これは、大きな問題だ。ぜひあなたも、高市早苗と安倍政権に抗議の声を。
2月8日と9日の衆議院予算委員会における総務相高市早苗発言。放送メディアを威嚇し恫喝して、アベ路線批判の放送内容を牽制しようという思惑の広言。あらためて、これは憲法上の大問題だと言わざるを得ない。政治とカネの汚い癒着を露呈した甘利問題もさることながら、表現の自由・国民の知る権利、そして民主主義が危うくなっていることを象徴するのが高市発言。もっと抗議の声を上げなければならない。
表現の自由こそは、民主主義社会における最重要のインフラである。これなくして、民主主義も平和も、社会の公正もあり得ない。そして、この表現の自由とは、何よりも権力からの自由である。表現の自由の主たる担い手であるメデイアは、常に権力からの介入に敏感でなくてはならない。いま、放送というメディアに権力が威嚇と恫喝を以て介入しているときに、肝心のメディア自身に危機感が見えない。もっと真剣に対峙してもらいたい。
残念ながらメディアの反応は鈍く、中央紙の社説では下記の3本が目につく程度。
毎日社説 2月10日 総務相発言 何のための威嚇なのか
読売社説 2月14日 高市総務相発言 放送局の自律と公正が基本だ
東京新聞 2月16日 「電波停止」発言 放送はだれのものか
政府寄り・アベ御用達と揶揄されるスタンスの社も、メディアのプライドをかけて高市発言を批判しなければなるまい。この事態を放置しておけば、確実に「明日は我が身」なのだから。しかも、各紙とも系列の電波メディアを持っている。とうてい他人事ではないのだ。
メディアの反応が鈍ければ、主権者が直接に乗り出すしかない。そこで、ご提案したい。ぜひ皆さま、抗議の声明を出していただきたい。個人でも、グループでも、組合でも、民主団体でも…。声明でも、要請でも、抗議文でも、申入書でも…形式はなんでもよい。宛先は高市早苗と安倍政権。あるいは、各放送メディアへの要請もあってしかるべきだろう。手段は、ブログもよし。手紙でもファクスでもメールでもよい。
問題は、文面である。在野・市民団体の側の危機感は鋭く、高市発言以来昨日(2月16日)までに、多くの抗議の声が上げられている。その内、下記4本の声明や申入れが代表的なもので、ほぼ問題点を網羅している。いずれも、日頃からの問題意識あればこその迅速な対応としての声明文だ。それぞれに特色があるが、並べて読めば網羅的に問題点を把握できる。これを読み比べ、議論の叩き台として、見解をまとめてみてはいかがだろうか。
官邸の宛先は
〒100-8968 東京都千代田区永田町1-6-1
内閣総理大臣 安倍晋三殿
下記アドレスから官邸へのメール発信が出来る。
https://www.kantei.go.jp/jp/forms/goiken_ssl.html
総務大臣の宛先は、
〒100?8926東京都千代田区霞が関2-1-2
中央合同庁舎第2号館
総務大臣 高市早苗殿
総務大臣宛には、下記URLからメールで。
https://www.soumu.go.jp/common/opinions.html
なお、2月8日衆院予算委員会議事録のネットでの公開はまだないが、下記のサイトで、記録を起こした全文が読める。「高市早苗氏『電波の停止がないとは断言できない』放送局への行政指導の可能性を示唆」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160209-00010000-logmi-pol
また、参考とすべき放送法は
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO132.html
電波法は、
http://www.houko.com/00/01/S25/131.HTM
代表的な4本の抗議声明とは、下記のA?D。いずれも、信頼できる団体の信頼できる内容。
A 2月10日 民放労連声明
「高市総務相の「停波発言」に抗議し、その撤回を求める」
http://www.minpororen.jp/?p=293
B 2月12日 放送を語る会・日本ジャーナリスト会議
「高市総務大臣の「電波停止」発言に厳重に抗議し、大臣の辞任を要求する」
http://jcj-daily.seesaa.net/article/433733323.html
C NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ 申入れ
「高市総務相の「停波」発言の撤回と総務大臣の辞職を求める申し入れ」
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2016/02/post-e9fb.html
D 2月16日 東京弁護士会・会長声明
「高市早苗総務大臣の「放送法違反による電波停止命令を是認する発言」に抗議し、その撤回を求めると共に、政府に対し報道・表現の自由への干渉・介入を行わないよう求める会長声明」
http://www.toben.or.jp/message/seimei/post-425.html
それぞれの特色があるが、下記の点では、ほぼ共通の認識に至っている。
(1) 高市発言の「放送法の規定を順守しない場合は行政指導を行う場合もある」「行政指導しても全く改善されず、公共の電波を使って繰り返される場合、それに対して何の対応もしないと約束するわけにいかない」の部分を問題として取り上げ、これを不要不適切というのみならず、放送メディアに対する威嚇・恫喝と把握していること。
(2) 高市発言が、「放送法4条違反を理由に電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性に言及した」ことについて法の理解を間違いとしている。憲法・放送法の研究者においては放送法第4条は放送事業者に法的義務を課す規範ではなく、放送事業者の内部規律に期待した倫理規定とみなすのが定説であって、権力規制に馴染まないこと。
(3) 高市発言は、安倍政権の報道の自由への権力的介入の姿勢の象徴であるとともに、高市自身の日頃の政治姿勢の問題の発露でもあること。
(4) 電波管理行政を所管する大臣からの、メディアへの威嚇・恫喝は、憲法21条の理念に大きく違背するものとして、憲法上重要な問題であること。
(5) 高市には閣僚としての資質が欠けているとして、本人には辞任を、政権には更迭を求めていること。(弁護士会声明だけは別)
以下、各声明・申し入れの特徴を略記しておきたい。
A 2月10日 民放労連声明
さすがに、対応が迅速である。高市発言を放送の自由に対する権力的介入と捉え、これを我がこととしての当事者意識が高い。その自覚からの次の苦言が印象的である。
「今回のような言動が政権担当者から繰り返されるのは、マスメディア、とくに当事者である放送局から正当な反論・批判が行われていないことにも一因がある。放送局は毅然とした態度でこうした発言の誤りを正すべきだ。」
また、問題の根源が未熟な政府の放送事業免許制にあるとして、次の提案がなされている。
「このような放送局への威嚇が機能してしまうのは、先進諸国では例外的な直接免許制による放送行政が続いていることが背景となっている。この機会に、放送制度の抜本的な見直しも求めたい。」
B 2月12日 放送を語る会・日本ジャーナリスト会議声明
高市総務大臣の「個性」に着目して背景事情を語り、その資質を問題として糾弾する姿勢において、もっとも手厳しい。
「もし高市大臣が主張するような停波処分が可能であるとすれば、その判断に時の総務大臣の主義、思想が反映することは避けられない。
仮に高市大臣が判断するとした場合、氏はかつて『原発事故で死んだ人はひとりもいない』と発言して批判をあび、ネオナチ団体代表とツーショットの写真が話題となり、また日中戦争を自衛のための戦争だとして、その侵略性を否定したと伝えられたこともある政治家である。このような政治家が放送内容を『公平であるかどうか』判定することになる。
時の大臣が、放送法第4条を根拠に電波停止の行政処分ができる、などという主張がいかに危険なことかは明らかである。」
「我々は、このような総務大臣と政権の、憲法を無視し、放送法の精神に反する発言に厳重に抗議し、高市大臣の辞任を強く求めるものである。」
C NHKを監視・激励する視聴者コミュニティの総務大臣宛申入れ
小見出しを付した3パラグラフから成る。もっとも長文であり、叙述も広範囲に亘っている。
1.倫理規範たる放送法第4条違反を理由に行政処分を可とするのは法の曲解であり、違憲である。
「最高裁判決は、放送法4条の趣旨を、『他からの干渉を排除することによる表現の自由の確保の観点から,放送事業者に対し,自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたもの』と言っている。権力的な介入を認める余地はない。」
2. 停波発言は2007年の放送法改正にあたって行政処分の新設案が削除され、真実性の確保をBPOの自主的努力に委ねるとした国会の附帯決議を無視するものである。
「高市総務相は『BPOはBPOとしての活動、総務省の役割は行政としての役割だと私は考えます』と答弁し、BPOの自立的な努力の如何にかかわらず、行政介入を行う意思を公言した。しかし、権力的介入を防止し、社会的妥当性を踏まえた自律機能を発揮するのがBPOの存在意義。高市発言は、BPOの存在意義を全面的に否定するものにほかならない。」
3. 放送法第4条に違反するかどうかを所管庁が判断するのは編集の自由の侵害である。
「政治的に公平だったかどうか、多角的に論点を明らかにしたかどうかは往々、価値判断や対立する利害が絡む問題である。そして報道番組の取材対象の大半は、時の政権が推進しようとする国策であり、報道番組では政府与党自身が相対立する当事者の一方の側に立つのがほとんどである。放送に関する許認可権を持つ総務大臣が、放送された番組が政治的に公平かどうかの審判者のようにふるまうのは、自らがアンパイアとプレイヤーの二役を演じる矛盾を意味する。その上、放送事業者に及ぼす牽制・威嚇効果は計り知れず、そうした公言自体が番組編集の自由、放送の公平・公正に対する重大な脅威となる。」
D 2月16日 東京弁護士会・会長声明
高市問題に関する最初の弁護士会声明である。憲法21条についての実践的重要課題として迅速に取り上げた執行部に敬意を表したい。
最後は、「よって、報道・表現の自由を萎縮させ、国民の知る権利を侵害し立憲民主主義を損なう高市早苗総務大臣の発言に強く抗議し撤回を求めると共に、政府に対し報道・表現の自由への干渉・介入となり得るような行政指導や発言を行わないよう求める。」と結ばれている。ここにも見られるとおり、高市よりは、むしろ政府に対する抗議と要請になっていることに特色がある。
「菅官房長官や安倍総理も、この(高市)発言を『当然のこと』『問題ない』として是認している。しかし、このような発言や政府の姿勢は、誤った法律の解釈に基づき放送・報道機関の報道・表現の自由を牽制し委縮させるもので、我が国の民主主義を危うくするものである。」というのが基本姿勢。
「憲法21条2項は検閲の禁止を定めているが、これは表現内容に対する規制を行わないことを定めるものでもある。1950年の放送法の制定時にも、当時の政府は国会で「放送番組については、放送法1条に放送による表現の自由を根本原則として掲げており、政府は放送番組に対する検閲、監督等は一切行わない」と説明している。
放送法4条が放送内容への規制・制限法規範になるものではなく、放送事業者の自律性における倫理規定に過ぎないことは明らかである。」「政府が、放送法4条の「政治的に公平」という言葉に部分的に依拠しそれが放送事業者に対する規制・制限法規範であると解釈して、行政指導の根拠とすることは許されず、さらに違反の場合の罰則として電波法76条1項による電波停止にまで言及することは、憲法および放送法の誤った解釈であり許されない。」とする。
その上で、「放送法4条についての今般の解釈を許すならば「政治的に公平である」ということの判断が、時の政府の解釈により、政府を支持する内容の放送は規制対象とはならず、政府を批判する内容の放送のみが規制対象とされることが十分起こり得る。さらに、電波停止を命じられる可能性まで示唆されれば、放送事業者が萎縮し、公平中立のお題目の下に政府に迎合する放送しか行えなくなり、民主主義における報道機関の任務を果たすことができなくなる危険性が極めて高くなるものである」とたいへん分かり易い。
安倍政権は、今や誰の目にも、存立危機事態ではないか。アベノミクスは崩壊だ。閣僚不祥事は次々と出て来る。そして、メディアを牽制するだけが生き残りの道と思っているのではないか。なんとか生き延びて、悲願の改憲をしたいというのがホンネであろう。
一つ一つの課題に、抗議の声を積み上げたいものと思う。
(2016年2月17日)