澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

全面勝訴・ご支援に感謝 「表現の自由が輝いた」ーー 「DHCスラップ訴訟」を許さない・第51弾

本日(9月2日)午後1時15分、東京地裁631号法廷で、私自身が被告にされている「DHCスラップ訴訟」の判決が言い渡された。被告代理人席も傍聴席も、被告の支援者で満席だった。原告代理人席だけが、ポッカリ空席。その法廷での言い渡し。原告(DHC・吉田嘉明)の請求はすべて棄却となった。被告(澤藤)の全面勝訴である。

たくさんの方から「勝訴おめでとう」と声をかけていただいきました。弁護団の皆さま、支援をしてくださった皆さまに、感謝を申し上げます。この1年余の間、孤独を感じることなく「もっとも幸せな被告」であり続けられたことは、ひとえに皆さまのおかげです。感謝しきれない思いです。

原告両名の、私に対する請求は以下の3点。
 1 6000万円の損害賠償
 2 ブログ「憲法日記」5本の記事削除
 3 謝罪文をブログに掲載せよ
このすべてが、斥けられた。

この件で被告になっているのは形の上では私(澤藤)だが、実は私だけでなく「政治的言論の自由」「政治とカネにまつわる問題についての批判の自由」「消費者利益の擁護に向けた言論の自由」も、私と一緒に被告席に立たされてきた。光前弁護士を筆頭にする被告弁護団は、澤藤を勝訴させるというよりは、表現の自由を擁護するために、かくも熱意をもって訴訟活動をしてくれたのだ。だから今日は、憲法21条の表現の自由が少し微笑み、その輝きを増したように思う。

にもかかわらず、キーワードは「言論の萎縮」だ。のびのびと言論の自由が謳歌される社会でなくてはならない。無責任言論の放任を奨励しているわけではなく、市民の誰もが、権力や経済的・社会的強者に対して、遠慮なく批判の言論を行使できなければならないのだ。強者の側には、言論による批判を甘受すべき寛容が求められる。仮に、誤った言論で攻撃されれば、反論すれば済むことだ。

本件は、典型的な経済強者による、自己に不都合な言論の封殺を狙ってのスラップ訴訟である。判決はスラップとして「却下」までは認めなかったが、被告が当ブログで、本件訴訟をスラップと表現したことを違法ではないとして、一定の理解を示した。今後、「スラップの抗弁」が繰り返され、いつの日か裁判所がこれを認める日が来るだろう。

DHC・吉田は、この訴訟で萎縮効果を狙った。本件と類似の高額損害賠償請求訴訟の提起は10件である。萎縮効果は被告にされた者に限定されない。むしろ、それ以外の多くの市民やジャーナリストに及んでいる。「DHCを批判すると面倒だ」「触らぬ神に祟りなし」という萎縮効果は、言論封殺効果でもある。このような萎縮効果を認めてはならない。言論の自由を実質化するために、DHC・吉田らに対する制裁が必要ではないか。そのような社会的合意の形成に力を尽くしたいと思う。

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あらためて、本日判決の事件の概要をご紹介しておく。
  係属裁判所 東京地方裁判所民事第24部合議A係
  事件番号 平成27年(ワ)第9408号
  原告 吉田嘉明 DHC(株)の両名
  被告 澤藤統一郎(職業・弁護士)
  裁判長裁判官 阪本勝
  陪席裁判官 渡辺達之輔 大曽根史洋
  原告代理人弁護士 今村憲 木村祐太 山田昭
  被告代理人弁護士 光前幸一外110名(計111名)
  請求の趣旨 6000万円の賠償とブログ削除・謝罪広告掲載の請求
  原告が違法と主張する被告の言論の内容
   吉田嘉明(DHC)が渡辺喜美(みんなの党)に対して
   政治資金8億円を交付したことについての批判
(「不透明なカネによって政治を歪める」ことの批判
    「行政の規制に服する事業者が政治にカネを出して
     規制の緩和を行おうとする」ことへの批判)

この判決が持つ意味
 *「政治的言論の自由」を手厚く保障したこと
 *「政治とカネ」をめぐる論評の自由が特に手厚く保障されたこと
 *消費者利益をめぐる論評の自由が強く保障されたこと
  論評の内容はサプリメント販売の規制緩和(機能性表示食品問題)への批判
 *公権力だけでなく、経済的社会的強者も言論による批判を甘受すべきとされたこと
 *高額損害賠償請求訴訟を提起しての言論妨害(スラップ)について、判決に一定の問題意識が感じられること。

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本日の判決を一読しての印象は、たいへん堅実で緻密な書きぶりであるということ。A3の主張対照表5枚を含む42頁。かなりのボリュームである。最高裁判例の枠組みに従った手固い判断。その枠組みは必ずしも被告弁護団の主張を全面的に取り入れたものではない。しかし、むしろそれ故に上級審での逆転の危うさを感じさせないものになっている。

原告は、ブログ5件中の16個所をつまみ出して、この16個所の記事が違法で名誉毀損に当たると主張した。判決は、そのうち1個所は原告吉田に関わるものでないとして、15個所について判断している。15個所のすべてについて、「事実の摘示」か「意見ないし論評」かを検討して、全部を「意見ないし論評」とした。しかも当該論評がすべて原告吉田の社会的評価を低下させるものと判断した。

私のブログ記事は、ことさらに吉田の社会的評価を低下させることを目的としてなされたものではない。しかし、吉田の行動に対する批判が、吉田の社会的評価の低下を伴うことはやむを得ないことなのだ。そのことに遠慮していては、言うべきことを言えないことになる。

私のブログが吉田の社会的評価を低下させるものではあるが、違法ではないことについて、判決は次のとおり述べている。
「本件各記述(澤藤ブログ)は,いずれも意見ないし論評の表明であり,公共の利害に関する事実に限り,その目的が専ら公益を図ることにあって,その前提事実の重要な部分について真実であることの証明がされており,前提事実と意見ないし論評との間に論理的関連性も認められ,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものということはできないから,違法性を欠くものというべきである。」

これだけ読むと随分とハードルが高そうな印象を受ける。
なにしろ、「(1)公共の利害に関する事実に限り」「(2)その目的が専ら公益を図ることにあって」「(3)その前提事実の重要な部分について真実であることの証明がされており」「(4)前提事実と意見ないし論評との間に論理的関連性も認められ」「(5)人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱していない」ことが違法でないための要件だというのだから。

しかし、意見ないし論評についての公共性・公益性のハードルも、「前提事実の重要な部分について真実であることの証明」のハードルもけっして高くはない。「重要な部分」でよいのだし、仮に真実性の証明ができなくても「真実と信じるについての相当性」があればよい。私の場合は、多くが吉田自身の手記にもとづいて書いているのだからほとんど何の問題もない。むしろ、意識される問題点は「(5)人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱していない」ことだけなのだが、これとて私のブログのレベル(行為の批判はしても、人格攻撃はしない)なら、なんの問題もない。

やや長文になるが、私がサプリメント販売の規制緩和(機能性表示食品問題)に関連して吉田を批判したプログの問題部分と、裁判所の判断を引用しておきたい。

(2014年4月2日ブログ)「サプリの業界としては、サプリの効能表示の自由化で売上げを伸ばしたい。もっともっと儲けたい。規制緩和の本場アメリカでは、企業の判断次第で効能を唱って宣伝ができるようになった。当局(FDA)の審査は不要、届出だけでよい。その結果が3兆円の市場の形成。吉田は、日本でもこれを実現したくてしょうがないのだ。それこそが、『官僚と闘う』の本音であり実態なのだ。渡辺のような、金に汚い政治家なら、使い勝手良く使いっ走りをしてくれそう。そこで、闇に隠れた背後で、みんなの党を引き回していたというわけだ。

大衆消費社会においては、民衆の欲望すらが資本の誘導によって喚起され形成される。スポンサーの側は、広告で消費者を踊らせ、無用な、あるいは安全性の点検不十分なサプリメントを買わせて儲けたい。薄汚い政治家が、スポンサーから金をもらってその見返りに、スポンサーの儲けの舞台を整える。それが規制緩和の正体ではないか。『抵抗勢力』を排して、財界と政治家が、旦那と幇間の二人三脚で持ちつ持たれつの醜い連携。

これが、おそらくは氷山の一角なのだ。」

(判決)「上記各記述(ブログ記事)は,本件朝日新聞記事の内容に触れ,原告らが,広告を用いて消費者に無用なあるいは安全性の不十分なサプリメントを買わせて儲けようとの意図を持っており,そのために金員の交付を受けた政治家が,必要な規制緩和等を行うという関係があることを指摘し,暗に原告吉田と渡辺議員にもそのような持ちつ持たれつの関係があるのではないかという意見ないし論評を表明したものであるところ,それらの前提としている事実の重要な部分は,…①渡辺議員が平成26年3月31日付けの自己のブログで『DHC会長からの借入金について』と題する記事を掲載し,その中で,原告吉田と渡辺議員との関係について記載したこと,②マスコミを使った大量の広告,宣伝により,サプリメントが販売されている事実,③サプリメント業界において規制緩和を求める動きが存在する事実,④原告会社において,過去に機能性の評価が不十分であったり,安全性に問題があるサプリメントが販売されていた事実である。

そして,証拠(乙2の2)によれば,①の事実が認められ,②の事実は公知の事実である。③の事実については,具体例として,日本経済団体連合会が,平成19年11月,ヘルスケア産業の規制改革要望を提出し,アメリカのように企業の責任で病名を含む効能効果の表現を可能とする表示制度の導入を求めたこと(乙7)や,社団法人日本通信販売協会が,平成20年6月にガイドラインを策定し,表示規制の緩和を進めようとしていたこと(乙10)が挙げられる。④の事実については,原告会社が,シャンピニオンエキスと称する成分を含む食品について,口臭,体臭及び便臭を消す効果が得られるかのように示す表示をして販売していたが,表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を提出できず,平成21年に公正取引委員会から排除命令を受けたこと(乙3の8の2),また,平成15年に,原告会社のメリロートが原因と疑われる肝機能障害の事例が報告されたこと(乙3の3),平成16年には,原告会社のメリロートを含む健康食品に,医薬品で定められている1日の服用量の2倍を超えるクマリンが含まれていたこと(乙3の5)が認められる。

そうすると,上記意見ないし論評の前提としている事実の重要部分については,いずれも真実であることの証明があったといえる。」

私には、判決が、企業の事業活動や企業と政治との結びつきを批判する言論に萎縮があってはならない、と呼びかけているように読めるのだが…。

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《DHCスラップ訴訟経過の概略》
  参照 http://article9.jp/wordpress/?cat=12 
 2014年3月31日 違法とされたブログ(1)掲載
    「DHC・渡辺喜美」事件の本質的批判
 2014年4月2日 違法とされたブログ(2)掲載
    「DHC8億円事件」大旦那と幇間 蜜月と破綻
 2014年4月8日 違法とされたブログ(3)掲載
    政治資金の動きはガラス張りでなければならない
  同年4月16日 原告ら提訴(当時 石栗正子裁判長)
  5月16日 訴状送達(2000万円の損害賠償請求+謝罪要求)
  6月11日 第1回期日(被告欠席・答弁書擬制陳述)
  7月11日 進行協議(第1回期日の持ち方について協議)
  7月13日 ブログに、「『DHCスラップ訴訟』を許さない」シリーズ開始
        第1弾「いけません 口封じ目的の濫訴」
    14日 第2弾「万国のブロガー団結せよ」
    15日 第3弾「言っちゃった カネで政治を買ってると」
    16日 第4弾「弁護士が被告になって」
    以下昨日(9月1日)の第50弾まで
 8月20日 10時30分 705号法廷 第2回(実質第1回)弁論期日。
 8月29日 原告 請求の拡張(6000万円の請求に増額) 書面提出
   新たに下記の2ブログ記事が名誉毀損だとされる。
     7月13日の「第1弾」ー違法とされたブログ(4)
       「いけません 口封じ目的の濫訴」
     8月8日「第15弾」ー違法とされたブログ(5)
       「政治とカネ」その監視と批判は主権者の任務
    2015年7月 1日 第8回(実質第7回)弁論 結審
 2015年9月 2日 判決言い渡し期日
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《関連他事件について》
 DHCと吉田嘉明が連名で原告となって提起した同種スラップ(いずれも、吉田嘉明の渡辺喜美に対する8億円提供を批判したもの)は合計10件あります。その内の1件はDHC・吉田が自ら取り下げ、9件が現在係属中です。
最も早く進行したDHC対折本和司弁護士事件は、本年1月15日に地裁判決(請求棄却)、6月25日の控訴棄却判決(控訴棄却)、その後上告受理申立がなされ最高裁に係属中。
2番目の判決となったS氏(経済評論家)を被告とする事件は本年3月24日に地裁判決(請求棄却)、8月5日に控訴審判決(控訴棄却)、その後上告受理申立がなされ最高裁に係属中。
私の事件が、3番目の地裁判決になりました。10月に、4番目の判決予定があるようです。
DHC・吉田は、関連して仮処分事件も2件申し立てていますが、いずれも却下。両者とも抗告して、東京高等裁判所での抗告審もいずれも棄却の決定。
本日の私の判決を含めて、合計9連敗です。これが、高額請求訴訟の判決結果。
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仮にもし、本日の判決が私の敗訴だったら…。
私の言論について、いささかでも違法の要素ありと判断されるようなことがあれば、およそ政治批判の言論は成り立たなくなります。原告吉田を模倣した、本件のごときスラップ訴訟が乱発され、社会的な強者が自分に対する批判を嫌っての濫訴が横行する事態を招くことになるでしょう。そのとき、市民の言論は萎縮し、権力者や経済的強者への断固たる批判の言論は、後退を余儀なくされるでしょう。そのことは、権力と経済力が社会を恣に支配することを意味します。言論の自由と、言論の自由に支えられた民主主義政治の危機というほかはありません。スラップに成功体験をさせてはならないのです。

何度でも繰り返さなければならない。
「スラップに成功体験をさせてはならない」と。
(2015年9月2日)

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