(2021年2月18日)
2月9日、政府は「デジタル庁設置法」を含む、「デジタル改革関連法案」を閣議決定し、同日衆院に提出した。典型的な束ね法案で、新設・改正の法案数は計64本に及ぶ。政府は、今国会で成立を図り、「デジタル化推進の司令塔」としてのデジタル庁を9月創設の予定という。
報じられているところでは、法案は、▽デジタル庁設置▽理念を定めた基本法▽マイナンバーと預金口座のひもづけ▽押印廃止などの社会整備▽自治体のシステム標準化―の5分野からなり、政府はこれを一括して審議することを想定しているという。
新設されるデジタル庁は、首相をトップとして、担当大臣や副大臣も配置。事務方のトップには特別職の「デジタル監」を置く。500人規模の組織とし、民間から局長級を含め100人程度の登用を想定しているという。
他省庁への勧告権を持ちながら、国の情報システムの整備・管理や、自治体のシステム共通化に向けた企画・総合調整などを担う。政府が重要課題に掲げるマイナンバーカードの普及についても司令塔となる。
政府は、「デジタル化」によって、国民生活の利便が向上することを強調する。説明資料には、「国民の幸福な生活の実現」「人に優しいデジタル化」「誰一人取り残さないデジタル社会の実現」「安心して参加できるデジタル社会の実現」などいう、歯の浮くような言葉がならぶ。
首相は成長戦略の柱の一つにデジタルを掲げ、平井卓也デジタル改革相は「スマートフォン一つで60秒以内であらゆる行政手続きができるようにする」とまでいう。あたかも、デジタル化によって、バラ色の社会が開け、国民が豊かに幸福度が増していくかのごとき幻想が振りまかれている。本当に、そうだろうか。
デジタル技術自体に善悪の色はない。良くも悪くも使われる道具でしかないが、使い方を間違えると取り返しのつかない大きな障害をもたらす凶器となる。とりわけ、信頼できない権力が推進するデジタル化とは、極端な監視社会・管理社会を目指すものとなる危険を孕んでいる。
IT技術の発達は、個人の監視と管理の徹底を可能とする。国民は家族歴・生育歴・交友歴を把握される。健康情報も、教育歴も、経済生活歴も丸裸にされる。誰と会って、どんな本を購入し、どんなデモに参加したかさえ、一瞬にして可視化される。
今回の「デジタル改革関連法案」も『国民生活の利便促進』を名目に、実は『IT技術による全国民直接監視社会』『監視の徹底による国民管理』を指向する危険を警戒しなければならない。
国家が集積する圧倒的な情報量は、丸裸にされた国民の自由を形骸化する。国家は、全国民のあらゆる情報を握って国民に対する意識や行動の操作を可能として、民主主義を形骸化する。既に、中国にその萌芽を見ることができよう。
デジタル改革関連主要6法案の概要は以下のとおりである。
【デジタル庁設置法案】
・首相をトップとし、担当大臣らも配置
・国の情報システムを統括、監理
・他省庁への勧告権などの権限を持つ
【デジタル社会形成基本法案】
・ゆとりと豊かさを実感できる国民生活の実現
・デジタル化の目標や達成時期を定めた重点計画の作成
【預貯金口座の登録、管理に関する2法案】
・本人の同意でマイナンバーにひもづけた口座で、公的な給付金の受け取り、災害や相続時に照会が可能に
【デジタル社会形成関係整備法案】
・各自治体でばらつきがある個人情報保護のルールを統一化
・行政手続きの押印廃止の推進
・マイナンバーカードの機能をスマホに搭載
・引っ越し先に転出届の情報を事前通知
【地方公共団体情報システム標準化法案】
・自治体ごとにばらばらなシステムを、国が策定した基準に合わせるよう求める
(2021年1月19日)
各紙世論調査における内閣支持率が軒並み急落している。とりわけ、一昨日(1月17日)発表の毎日新聞調査「菅内閣を支持しない・57%」という数字が衝撃である。こうなると、菅義偉が何を言っても国民の耳に届かない。耳に届いても心には響かない。さぞかし辛い立場だろう。それでもめげた表情を見せないのは、強靱な精神力と称賛すべきか、厚い面の皮と感嘆すべきか、はたまた単なる鈍感と揶揄すべきか。
そんな状況下で、昨日(1月18日)第204通常国会が開会となり、本日の各紙朝刊には菅内閣総理大臣施政方針演説が掲載されている。
もちろん、総じて評判が悪い。いや、最悪と言ってよい。各紙の社説、以下のタイトルである。
朝日社説 施政方針演説 首相の覚悟が見えない
毎日社説 菅首相の施政方針演説 不安に全く応えていない
東京社説 首相施政方針 危機克服の決意見えぬ
道新社説 首相の施政方針 コロナ対策 方向見えぬ
福井論説 菅首相の施政方針演説 「安心」「希望」には程遠い
信濃毎日 施政方針演説 対話する姿勢に欠ける
神戸社説 施政方針演説/空虚に響く「安心と希望」
中國社説 首相の施政方針演説 国民に言葉が響いたか
熊本日日 施政方針演説 展望見えず心に届かない
沖縄タイムス [施政方針演説]これでは心に響かない
施政方針演説の内容について私にはこう聞こえたという2個所を摘記しておきたい。
(国民の負担と引き換えに、命と健康を守り抜く)
国民の命と健康を守り抜きます。まずは「安心」を取り戻すため、世界で猛威をふるい、我が国でも前政権の無為無策から深刻な状況にある新型コロナウィルス感染症を一日も早く収束させます。
しかし、その実現のためには、それ相応の国民への負担をお願いする政策が必要となるというのが私の政治信条です。国民は決してただ乗りはできません。負担に耐えていただかなくてはなりません。その必要性を国民に説明し、理解してもらわなければならない。それなくして、新型コロナウィルス感染症の収束はないものと覚悟が必要なのです。つまり、命と健康は負担と引き換えだとご承知おき願います。
(国民監視と管理のためのデジタル改革)
この秋、国民全ての監視と管理の徹底を目指してデジタル庁が始動します。
デジタル庁の創設は、学術会議会員任命拒否とならぶ菅政権の強権的政治改革の象徴であります。デジタル庁は、組織の縦割りを排して、全国民のプライバシー剥奪のための強力な権能と厖大な予算を持った司令塔として、国全体の権威主義社会化を主導します。今後5年間で自治体のシステムも統一、標準化を進め、業務の効率化と全住民の個人情報国家取得を徹底してまいります。
是が非でもマイナンバーカードの普及に務め、マイナポイントの期限も半年間延長します。この3月には健康保険証との一体化をスタートし、4年後には運転免許証との一体化を開始します。これで、国民のプライバシーの大半は国家権力が入手可能と考えています。
行政機関が保有する法人などの登録データをシステム上の、いわゆるベースレジストリとして整備し、政権に協力的な大企業と一体となって、政府は国民の、企業はその従業員や消費者の支配に不可欠なデータの利活用を進めてまいります。
教育のデジタル化も一挙に進めます。小中学生に一人一台のIT端末を揃え、9000人のデジタル専門家がサポートします。子どもたちの希望や発達段階に応じたオンライン教育を早期に実行することで、国民をデジタルによる支配構造に慣れさせ、抵抗感なく支配に服従する心情を育成してまいります。
あらゆる手続が役所に行かなくてもオンラインでできる、引っ越した場合の住所変更がワンストップでできる、そうした仕組みを宣伝することで、国民には政府に対するあらゆる情報の提供についての違和感を払拭させ、何よりも主権者としての矜持の覚醒を防止いたします。
高齢者や障害者、デジタルツールに不慣れな方々もしっかりサポートし、誰をも、デジタル化の支配の仕組みの中に組み込む社会をつくり上げてまいります。
民間企業においても、社内ソフトウェアから生産、流通、販売に至るまで、企業全体で取り組むデジタル投資を支援し、政府の力で企業の従業員支配を促進するとともに、きめ細かな国民統合のためにその情報を政府において一元化いたします。
さらに、身近な情報通信の利用環境を、国民監視と管理の目線に立って変えていきます。携帯電話料金については、大手が相次いで、従来の半額以下となる大容量プランを発表し、本格的な競争に向けて、大きな節目を迎えました。
国民は、身近な利益には近視眼的な敏感さをもっていますから、このような小さな利益を供与することで容易に政府に対する信頼を醸成することが可能と考えています。携帯料金を値下げする程度のことで、国民監視と管理のシステムの設定が可能なのですから気楽なものではありますが、飽くまで気を引き締めて、完璧な国民統治のための監視・管理社会の構築に邁進する所存です。
鉄門を出て不忍池まで無縁坂を下りながらこう考えた。
今年もまた来た申告期。はてさてどうするマイナンバー。原則貫けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に税務は不愉快だ。不愉快が高じると、安い所へ引き越したくなる。しかし、どこへ越してもマイナンバーからは逃げられない。そう悟った時に決意が生れる。角が立っても窮屈でも、意地を通すが我がさだめ。今年も書いてはならないマイナンバー。
五條天神のみごとな梅をみながら、こうも考えた。
とりわけ今年は格別だ。国税庁の長官が、あの佐川宣寿。「記憶にない」「記録は廃棄した」と言い抜いて、そのご褒美で出世したあの佐川。まことに適材が適所に配置されているのだ。そんな政権に協力などしてやるものか。佐川が長官で、徴税はスムーズに行われたなどと、安倍や麻生に言わせてなるものか。
上野大仏の雪割草の咲き初めを愛でつつ考え続けた。
何ゆえ佐川が出世できるのか、なにゆえのご褒美頂戴なのだろうか。安倍と昭恵の窮地を救ったからとしか考えようがない。安倍は、官僚諸君にこう教えているのだ。「行政の公平や透明性の原則を守ろうなどとすれば角が立つ。意地を通せば窮屈だ。政権におもねれば褒められる。出世したければ忖度だ。百僚百官みんなこぞって忖度にやよ励めよ」と。これが、安倍政権の正体であり、ホンネではないか。だから、マイナンバーなど書いてやってはならないのだ。
上野公園から、湯島天神に足を伸ばして、人混みとタコ焼きの匂いの中で、結論に達した。
納税は拒否しない。拒否すべきでもない。しかし、佐川国税庁長官に協力してはならない。その意思表示として、マイナンバー記載は断固拒否しよう。これを咎められたら、大きな声で言ってやろうじゃないか。
「マイナンバー? そんな数字は記憶にない。そんな記録の保存はない。」
「マイナンバー? そんな記録は廃棄した。」
**************************************************************************
マイナンバー記載が昨年(所得税については2017年1月)以来、法的な義務であることはずいぶんと喧伝された。問題は、「マイナンバー記載を拒否したらどうなるか」である。刑事罰、行政罰はあるのか。そもそも受け付けてもらえないのではないか。まったく心配には及ばない。「マイナンバー記載を拒否」することの不利益はない。むしろ、マイナンバー記載は、重要な個人情報漏洩のリスクを覚悟しなければならない。
以下は、国税庁ホームページに掲載されている、「番号制度概要に関するFAQ」である。よくお読みいただきたい。
https://www.nta.go.jp/mynumberinfo/FAQ/gaiyou.htm
Q2-3-2 申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号を記載していない場合、税務署等で受理されないのですか。(平成29年9月7日更新)
(答)税務署等では、社会保障・税番号<マイナンバー>制度に対する国民の理解の浸透には一定の時間を要する点などを考慮し、申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合でも受理することとしていますが、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務ですので、正確に記載した上で提出してください。
なお、記載がない場合、後日、税務署から連絡をさせていただく場合があります。
ただし、その場合でも、税務職員が電話で直接マイナンバー(個人番号)を聞くことはありません。税務職員を装った不審な電話にはくれぐれもご注意願います。
※ 税務職員を装った不審な電話、メールなどにご注意ください。
Q2-3-3 税務署等が受理した申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合や誤りがある場合には、罰則の適用はありますか。
(答)税務署等が受理した申告書や法定調書等の税務関係書類にマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合や誤りがある場合の罰則規定は、税法上設けられておりませんが、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務ですので、正確に記載した上で提出をしてください。
**************************************************************************
要するに、マイナンバー記載は、「形式的には法的義務」だが、違反に何の制裁もない。これを強制する手段もないのだ。国税庁は、国民に「法を守るようお願いしている」に過ぎない。しかもその長官自身が、国会で嘘を突き通し 「記録は廃棄した」と答弁してきた人なのだ。国民の耳には、「そりゃ聞こえませぬ、長官殿」となるのは当然ではないか。
実のところ、私にとってはホントに知らないマイナンバー、知りたくもないマイナンバー、なのである。ナンバー通知の受け取り自体を拒否している。マイナンバーとは、国家が国民を管理して統治する技術としての国民皆背番号制である。マイナンバーをツールとして、あらゆる個人情報の統合が可能となる。いま、反対の声をあげないと、その使途は無限に拡大し、IT技術の発達と相まって、権力が国民生活の隅々まで管理する恐るべき事態を招くことになろう。
管理などされたくない人々の声が大きくなれば廃止できる。佐川宣寿の国税庁長官就任は、そのような大きな運動の起爆剤ととなり得る。これこそ、真の意味での「適材適所」ではないか。
(2018年2月18日)
先日、少人数の学習会の席で、マイナンバーを話題にした。「みなさん、役所への書類にマイナンバーを書いていますか?」と振ったら、一人の女性がこう言った。
「私には、ちゃんとした名前があります。役所から勝手に12ケタの番号を押しつけられて、これを名前の代わりに使えといわれてもその気にはなれません。私は、国から番号で管理されるのはイヤですから、マイナンバーはけっして使いません。マイナンバー書かないから逮捕するなどということがない限り(笑)」
なんときっぱりした、すがすがしい姿勢。これは素晴らしい。
この女性の発言は、マイナンバー使用の押しつけは自分の人格の尊厳を傷つけるものだという主張。「私は名前を持っている」「私を特定するのは名前で願いたい」「割り当てた番号で私を管理することは拒否する」という、自尊心がほとばしり出た言である。これを支える憲法の条文を探せば13条(個人の尊重)であり、11条(基本的人権の享有)であり、あるいは97条(基本的人権の本質)ということになろう。憲法にどう書かれていようと、なにより大切なのが個人であり、その尊厳だ。国家は、個人の尊厳を傷つけてはならず、個人の尊厳を最大限尊重しなければならない。マイナンバーの使用は、これに反するではないか。
そう思っていたところに、先週金曜日(3月24日)赤旗「くらし・家庭」欄のマイナンバー解説記事に接した。その見出しが「マイナンバーは個人の尊厳侵す」である。解説者は、旧知の浦野広明さん(税理士・立正大学法学部客員教授)。大いに賛同する立場から、ご紹介したい。
まず、結論。明快この上ない。
個人番号(マイナンバー)は憲法13条が保障する個人の尊厳を侵すもので、明らかに憲法違反です。『法律だから』といって従うのではなく、はっきり拒否すべきです。
マイナンバーを違憲と主張する複数の裁判も係属中だという。
国を相手に個人番号の利用停止や削除などを求める違憲訴訟も、全国八つの地裁で進行中です。
具体的にどう対応すべきか。
悪法は世論と運動の力で使わせずに形骸化させることが大事です。窓口で『知りません』『番号を使うつもりはありません』といえば、それまでです。
ほんとうにそれで大丈夫なのか。面倒なことにならないか。
約100件の相談を受け、番号を記載せずに郵送で申告してすべて受理されました。国税庁などの省庁も『番号未記載でも受理し、罰則や不利益はない』と繰り返し表明しています。
次いで、制度についての納得できる説明。まずは法の名称。こんなことご存じでしたか。
「マイナンバー」の根拠法である「個人番号法」の正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」です。似た名前の法律に「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」(2003年)があります。BSE(牛海綿状脳症)対策として導入された同法によって、肉屋さんや消費者は、肉の生産履歴を知ることができます。牛の個体識別は食の安全・安心にとって有用でしょうが、私たちは家畜ではありません。
表向きの立法目的と真の立法動機
徴税など政府の都合や目的のために、私たちの全情報を一つの番号で収集・管理し、「特定の個人を識別するための番号の利用」が個人番号の核心なのです。私たちは既に、個別の目的ごとに、さまざまな番号をつけられています。基礎年金番号や保険者番号、・住民登録番号、運転免許証、パスポート、診察券、口座番号、社員番号などなどです。しかし、個人番号は、すべての情報を一つの番号で国が一元的に管理しようというものです。
マイナンバー制度はどんな危険をもっているか。
番号制を導入している韓国では、コンビニで買い物する際に番号を提示します。何番が、いつ、どこで、何を売買したかが、レジと国税庁のコンピューターが連動していて把握できます。このように、一つの番号で個人の全情報をつかむことは、憲法13条が保障する個人の尊厳に反することは明らかです。
マイナンバーの利便性についての国の説明
国は、「マイナンバーは、行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平かつ公正な社会を実現する社会基盤」(内閣官房ホームページ)と説明します。しかし、《コンビニで住民票が取れる》程度の利便性と引き換えに、個人の尊厳を捨てたり、個人情報の流出・番号不正利用の危険に甘んじたりするわけにはいきません。
国民にマイナンバー使用の義務はない。
番号を扱うのは、国と地方自治体、「番号を利用する事業者」です。国民には何ら義務規定はなく、もちろん罰則や不利益もありません。
他人の番号を集めると苦労する
番号は最終的には国が把握しますが、社会保障や税の分野などでは個人番号を集めるのは主に民間です。漏えいなどに対する重い罰則があり、取り扱いで苦労することになります。すでに、番号がもれた時の損害保険も用意されています。
マイナンバー笑うは政府と大企業
個人番号は初期投資だけで3000億円、セキュリティー対策などで1兆円市場といわれます。大儲けするのは一握りの大手IT企業だけです。
(2017年3月27日)
12月11日の当ブログで「マイナンバー さわらぬ神に 祟りなし」を掲載した。
https://article9.jp/wordpress/?p=7814
その記事では、番号法(正確には「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」)やマイナンバー制度の理念的なものに関する、私なりの基本姿勢を明確にした。本日は、その再論であるが、個人のマイナンバー提供(通知)義務、事業者の収集義務の有無と強制性についてだけ整理して補充しておきたい。
結論から言えば、形式的には特定の場合にマイナンバーの提供(通知)義務があり、事業者にマイナンバーの収集義務がある。しかし、その義務を強制する制度は設けられていない。もちろん、刑事的にも行政的にも罰則はなく、その義務の不履行による不利益はまったくない。実質的には義務ありとは言いがたいのだ。むしろ、この義務を履行することによる不利益が極端に大きい。
番号法の管轄は内閣府であるが、その利用は税務分野と社会保障分野であって、税務分野の利用については国税庁が、社会保障分野では厚労省が管轄することになる。
まずは、国税関係である。
前回ブログでも触れた「税経新人会」のマイナンバー制度に関するリーフレットの「Q&A」を再度引用しておこう。マイナンバーを利用する必要はさらさらないのだ。
Q2 番号は提出しなければ不利益があるのでしょうか?
番号法では、個人に提出義務を規定していませんし、提出しないことによる不利益の記載もありません。番号を記載しなければならないというのは、国税通則法や年金法などに記載されていますが、罰則はありません。漏えいの危険があり、悪用される危険がある番号を出しませんという意思表示をしましょう(収集を求める方は、その内容を記録に残せばよいことになっています)。
Q3 事業者は、従業員の番号を収集しなければならないのでしょうか?
番号法では、事業者に対し、収集の義務を規定していません。事業者は、番号を取集した場合は、漏えいしないように「安全管理措置」をとるために経費が増大し、神経を使うことになります。また漏えいした場合は、報告義務、刑事罰・罰金など責任は増大します。これらの負担と責任を考えると収集しないことが一番の「対策」です。
以上のとおり、番号法はマイナンバーの利用について、何の義務付けも行っていない。義務規定は税務に関する法律を根拠にする。このことを踏まえて、国税庁のホームページでは、次のように述べられている。全文をじっくりとお読みいただきたい。
番号制度概要に関するFAQ
(2)税務関係書類への番号記載
Q 2-3-1 申告書や法定調書等を税務署等に提出する場合、必ずマイナンバー(個人番号)・法人番号を記載しなければなりませんか。
(答)番号法整備法や税法の政省令の改正により、税務署等に提出する申告書や法定調書等の税務関係書類にマイナンバー(個人番号)・法人番号を記載することが義務付けられました。
したがって、申告書や法定調書等を税務署等に提出する場合には、その提出される方や、扶養親族など一定の方に係るマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載が必要となります。
Q 2-3-2 申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号を記載していない場合、税務署等で受理されないのですか。
(答)税務署等では、社会保障・税番号<マイナンバー>制度導入直後の混乱を回避する観点などを考慮し、申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合でも受理することとしていますが、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務ですので、正確に記載した上で提出してください。
なお、記載がない場合、後日、税務署から連絡をさせていただく場合があります。
Q 2-3-3 税務署等が受理した申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合や誤りがある場合には、罰則の適用はありますか。
(答)税務署等が受理した申告書や法定調書等の税務関係書類にマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合や誤りがある場合の罰則規定は、税法上設けられておりませんが、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務ですので、正確に記載した上で提出をしてください。
もう一つ。同じ国税庁ホームページに、「法定調書に関するFAQ」として次の記載がある。
(1)法定調書関係(総論)
Q 1-2 従業員や講演料等の支払先等からマイナンバー(個人番号)の提供を受けられない場合、どのように対応すればよいですか。
(答)法定調書の作成などに際し、従業員等からマイナンバー(個人番号)の提供を受けられない場合でも、安易に法定調書等にマイナンバー(個人番号)を記載しないで税務署等に書類を提出せず、従業員等に対してマイナンバー(個人番号)の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務であることを伝え、提供を求めてください。
それでもなお、提供を受けられない場合は、提供を求めた経過等を記録、保存するなどし、単なる義務違反でないことを明確にしておいてください。
経過等の記録がなければ、マイナンバー(個人番号)の提供を受けていないのか、あるいは提供を受けたのに紛失したのかが判別できません。特定個人情報保護の観点からも、経過等の記録をお願いします。
なお、税務署では、番号制度導入直後の混乱を回避する観点などを考慮し、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合でも書類を収受することとしていますが、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務であることから、今後の法定調書の作成などのために、今回マイナンバー(個人番号)の提供を受けられなかった方に対して、引き続きマイナンバーの提供を求めていただきますようお願いします。
以上で尽きている。税務当局は番号記載は申告者の義務だと言い、事業者への番号提供(通知)も「義務」だという。しかし、義務の程度には濃淡がある。法は、その義務の履行を実現するための何の措置も用意していない。罰則もなければ、番号記載のない書類は受付けないとも言えない。
「税務署等では、社会保障・税番号<マイナンバー>制度導入直後の混乱を回避する観点などを考慮し、申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合でも受理することとしています」「税務署では、番号制度導入直後の混乱を回避する観点などを考慮し、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合でも書類を収受することとしています」と、国税庁がマイナンバー不記載でも書類は受け付けると繰り返し明言していることに意味がある。
もしかしたら、運の悪い人には、税務署から「マイナンバーの記載がございませんが、記載が義務だということをご存じでしょうか。」「何か、義務の履行ができないご事情でもございますか」と問合せあるかも知れない。その場合は、臆せず堂々と、「私は義務とされていることは知っています」「しかし、私は自分の人格がナンバーによって管理されることが不愉快なのです」「私のナンバーが漏洩して、悪用される恐れが否定し得ないのですから、ご協力はできません」といえばよいだけのことなのだ。
社会保障分野でも、仕組みはまったく同じことだ。厚労省のホームページから、下記を引用しておきたい。
サイトの標題は、「社会保障・税の手続書類へのマイナンバー(個人番号)の記載について、事業主・従業員の皆さんのご協力をお願いします。」というもの。飽くまで、「ご協力のお願い」なのだ。
1 事業主の皆さんへ
◆ 社会保障・税に関する手続書類の作成事務を処理するために必要がある場合に限って、従業員にマイナンバーの提供を求められます。
また、従業員から受け取ったマイナンバーは適切に管理する必要があります。
2 従業員の皆さんへ
社会保障・税に関する手続書類へのマイナンバーの記載は、法令で定められた事業主の義務となっており、事業主は、マイナンバー法に基づき、従業員に対してマイナンバーの提供を求めることができます。
◆ 従業員も、事業主から、法律に基づく正当なマイナンバーの提供の求めがあった場合には、これに応じていただくようお願いいたします。
《事業主に提供したマイナンバーの取扱い》
事業主は、法律で限定的に定められている場合以外の場合に、従業員のマイナンバーや、マイナンバーと結びついた情報を利用したり、第三者に提供することはできません。
また、事業主は、従業員のマイナンバーや、マイナンバーと結びついた情報の漏えい、滅失等の防止その他の適切な管理のため、必要かつ適切な「安全管理措置」を講じなければならないこととされています。
Q3 勤務先から、マイナンバーを提供しないと、解雇したり、賃金を支払わないと言われたのですが・・。
社会保障・税に関する手続書類へのマイナンバーの記載は、法令で定められた事業主の義務であり、事業主は、マイナンバー法に基づき、従業員に対してマイナンバーの提供を求めることができます。このことをご理解いただき、事業主から、法律に基づく正当なマイナンバーの提供の求めがあった場合には、これに応じていただくようお願いします。
一方で、マイナンバーを提供しないことを理由とする賃金不払い等の不利益な取扱いや解雇等は、労働関係法令に違反又は民事上無効となる可能性があります。
職場で起きた労働問題については、都道府県労働局や労働基準監督署内に設置されている総合労働相談コーナーにご相談ください。
特に解説は要らないだろう。漏洩したらたいへんなマイナンバーである。うっかり他人に知られるのは恐いことだ。また、うっかり番号を預かると、漏洩の罰則が恐い。知らないのが一番。知らせない、預からない、提供しない、提供を求めない、に徹するに如くはない。その方が安全なのだ。
あらためて、
マイナンバー さわらぬ神に 祟りなし
マイナンバー さわってしまえば 祟りあり
そして、
マイナンバー みんなで拒否すりゃ 恐くない
マイナンバー ひとりで拒否も 恐くない
(2016年12月25日)