澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

宇都宮健児君、立候補はおやめなさいーその15

これまでのブログで、私は具体的理由を挙げて、宇都宮君の候補者としての能力の不足と、「人にやさしくない」体質について述べてきた。宇都宮君の人格を誹謗したり中傷することを目的としてではなく、すべては東京都の有権者に、彼を都知事選の候補者として推薦できるかについて、情報を提供するという観点からの指摘である。宇都宮君の能力の不足も、求められる資質も、あくまで「都知事選の革新共闘の候補者として」求められる水準に照らしてのものである。判断のための、貴重な情報の提供だと信じている。

さらに私は、宇都宮君自身と、宇都宮君が責任をもたざるを得ない宇都宮選対の公選法違反疑惑についても指摘した。口火を切ってから2週間となるが、まだ反論に接していない。漏れ聞こえてくるところでは、宇都宮陣営では「澤藤の指摘の内容は大したことではない」「そもそも澤藤が責任をもつべきことなのに違法行為の指摘は怪しからん」ということのよう。このような対応に、私は、やや焦りを感じる。もう少し、正確に事態の深刻さを認識していただきたい。

私は、当不当のレベルではなく、違法のレベルの問題点として、3件の指摘をしている。具体的に公職選挙法の条文を引用して、犯罪に該当する疑惑があると指摘した。これを「大したことはない」というのだろうか。

まさかとは思うが…、もしかしたら…、「猪瀬の違法疑惑の問題は返還したと言っても5000万円の金銭の授受だった。これに対して、澤藤が指摘した上原公子選対本部長が受領した選挙運動報酬額はわずか10万円。大したことではない」などとお考えではなかろうか。

念のためだが、次の新聞記事をご覧いただきたい。産経の2010年9月11日のもの。見出しは「田村陣営の女性秘書 高知区検が略式起訴 参院選選挙違反」本文は以下のとおりである。

「高知区検は10日、電話で選挙運動した高知大の男子学生(23)に報酬約1万3千円を支払ったとして、7月の参院選高知選挙区で落選したTK氏陣営の女性秘書(59)を公選法違反(買収)罪で 高知簡裁に略式起訴した。簡裁は同日、罰金20万円の略式命令を出し、秘書は即日納付した。
 男子学生は同法違反(被買収)容疑で書類送検されたが、区検は違法性が低いとして起訴猶予処分とした。
 区検などによると、TK氏の陣営は選挙運動のアルバイト求人を高知大に出し、男子学生は求人票をみて応募したという。」

舞台は前々回の参院選。運動員買収罪で有罪となったのは、自民党現職で落選した候補者の秘書。買収金として渡した金額は1万3000円である。それで罰金20万円となった。1万3000円をもらったアルバイト大学生は、送検され、起訴猶予処分となった。起訴猶予処分とは、犯罪成立の嫌疑は十分だが、検察官の裁量で不起訴とすることを指す。警察と検察は、自民党陣営にもかくも厳しい。1万3000円授受の容疑があれば、有罪となりうるのだ。

問題は、起訴・有罪よりは、強制捜査の恐さである。上記の記事だけでは、どのように捜査があったかはよく分からないが、逮捕者が出ても驚くに値しない。選挙事務所ないしはTK元議員の政治事務所に家宅捜索がはいっても少しもおかしくはない。事件と明らかに無関係なものの差押えには抗議するとしても、「不当弾圧だ」と拳を上げる訳にはいかないだろう。ルール違反は、TK陣営の側にあるのだから。

同じことは、本件でも起こりうる。運動員買収罪の被疑者は、おそらく選対事務局長。被買収罪の被疑者は上原さんを含む29人。1万3000円をもらったアルバイト大学生は起訴猶予となったが、上原さんらが起訴猶予で済む保証はない。そして、強制捜査もありうる。宇都宮君の事務所への捜索もありうるのだ。

「大したことはない」では済まされないと認識しなければならない。宇都宮君の立候補を推薦するには、そのようなリスクを引き受ける覚悟が必要なことを知らねばならない。

次は、2010年7月30日の朝日の記事(抜粋)をご覧いただきたい。同じ参院選における民主党NK候補(民主)についての選挙違反報道記事。これは、宇都宮君自身の違反(容疑)に最も類似した事例。

「11日投開票された参院選の比例区に民主党公認で立候補し、落選したNK容疑者(65)=東京都 渋谷区=らが、経営する不動産会社「A」(同港区)の社員に選挙運動の報酬を約束したとして、警視庁は28日、NK容疑者を公選法違反(運動員買収)の疑いで逮捕したと発表した。
 捜査二課によると、NK容疑者らは公示日の6月24日ごろ、Aの社員7人に、電話で有権者に 投票を依頼することへの報酬として、通常の給与に相当する額の金を払う約束をした疑いがある。同容疑者は容疑を否認しているという。」

NK氏は、逮捕され、勾留され、起訴され、保釈され、保釈が取り消され…、とたいへんな経験をした挙げ句、一審有罪、二審有罪、最高裁まで争って有罪が確定した。もちろん弁護側にも言い分があった。しかし、懲役2年、執行猶予4年となった。なお、供与を約束された報酬金額は7人合計で70万2664円であった。平均して、ひとり当たり10万円ほど。

おそらく、この記事における犯罪容疑は、解説なしには理解できないのではないだろうか。NK氏は、自分が経営する会社の社員7人を自分の選挙の運動員として動員した。選挙運動をさせるからには、勤務実態を欠くことになって、会社からの給与は支払えない。もし支払えば、給与相当分の支払いが運動員買収金の授受となる。

だから、NK氏は、その7人を欠勤扱いにして、その分の給与の支払いをカットした。これだけなら、7人が敬愛する社長のために無償で選挙運動に参加したという美談がのこるだけで、公選法違反にはならない。

ところが、警察や検察の主張によれば、裏があった。表向きは無給としたが、実は、賃金カット分を補填する約束があったというのだ。「通常の給与に相当する額の金を払う約束をした疑いがある」というのは、そのような意味だ。結局はこの金は支払われなかったが、それでも「約束をした」ことで犯罪が成立する。NK氏は、「選挙運動報酬約束罪」で有罪となった。気の毒なのは7人の社員。約束があったとされた金はもらえず、対向犯としてこちらも犯罪(運動員被買収約束)が成立することになった。が、幸いにして起訴猶予処分となったようだ。命令されていやいややらざるを得ない立ち場であることが斟酌されたと思われる。社長のため、頑張って選挙運動をやるという姿勢で賃金補填の約束をしていたら、起訴されていたかも知れない。

本件では、候補者である宇都宮君がNK氏にあたる。東京市民法律事務所が 不動産会社「A」、法律事務所の事務員さんが「A」の社員に相当する。そして、NK氏事件と同様に、東京市民法律事務所の事務員さんが選対に派遣されて選挙運動を行っていた疑惑があるのだ。少なくとも、その外形的な事実は否定し得ない。これが典型的な候補者自身の運動員買収行為なのだ。

はたして、この疑惑を「大したことがない」と、有権者に説明できるだろうか。この疑惑に目をつぶって、政党が宇都宮君を推薦することができるだろうか。

宇都宮君は、都知事になったら徳洲会事件や猪瀬疑惑を追及するという。その言や良しである。共産党以外の都議会各党派は、猪瀬辞任と同時に百条委員会設置を断念した。はたして宇都宮君は、都民の世論を糾合して百条委員会再設置運動の先頭に立てるだろうか。おそらくは、自分の疑惑の火消しに汲々とするしかないことになるだろう。もしかしたら、自分自身の責任追及についての百条委員会の設置を覚悟しなければならない。

「そもそも澤藤が責任をもつべき立ち場であったにかかわらず、違法行為の指摘は怪しからん」というのは、批判者の気持として分からなくはない。しかし、内部告発ないしは公益通報者という者は、そのような批判を覚悟してものを言っている。「だまし討ち」以後、もう仲間内の議論は通じない。なによりも、問題は宇都宮君の公選法違反疑惑それ自体にあるのだ。けっして、その指摘にあるのではない。
だから、宇都宮君、立候補はおやめなさい。

なお、明日は、新たな「疑惑」について、言及したい。
(2014年1月4日)

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Published in 土曜日, 1月 4th, 2014, at 21:38, and filed under 宇都宮君おやめなさい.

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