澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「法と民主主義」6月号紹介 ー あらためて問う 「司法はこれでよいのか」

(2021年6月29日)
 今からちょうど50年前、私は2年間の司法修習の過程を終えて弁護士となった。その1971年の春4月は、「司法の嵐」が吹き荒れた季節であった。「司法の危機」の時代とも呼ばれた。「司法反動と闘う」ことが、民主主義や人権を大切に思う人々の共通の課題として意識され、当時民主的な運動に携わる人々は、それぞれの立場で「司法はこれでよいのか」と問いを発した。もちろん、「司法がこれでよいはずはない」との強い思いからである。

 「司法の嵐」の震源は、おぞましいまでの天皇主義者でもあり、反共主義者でもあった司法官僚の首魁・石田和外が主導した青年法律家協会攻撃であった。彼は、公安と一体となった極右出版や自民党に与して、青法協を過激思想団体と決めつけ、裁判官会員には脱退を強要し、青法協会員裁判官の中心的存在とみなされた札幌地裁福島重雄裁判官を非難し、13期宮本康昭裁判官の再任を拒否した。そして、23期司法修習生の中の裁判官志望者にも、青法協を脱退するよう肩たたきが行われた。

 青法協攻撃という外形の内実は、人権や民主主義や平和という憲法理念への排撃であり、憲法擁護運動への牽制であり、裁判官に対する思想統制であった。憲法の砦たるべき最高裁自らが思想差別を行い、裁判官の独立をないがしろにしているのだ。これから、法律家になろうとする司法修習生たちは、身近に起こっているこの異常な事態を看過してよいはずはないと考えた。

 同期の裁判官志望者を思想信条や団体加入で差別してはならない。そのような運動が澎湃として盛り上がったが、結果は7人の裁判官志望者が任官を拒否された。

せめて、終了式の場で任官を拒否された彼らに、その思いの一端を発言する機会を与えてもらおうではないか。これが同期の総意となった。誰かが式の冒頭で、研修所長に同期の総意を伝えなければならない。その役割を担ったのが、クラス連絡会の阪口徳雄委員長だった。
 阪口君は、修習修了式の冒頭、式辞を述べようとした研修所長に対して発言の許可を求めた。所長は明らかに黙認し制止をしなかった。所長からの許しを得たと思った阪口君が、マイクを取って「任官不採用者の話を聞いていただきたい」と話し始めた途端に、「終了式は終了いたしまーす」と宣告されて式は打ち切られた。開会から式の終了まで、わずか1分15秒の出来事。この行為をとらえて、最高裁はその日の内に阪口君を罷免処分とした。
 この出来事は、権力機構としての司法府の本質を露わにするものとして強く世論を刺激し、前例のない司法の民主化を求める運動に火を付けることになった。その運動の高揚の中で阪口君の法曹資格は2年後の1973年4月に回復となる。

 そして、半世紀が経過した今、あらためて、同じ問を発しなければならない。「司法はこれでよいのか」「本来、司法はどうあるべきなのか」「どうすれば、司法本来のあるべき姿を実現できるだろうか」と。

 「司法の嵐」吹き荒れる中で実務法律家となった23期の集団は、その後の法律家としての職業人生において、それぞれに司法の在り方を問い続けてきた。そして、50年を記念して、同期の有志が一冊の書籍を刊行した。「司法はこれでいいのか―裁判官任官拒否・修習生罷免から50年」(23期・弁護士ネットワーク著・現代書館)である。当時の司法状況についての資料というだけでなく、原体験を共有した23期群像のその後の生き方をも活写して読み応えのある労作となっている。

 そして、この書籍の出版を記念した集会を開催した。「法と民主主義」6月号【559号】の特集は、4月24日「アルカディア市ヶ谷」において開催された出版記念集会の各発言をそれぞれの発言者が加筆し編集したものである。50年前の司法に、いったい何があったか。そのとき、司法は本来あるべき姿とどう変わってしまったのか。そして、50年後の今、どうしたら司法に希望を見出すことができるのか。その問題意識が凝縮した集会発言集になっている。内容は、下記のとおりである。

 司法のあり方に関心をお持ちの方には、是非、ご購読いただきたい。

「法と民主主義」6月号内容紹介
https://www.jdla.jp/houmin/index.html

リード
https://www.jdla.jp/houmin/backnumber/pdf/202106_01.pdf

「法と民主主義」申込みフォーム(今号単独購入であれば、ナンバー欄に「559」と、定期購読ご希望であれば同欄に「0」と御記入を)
https://www.jdla.jp/houmin/form.html

**************************************************************************


法と民主主義2021年6月号【559号】(目次と記事)

特集●司法はこれでいいのか ── 「危機の時代」から50年

◆特集にあたって … 編集委員会・澤藤統一郎
◆出版と集会、その目的と思い … 村山 晃
◆50年前に何があったか、当事者としての感想と挨拶 … 阪口徳雄
◆23期の50周年を祝う ── 連帯のメッセージ … 宮本康昭

●パネルディスカッション冒頭発言●
◆司法の現状:制度と運用の実態をどう把握するか
──司法官僚制的人事慣行と石田和外裁判官 … 西川伸一
◆司法への絶望と希望
── 行政事件「鑑定意見書」執筆の経験から … 岡田正則
◆私たちの責任 ── 司法の希望への道筋をどう見い出すか … 伊藤 真

●具体的事件を通じて司法の希望を語る●
◆勝たなければならない裁判で勝てた理由
── 東海第二原発差止訴訟 … 丸山幸司
◆生活保護基準引下げ違憲大阪訴訟について … 小久保哲郎
◆「結婚の自由をすべての人に」北海道訴訟
── 違憲判決からみる司法の展望 … 皆川洋美
◆建設アスベスト訴訟を通して感じる司法 … 谷 文彰
◆東京大空襲訴訟を通じての問題提起 … 杉浦ひとみ

◆司法は厳しい、されど気概ある裁判官になお期待したい
──パネラーの各発言と弁護団報告に触発されて … 森野俊彦
◆司法の希望を切り拓くために── 報告のまとめとして … 豊川義明
◆青法協弁学合同部会議長 挨拶 … 上野 格
◆希望への道筋 ── 良心の力を信じて進む … 梓澤和幸

Comments are closed.

澤藤統一郎の憲法日記 © 2021. Theme Squared created by Rodrigo Ghedin.