澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

ロシア国営放送での戦況悪化への批判は、プーチン政権を揺るがすことになるだろう。

(2022年5月20日)
 ニューズウィーク日本語オンライン版に、興味深い記事が続いている。昨日の記事の表題は、「ついにロシア国営TV『わが軍は苦戦』 プロパガンダ信じた国民が受けた衝撃」というもの。原題は、「Russian People Surprised to Find Out Ukraine War Not Going Well on State TV」。ウクライナでの戦況が、「Not Going Well」であることが、「State TV」で公然と語られているというのだ。このことに、「Russian People」が「Surprised」というのだが、我々も驚かざるをえない。

 戦況の悪化は銃後の社会の空気を変え、政治状況をも変えかねない。そのような事態を避けるための報道統制なのだが、もはや覆うべくもない戦況の劣勢が明らかで報道統制困難となりつつあるのだ。プーチン政権、実は見かけほど強くはない。あらゆる面での破綻が見え初めている。さして長くは持たないのではないか。

 これまでは愛国心むき出しに戦果を強調してきたのが、ロシアの国営テレビだったはず。それが、遠慮なく「ロシア軍の状況は悪化する」との見通しを述べるようになっている。「大本営発表はウソだった」「王様は実は裸なのだ」というのだから、その衝撃が小さかろうはずはない。

 「国営TV局『ロシア1』のトークショーでは、番組司会者のウラジミール・ソロヴィヨフが兵站への不満をぶちまけた。『我々の兵に何かを届けるのは事実上不可能では。この不満は100回も述べてきた』『ドンバス地方に何かを持ち込みたいなら、(西部)リヴィウのウクライナ税関を通す方がまだ早い』」

 ソロヴィヨフはこれまでプーチン政権のプロパガンダを積極的に担ってきた人物。デイリー・メール(英)紙は「プーチンの最も有名な操り人形のひとつ」であるソロヴィヨフが軍部を「公然と批判しはじめた」と報じた。

 同紙は続けてこう言っている。「ウクライナ政府転覆をねらう『特別軍事作戦』に数日間を見込んでいたところ、突入から2ヶ月以上が経つ。プーチンの太鼓持ちたちでさえ、進展のなさに言い訳が尽きたようだ。」

 番組出演者らは口々に、兵士たちが「去年の装備(もはや旧式となった装備)」で戦地に送り出されていると述べ、近代化が遅れるロシア軍の状況を憂慮した。

 これに対して、ある視聴者は「去年の装備をもたされ、去年の戦争に、去年の思考と信念をもった指導者によって送り出される。あなた方の華麗な失敗に祝福を。ウクライナに栄光あれ」とのコメントを残した。

 戦地での局所的な問題だけでなく、ロシアには国家として長期化する戦線を支えるだけの経済力が残っていないのではないかとの指摘も国内から出はじめている。軍事評論家のコンスタンティン・シヴコフ氏はTV出演を通じ、「我々の現行の市場経済は、我々の軍の需要に耐えることができない」との分析を示した。

 豪ニュースメディアの『news.com.au』はこうした一連の批判劇を動画で取り上げ、「ウラジミール・プーチンのくぐつメディアがついにプーチンに背を向けた」と報じた。「プーチンのプロパガンダ機関らが、ロシア軍の状況をおおっぴらに批判しはじめた」とし、軍部への不満が表面化していると指摘しているという。

 さらに話題になっているのは、軍事アナリストのミハイル・キョーダリョノクによる発言。「ロシア1」は、プーチン大統領によるウクライナ侵攻について愛国的なトーンで報道を行っているが、キョーダリョノクは同チャンネルの番組「60ミニッツ」の中で、ロシア軍には物資も兵力も不足していることから、兵を総動員しても戦況が大きく好転することはないとの予測を語った。「我々には、(前線への投入に備える)予備隊がないのだ」と氏は述べている。

 彼は防空司令官から軍事評論家に転身し、2020年には「祖国貢献勲章」を受賞した人物。「事実上、全世界が我々に反対している」と、ロシアが国際社会で孤立していることを認め、さらに、重要なのはウクライナ軍が「最後の一人になるまで戦う」意思を持っていることだとし、ロシア軍は士気の高いウクライナ軍を相手に、厳しい戦いに直面することになるだろうと述べた。

 ウクライナ政府は、100万人を動員して、西側諸国から供与を受けた武器で武装させることができると述べ、ロシア軍にとっての状況は「率直に言って悪化するだろう」と指摘した。

 また彼は5月の初め「ロシア1」に出演した際に、ロシア国民を総動員しても、大した戦果は挙げられないと述べ、その理由として、ロシアが保有する時代遅れの兵器では、NATOが(ウクライナに)供与した兵器には太刀打ちできないからだと指摘してもいた。

 戦況の悪化が正確に国民に伝わり、しかも挽回が無理だとなれば、若者の命を無駄に捨てるなという世論が起こることになる。「ロシアの社会の空気を変え、政治状況をも変えかねない」という事態が始まりつつあることを予感させる。

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