学術会議会員だけではない。最高裁裁判官任命でも内閣の恣意は許されない。
(2020年11月15日)
ネットを漂流していると、人々のつぶやきに絶望的な気分になる。日本人の知性や理性や矜持は、どこへ行ってしまったのだろう。人は、かくもたやすく権力の情報操作に欺され操られてしまう愚かな存在なのか。また、かくも権力になびきへつらうみっともない存在なのだろうか。
鈴木宗男という日本維新の会の参議院議員がいる。自ら「私は国策捜査によって逮捕されました」「437日間勾留され」「(刑の確定後)丸1年塀の中におりました」と述べている人。身をもって権力の恐ろしさを体験した人だ。
過日(10月4日)、この人の学術会議会員任命拒否問題についての政権寄りのブログを目にして、以下の記事を掲載した。
鈴木宗男さん、菅義偉政権の学術会議人事介入問題、考え直していただけませんか。
https://article9.jp/wordpress/?p=15743
しかし、効果はなかったようだ。この人が、一昨日(11月13日)のブログに、最高裁裁判官任命問題について、菅官房長官(当時)を擁護するこんな記事を掲載している。
毎日新聞朝刊5面に「最高裁でも人事圧力 前政権『複数人示せ』」という見出し記事がある。正確を期すために一部活用したい。
「2012年12月の第2次安倍政権発足以降、退官する最高裁判事らの後任人事で、首相官邸への説明方法が変わった。『なんで1人しか持ってこないのか。2人持ってくるように』。官邸事務方トップの杉田和博官房副長官が、最高裁の人事担当者に求めた。
最高裁は以降、2人の後任候補を官邸へ事前に届けるようになった。2人のうち片方に丸印が付いていたのは、最高裁として優先順位を伝える意図があった。しかし、当時の官房長官、菅義偉首相は突き返した。『これ(丸印の方)を選べと言っているのか。今までの内閣がなぜこんなことを許してきたのか分からない』」
最高裁判事は、任命は政府がし、国会同意人事で決める。当然任命する側の判断があって当然でないか。
当たり前の事を言っていると考えるが、この当たり前の事にクレームをつける頭づくりはどこからくるのか。
これまでメディアが報じてきたことは、すべて正しかっただろうか。19年前、メディアスクラムによる事実でない、真実でない「ムネオバッシング」を経験した者として、厳しく指摘したい。(以下略)
この人は、保守派の議員として、権力から欺されるだけの立場ではなく、国民を欺す立場でもある。本気でこのとおり考えているのか、このように考えているフリをしているのか、よく分からない。
この「鈴木宗男見解」は、社会科授業のよい教材ではないか。高校あるいは中学校の公民の教師の方にお勧めする。三権分立という統治機構の大原則について、教科書的解説をしたあとに、生徒にこう問いかけてみてはどうか。
「最高裁裁判官の選任・任命の実態について、毎日新聞がこのようになっていると報道しています。毎日新聞は、《最高裁でも人事圧力 前政権『複数人示せ』》と批判する立場で見出しを掲げていますが、鈴木宗男さんという国会議員は、《当然任命する側の判断があって当然でないか》という立場を明らかにしています。本日学習した三権分立という原則に照らして、あなたの意見を述べてください」
想定の典型解答例は、こんなところだろうか。
「私は、毎日新聞の立場が正しいと思います。権力が集中すると行政権が強くなり過ぎて人権を侵害する恐れが大きくなります。これを防ぐのが三権分立で、とりわけ、司法が行政や立法をチェックできなければなりません。でも、行政権の長が、自分の意思のとおりに最高裁裁判官を任命できるということでは、三権分立も司法の独立も形式だけのものになってしまうからです」
「ボクは、鈴木さんの立場が正しいと思います。どうしてかというと、国会議員が間違ったことを言うはずはないからです。それに、『毎日新聞は、反日的な立場が強すぎる』と父が言っていました。だから、毎日新聞は、菅義偉首相の名前を出して、日本を弱くするような記事を書いているのだと思います」
「私は、鈴木宗男さんがきちんと考えて意見を言っているとは、とても思えません。『最高裁判事は、任命は政府がし、国会同意人事で決める。』は、明らかに間違いです。最高裁判事の任命権が内閣にあるとしても、その任命権の行使には三権分立や司法の独立を保障するような工夫が必要だと思います。行政権内部の公務員と同じように、『任命する側の判断があって当然』という態度は、憲法を良く理解していないからだと思います」
「ボクは、国益を守るということが何よりも大切だと思います。そのためには、強い政府が必要なのですから、司法の役割などはどうでもよいのではありませんか。だから、三権分立は形だけでよいと考えるべきです。きっと、菅首相も、鈴木宗男さんも、ボクと同じ考えのはずです。弱い政府を作るための三権分立は無意味ですから、最高裁裁判官は政府が自分の都合で決めたら良いと思います」
「最高裁裁判官をどう選ぶかは、難しい問題だと思います。内閣は、自分にとって都合の良い、言うことを聞くおとなしい人を裁判官に任命したいと思うでしょうが、それでは三権分立の精神に背くことになります。ですから、内閣の思惑よりは、最高裁の判断を尊重しなければならないと思います。最高裁の推薦を突っ返したという『当時の官房長官、菅義偉首相』は恐ろしい人だと思います。鈴木宗男さんの意見は、菅さんにゴマを摺っているだけではないでしょうか」