澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

「マイナンバー使用は 自尊心が許さない」

先日、少人数の学習会の席で、マイナンバーを話題にした。「みなさん、役所への書類にマイナンバーを書いていますか?」と振ったら、一人の女性がこう言った。
「私には、ちゃんとした名前があります。役所から勝手に12ケタの番号を押しつけられて、これを名前の代わりに使えといわれてもその気にはなれません。私は、国から番号で管理されるのはイヤですから、マイナンバーはけっして使いません。マイナンバー書かないから逮捕するなどということがない限り(笑)」
なんときっぱりした、すがすがしい姿勢。これは素晴らしい。

この女性の発言は、マイナンバー使用の押しつけは自分の人格の尊厳を傷つけるものだという主張。「私は名前を持っている」「私を特定するのは名前で願いたい」「割り当てた番号で私を管理することは拒否する」という、自尊心がほとばしり出た言である。これを支える憲法の条文を探せば13条(個人の尊重)であり、11条(基本的人権の享有)であり、あるいは97条(基本的人権の本質)ということになろう。憲法にどう書かれていようと、なにより大切なのが個人であり、その尊厳だ。国家は、個人の尊厳を傷つけてはならず、個人の尊厳を最大限尊重しなければならない。マイナンバーの使用は、これに反するではないか。

そう思っていたところに、先週金曜日(3月24日)赤旗「くらし・家庭」欄のマイナンバー解説記事に接した。その見出しが「マイナンバーは個人の尊厳侵す」である。解説者は、旧知の浦野広明さん(税理士・立正大学法学部客員教授)。大いに賛同する立場から、ご紹介したい。

まず、結論。明快この上ない。
個人番号(マイナンバー)は憲法13条が保障する個人の尊厳を侵すもので、明らかに憲法違反です。『法律だから』といって従うのではなく、はっきり拒否すべきです。

マイナンバーを違憲と主張する複数の裁判も係属中だという。
国を相手に個人番号の利用停止や削除などを求める違憲訴訟も、全国八つの地裁で進行中です。

具体的にどう対応すべきか。
悪法は世論と運動の力で使わせずに形骸化させることが大事です。窓口で『知りません』『番号を使うつもりはありません』といえば、それまでです。

ほんとうにそれで大丈夫なのか。面倒なことにならないか。
約100件の相談を受け、番号を記載せずに郵送で申告してすべて受理されました。国税庁などの省庁も『番号未記載でも受理し、罰則や不利益はない』と繰り返し表明しています。

次いで、制度についての納得できる説明。まずは法の名称。こんなことご存じでしたか。
「マイナンバー」の根拠法である「個人番号法」の正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」です。似た名前の法律に「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」(2003年)があります。BSE(牛海綿状脳症)対策として導入された同法によって、肉屋さんや消費者は、肉の生産履歴を知ることができます。牛の個体識別は食の安全・安心にとって有用でしょうが、私たちは家畜ではありません。

表向きの立法目的と真の立法動機
徴税など政府の都合や目的のために、私たちの全情報を一つの番号で収集・管理し、「特定の個人を識別するための番号の利用」が個人番号の核心なのです。私たちは既に、個別の目的ごとに、さまざまな番号をつけられています。基礎年金番号や保険者番号、・住民登録番号、運転免許証、パスポート、診察券、口座番号、社員番号などなどです。しかし、個人番号は、すべての情報を一つの番号で国が一元的に管理しようというものです。

マイナンバー制度はどんな危険をもっているか。
番号制を導入している韓国では、コンビニで買い物する際に番号を提示します。何番が、いつ、どこで、何を売買したかが、レジと国税庁のコンピューターが連動していて把握できます。このように、一つの番号で個人の全情報をつかむことは、憲法13条が保障する個人の尊厳に反することは明らかです。

マイナンバーの利便性についての国の説明
国は、「マイナンバーは、行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平かつ公正な社会を実現する社会基盤」(内閣官房ホームページ)と説明します。しかし、《コンビニで住民票が取れる》程度の利便性と引き換えに、個人の尊厳を捨てたり、個人情報の流出・番号不正利用の危険に甘んじたりするわけにはいきません。

国民にマイナンバー使用の義務はない。
番号を扱うのは、国と地方自治体、「番号を利用する事業者」です。国民には何ら義務規定はなく、もちろん罰則や不利益もありません。

他人の番号を集めると苦労する
番号は最終的には国が把握しますが、社会保障や税の分野などでは個人番号を集めるのは主に民間です。漏えいなどに対する重い罰則があり、取り扱いで苦労することになります。すでに、番号がもれた時の損害保険も用意されています。

マイナンバー笑うは政府と大企業
個人番号は初期投資だけで3000億円、セキュリティー対策などで1兆円市場といわれます。大儲けするのは一握りの大手IT企業だけです。
(2017年3月27日)

マイナンバー さわらぬ神に 祟りなし(再論)

12月11日の当ブログで「マイナンバー さわらぬ神に 祟りなし」を掲載した。
http://article9.jp/wordpress/?p=7814
その記事では、番号法(正確には「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」)やマイナンバー制度の理念的なものに関する、私なりの基本姿勢を明確にした。本日は、その再論であるが、個人のマイナンバー提供(通知)義務、事業者の収集義務の有無と強制性についてだけ整理して補充しておきたい。

結論から言えば、形式的には特定の場合にマイナンバーの提供(通知)義務があり、事業者にマイナンバーの収集義務がある。しかし、その義務を強制する制度は設けられていない。もちろん、刑事的にも行政的にも罰則はなく、その義務の不履行による不利益はまったくない。実質的には義務ありとは言いがたいのだ。むしろ、この義務を履行することによる不利益が極端に大きい。

番号法の管轄は内閣府であるが、その利用は税務分野と社会保障分野であって、税務分野の利用については国税庁が、社会保障分野では厚労省が管轄することになる。

まずは、国税関係である。
前回ブログでも触れた「税経新人会」のマイナンバー制度に関するリーフレットの「Q&A」を再度引用しておこう。マイナンバーを利用する必要はさらさらないのだ。

Q2 番号は提出しなければ不利益があるのでしょうか?
 番号法では、個人に提出義務を規定していませんし、提出しないことによる不利益の記載もありません。番号を記載しなければならないというのは、国税通則法や年金法などに記載されていますが、罰則はありません。漏えいの危険があり、悪用される危険がある番号を出しませんという意思表示をしましょう(収集を求める方は、その内容を記録に残せばよいことになっています)

Q3 事業者は、従業員の番号を収集しなければならないのでしょうか?
 番号法では、事業者に対し、収集の義務を規定していません。事業者は、番号を取集した場合は、漏えいしないように「安全管理措置」をとるために経費が増大し、神経を使うことになります。また漏えいした場合は、報告義務、刑事罰・罰金など責任は増大します。これらの負担と責任を考えると収集しないことが一番の「対策」です。

以上のとおり、番号法はマイナンバーの利用について、何の義務付けも行っていない。義務規定は税務に関する法律を根拠にする。このことを踏まえて、国税庁のホームページでは、次のように述べられている。全文をじっくりとお読みいただきたい。

番号制度概要に関するFAQ
(2)税務関係書類への番号記載
Q 2-3-1 申告書や法定調書等を税務署等に提出する場合、必ずマイナンバー(個人番号)・法人番号を記載しなければなりませんか。
(答)番号法整備法や税法の政省令の改正により、税務署等に提出する申告書や法定調書等の税務関係書類にマイナンバー(個人番号)・法人番号を記載することが義務付けられました。
したがって、申告書や法定調書等を税務署等に提出する場合には、その提出される方や、扶養親族など一定の方に係るマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載が必要となります。

Q 2-3-2 申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号を記載していない場合、税務署等で受理されないのですか。
(答)税務署等では、社会保障・税番号<マイナンバー>制度導入直後の混乱を回避する観点などを考慮し、申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合でも受理することとしていますが、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務ですので、正確に記載した上で提出してください。
 なお、記載がない場合、後日、税務署から連絡をさせていただく場合があります。

Q 2-3-3 税務署等が受理した申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合や誤りがある場合には、罰則の適用はありますか。
(答)税務署等が受理した申告書や法定調書等の税務関係書類にマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合や誤りがある場合の罰則規定は、税法上設けられておりませんが、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務ですので、正確に記載した上で提出をしてください。

もう一つ。同じ国税庁ホームページに、「法定調書に関するFAQ」として次の記載がある。

(1)法定調書関係(総論)
Q 1-2 従業員や講演料等の支払先等からマイナンバー(個人番号)の提供を受けられない場合、どのように対応すればよいですか。
(答)法定調書の作成などに際し、従業員等からマイナンバー(個人番号)の提供を受けられない場合でも、安易に法定調書等にマイナンバー(個人番号)を記載しないで税務署等に書類を提出せず、従業員等に対してマイナンバー(個人番号)の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務であることを伝え、提供を求めてください。
 それでもなお、提供を受けられない場合は、提供を求めた経過等を記録、保存するなどし、単なる義務違反でないことを明確にしておいてください。
 経過等の記録がなければ、マイナンバー(個人番号)の提供を受けていないのか、あるいは提供を受けたのに紛失したのかが判別できません。特定個人情報保護の観点からも、経過等の記録をお願いします。
なお、税務署では、番号制度導入直後の混乱を回避する観点などを考慮し、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合でも書類を収受することとしていますが、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務であることから、今後の法定調書の作成などのために、今回マイナンバー(個人番号)の提供を受けられなかった方に対して、引き続きマイナンバーの提供を求めていただきますようお願いします。

以上で尽きている。税務当局は番号記載は申告者の義務だと言い、事業者への番号提供(通知)も「義務」だという。しかし、義務の程度には濃淡がある。法は、その義務の履行を実現するための何の措置も用意していない。罰則もなければ、番号記載のない書類は受付けないとも言えない。

「税務署等では、社会保障・税番号<マイナンバー>制度導入直後の混乱を回避する観点などを考慮し、申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合でも受理することとしています」「税務署では、番号制度導入直後の混乱を回避する観点などを考慮し、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合でも書類を収受することとしています」と、国税庁がマイナンバー不記載でも書類は受け付けると繰り返し明言していることに意味がある。

もしかしたら、運の悪い人には、税務署から「マイナンバーの記載がございませんが、記載が義務だということをご存じでしょうか。」「何か、義務の履行ができないご事情でもございますか」と問合せあるかも知れない。その場合は、臆せず堂々と、「私は義務とされていることは知っています」「しかし、私は自分の人格がナンバーによって管理されることが不愉快なのです」「私のナンバーが漏洩して、悪用される恐れが否定し得ないのですから、ご協力はできません」といえばよいだけのことなのだ。

社会保障分野でも、仕組みはまったく同じことだ。厚労省のホームページから、下記を引用しておきたい。

サイトの標題は、「社会保障・税の手続書類へのマイナンバー(個人番号)の記載について、事業主・従業員の皆さんのご協力をお願いします。」というもの。飽くまで、「ご協力のお願い」なのだ。

1 事業主の皆さんへ
◆ 社会保障・税に関する手続書類の作成事務を処理するために必要がある場合に限って、従業員にマイナンバーの提供を求められます。
また、従業員から受け取ったマイナンバーは適切に管理する必要があります。

2 従業員の皆さんへ
社会保障・税に関する手続書類へのマイナンバーの記載は、法令で定められた事業主の義務となっており、事業主は、マイナンバー法に基づき、従業員に対してマイナンバーの提供を求めることができます。
◆ 従業員も、事業主から、法律に基づく正当なマイナンバーの提供の求めがあった場合には、これに応じていただくようお願いいたします。
《事業主に提供したマイナンバーの取扱い》
事業主は、法律で限定的に定められている場合以外の場合に、従業員のマイナンバーや、マイナンバーと結びついた情報を利用したり、第三者に提供することはできません。
また、事業主は、従業員のマイナンバーや、マイナンバーと結びついた情報の漏えい、滅失等の防止その他の適切な管理のため、必要かつ適切な「安全管理措置」を講じなければならないこととされています。

Q3 勤務先から、マイナンバーを提供しないと、解雇したり、賃金を支払わないと言われたのですが・・。
社会保障・税に関する手続書類へのマイナンバーの記載は、法令で定められた事業主の義務であり、事業主は、マイナンバー法に基づき、従業員に対してマイナンバーの提供を求めることができます。このことをご理解いただき、事業主から、法律に基づく正当なマイナンバーの提供の求めがあった場合には、これに応じていただくようお願いします。
 一方で、マイナンバーを提供しないことを理由とする賃金不払い等の不利益な取扱いや解雇等は、労働関係法令に違反又は民事上無効となる可能性があります。
職場で起きた労働問題については、都道府県労働局や労働基準監督署内に設置されている総合労働相談コーナーにご相談ください。

特に解説は要らないだろう。漏洩したらたいへんなマイナンバーである。うっかり他人に知られるのは恐いことだ。また、うっかり番号を預かると、漏洩の罰則が恐い。知らないのが一番。知らせない、預からない、提供しない、提供を求めない、に徹するに如くはない。その方が安全なのだ。

あらためて、
 マイナンバー さわらぬ神に 祟りなし
 マイナンバー さわってしまえば 祟りあり
そして、
 マイナンバー みんなで拒否すりゃ 恐くない
 マイナンバー ひとりで拒否も 恐くない
(2016年12月25日)

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