宇都宮健児君、立候補はおやめなさいーその16
昨日の続き。徳洲会事件とは何であったか。2013年9月18日付の中日新聞の記事を引用する。
「医療法人「徳洲会」グループが昨年12月の衆院選で、自民党の徳田毅衆院議員(42)=鹿児島2区=の選挙運動のために、全国から多数の職員を現地に派遣し、報酬を支払っていた疑いが強まり、東京地検特捜部は17日、公選法違反(買収)の疑いで東京都千代田区の徳洲会東京本部などを家宅捜索し、強制捜査に乗り出した。
関係者によると、グループの系列病院に勤める医師や看護師、事務職員ら数百人が現地に派遣され、衆院が解散した昨年11月16日から投開票前日の12月15日まで、鹿児島市内や指宿(いぶすき)市、奄美市などで戸別訪問やポスター張りなどの選挙運動に従事。職員は欠勤扱いとなり給与は減額されたが、ボーナスを上乗せするなどして穴埋めする形で、事実上の報酬を支払ったとみられる。」
「石原宏高・UE社」事件も同様である。朝日の2013年3月16日付の記事。
「自民党の石原宏高衆院議員(48)=東京3区=が昨年の衆院選の際に、大手遊技機メーカー「ユニバーサルエンターテインメント」(本社・東京、UE社)の社員3人に選挙運動をさせた問題で、朝日新聞は、UE社内で作成された「3人は通常勤務扱いとし、残業代を支給する」などの記載がある内部文書を入手した。石原議員は疑惑発覚後、「有給休暇中のボランティアだった」として公職選挙法違反(運動員買収)の疑いを否定しているが、説明と矛盾する内容だ。」「『原則として通常勤務扱いで対応する』『選挙事務所にて残業(超過勤務)等が発生した場合には、残業代を支給する』などの記載がある。」
いずれも、「公職選挙法違反(運動員買収)疑い」の事件。徳洲会やUE社が選挙運動に派遣した職員に対して、給与を支払っていたことが運動員買収に当たる。それなりのカムフラージュを施したのだが、偽装のメッキが剥がれ落ちてのこと。
岩波書店と熊谷伸一郎事務局長にも、同様の疑惑がある。選対事務局長として、フルタイムで任務に就きながら、岩波から従前同様の給与の支払いを受けていたのではないかという疑惑。
もちろん、調査の権限をもっていない私の指摘に過ぎないのだから、疑惑にとどまる。だが、けっして根拠のない疑惑ではない。熊谷さんは、上司の岡本厚さん(現岩波書店社長)とともに、宇都宮選対の運営委員のメンバーだった。熊谷さんが短期決戦フルタイムの選対事務局長の任務を引き受けるには、当然のことながら上司である岡本厚さんの、積極的な支持があってのこと。選対事務局長としての任務を遂行するために、岩波からの便宜の供与があったことを推認が可能な環境を前提にしてのこと。常識的に、岩波から熊谷事務局長に対して、積極的な選対事務遂行の指示があったものと考えられる。
昨年の2月、私の疑惑の指摘に対して、熊谷さんは、「私は有給休暇をとっていましたから。それに、ウチはフレックス(タイム)制ですから」と言っている。これだけの言では徳洲会やUE社の言い訳と変わるところがない。また、言外に、給与の支払いは受けていたことを認めたものと理解される。
真実、彼が事務局長として任務を負っていた全期間について有給休暇を取得していたのであれば、何の問題もない。しかし、それは到底信じがたい。では、フレックスタイム制の適用が弁明となるかといえば、それも無理だろう。コアタイムやフレキシブルタイムをどう設定しようと、岩波での所定時間の勤務は必要となる。フルタイムでの選挙運動事務局長職を務めながら、通常のとおりの給与の支払いを受けていれば、運動員買収(対向犯として、岩波と熊谷さんの両方に)の容疑濃厚といわねばならない。
根本的な問題は、熊谷さんが携わっていた雑誌の編集者としての職務も、選対事務局長の任務も、到底片手間ではできないということにある。両方を同時にこなすことなど、できるはずがない。彼が選対事務局長の任務について、選挙の準備期間から選挙の後始末までの間、岩波から給与を受領していたとするなら、それに対応する編集者としての労働の提供がなければならならない。それを全うしていて、選対事務局長が務まるはずはないのだ。それとも、勤務の片手間で選対事務局長の任務をこなしていたというのだろうか。それなら、事務局長人事はまことに適性を欠いたものだったことになる。
どのような有給休暇取得状況であったか、また具体的にどのようなフレックスタイム制であったのか、さらに選挙期間中どのような岩波への出勤状況であったのか、どのように業務をこなしていたのか、知りたいと思う。労働協約、就業規則、労働契約書などを明示していただきたい。徳洲会やUE社には追及厳しく、岩波には甘くというダブルスタンダードはとるべきではないのだから。
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もうひとつの事実の指摘。こちらは古典的な「供応」である。「飲ませ、喰わせ」の件。そして、若干の「ばらまき」。
前回東京都知事選の投開票が2012年12月16日(日)。その翌週の日曜日。宇都宮選挙に関わった人々の選挙後の「慰労会」がおこなわれた。同月23日(日)午後5時開会、場所は四谷三丁目の中華料理屋「日興苑」。宇都宮選対事務所のあったビルの1階。費用は「一人3500円?(料理・お酒の追加あれば追加料金)」と告知されていた。
自費で飲み食いを楽しむことに、何の問題もあろうはずはない。しかし、飲み食いの料金(あるいはその一部)を会の財政(実質的に選挙カンパ)から捻出するとなれば、道義的な問題が出て来る。選挙に絡んでの支出となれば、選挙期間中であろうとも事前でも事後でも、公職選挙法上の犯罪成否の問題を考えなければならない。
インターネット公開されている「人にやさしい東京をつくる会」収支報告書によれば、2012年12月23日に「会食会 206,500円」の支出がある。支出先は、「中華料理 日興苑」。断定はできないが、「一人3500円」の会費を集めて、その余の「(料理・お酒の追加あれば追加料金)」分を「会」が補填したのであろう。選挙カンパを飲み食いに支出したのだ。
私はこの「慰労会」に参加していないし、後日運営委員会に当日の様子の報告はなかった。だから参加人数も知らないし、参加者からいくらの飲食費を徴収したのかも知らない。仮に、参加者が50人とすれば一人当たり4000円の「お・も・て・な・し」をしたことになる。参加者100人とすれば一人当たり2000円である。選挙終了後に、市民のカンパから、選挙運動者の飲み食いに、これだけの金額の「供応接待」に当たる支出がなされている。驚ろかざるを得ない。
道義的に大きな問題であることは明らかだ。有権者や運動員への「飲ませ・喰わせ」は昔のこと、今どきは保守陣営もやらない。それを宇都宮陣営は堂々とやった。「会」の収支報告に掲載しているのだから間違いはない。「そんなことを指摘するのが怪しからん」は筋が通らない。「人にやさしい東京をつくる会」主催の慰労会での「飲ませ・喰わせ」(会費の補助支出)の事実の存在が問題なのだ。
20万円余の「飲み・食い」費用の支出は、典型的な「供応接待」にあたる。「慰労会」参加者の中には、選挙運動員もあり、運動員ではない有権者もいたはずである。運動員でない有権者に対する供応は、「当選を得しめる目的をもつて、選挙人に対し供応接待をしたとき」(公職選挙法221条1項1号)に当たり、最高刑懲役3年となる。運動員に対する供応は、上記の「選挙人」を「選挙運動者」に読み替えることになる。投票買収と運動買収の違いに対応する「選挙運動員供応」である。
この供応の行為主体、つまり誰が決裁して支払ったのかは私は知らない。行為主体が、候補者自身であるか、選挙運動の総括主催者であるか、あるいは出納責任者である場合には、法定刑は「懲役4年」(公職選挙法221条3項1?3号)となる。
選対運営の実態に鑑みれば、上原公子選対本部長よりは、熊谷伸一郎事務局長(岩波)が選挙運動の総括主催者となる可能性が高いと思う。この宴会には、事務局長だけではなく、宇都宮君も、中山武敏君(「人にやさしい東京をつくる会」代表)も出席していた。誰がどのような立ち場で支出をしたにせよ、事後供応は成立する。
選挙犯罪のほぼすべてが「目的犯」である。本件の場合も、選挙運動期間終了後の供応が「当選を得しめる目的をもつて」のものと言えるかが、一応は問題となる。しかし、選挙運動規制が選挙運動期間中だけに課せられるものではなく、事前運動も、事後運動も禁じられていることは常識と言ってよいだろう。本件は、典型的な事後買収(供応)に当たるのだ。
この事後買収(供応)が成立する点については、1969(昭和44)年1月23日の最高裁判例を引用できる。判決要旨は、「選挙運動を総括主宰した者が選挙運動をしたことに対する報酬として、金銭の供与を受けた場合には、たとえその時期が選挙の終了後であっても、公職選挙法221条3項の適用がある」と紹介されている。
その一審判決は「選挙運動期間中から選挙後にかけて、総括主宰者が複数の選挙運動者に対して、報酬・費用としての金銭供与を行った」という事案について、「その全部について、221条1項に該当する」ことを認定している。この判断は、控訴棄却、上告棄却で確定している。選挙運動期間経過後の供応も、明らかにアウトなのだ。
なお、さすがに、この支出は、選挙運動費用収支報告書には計上されていない。「人にやさしい東京をつくる会」の政治活動上の支出となっている。選挙運動費用収支報告書作成者に、「選挙運動の支出として計上してはまずい」という判断はあったものと思われる。「選挙運動としての飲み食いは違法だが、政治活動上の支出として政治活動報告書への飲み食いの記載なら問題はない」とでも、本気になって考えたのであろうか。
ひと言、申し述べておきたい。この慰労会に参加した人は、おそらくは「お・も・て・な・し」を受けたことを知らないだろう。まさか、「足りない分は会の財政から出しておきます」などというアナウンスがあったはずはない。とすれば、慰労会参加者に供応を受けたについての故意を欠くことになろう。参加者には、犯罪の成立はないものと考えられる。
なぜ、こんなことが起きたか、私はカンパが集まりすぎたのが、原因のひとつだと思っている。「人にやさしい東京をつくる会」へのカンパと、直接選挙運動会計へのカンパとを合計すると4000万円を超える。「会」24年分の繰越金は520万円とされている。資金が潤沢で、「20万円くらいはたいした金額ではない」という感覚になっていたのではないだろうか。その感覚が、選対本部長や出納責任者を初めとする選挙運動員に対する報酬の支払いにもなったのだろう。
それだけではない。どういう基準でか、この「慰労会」の席上、選対事務局長から、何名もの各選挙運動員に対して、封筒に入った現金(1万円?3万円ほど)が配られたという。その交付にともなって、いずれも「選挙報酬として」という、遡った日付の領収証が作成され、選挙運動費用収支報告書には「労務者報酬」として計上された。報告書に見合う領収証が添付されている。
突然、現金を配られた運動員は困惑したであろう。押し付けられて、迷惑千万だった人もいただろう。やむなく、その全額を寄付する形で、事実上受領を拒否した方もいたと聞いている。見方によっては、事務局長が会の金を分配することによって、人脈を作る手段としていたのではないだろうか。
この「慰労会」の席には、宇都宮君も出席している。事務局長から相談があって、会からの20万円支払いの会計処理に関与している可能性を否定しえない。それでなくても、宇都宮君の選対の供応接待の疑惑である。宇都宮選対のコンプライアンスに大きな問題があったのだ。宇都宮君、きみが徳洲会や猪瀬疑惑追及の先頭に立てる訳はないだろう。
だから宇都宮君、立候補はおやめなさい。
(2014年1月5日)