や環境保全や、新しい産業に注ぎ込んで、国は繁栄しているというではないか。

かつてのチリ・クーデーが衝撃的だった。1970年代初め、南米各国はアメリカの軛から脱して民主化の道を歩み始めていた。中でも、チリが希望の星だった。アジェンデ大統領が率いる人民連合政権は、世界で初めて自由選挙によって合法的に選出された社会主義政権と称されていた。それが、ピノチェットが指揮する軍部の攻撃で崩壊した。ピノチェットの背後には、米国や多国籍企業の影があった。憎むべき軍隊であり、憎むべきクーデターである。

今、ミャンマーの事態が軍事組織の危険性を証明している。民主化を求める勢力が選挙で大勝すると、これを看過できないとして、軍部が政権を転覆する。国民の税金が育てた軍が、国民を弾圧しているのだ。

そして本日、旧ソ連構成国アルメニアでクーデターのニュースである。
アルメニアの軍参謀総長らは25日、パシニャン首相の辞任を求める声明を出した。
パシニャン氏は「クーデターの試み」と反発し、参謀総長を解任。辞任を拒否して支持者に団結を呼び掛けた。AFP通信によると、パシニャン氏の支持者は約2万人が集結という。

世界の至る所で、繰り返し、軍事組織が民主主義を蹂躙している。2月26日、日本人にとっての軍隊の持つ恐ろしさを確認すべき日である。

幹部自衛官養成機関の狂気のイジメ ー 「防大イジメ訴訟」に逆転判決

(2020年12月10日)
天皇の軍隊内での上官による兵隊イジメは、伝統であり文化でもあった。兵に対する指揮命令系統は、そのままイジメの構造と一体でもあった。これを容認し支えた日本人の精神構造は、連綿と今も生き続けている。そのことを強く印象づけるのが、防衛大学校の下級生イジメ事件である。

上級生のイジメに遭って退学を余儀なくされた元学生の起こした訴訟が、防大での下級生イジメの実態をあぶり出した。いうまでもなく、防衛大学校は、「大学」ではない。幹部自衛官養成のための訓練施設である。「採用試験」に合格した学生の身分は特別職国家公務員たる「自衛隊員」であって、学費は徴収されず、「学生手当」の名目で給与が支給される。まぎれもなく、ここは自衛隊の一部である。

その防大での上級生による下級生に対するイジメの実態は凄まじい。一審判決の認定によれば、たとえば、下級生を裸にして陰毛に消毒用アルコールを吹きかけライターで火をつける、ズボンと下着を脱がせてその陰部を掃除機で吸引する、など狂気の沙汰である。こういう連中が、自衛隊の幹部になって、武器を扱うのだ。

訴訟によって明るみに出た陰湿で執拗で凄惨なイジメの手口は、旧軍から受け継いだ防大の伝統となっているいってよいだろう。ところが、国を被告としたこの損害賠償請求訴訟の一審、福岡地裁判決は原告が敗訴した。昨年(2019年)10月のこと。監督すべき立場にある者にとっては、上級生のやったことは、「予見不可能」であったと認めたからである。「予見不可能」であれば、その行為を止めるべき作為義務も生じては来ないのだ。信じがたい結論である。

昨日(12月9日)、その控訴審である福岡高裁は逆転判決を言い渡した。「防大いじめ、元学生が逆転勝訴 国に賠償命令、福岡高裁」(西日本新聞)などと大きく報道されている。

増田稔裁判長は、国の責任を認めなかった一審福岡地裁判決を変更し、「元学生に対する暴力や、精神的苦痛を与える行為を予見することは可能だった」として国の責任を認め、約268万円の支払いを命じた。
増田裁判長は、規律順守を目的に学生が他の学生を指導する「学生間指導」について、元学生の在学期間に「上級生による下級生への暴力や、不当な精神的苦痛を与える行為がしばしば行われていた」と言及。防衛大は「実態把握が必要との認識を欠き、調査などの措置を講じておらず、内部で防止策の検討も不十分だった」と述べた。
その上で、国や防衛大の教官は元学生への暴行やいじめについて、発生前から加害学生の行動などから予見可能だったとして「教官が適切な指導をしなかったため防げなかった」と指摘。発生後に教官が上司に報告しなかった点も考慮し、国と教官に安全配慮義務違反があったとして、元学生の体調不良に伴う休学や退校との因果関係を認めた。

なお、元学生が上級生ら8人に慰謝料などを求めた訴訟は昨年2月、福岡地裁が7人に計95万円の支払いを命じ確定しているという。

高裁判決の要旨は、国が学生の負うべき安全配慮義務の内容として、「具体的な危険が発生する場合には、これを防止する具体的な措置を講ずべき義務も含まれる」と判断。「学生間指導の実態を具体的に把握する必要があるのに、その意識を欠き、実態の把握のために調査などの措置を講じていなかった」ことを安全配慮義務違反と認めた。

この防衛大学校のイジメの伝統について、吉田満「戦艦大和ノ最期」の一節を思い出す。戦記文学の傑作として持ち上げる人が多い。大和が、天一号作戦で出撃する前夜にも、兵に「精神棒」を振り回す士官が描かれている。

江口少尉、軍紀オョビ艦内作業ヲ主掌スル甲板士官ナレバ、最後ノ無礼講ヲ控エ、ナオ精神捧ヲ揮フテ兵ノ入室態度ヲ叱責シ居リ 足ノ動キ、敬礼、言辞、順序、スベテニ難点ヲ指摘シテ際限ナシ サレバー次室ヘノ入室ハ、カネテ兵ノ最モ忌避スルトコロナリ
老兵一名、怒声二叩カレ、魯鈍ナル動作ヲ繰返ス 眸乾キテ殆ンド勤カズ 彼、一日後ノ己レガ運命ヲ知リタレバ、心中空虚ナルカ、挙動余リニ節度ナシ 精神棒唸ッテ臀ヲ打ツ 鈍キ打撲音 横ザマニ倒レ、青黒キ頬、床ヲ撫デ廻ル 年齢恐ラクハ彼が息子ニモ近キ江口少尉 ソノ気負イタル面貌二溢ルルモノ、覇気カ、ムシロ稚気カ
 「イイ加減ニヤメロ、江口少尉」叫ブハ友田中尉(学徒出身) 江口少尉、満面二朱ヲ注ギ、棒ヲ提ゲテソノ前二立チハダカル

また、兵学校71期出身の俊秀とされる臼淵大尉の、作者への鉄拳制裁に伴う次のような叱責も紹介されている。欠礼した兵を殴らなかった筆者を責めてこういうのだ。

「不正ヲ見テモ(兵を)殴レンヨウナ、ソンナ士官ガアルカ」「戦場デハ、ドンナニ立派ナ、物ノ分ッタ士官デアッテモ役二立タン 強クナクチャイカンノダ」「ダカラヤッテミヨウジャナイカ 砲弾ノ中デ、俺ノ兵隊が強イカ、貴様ノ兵隊が強イカ アノ上官ハイイ人ダ、ダカラマサカコノ弾ノ雨ノ中ヲ突ッ走レナドトハ言ウマイ、ト貴様ノ兵隊ガナメテカカランカドウカ 軍人ノ真価ハ戦場デシカ分ランノダ イイカ」

 上記の江口は軍隊内の部下への理不尽な暴力を、臼淵は合理的な制裁を象徴しているごとくである。しかし、その差は紙一重というべきであろう。要は、「アノ上官ハイイ人ダ、ダカラマサカコノ弾ノ雨ノ中ヲ突ッ走レナドトハ言ウマイ」と舐められないための部下への暴力なのだ。殴りつけておけばこそ、「弾ノ雨ノ中ヲ突ッ走レ」と命令できるのだという論理である。その伝統と文化は、確実に防大に生きている。いや、それだけでなく、今の教育の中に、スポーツの中に、運動部の中に、あるいは組織一般の中に残ってはいないだろうか。

一言、付け加えておきたい。私は、この防衛大学校訴訟に表れた幹部自衛官養成の実態に接して、幹部自衛官という人々を見る目が変わった。自衛隊という組織を恐るべきものと感じざるを得なくなった。この判決を読んでなお、子息を防衛大学校にやろうとする親がいるとはとうてい思えない。

この訴訟提起の意義は、幹部自衛官教育の実態と、そうして教育された幹部自衛隊員の人格の実像を世に知らしめたことであろう。原告となった元学生に感謝したい。

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2020年12月9日

福岡高裁判決に対する弁護団声明

防衛大いじめ人権裁判弁護団

 本件は、一審提訴が2016(平成28)年3月18日で、国に対する一審判決は、2019(令和1)年10月3日でした。本日の高裁判決まで提訴以来、約4年9ヶ月が経過しました。
一審判決は、どの学生が、いつどこでどのような加害行為を行うかは予見不可能であるとして、防衛大の安全配慮義務違反を認めませんでした。これは学生が学生を指導する学生間指導において現実に多発する暴力を追認すると言わざるを得ない判断でした。
今回の高裁の判決は、学生間指導により、具体的な危険が発生する可能性がある場合には、この危険の発生を防止する具体的な措置を講ずべき義務も含まれる、と安全配慮義務の内容について、より踏み込んだ判断をしています。
その上で、防衛大は、学生間指導の実態を具体的に把握する必要があるのに、その意識を欠き、実態の把握のために調査等の措置を講じていなかったとしています。
本件で問題となる、学生による加害行為のうちA学生が、粗相ポイントの罰と称して、一審原告の体毛に火を付ける行為について、見回りにきた教官が、確認を怠ったこと、同じA学生が一審原告に反省文を強要していることを、母親が防衛大に情報提供したにもかかわらず、注意だけですませ、そのような事案についての対応の検討を防衛大内部で行わなかったこと、指導記録に記載しなかったこと、ボクシング部の主将B学生による暴行行為についても注意するだけで、情報共有しなかったことを安全配慮義務違反としました。さらに、一審原告2学年時に福岡帰省の事務手続き不備を指摘され、中隊学生長のC学生から暴行行為を受けた際、指導を指示した教官が、C学生が暴力を振るう可能性があると認識できたとしてやはり安全配慮義務を怠ったとしています。
しかし、やはり事務手続き不備とされる件についてのD・E学生の暴行、3年生のF学生の恫喝的指導、G・H学生による一審原告に対する葬式ごっこと退学を迫る大量のラインスタンプの送付行為、相談室相談員が相談に訪れた一審原告に対して何の対応もしなかったことについては、安全配慮義務の違反を認めませんでした。
損害額については、請求額の約2300万円を大幅に減額しています。一審原告が請求していた幹部自衛官の収入と全国の平均収入との差額約776万円の他、慰謝料についても50万円しか認めませんでした。しかし他方で、医療費、休学により学生手当を受けられなかったことのほか、2学年で退学せざるを得なかったことによる、3学年と4学年の学生手当を失ったことによる損害賠償を認めたことは評価に値します。
不十分な点はありますが、学生間指導に名を借りた3人の学生の加害行為について防衛大の安全配慮義務違反を認めたことは画期的で、学生間指導に司法のメスが入ったことを意味します。国と防衛大に対しては、この判決について上告せず受けり入れ、暴力が蔓延する防衛大の現状を改善することを強く求める次第です。

以 上

自衛隊の中東派遣を撤回せよ

本日(2月20日)、「自衛隊の中東派遣に反対し、閣議決定の撤回を求める集会」。「改憲問題対策法律家6団体連絡会」と「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の共催。

半田滋さん(東京新聞論説兼編集委員)が、『自衛隊の実態・中東清勢について』報告し、永山茂樹さん(東海大学教授)が『憲法の視点から中東派遣を考える』として違憲論を述べた。次いで、野党議員の連帯挨拶があり、集会アピールを採択した。

「安倍内閣進退きわまれり」との雰囲気の中で、挨拶も報告もボルテージの高いものだった。自由法曹団団長の吉田健一さんが、閉会挨拶で「自衛隊の海外派兵をやめさせ、改憲策動をやめさせ、安倍内閣をやめさせよう」と呼びかけたのが、参加者の気持ちを代弁することばだった。

なお、《改憲問題対策法律家6団体連絡会》とは、「安倍政権の進める改憲に反対するため共同で行動している6つの法律家団体(社会文化法律センター・自由法曹団・青年法律家協会弁護士学者合同部会・日本国際法律家協会・日本反核法律家協会・日本民主法律家協会)で構成されています。これまでに、日弁連とも協力して秘密保護法や安保関連法の制定に反対し、安倍改憲案に対しては、安倍9条改憲NO!全国市民アクション、総がかり行動とも共同して反対の活動を続けています」と、自己紹介している。

本日の集会アピールは、以下のとおり。よくできていると思う。

 

「自衛隊中東派遣に反対し閣議決定の撤回を求める集会」アピール

1 安倍政権は、昨年12月27日、中東地域への自衛隊派遣を閣議決定し、本年1月10日に自衛隊派遣の防衛大臣命令を強行しました。そして、1月21日から海上自衛隊のP?3C哨戒機が中東海域での情報収集活動を開始し、2月2日には、閣議決定により新たに中東へ派遣されることとなった護衛艦「たかなみ」が海上自衛隊横須賀基地を出港しました。

2 すでに中東海域には、アメリカが空母打撃群を展開しており、軍事的緊張が続いていましたが、本年1月2日には、アメリカが国際法違反の空爆によってイラン革命防衛隊のガセム・ソレイマニ司令官を殺害し、これに対して、1月8日、イランがイラク国内にあるアメリカ軍基地を弾道ミサイルで攻撃するなど、一触即発の状態にまで至っています。
安倍政権は、今回の派遣を「我が国独自の取祖」と説明していますが、自衛隊が収集した情報はアメリカ軍に提供されることになっており、その実態は、アメリカのトランプ政権が呼びかける「有志連合」への事実上の参加に他なりません。そして、アメリカ軍との共同の情報収集・警戒監視・偵察活動に用いられているP?3C哨戒機、国外ではデストロイヤー(駆逐艦)と呼ばれている護衛艦、そして260名もの自衛官を中東地域に派遣すれば、それはイランヘの大きな軍事的圧力となり、中東地域における軍事的緊張をいっそう悪化させることになります。集団的自衛権を解禁した安保法(戦争法)のもと、中東地域で自衛隊がアメリカ軍と連携した活動を行えば、自衛隊がアメリカの武力行使や戦争に巻き込まれたり、加担することにもなりかねません。今回の自衛隊の中東派遣は憲法9条のもとでは絶対に許されないことです。

3 また、自衛隊の中東派遣という重大な問題について、国会審議にもかけないまま国会閉会後に安倍政権の一存で決めたことも大問題です。安倍政権は、主要なエネルギーの供給源である中東地域での日本関係船舶の航行の安全を確保するためとしていますが、これでは、政権が必要と判断しさえすれば、「調査・研究」名目で自衛隊の海外派遣が歯止めなく許されることになります。そもそも、組織法にすぎない防衛省設置法の「調査・研究」は、自衛隊の行動や権限について何も定めておらず、およそ自衛隊の海外派遣の根拠となるような規定ではなく、派遣命令の根拠自体が憲法9条に違反します。

4 現在の中東における緊張の高まりは、2018年5月にトランプ政権が「被合意」から一方的に離脱し、イランに対する経済制裁を再開したことに端を発しています。憲法9条を持ち、唯一の戦争被爆国である日本がなすべきは、アメリカとイランに対話と外交による平和的解決を求め、アメリカに「核合意」への復帰を求めることです。安倍政権も第1に「更なる外交努力」をいうのであれば、自衛隊中東派遣は直ちに中止し、昨年12月27日の閣議決定を撤回すべきです。

2 私たちは、安倍政権による憲法9条の明文改憲も事実上の改憲も許さず、自衛隊の中東派遣に反対し、派遣中止と閣議決定の撤回を強く求めます。

2020年2月20日

         「自衛隊中東派遣に反対し閣議決定の撤回を求める集会」参加者一同

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関連する日弁連会長声明は以下のとおり、

中東海域への自衛隊派遣に反対する会長声明

2019年12月27日、日本政府は日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集活動を目的として、護衛艦1隻及び海賊対策のためにソマリア沖に派遣中の固定翼哨戒機P?3Cエ機を、中東アデン湾等へ派遣することを閣議決定した。
2018年5月に米国がイラン核合意を離脱後、ホルムズ海峡を通過するタンカーヘの攻撃等が発生していることから、米国はホルムズ海峡の航行安全のため、日本を含む同盟国に対して有志連合方式による艦隊派遣を求めてきた。
これに対し日本は、イランとの伝統的な友好関係に配慮し、米国の有志連合には参加せずに上記派遣を決定するに至った。
今般の自衛隊の中東海域への派遣は、防衛省設置法第4条第1項第18号の「調査及び研究」を根拠としている。しかし、同条は防衛省のつかさどる事務として定めている。
そもそも、自衛隊の任務、行動及び権限等は「自衛隊法の定めるところによる」とされている(防衛省設置法第5条)。自衛隊の調査研究に関しても、自衛隊法は個別規定により対象となる分野を限定的に定めている(第25条、第26条、第27条及び第27条の2など)。ところが、今般の自衛隊の中東海域への派遣は、自衛隊法に基づかずに実施されるものであり、防衛省設置法第5条に違反する疑いがある。
日本国憲法は、平和的生存権保障(前文)、戦争放棄(第9条第1項)、戦力不保持・交戦権否認(第9条第2項)という徹底した恒久平和主義の下、自衛隊に認められる任務・権限を自衛隊法で定められているものに限定し、自衛隊法に定められていない任務・権限は認めないとすることで、自衛隊の活動を規制している。自衛隊法ではなく、防衛省設置法第4条第1項第18号の「調査及び研究」を自衛隊の活動の法的根拠とすることが許されるならば、自衛隊の活動に対する歯止めがなくなり、憲法で国家機関を縛るという立憲主義の趣旨に反する危険性がある。
しかも、今般の自衛隊の中東海域への派遣に関しては、「諸外国等と必要な意思疎通や連携を行う」としていることから米国等有志連合諸国の軍隊との間で情報共有が行われる可能性は否定できず、武力行使を許容されている有志連合諸国の軍隊に対して自衛隊が情報提供を行った場合には、日本国憲法第9条が禁じている「武力の行使」と一体化するおそれがある。また、今般の閣議決定では、日本関係船舶の安全確保に必要な情報の収集について、中東海域で不測の事態の発生など状況が変化する場合における日本関係船舶防護のための海上警備行動(自衛隊法第82条及び第93条)に関し、その要否に係る判断や発令時の円滑な実施に必要であるとしているが、海上警備行動や武器等防護(自衛隊法第95条及び第95条の2)での武器使用が国又は国に準ずる組織に対して行われた場合には、日本国憲法第9条の「武力の行使」の禁止に抵触し、更に戦闘行為に発展するおそれもある。このようなおそれのある活動を自衛隊法に基づかずに自衛隊員に行わせることには、重大な問題があると言わざるを得ない。
政府は、今回の措置について、活動期間を1年間とし、延長時には再び閣議決定を行い、閣議決定と活動終了時には国会報告を行うこととしている。しかし、今般の自衛隊の中東海域への派遣には憲法上重大な問題が含まれており、国会への事後報告等によりその問題が解消されるわけではない。中東海域における日本関係船舶の安全確保が日本政府として対処すべき課題であると認識するのであれば、政府は国会においてその対処の必要性や法的根拠について説明責任を果たし、十分に審議を行った上で、憲法上許容される対処措置が決められるべきである。
よって、当連合会は、今般の自衛隊の中東海域への派遣について、防衛省設置法第5条や、恒久平和主義、立憲主義の趣旨に反するおそれがあるにもかかわらず、国会における審議すら十分になされずに閣議決定のみで自衛隊の海外派遣が決められたことに対して反対する。

2019年(令和元年)12月27日

日本弁護士連合会会長 菊地 裕太郎

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憲法学者126名の共同声明は以下のとおり。

ホルムズ海峡周辺へ自衛隊を派遣することについての憲法研究者声明

1、2019年10月18日の国家安全保障会議で、首相は、ホルムズ海峡周辺のオマーン湾などに自衛隊を派遣することを検討するよう指示したと報じられている。わたしたち憲法研究者は、以下の理由から、この自衛隊派遣は認めることができないと考える。

2、2019年春以来、周辺海域では、民間船舶に対する襲撃や、イラン・アメリカ両国軍の衝突が生じている。それは、イランの核兵器開発を制限するために、イラン・アメリカ等との間で結ばれた核合意から、アメリカ政府が一方的に離脱し、イランに対する経済制裁を強化したことと無関係ではないだろう。
中東の非核化と緊張緩和のために、イラン・アメリカ両国は相互に軍事力の使用を控え、またただちに核合意に立ち戻るべきである。

3、日本政府は、西アジアにおける中立外交の実績によって、周辺地域・周辺国・周辺民衆から強い信頼を得てきた。今回の問題でもその立場を堅持し、イラン・アメリカの仲介役に徹することは十分可能なことである。またそのような立場の外交こそ、日本国憲法の定めた国際協調主義に沿ったものである。

4、今回の自衛隊派遣は、自衛隊の海外派遣を日常化させたい日本政府が、アメリカからの有志連合への参加呼びかけを「渡りに船」で選択したものである。
自衛隊を派遣すれば、有志連合の一員という形式をとらなくとも、実質的には、近隣に展開するアメリカ軍など他国軍と事実上の共同した活動は避けられない。
しかも菅官房長官は記者会見で「米国とは緊密に連携していく」と述べているのである。
ほとんどの国が、この有志連合への参加を見送っており、現在までのところ、イギリスやサウジアラビアなどの5カ国程度にとどまっている。このことはアメリカの呼びかけた有志連合の組織と活動に対する国際的合意はまったく得られていないことを如実に示している。そこに自衛隊が参加する合理性も必要性もない。

5、日本政府は、今回の自衛隊派遣について、防衛省設置法に基づく「調査・研究」であると説明する。
しかし防衛省設置法4条が規定する防衛省所掌事務のうち、第18号「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと」とは、どのような状況において、自衛隊が調査・研究を行うのか、一切の定めがない。それどころか調査・研究活動の期間、地理的制約、方法、装備のいずれも白紙である。さらに国会の関与も一切定められていない。このように法的にまったく野放し状態のままで自衛隊の海外派遣をすることは、平和主義にとってもまた民主主義にとってもきわめて危険なことである。

6、わたしたちは安保法制のもとで、日本が紛争に巻き込まれたり、日本が武力を行使するおそれを指摘してきた。今回の自衛隊派遣は、それを現実化させかねない。
第一に、周辺海域に展開するアメリカ軍に対する攻撃があった場合には、集団的自衛権の行使について要件を満たすものとして、日本の集団的自衛権の行使につながるであろう。
第二に、「現に戦闘行為が行われている現場」以外であれば、自衛隊はアメリカ軍の武器等防護をおこなうことができる。このことは、自衛隊がアメリカの戦争と一体化することにつながるであろう。
第三に、日本政府は、ホルムズ海峡に機雷が敷設された場合について、存立危機事態として集団的自衛権の行使ができるという理解をとっている。 しかし機雷掃海自体、極めて危険な行為である。また戦胴中の機雷掃海は、国際法では戦闘行為とみなされるため、この点でも攻撃を誘発するおそれがある。
このように、この自衛隊派遣によって、自衛隊が紛争にまきこまれたり、武力を行使する危険をまねく点で、憲法9条の平和主義に反する。またそのことは、自衛隊員の生命・身体を徒に危険にさらすことも意味する。したがって日本政府は、自衛隊を派遣するべきではない。

2019年10月28日

憲法研究者有志(126名連名省略)

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自由法曹団の申入書

自衛隊の中東海域への派遣命令の撤回を求める申入書

1 安倍内閣は、2019年12月27日、自衛官260名、護衛艦1隻を新規に中東地域に派遣し、すでに海賊対処行動に従事している哨戒機1機を中東海域へ転用する旨の閣議決定を行った。
自由法曹団は、同日、同閣議決定に抗議するとともに、自衛隊の派遣中止を求める声明を発表したが、自衛隊の中東海域への派遣を中止しないばかりか、河野防衛大臣は、2020年1月10日、自衛隊に派遣命令を発出し、派遣を強行しようとしている。

2 米国は、上記閣議決定後の2020年1月2日、イラン革命防衛隊のガセム・ソレイマニ司令官を空爆(以下、「本件空爆」という)によって殺害した。
そして、イランは、本件空爆に対する「報復」として、同月8日、十数発の弾道ミサイルを発射し、米軍が駐留するイラク西部のアサド空軍基地及び同国北部のアルビル基地を爆撃した。
両国の武力行使により、緊張がますます激化しているが、そもそも両国の関係が悪化したきっかけはトランプ政権がイラン核合意から一方的に離脱したことである。また、本件空爆は、国連憲章及び国際法に違反する先制攻撃であり、何らの正当性もない。
米国は、軍事力行使を直ちにやめ、イラン核合意に復帰すべきであり、国際社会は、これ以上の・・暴力の連鎖¨が引き起こされないよう外交努力を尽くさなければならない。

3 自由法曹団は、2019年12月27日の時点で、既に中東情勢は緊迫しており、自衛隊の中東海域への派遣は、「情報収集活動」にとどまらない危険性が高い等の理由から閣議決定に反対したが、現在の中東情勢は、その時点と比べても極度に緊迫した状態にある。
にもかかわらず、河野防衛相は、2020年1月10日、海上自衛隊の護衛艦1隻と哨戒機2機の中東への派遣命令を発出した。現在の中東情勢の下での自衛隊の中東海域への派遣は、中東地域の緊張をいっそう高めるばかりか、日本が米国の誤った中東政策を賛同する国として、米国の戦争に巻き込まれる危険性を高めるものであり、絶対に派遣を許してはならない。

4 日本は、憲法9条の理念に基づき、両国との信頼関係を活かしながら、対話と外交による平和的解決を目指すべきである。
自由法曹団は、米国及びイラン両国に対して自制を求めるとともに、憲法を踏みにじる自衛隊の中東海域の自衛隊の派遣に断固反対し、改めて閣議決定及び防衛相の派遣命令に強く抗議し、防衛大臣において1月10日になした派遣命令を撤回し、自衛隊派遣の中止を求める。

2020年1月14日

自由法曹団長 吉田健一

(2020年2月20日)

トランプこそテロリスト。アメリカこそならず者国家である。

正月気分が消し飛んだ。背筋が寒い。これは大変な事態ではないか。昨日(1月3日)トランプがイラン革命防衛隊の司令官をバグダードの空港付近で殺害したという事件である。ゴーンの逃亡などとは次元が違う。もしや開戦もと,本気になって心配しなければならない。

殺害されたソレイマニという司令官は、イランの国民的英雄とされるきわめて重要な人物だったという。最高指導者ハメネイも復讐のメッセージを出している。イラン国民が報復の挙に出ることは覚悟しなければならない。イランだけではなく、主権を侵害されたイラク国民の憤激も当然の無法な行為。いったいトランプは、こんな危険なことを,どんな理由でやらねばならなかったのか。このあとの事態をどう治めるつもりなのか。そもそも成算あってのことなのか。

トランプ氏は、「合衆国の軍は、世界随一のテロリスト、カセム・ソレイマニを殺害した空爆を完璧な精度で実行した」「その殺害は、戦争を始めるためでなく、止めるため」だったと述べたという。

しかし、愚かで邪悪なトランプよ。おまえにこそ、「テロリスト」「ならず者」でないか。そしてトランプを大統領としているアメリカこそ、「テロ支援国家」「ならず者国家」と言われるに相応しい。

また、ペンタゴンは、「大統領の指示のもと、米軍はカセム・ソレイマニを殺害することで、在外アメリカ人を守るための断固たる防衛措置をとった」と発表したという。

同じことをイランの国防省も言いたいはずである。「最高指導者の指示のもと、イラン軍は最悪のテロリスト・トランプを殺害することで、イランの国民の生命と財産を守るための断固たる防衛措置をとった」と。

明らかなことは、この愚行によって、イランとアメリカの緊張は一気に激化することだ。いや、中東全体が一触即発の事態となる。もしかしたら、「一触」は既に通り過ぎていて、「即発」が待ち受けているのかも知れない。

オバマ前政権でホワイトハウスの中東・ペルシャ湾政策を調整していたフィリップ・ゴードンは、ソレイマニ殺害はアメリカからイラクへの「宣戦布告」のようなものだと言う。

その自覚あってか、米国務省はイラク国内のアメリカ人に「ただちに国外に退去するよう」警告し、米軍は兵3000人を中東に増派する方針という。オバマが築いた中東平和への努力をトランプがぶち壊している。なんということだ。

アメリカとイランの現在の緊張は、イラン核合意からトランプが一方的に離脱したことに始まっている。火に油を注ぐ今回のアメリカの行為には、世界がトランプを批判しなければならない。とりわけ、これまで動きが鈍かった関係各国が緊急に動かなければならない。

この事態に日本は鳴かず飛ばずのようだが、傲慢で愚かなトランプと肌が合うという、お友達の日本首相は、トランプに沈静化の努力をするよう、身を挺して説得しなければならない。たとえ失敗しても、誠実にやるだけのことをやるかどうか、国民は見ている。それをしなければ、「外交はやる気のないアベ政権」の看板を掲げるがよい。

もう一点。中東へ派遣を閣議決定した護衛艦一隻とP?3C哨戒機。あの決定を取り消さねばならない。派遣名目の「調査・研究」をするまでもない。中東情勢の厳しさは既によく分かった。よく分かった以上は、武力を紛争地に展開する愚は避けなければならない。イランから見れば、憎きアメリカの同盟軍となるのだから。失うものは大きい。
(2020年1月4日)

教訓 「アベの言うことだ。信用できるはずはない」

情報通の友人から、こう聞かされた。

安倍首相は、「衆議院の解散・ダブル選挙など、頭の片隅にもない」と繰りかえしている。しかしあれは、「ダブル選挙は、ワタシの頭の片隅にあるんじゃない。頭のドマンナカにあるんだ」と理解しなければならない。最近、多くの野党議員がそう言い始めた。

先日の日民協執行部会でのこと。今年7月21日参院選の重要性が語られた。安倍改憲の成否も、安倍内閣の消長も、この選挙の結果にかかっているという認識で異論がない。改憲を阻止するためには、この選挙での野党勢力の共闘態勢をつくらなければならない。その対抗策として、10月予定の消費増税を先送りを発表して、あるいは6月の「大阪G20」で何らかの成果を上げての衆議院解散・衆参同時選挙の目は本当にないのだろうかと話題になって、この発言を聞かされた。

その真偽のほどは分からないが、「ご飯論法の、あのアベの言うことだ。信用できるはずはない」ことには、一同納得だった。「アベの言うことだ。信用してはならない」は、野党議員だけではなく、今や天下の共通認識と言ってよい。

1月19日(日)は、毎月19日(「戦争法」成立の日)と予定された定例の国会前抗議集会だった。統一のプラカードはなく、参加者が手にしていたのは、それぞれの思いを絵にし、文章にした手作りのプラカード。圧倒的に目立ったのが、「嘘つき晋三」「ごまかし内閣」「記録改竄隠蔽政府」「政治の私物化を許すな」というものだった。

これだけ多くの国民から、「嘘つき」「ごまかし」と呼ばれる一国の政治的リーダーも珍しいのではないだろうか。「嘘つき晋三」と「フェイク・トランプ」、朋友仲良きも少しも麗しくはない。

安倍政治は、政治的な理念や政策以前の問題として、国民から信を措けないと烙印を押されているのだ。一国の政治は「信なくば立たない」。安倍政治は現に、立っていない。一見まだ立っているように見えるのは、無自覚・無関心層が支えているという錯覚でしかない。

さて、信の措けない安倍政権の数々の問題の内、韓国の広開土大王艦(駆逐艦)が自衛隊P1哨戒機にレーダー照射をしたとされる件。これだけは、自衛隊側の言い分が事実だと思い込まされていた。だから、安倍晋三が強気で映像を公開したのだと。

しかし、公平な目で見るとこれも大いに怪しいという。教えられて、ハーバービジネス・オンラインというサイト(運営主体は、あの「扶桑社」)に掲載された、牧田寛氏の下記の記事に目を通した。これは衝撃的な内容。もちろん、この記事も結論を単純に断定していない。軍事機密の壁に阻まれて断定的な判断は困難という。しかし、明らかなことは、日本側の情報はフェイクだらけ。韓国の言い分の方が、遙かに一貫していて説得力があるというのだ。日本のメディアの甘さを嘆いてもいる。「レーダー照射問題」を論じるには、ともかくこのサイトを読みこなしてからのこととしなければならない。

慰安婦問題も、徴用工判決も、そしてレーダー照射事件も、なんと我々は権力によって誘導されやすい環境に置かれていることか。背筋が寒くなる。こんなことで、嫌韓世論や民族差別感情の形成を許してはならない。もしかしたら、安倍内閣は、ナショナリズム昂揚の世論誘導実験をしているのではないだろうか。やはり、アベの言うことだ。まずはウソだろう」と、疑う姿勢が正しいのだ。

2019.01.08
日韓「レーダー照射問題」、何が起きていたのか、改めて検証する
https://hbol.jp/182872

2019.01.12
日韓「レーダー照射問題」、際立った日本側報道の異常さ。そのおかしさを斬る
https://hbol.jp/183226

2019.01.15
レーダー照射問題、「千載一遇の好機」を逃したかもしれない「強い意向」
https://hbol.jp/183410

2019.01.18
日韓「レーダー照射問題」、膠着状態を生み、問題解決を阻む誤情報やフェイクニュース
https://hbol.jp/183653

2019.01.21
レーダー照射問題、韓国国防部ブリーフィング全文訳からわかる、日本に跋扈するデマの「曲解の手法」
https://hbol.jp/183842

(2019年1月23日)

こちら特報部に、澤藤大河「『自衛隊マンガ』から見えるもの」

本日(12月22日)の「東京新聞・こちら特報部。タテの見出しに、「沢藤弁護士に聞く」とある。「沢藤弁護士」とは、私のことではない。澤藤大河のインタビュー記事。ヨコ見出しは、「『自衛隊マンガ』から見えるもの」。そして、「『空母いぶき』現実先取り?」「いじめや閉鎖体質描く作品も」「大きな顔しない自衛隊望ましい」等の中見出しが続く。最近のマンガが自衛隊をどう描いているか。そのことから、何を読みとることができるかを澤藤大河が解説している。

リードは、下記のとおり。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2018122202000151.html

「海上自衛隊の護衛艦「いずも」の空母化が新たな防衛大綱などに明記され、その現実を先取りしたかのようなマンガ「空母いぶき」が注目されている。近年自衛隊が登場するマンガには、フィクションの世界ながら、艦船などの装備や隊員生活をリアルに描く作品が多い。そこから自衛隊や社会の何が読み取れるのか。法律雑誌で作品を分析した沢藤大河弁護士に聞いた。」

この「法律雑誌」とは、「法と民主主義」(2018年7月号・№530)のこと。その特集が、「自衛隊の実像」だった。
https://www.jdla.jp/houmin/

◆特集にあたって………編集委員会・澤藤統一郎
◆旧軍と自衛隊 シビリアン・コントロールの視点から………纐纈 厚
◆「防衛計画の大綱」改定への動向………大内要三
◆現代の戦場経験から考える自衛隊の憲法明記問題………清末愛砂
◆防衛大学校の「教育」と人権侵害の実態………佐藤博文
◆自衛隊関連文献解説・文献編 読書ノート・自衛隊………小沢隆一
◆自衛隊関連文献解説・漫画編 漫画に描かれた自衛隊………澤藤大河

特集のコンセプトを要約すれば、次のようなもの。

本特集は、安倍九条改憲案が、憲法上の存在として位置づけようという自衛隊と、隊員の実像をリアルに把握するための論稿集である。これまで「専守防衛」に徹するとされてきた自衛隊の実態は安保法制下、どう変容しようとしているのか。また、実力組織としての自衛隊を統制する仕組みは、今どうなっているのか。統帥権干犯を口実に暴走を始めた旧軍の歴史の教訓はどう生かされているのだろうか。そして、にわかにクローズアップされてきた、自衛隊隊内とりわけ幹部教育における人権侵害の実態は、どうなっているのか。

その特集にふさわしい錚々たる研究者・実務家の論稿に混じって、ひとり錚々ならざる少壮弁護士が「漫画に描かれた自衛隊」を寄稿している。その紹介文が下記のとおり。

◆「漫画に描かれた自衛隊」(澤藤大河・弁護士)。こちらは漫画編。サブカルが社会の雰囲気をよく反映している側面は軽視し得ないし、社会への影響力も看過できない。漫画でもリアルにいじめやしごきの実態が描かれ、「これがあってこそ精強な軍隊を維持できるというイデオロギーが根付いている」という。また、「最近、何のてらいもなく自衛隊を絶賛する漫画が増えている」「戦争や兵器、しごきやいじめまでエンターテイメントとして消費している現状は、読者も戦争を巡る理不尽にならされてきているのではないか」という居心地の悪さが語られている。

硬い、硬すぎる法律雑誌に、異例の軟派記事。それだけで多少の話題となり、「こちら特報部」の目にとまったということなのだろう。

なお、この「漫画に描かれた自衛隊」の稿の末尾に、「この稿を書くのに、漫画評論家紙谷高雪氏の助言を得ました」とある。この人、大河の学生時代の友人だそうだが、当時は無名の人。その人が、12月3日の「ユーキャン新語流行語大賞」のトップテンに入賞した「ご飯論法」の名付け親として上西充子さんと共同受賞して、俄然有名人になった。人とのマンガつながりも面白い。

本日の「こちら特報部」、何よりも分かり易い。書き出しはこうだ。

「かっては『軍隊もの』の中で自衛隊はマイナー分野だった。専守防衛を掲げる自衛隊を扱っても、実戦が描けずドラマになりにくいためでした」

それが、今は違うという。リアリティをもった自衛隊の実戦がストーリー化されている。また、自衛隊内部のリアルなイジメやシゴキが、それなりの意味づけをほどこされて描かれてもいるという。マンガに描かれた自衛隊像・自衛隊員像は明らかに変化しているというのだ。少なからぬ人々の意識の変化を反映するものなのだろう。

その社会意識の変化に対するインタビュー記事の結びの言葉は、以下のとおりだ。同感である。

「軍事力を増強し、実力行使でものごとを解決しようという姿勢は幼稚だが、それが正しいと考える社会に向かっている。平和を語ると、理想主義だとあざける風潮もあるが、私には熱に浮かされているように見える」

(2018年12月22日)

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