ご近所の皆様、本郷三丁目交差点をご通行中の皆さま。こちらは平和憲法を守ろうという一点で連帯した行動を続けております「本郷・湯島九条の会」です。私は近所に住む者で、憲法の理念を大切にし、人権を擁護する立場で、弁護士として仕事をしています。
真夏の真昼時、まことに暑いさなかですが、平和を守ろう、憲法9条を大切にしようという熱い願いの訴えです。少しの時間耳をお貸しください。
74年前の8月、東京は度重なる空襲で焼け野原となっていました。1945年8月15日正午、国民に敗戦を知らせる天皇の言葉が、NHKラジオの電波に乗って焼け跡の東京に響きました。国力を傾け尽くし、310万人の自国民死者と、2000万人にも及ぶ近隣諸国の犠牲者を出した末に、ようやくにして悲惨な侵略戦争は終わりました。
こんな戦争を始めなければ、もっと早く戦争を終わらせていれば、何百万もの貴重な命が失われずに済んだはずなのです。多くの人の戦死による記録が残されていますが、とりわけ住民を巻き込んでの地上戦となった沖縄の体験は悲惨でした。沖縄では、多くの中学生・女学生が戦場に動員されなくなりました。
第一高女と師範女子部からなる「ひめゆり学徒隊」の悲劇が有名ですが、実は9校あったすべての高等女学校の生徒が動員されています。第二高女の4年生は、45年の3月から「白梅学徒隊」として、第24師団の野戦病院に配属されました。
読売新聞社会部が1980年に「沖縄 白梅の悲話」という記録集を出版しています。その中から、戦死した二人の女学生の例を紹介いたします。いずれも、15才か16才の年齢。その若さで認めた家族への手紙が事実上の遺書となって記録されています。その内容に驚かされます。
お一人は、大嶺美枝子さん。
白梅学徒隊は、6月4日に現地解散し、「各自行動」の指令となります。その後間もない9日の夜、大嶺さんは直撃彈で戦死。彼女は、動員直前に、母親宛の手紙を書いています。
「お母様、いよいよ私達女性も出動できますことを心から喜んでおります。お母様も喜んで下さい。『皇国は不滅である』との信念に燃えて生き延びてきました。軍と協力して働けるのはいつの日かと待っておりましだ。いよいよそれが報いられたのです。いま働かねばいつの日働きますか。私は暖かいお母様のお教えを生かして一人前の立派な日本女性となる覚悟で居ります。
お母様、私の身軆のすべてを大君に捧げたのです。男でも女でも忠を尽くす信念は一つです。私達の身軆は国が保証して下さるのです。何の心配もなさらないで下さい。散る時には立派な楼花となって散って行きます。その時には家の子は偉かったと賞めて下さいね。」
母親の感想は、掲載されていません。心中いかばかりだったことでしょう。
もう一人は、仲村渠幸子さん。終戦の前年1944年夏頃に、姉(第一次女子挺身隊として沖縄から滋賀の近江航空に動員されていた)に宛てた手紙が遺されています。
「姉さん、戦いも益々熾烈を極め、サイパン島玉砕の報を知った時には熱い涙がこみあげ、宿敵米撃ちてし止まむの意気旺盛になり、今迄の生ぬるい生活を断然、制裁しております。
……那覇では近頃、疎開騒ぎで荷車や荷馬車が夜昼となくガラガラと大通りを行くのを見るにつけ此の沖縄が戦場化されると思うと私達が玉砕するのも今年中でせう。おばあさんは相変わらず頑固で、疎開なんかしませんので頼もしい。他府県の人は総引き上げで、級友は6名も転校してしまいました。私達は純粋なる琉球人ですから居残って、ヤンキー共の首の二つや三つは竹槍で刺し殺してから玉砕する覚悟です。上級学校希望も捨てました。代わりに女子整備兵を希望して大いに運動して居ります。?」
彼女の最期については、このようだったと言います。
「彼女は防衛隊の父の戦死を知った夜、『仇を討ってやる』と、石部隊の兵に混じり軍服を着てハチマキを締め斬り込みに行った。家族が止めても止めても聞かなかったという。どの様な最後であったか不明のままである。」
生き残った元学徒からは、その悲劇の原因として、皇民化教育が語られています。無数の悲劇を重ねて、1945年8月15日、戦争が終わります。1931年から始まった長い長い戦争でした。再び、この戦争の惨禍を繰り返してはならない。多くの人々の切実な思いが、平和憲法に結実しました。とりわけその9条が、再びの戦争を起こさないという国民の決意であり、近隣諸国への誓約でもあります。
大日本帝国憲法は戦争を当然の政策と考えた、軍国主義憲法。主権者である天皇の名による戦争を神聖で正当なものとし、国民に戦争参加の義務を押し付けた憲法でした。戦後の日本国民は、きっぱりとこの好戦憲法を捨て去り、平和憲法を採択したのです。以来74年、私たちの国は戦争をすることなく、過ごしてきました。
日本国憲法は、戦争を放棄し戦力を保持しないことを憲法に明確に書き込みました。それだけではなく、この憲法には一切戦争や軍隊に関わる規定がありません。9条だけでなく、全条文が徹頭徹尾平和憲法なのです。戦争という政策の選択肢を持たない憲法。権力者が、武力の行使や戦争に訴えることのないよう歯止めを掛けている憲法。それこそが平和憲法なのです。
ところが、歴代の保守政権は、この憲法が嫌いなのです。とりわけ、安倍政権は憲法に従わなければならない立場にありながら、日本国憲法が大嫌い。中でも9条を変えたくて仕方がないのです。
彼が言う「戦後レジームからの脱却」「日本を、取り戻す」とは、日本国憲法の総体を敵視するという宣言にほかなりません。「戦後」とは、1945年敗戦以前の「戦前」を否定して確認された普遍的な理念です。人権尊重であり、国民主権であり、議会制民主主義であり、なによりも平和を意味します。戦後民主主義、戦後平和、戦後教育、戦後憲法等々。戦前を否定しての価値判断にほかなりません。安倍首相は、これを再否定して「戦前にあったはずの美しい日本」を取り戻そうというのです。
戦後74年、日本国憲法施行以来72年、国民は日本国憲法を護り抜いてきました。それは平和を守り抜くことでもありました。そうすることで、この憲法を自らの血肉としてきました。平和は、憲法の条文を護るだけでは実現できません。国民の意識や運動と一体になってはじめて、憲法の理念が現実のものとして生きてきます。平和憲法をその改悪のたくらみから護り抜き、これを活用することによって恒久の平和を大切にしたいと思います。
そのため、安倍9条改憲を阻止して、「戦後レジームからの脱却」などというふざけたスローガンを克服して行こうではありませんか。夏、8月、暑いさなかですが、そのような思いを新たにすべきとき。憲法9条と平和を大切にしようという訴えに、耳をお貸しいただき、ありがとうございました。
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各 位
「本郷・湯島九条の会」石井 彰
強烈な炎天下での昼街宣になりました。平和運動の方、文京労連の方もご参加いただき13名の方々がマイクでの訴え、署名、リーフ配布とみなさん大活躍でした。みんな汗びっしょりです。ほんとうに頭が下がります。
三度の大戦許すまじの熱い思いた熱暑を払い除けての活躍です。こんな素晴らしい仲間がいることを誇らしく思います。お盆でいつもより人通りは少なくても多くの方が訴えに耳を傾けていただきました。
来月は9月10日(火)12時15分?です。多くの方のご参集をお待ちしています。炎暑はまだ続きます。御身専一にお過ごしくださるようお願い申し上げます。
(2019年8月13日)
昨日(8月4日)、一入暑い夏の盛りに、日本民主法律家協会・第58回定時総会が開催された。自ずと主たる議論は、改憲情勢と、改憲情勢に絡んでの参議院選挙総括に集中した。そして、「相磯まつえ法民賞」受賞対象の各地再審事件弁護団が語るホットな再審審理状況と裁判所のありかた、さらに降って湧いたような「表現の不自由展」の中止問題が話題となった。
冒頭に、渡辺治・元協会理事長から、「参院選の結果と安倍改憲をめぐる新たな情勢・課題」と題した記念講演があった。参院選の結果は安倍改憲を断念させるに至っていない。情勢は引き続いて厳しいという大筋。「法と民主主義」(8・9月合併号)に掲載の予定となっている。
政治状勢も、国際情勢も、憲法情勢も、けっして明るくはない。それでも、総会や法民賞授賞式、懇親会での各参加者の発言が実に多彩で、元気に満ちていた。年に一度、こうして集う意味があることを確認した集会となった。
名古屋から参加した会員が、「表現の不自由展」の中止問題を生々しく語り、誰もが由々しき問題と受けとめた。右翼に成功体験をさせてはならない。現地での取り組みにできるだけの支援をしたい。
伝えられる内容の脅迫電話による展示の中止は、明らかに威力業務妨害である。脅迫電話の音声を公開し、速やかな告訴があってしかるべきで、刑事民事の責任を追及しなければならない。こんなときこそ警察の出番ではないか。この件の経験を今後の教訓とすべく、詳細な報告が欲しい。
採択された、憲法問題と司法問題での2本の「日本民主法律家協会第58回定時総会特別アピール」をご紹介して、総会の報告とする。
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2019参院選の成果を踏まえ、市民と野党の共闘のさらなる前進で、安倍改憲に終止符を
2017年5月3日の安倍首相の改憲提言以来、自民党は、改憲勢力が衆参両院で3分の2を占める状況に乗じて、さまざまな改憲策動を繰り返してきました。しかし、市民の運動とそれに支えられた野党の奮闘により、改憲発議はおろか改憲案の憲法審査会への提示すらできずに2年が過ぎ、この参院選で改めて3分の2の維持をはかるしかなくなりました。選挙戦での安倍首相の異様な改憲キャンペーンは、その証左です。
ところが、改憲勢力は発議に必要な3分の2を維持できませんでした。この3分の2を阻止した直接の要因は、市民と野党の共闘が、安倍政権による改憲反対、安保法制廃止をはじめ13の共通政策を掲げて32の一人区全てで共闘し、前回の参院選並みの10選挙区で激戦を制して勝利するなど、奮闘したことです。また、「安倍9条改憲NO! 全国市民アクション」が提起した3000万署名の運動が全国の草の根で取り組まれ、私たち日民協も参画する「改憲問題対策法律家6団体連絡会」は、自民党の改憲案の危険性をいち早く解明し、政党やマスコミへの働きかけ、バンフの発行や集会などを通じて、安倍改憲に反対する国民世論を形成・拡大する上で大きな役割を果たしてきました。
それでも、安倍首相は改憲をあきらめていません。それどころか、選挙直後の記者会見で「(改憲論議については)少なくとも議論すべきだという国民の審判は下った」などと述べて、改憲発議に邁進する意欲を公言しています。「自民党案にこだわらない」とも強調することで、野党の取り込みをはかり3分の2の回復を目指すなど、あらゆる形で改憲の強行をはかろうとしています。しかし、参院選の期間中もその後も、「安倍政権下の改憲に反対」が世論の多数を占めていることに確信を持ちましょう。
いま、安倍9条改憲を急がせる国内外の圧力が増大しています。アメリカは、イランとの核合意から一方的に離脱して挑発を繰り返した結果、中東地域での戦争の危険が高まっています。トランプ政権は、イランとの軍事対決をはかるべく有志連合をよびかけ、日本に対しても参加の圧力を加えています。こうしたアメリカの戦争への武力による加担こそ、安倍政権が安保法制を強行した目的であり、9条改憲のねらいです。辺野古新基地建設への固執、常軌を逸したイージスアショア配備強行の動きも9条破壊の先取りにはかなりません。
私たち日本民主法律家協会は、こうした安倍改憲の企てに終止符を打つべく、今後とも「改憲問題対策法律家6団体連絡会」や「安倍9条改憲NO! 全国市民アクション」の活動に邁進するとともに、市民と野党の共闘のさらなる前進に協力していくことを、ここに宣言します。
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「国策に加担する司法」を批判する
司法の使命は、憲法の理念を実現し、人権を保障することにあります。司法は、立法からも行政からも、時の有力政治勢力からも毅然と独立して、憲法に忠実にその使命を果たさなくてはなりません。その司法の使命に照らして、長く司法の消極性が批判されてきました。違憲判断があるべきときに、司法が躊躇し臆して、違憲判断を回避してきたとする批判です。その司法消極主義は、戦後続いてきた保守政権の政策を容認する役割を果たし、憲法を社会の隅々に根付かせることを妨げてもきました。
そのため、砂川事件大法廷判決(1959年12月16日)に典型的に見られる司法消極主義を克服することが、憲法理念実現に関心を寄せる法律家の共通の課題と意識されてきました。ところが、近時事態は大きく様変わりしていると言わねばなりません。
2018年10月に開催された、当協会第49回司法制度研究集会のメインタイトルは「国策に加担する司法を問う」というものでした。司法は、その消極主義の姿勢を捨て、むしろ国策に積極的に加担する姿勢に転じているのではないか、という衝撃的な問題意識での報告と討論が行われました。
その先鞭として印象的なものが、沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設に伴う「海面埋め立ての可否をめぐる一連の訴訟です。とりわけ、国が沖縄県を被告として起こした「不作為の違法確認訴訟」。国は、翁長雄志知事(当時)による「前知事の埋立承認取り消し」を違法として、撤回を求める知事宛の指示を出し、知事がこれに従わないとして提訴しました。一審となった福岡高裁那覇支部への提訴が2016年7月22日、判決が9月16日という異例の超スピード判決。その上告審も、国への手厚い慮りで、同年12月20日判決となり国の勝訴が確定しました。「海兵隊航空基地を沖縄本島から移設すれば、海兵隊の機動力、即応力が失われることになる」とする国の政治的主張をそのまま判決理由とした福岡高裁那覇支部の原判決を容認したのです。
また、同じ時期に言い渡された、厚木基地騒音訴訟最高裁判決は、夜間早朝の飛行差し止めを認めた1、2審判決を取り消し、住民側の請求を棄却しました。「自衛隊機の運航には高度の公共性がある」としてのことで、国策の根幹に関わる訴訟での、これまでにない積極的な国策加担と指摘せざるを得ません。
以来、原発訴訟、「日の丸・君が代」強制違憲訴訟などで、最高裁の「親政権・反人権」の立場をあからさまにした姿勢が目立っています。最近では、地裁・高裁での再審開始決定を破棄した上「再審請求棄却」を自判した大崎事件の特別抗告審決定(2019年6月25日)、また、現職自衛官が防衛出動命令に従う義務はないことの確認を国に求めた戦争法(安保法制)違憲訴訟において「訴えは適法」とした2審・東京高裁判決を「検討が不十分」として破棄し、厳しい適法要件を設定して、審理を同高裁に差し戻した最高裁判決(同年7月22日)があります。
このような最高裁の姿勢は、最高裁裁判官人事のあり方と無縁なはずがありません。既に、最高裁裁判官の全員が第2次以後の安倍内閣による任命となっています。人権擁護の姿勢を評価されてきた弁護士出身裁判官が、必ずしも日弁連推薦枠内から選任されていないとも報道されています。最高裁裁判官の人事のあり方が重大な課題となっています。
私たち日本民主法律家協会は、こうした政権に擦り寄った司法を厳重に監視するとともに、国民のための司法制度確立のために、努力を重ねていくことを宣言します。
?(2019年8月5日)
一昨日(7月28日)の『東京新聞』「本音のコラム」欄に、前川喜平さんの「僕の憲法改正案」が掲載されている。これが興味深いので、ご紹介して多少のコメントを付したい。
まずは、最初に前川さんの断り書きがある。
僕は安倍政権下での改憲には反対だ。4項目改憲案には、国民主権、平和主義、法の下の平等など柱となる原則を破壊する危険がある。改憲を議論するより、現行憲法が求める人権保障や国際協調を実現する努力をする方が先だ。
「改憲の議論よりも、現行憲法理念実現の努力が先だ」というご意見。まったく、同感。この当然の発言が、安倍政権には、きつい皮肉になるという現実がある。
なお、解説するまでもなく、「安倍改憲4項目」とは、「自衛隊の明記(9条改憲)」「緊急事態条項」「合区の解消」「教育無償化」である。「安倍晋三の改憲提案だから危険で反対」でもあり、「提案されている具体的内容が憲法の柱となっている原則を破壊するものだから反対」でもあるというのだ。教育行政の専門家で人権保障を熱く語る前川さんが、「安倍の掲げる教育無償化」には反対ということに重みがある。
ただ、将来国民の中から憲法改正の機運が本当に盛り上がったときには、僕にも提案したい改正点がある。
前川さんは、改憲提案を語る前に、慎重に「将来国民の中から憲法改正の機運が本当に盛り上がったときには」という条件を置くことを忘れない。現実と理想をごっちゃにするとおかしくなるからだ。理想を語ることが許される環境においては、誰にも、自分なりの憲法を作ってみたい思いがある。かつて、自由民権運動は多くの私擬憲法を作った。けっして、日本国憲法が理想の憲法ではない以上、今なお、自分なりの理想の憲法案を作ってみることには、大きな意義がある。
さて、前川改正案の具体的内容だが、日本国憲法の全面改正構想の披瀝ではない。コラムのスペースの制約から最小限の「部分改正」提案にとどまるもので、内容は計7点ある。
まず、第3章の標題を「国民の権利及び義務」から「基本的人権の保障」に変える。国民が国に義務を課すのが憲法なのだから、国民の義務を書く必要はない。
まったく異存ない。「第3章 国民の権利及び義務」という標題はいかにも不自然。これは、現行憲法が大日本帝国憲法の改正手続としてなされた名残なのだ。旧憲法の第2章は、「臣民権利義務」であった。旧章名の「臣民」を「国民」に直して新章名としたのだ。臣民には主権者天皇に対する義務があって当然と観念されていた。中でも、20条の「兵役の義務」は、重要な憲法上の臣民たるの義務とされていたから、当時は「臣民義務」に何の違和感もなかった。
今、立憲主義の立場からは、第3章の表題を「基本的人権の保障」とすべきは当然であろう。
なお、旧憲法の第1章は当然ことながら「天皇」であった。新憲法では、第1章を天皇とするのではなく「国民主権」あるいは「基本的人権の保障」とすべきが当然。しかし、敢えて「第1章 天皇」が踏襲された。これも、実質は「新憲法の制定」ではあっても、形式は「旧憲法の改正」とされたからだ。新憲法では、天皇には何の権限も権能もないのだから、「天皇」の章は、「人権」「国会」「内閣」「司法」の後に置くべきであったろう。
基本的人権はすべての人が生まれながらに持つ権利だから、その主体は国民に限られない。現在の10条(国民の要件)は、「基本的人権は国籍の如何を問わず保障する」と変える。
現行憲法第3章の冒頭が「10条(国民の要件)」である。普通、この条文は「日本国籍」取得の要件と解されており、人権享有主体の要件を定めた条文とは考えられていない。では、この条文を受けた「国籍法」によって日本国籍を取得している「国民」以外は基本的人権の享有主体たり得ないか。そんなはずはなく、「外国人にも権利の性質上適用可能な人権規定はすべてその効力が及ぶ」とされている。
問題は参政権である。あるいは、公務員となる権利。「基本的人権は国籍の如何を問わず保障する」との条文明記となれば、外国籍の国内居住者にも、国政・地方を問わず選挙権・被選挙権を認め、あらゆる公務員職への採用を保障することが、条文改正の実益となろう。
14粂(法の下の平等)では性的指向・性自認による差別も禁止し、24条の「両性の合意」は「当事者の合意」として同性婚を明確に認める。26条2項(義務教育)は「国は、すべての人に無償の普通教育を受ける機会を保障する義務を負う」とする。「義務教育」という言葉は消える。「知る権利」も明示する。
14条・24条・21条・26条2項に関しての具体的条文改正提案。いずれも、文意明瞭であって、分かり易い。余人ならぬ、元文部科学次官の改正案として極めて興味深い。
首相の解散権は制限する。53条の「いづれかの議院の総議員の4分の1以上の要求」があった場合の内閣の臨時国会召集義務に、20日間の期限を忖す。この点だけは自民党の改憲案と同じだ。
蛇足だが、「自民党の改憲案と同じ」とは、「安倍4項目改憲案」のことではなく、2012年4月に公表された「自民党憲法改正草案」のこと。
自民党の公式Q&Aでは、こう解説されている。
53条は、臨時国会についての規定です。現行憲法では、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣はその召集を決定しなければならないことになっていますが、臨時国会の召集期限については規定がなかったので、今回の草案では、「要求があった日から20日以内に臨時国会が召集されなければならない」と、規定しました。党内議論の中では、「少数会派の乱用が心配ではないか」との意見もありましたが、「臨時国会の召集要求権を少数者の権利として定めた以上、きちんと召集されるのは当然である」という意見が、大勢でした。
ところが、安倍内閣は、「当然なはずの、臨時国会の召集要求権を無視して、憲法上定めた少数者の権利を蹂躙」している。2017年6月22日、加計学園問題をめぐって野党4党は臨時国会の召集を要求したが、安倍内閣は「応じない方針」を押し通して同年9月28日の衆議院解散に至っている。
安倍内閣は、憲法軽視内閣なのだ。自党の憲法改正案も無視。前川改正案は、このときの怒りに基づいたもの。
いつの日か、前川喜平さんの「僕の全面憲法改正草案」を見たいものと思う。天皇制をどうするのか、権力による教育への不当な支配をどう制御するのか。在日外国人の民族教育の権利をどう条文化するか。また、安倍晋三第1次内閣によって改悪された教育基本法の復旧案についても。
(2019年7月30日)
今朝(7月28日)の毎日新聞朝刊の記事。「萩生田・自民幹事長代行が、『改憲滞れば衆院議長交代』異例の言及」という見出し。「国会での改憲手続きが滞るようなら、衆院議長を交代させるぞ」という恫喝なのだ。なんたることか。
「自民党の萩生田光一幹事長代行は26日夜のインターネット番組で、国会で憲法改正の議論が停滞したままであれば大島理森衆院議長が交代する可能性に言及した。萩生田氏は安倍晋三首相の側近。改憲を巡る議論を進展させたいとの思惑があるとみられるが、衆院議長の交代は総選挙後に行われるのが慣例で、首相が意欲を示す改憲議論の停滞を理由に議長の進退に触れた発言は波紋を広げそうだ。」
朝日は「『有力な議長置いて国会が改憲シフトを』 自民・萩生田氏」という見出しで、こういう記事にしている。
自民党の萩生田光一幹事長代行は26日夜のインターネット番組で、憲法改正に向けた国会運営について「憲法改正をするのは総理ではなく国会で、最終責任者は総理ではなく議長。有力な方を議長に置いて、憲法改正シフトを国会が行っていくのは極めて大事だ」との考えを示した。
出演者から改憲に向けた衆院議長の重要性を問われて答えた。そのうえで萩生田氏は、大島理森衆院議長について「立派な方だが、どちらかというと調整型。議長は野党に気を使うべき立場だが、気を使いながら(憲法審査会の)審査はやってもらうように促すのも議長の仕事だったと思う」とも指摘した。
安倍晋三首相は参院選を受け、改憲に向けた議論を加速させようとしている。首相側近として知られる萩生田氏が議長の役割の重要性に言及したことは、波紋を広げそうだ。
一議員が、自党から出している衆院議長の国会運営に注文を付け、交代もあり得ると脅かしたのだ。虚飾を剥いで分かり易く言えば、こういうことだ。
「大島理森議長よ、憲法改正問題の国会審議が停滞しているではないか。いったい何をグズグズしているんだ。あんたの姿勢は野党に対して弱腰に過ぎるではないか。事態がこのままで、憲法改正審議がこれ以上遅滞するようなら、審議促進のために、有力政治家に交代させることを考えねばならん」
到底、普通の議員ができる発言ではない。萩生田がこんなことを言えるのは、普通の議員ではないからだ。萩生田といえば、安倍晋三の伝声管。「萩生田氏は安倍首相が白いといえば黒でも白というほど忠誠心が厚い」と、言われる人物である。自分の声はなく、ひたすら安倍晋三の声を拡声して振りまくのが役どころ。
萩生田は単なるスピカーの音声。マイクに向かって喋っているのは安倍晋三。誰もがこう思っているから、首相発言として「波紋を広げそうだ」ということになる。
もっとも、波紋は二通りに考えられる。
ひとつは、安倍の思惑通りに大島議長が動くことだ。議長が改憲審議促進に積極的となり、憲法審査会もその意を体して動き出すという、安倍の意に沿った筋書きの通りの波紋。
しかし、そうなるとは限らない。むしろ、この発言は、改憲策動が進展しないことへの安倍の焦りとも、八つ当たりともとられる公算が高い。大島議長の反発を招くことは必至だし、安倍晋三の驕りに自民党内の結束が乱れる方向への波紋も考えられる。何よりも、野党と国民の反安倍感情を刺激することにもなる。
参院選の評価は人によって様々だが、自民党は大きく議席を減らし、改憲勢力が3分の2の議席をとれなかったことは厳然たる事実である。民意が、改憲を望むものでないことははっきりした。あらゆる世論調査や、候補者・議員アンケートが、改憲は喫緊の課題ではないことを明確にしている。
にもかかわらず、何ゆえ異例の議長交代までさせて改憲審議促進にこだわるのか。民意よりも、自分のイデオロギー優先の安倍晋三とその取り巻きへの批判が必要である。
言うまでもなく、内閣総理大臣とは、憲法を遵守し擁護しなければならない立場にある。にもかかわらず、自分の思いに適わぬ憲法条項を変えてしまえというトンデモ総理が、安倍晋三なのだ。
季節は、冷たい梅雨が去って猛暑の夏到来の様子である。生ものは、早く処理をしないと腐敗する。政権も、本来長くは持たないものだ。アベ政権は、疾うに賞味期限も消費期限も過ぎている。
促進すべきは、議長交代論議でも改憲論議でもなく、政権交代論議である。
なお、赤旗は「“安倍改憲へ衆院議長交代も”ネット番組 自民・萩生田氏が発言 憲法議論加速へ任期途中に」という見出しでの、一面トップ記事だった。
(2019年7月28日)
参院選が終わった。開票結果はけっして得心のいくものではない。祭りの後は大抵淋しいものだが、今回はまた一入。森友問題の追及にあれ程活躍した辰巳孝太郎(大阪選挙区)、弁護士として緻密な質疑を重ねてきた仁比聡平(比例区)両候補の落選に歯がみする思いで一夜を過ごした。
が、今朝になってすこしだけ落ち着きを取り戻している。まあ、最悪の事態は免れた。改憲策動にはブレーキを掛けた選挙結果とは言えるだろう。野党共闘の一定の成果は、今後の展望を開いたと言えなくもない。
選挙の総括は、多様な立場や視点でなされるが、今回は何よりも日本国憲法の命運の視点からなされなければならない。
参議院の定数は法改正あって248人だが、前回までは242人。今回は半数改選の定数が3増して124となった。非改選の121と合わせると、選挙後の議席総数は245となる。
だから、憲法改正発議に必要な3分の2は、164以上ということになる。
改憲勢力を自・公・維の3党と定義すれば、改憲3党の選挙前議席総数は160(自122・公25・維13)だった。これが、選挙後は157(自113・公28・維16)となった。定数3増での3議席減である。改憲発議に必要な議席数164には、7議席足りない。自・公・維以外に、無所属改憲派として3人を数えることができるとされているが、それを加えてもなお4議席足りない。
各党の消長は以下のとおりである。
自民 選挙前総議席122 ⇒ 選挙後総議席113(9議席減)
改選66議席 ⇒ 当選57(9議席減)
公明 選挙前総議席 25 ⇒ 選挙後総議席 28(3議席増)
改選11議席 ⇒ 当選14(3議席増)
維新 選挙前総議席 13 ⇒ 選挙後総議席 16(3議席減)
改選 7議席 ⇒ 当選10(3議席増)
今朝の各紙トップの見出しは、「自公改選過半数」とならんで、「改憲勢力2/3は届かず」である。自民党の当選者数9減が、9条に追い風となっている。
「東京新聞」の論調が注目に値する。その見出しを拾ってみよう。
1面の黒抜き横の大見出しに「改憲勢力3分の2割る」。縦に「自公改選過半数は確保」。「20年改憲困難に」。2面と3面を通した横見出しに、「首相の悲願遠のく」「野党共闘一定成果」。社会面には、「9条守る決意の一票」。立派なものだ。
注目すべきは、共同通信の出口調査。見出しが、「安倍政権下での改憲 反対47% 賛成上回る」という記事。
「安倍政権下での改憲賛否」が、支持政党別にグラフ化されている。
自民党支持層では賛成73.7%だが、公明支持層では46.6%に落ちる。さらに意外なのは、維新支持層でも44.9%に過ぎないのだ。これでは、少なくとも「安倍政権下での改憲」は無理筋と言うほかはない。
安倍晋三よ。今回の選挙結果を「しっかりと(改憲の)議論をして行け、との国民の声をいただけたと思う」などと、ごまかしてはならない。改憲発議可能な議席は与えられなかったではないか。改憲を唱える自民党の議席を減らしたではないか。単独過半数も失った。「安倍政権下での改憲反対」と言うのが民の声なのだ。政権は、現行憲法に従わねばならない。政権の思惑で、改憲に先走ってはならない。民意が熟すのを待たずに、政権も与党も改憲を煽ってはならない。ましてや、民意が反対を明示しているにもかかわらず、改憲を強行しようなどとは、けっして許されざる所業である。
(2019年7月22日)
ご無沙汰をお詫びし、暑中お見舞い申しあげます。
いつになく梅雨寒の日が長く続きますが、既に季節は小暑。そして、七十二候では「蓮始開(はすはじめてひらく)」の侯となっています。このところ、朝の日課としている散策では、ようやく開きはじめた上野不忍池の蓮の華が目の楽しみ。
早咲きの華あり、晩咲の華あり。競って高く咲く華もあれば、葉裏にひっそりと咲く華も。蕾もあれば、盛りの花も、そして既に散った花弁も。人の様々と変わらない蓮の華の風情。
気候はやや不順ですが、ご家族の皆様には、健勝にお過ごのことと存じます。
ところで、第25回参議院議員選挙の投票日が目前に迫っています。来たる7月21日(日曜日)の投票日には、日本共産党と野党共闘の候補者に一票を投じていただくよう、お願いを申しあげます。
「安倍一強」と言われる異様な事態が続いていることに不安を禁じえません。この社会はいったいどうなってしまったのだろう。この先さらにどうなって行くのだろう。このままであってはいけない、今のうちに何とかしなければならないという、焦りに似た気持ちを感じ続けています。
とりわけ、このまま安倍一強の政権を存続させておくことによって、日本国憲法が「改正」されてしまうのではないかという強い危機感を持たざるを得ません。仮に、今度の選挙で、自民党や与党勢力、あるいは政権に擦り寄る維新などが、大勝して議席を増やすようなこととなれば、憲法「改正」の手続が具体化することになりかねません。
また、反対に、憲法「改正」に反対する勢力が大きく議席を増やすことができれば、憲法改悪のたくらみを打ち砕くことになります。その意味で、今度の選挙には日本国憲法の命運がかかっているのだと思います。
日本国憲法の命運は、この憲法の理念として国民に受容されてきた、平和や国際協調、そして民主主義や人権の命運でもあります。安倍政治がたくらむ改憲とは、平和や民主主義や自由、そして経済的弱者の生存の権利を危機に追い込むものと警戒せざるを得ません。けっして、改憲を許してはなりません。
本日(7月18日)の赤旗一面のトップに、「安倍9条改憲の阻止 共産党が伸びてこそ」という大見出しがあります。私は、そのとおりだと思うのです。
その記事のリードには、こう述べられています。
「安倍晋三首相が各地の遊説などで改憲を前面にすえ、9条の自衛隊明記を公然と訴えるなか、9条改憲に向けた暴走を止めるかどうかが参院選の重大争点として浮上してます。…何としても、この野望を止めなくてはなりません。止める一番確かな力は、日本共産党の躍進です。」
まったく、そのとおりではありませんか。船が大きく右舷の側に傾くとき、平衡を取り戻すには、できるだけ左舷の側に集まらねばなりません。今まさにそのときなのだと思うのです。しかも、船が沈まぬうちの緊急の課題として。
安倍晋三という人物は、極右の勢力に担がれて、改憲を使命に頭角を表してきた政治家です。彼は、支持勢力をつなぎ止めるためにも、改憲を言い続けなければならない立場にあります。とりわけ、右翼勢力が目の仇とする「憲法9条」を変えようと口にし続けねばならないのが、彼の背負った使命でもあり、宿命でもあります。
もちろん、国民世論は、けっして安易に改憲を許すものではなく、首相の思惑とは大きな隔たりがあります。改憲実現のハードルが高いことは自明のことですから、安倍自民党は、できるだけ、耳に甘い言葉で、有権者を欺そうと考えます。今回も、奇策を編み出しました。いや、詐欺の発案といった方が適切なのかも知れません。
それが、「9条1項2項は全文そのままにして、9条の後に、新たに『第9条の2』1か条を追加する」という、自民党の改憲案(自民党は、「条文イメージ(たたき台素案)」と言っています)です。その文言は以下のとおりです。
第9条の2
1 前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
2 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
これが、安倍自民党の「安倍9条改憲」案です。よくお読みください。念のため、現行の9条の全文を引用しておきます。
第9条
1項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
現行9条2項は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と定めます。つまり、日本国憲法は、「戦力」の保持を禁じているのです。では、「戦力」とは何でしょうか。「陸海空軍その他の戦力」というのですから、「陸軍・海軍・空軍」は当然に戦力に当たります。陸海空軍に当たらなくても、それに準じる実力組織は、「その他の戦力」に当たることになります。
つまりは、戦力とは、対内的な治安のために必要な警察力の範囲を超えて、外敵との交戦をなしうる人的・物的な組織体を指すとするのが常識的な見解でしょう。憲法上、警察力の保持は当然として、それを超える軍事力の保持はなしえないと覚悟を決めて、この憲法を作ったのです。
ところが、1954年に政府は、戦力をこんな風に定義しました。「自衛のため必要な最小限度を超える実力組織」というのです。
「自衛のため必要な最小限度」が分かれ目です。これを超えるれば「戦力」に当たりますが、「自衛のため必要な最小限度」の範囲内の実力組織であれば、「戦力」に当たらない。こうして、自衛隊が生まれ、育ってきました。
今や、自衛隊はその実態からは、世界第6位とも5位とも言われる「陸・海・空軍」といわざるを得ませんが、建前は飽くまでも「戦力=軍隊」ではなく、憲法に認められた「自衛のため必要な最小限度の実力組織」なのです。
実は、この「戦力」についての解釈は、自衛隊を創設するために政府がひねり出した解釈ですが、今や、自衛隊の拡大増強を縛るものとなっています。
以下は、防衛省・自衛隊自身のホームページからの引用です。
「わが国が憲法上保持できる自衛力は、自衛のための必要最小限度のものでなければならないと考えています。その具体的な限度は、その時々の国際情勢、軍事技術の水準その他の諸条件により変わり得る相対的な面があり、毎年度の予算などの審議を通じて国民の代表者である国会において判断されます。憲法第9条第2項で保持が禁止されている「戦力」にあたるか否かは、わが国が保持する全体の実力についての問題であって、自衛隊の個々の兵器の保有の可否は、それを保有することで、わが国の保持する実力の全体がこの限度を超えることとなるか否かにより決められます。
しかし、個々の兵器のうちでも、性能上専ら相手国国土の壊滅的な破壊のためにのみ用いられる、いわゆる攻撃的兵器を保有することは、直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるため、いかなる場合にも許されません。たとえば、大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母の保有は許されないと考えています。」
今の自衛隊は、政府自身の憲法解釈上、このような「縛り」(厳密な縛りとは言えない、緩いものではありますが)がかかっていることになります。しかし、安倍自民党は、このような手枷足枷の桎梏を取り払って、自衛隊を堂々の「国防軍」としたいのです。そのホンネを語っているのが、2012年4月28日発表の「自民党憲法改正草案」です。現行の憲法第2章「戦争の放棄」は、「安全保障」に置き換えられ、堂々と自衛隊の海外派兵も治安出動も憲法上可能となります。軍法会議も整備されます。
このような、安倍自民党のホンネを視野に入れて「安倍9条改憲」の提案を読まねばなりません。たたき台とされている「9条の2」の案が、「前条の規定(9条1項・2項)は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず」となっているのは、9条1項・2項をまずは、ご破算とすることを意味します。
その上で、「そのための実力組織として、法律の定めるところにより、自衛隊を保持する。」「自衛隊の行動は、法律の定めるところによる」とは、結局法律の作り方次第、国会の過半数の勢力が、これまでの憲法9条の縛りを離れて、広範な裁量のもと、新たな自衛隊を設計し運用することが可能となるのです。
この改憲は、何としても阻止しなければなりません。そのためには、これまで安倍9条改憲と最も厳しく切り結んできた日本共産党に活躍してもらわねばなりません。そして、13項目の共通政策を作成した野党共闘は、共通政策の第1項目を「改憲阻止」としています。
ぜひとも、今回は、「安倍改憲」阻止のための選挙として、
32ある地方区の一人区では「野党共闘候補」を、複数区では「日本共産党の公認候補」を、そしてもう一票の比例区では、「日本共産党」と政党名を記入して投票ください。
以上、日本国憲法と平和と民主主義に成り代わって、お願いを申しあげます。
(2019年7月18日・連続更新2299日))
いよいよ参院選に突入である。日本国憲法の命運にかかわる選挙戦。本日(7月5日)の各紙は、「安倍政権を問う」「改憲3分の2が焦点」「争点は、年金・増税」とほぼ共通している。
驕る平家は久しからず。長すぎるアベ政権の綻びは明らかで、有権者はウンザリのはずなのだが、アベは、「政治の安定」を売り物としての延命策。なんという開き直りよう。なんというふてぶてしさ。なんという図々しさ。
ところで、多くの政党・政派が有権者の支持獲得を競っているが、各政党は一本の物差しの所定の目盛りに位置している。大雑把にいえば、最も右に自民党が、最も左に共産党が位置して、その中間にそれぞれの政党が、あるいは自民寄りに、あるいは共産寄りに、ふさわしい位置を占めている。
本日の朝日が、これを図示している。「朝日と東大谷口研究室」の共同調査による、「候補者 読み説く」という記事。いくつもの指標で、13もの政党の立ち位置を図示しているが、最も目を惹くのは、憲法改正に関する各党の積極度。
常識的には、改憲積極派の最右翼が自民党で、その対極の積極護憲派の位置に共産党がある。その両極の間の自民寄りに公明党、共産党寄りに立憲・国民などがある。この常識は、大きな間違いがない。
ところが、朝日の改憲度物差しの図示には、驚くべきことがある。右翼自民よりも、さらに右に位置する政党がある。なんとそれが維新なのだ。維新こそが自民党を凌ぐ積極改憲派なのである。
念のため、《改憲派⇔護憲派》の位置関係を順に並べてみると、次のとおり。
維新・自民・公明・国民・立憲・れ新・共社 の順となる。
そして、自民と公明の間は、かなり大きく開いている。ここに、紛れもない右翼の「N国」や、何ものかよく分からない「安楽死の会」などの諸派が入る。
なるほど、維新と共産。これは改憲・護憲軸の両極端、水と油なのだ。そういえば、最近維新が共産に絡む事件が目につく。取りようによっては、維新の自民党への媚びであり、すり寄りの手段のようでもあるが、本来この両党は本質的に相性が悪いのだ。
通常国会閉幕直前の本年6月25日、野党4党1会派が、共同で衆院本会議に内閣不信任案を提出した。これに、維新は反対に回り、足立康史が反対討論をした。足立が登壇すると、与党席から拍手が起こったという。
足立の演説は驚くべきものだった。アベ内閣が国民の信任に値するものであるか否かの、メインテーマには直接触れずにこう述べ、その行動の基準が、反共にあることを明言したのだ。
「念のため申し上げますが、私たち日本維新の会は内閣不信任決議案に反対と申し上げたのは、別に自民党や公明党と行動を共にしたいからではなく、共産党と同じ行動を取るのが、死んでもいやだからであります!」
通常国会閉会後の6月30日、ドワンゴとヤフー共催によるネット党首討論で、維新の松井代表と、共産党の志位委員長との間に、こんなやり取りがあった。
https://www.youtube.com/watch?v=Wdm4c7NCqlc
司会:松井さん、お願いします
松井:今、消費増税のお話がありました。これはもう、他の政党の皆さん、そうなんですが、2011年復興増税の折には増税の負担を国民の皆さんにお願いする限り国会議員が、すべての国会議員で身を切る改革をやろうと。ということで、いっとき2割カットがスタートしたのに、今は元に戻ってしまっております。
まず国民の皆さんに負担をお願いするのなら、自分たちが自分たちの身分を見直すべきだと思いますが、志位さん、どうでしょうか。
志位:あの、私たちは消費税を国民に押し付ける代わりに自分たちの身を切るというのは、これは理屈が違うと思います。身を切れば増税を押し付けていいんでしょうか? そんなことにはならない。ただ、私たちはたとえば、政党助成金、317億円。これ、各党が取っているわけですが、松井さんのところもたくさん貰っていると思います。
松井:いや…、活動経費に…(聞き取れず)
志位:これ全部返上したらいかがですか? 私たちは廃止を求めておりますし、私たちは受け取っておりません。まず身を切ると言うんだったら、まずそこから取り組んだらいかがですか?
松井:いや、それは…
7月3日、日本記者クラブ主催「党首討論会」でもこんな場面があった。
https://www.youtube.com/watch?v=DQgu5yni7rI
松井:前の総選挙のときの党首討論で、国会議員が領収書なしでもらえている文書通信交通滞在費は見直すべきだ、せめて領収書公開しようと提案したとの話があり、「その折、志位さんはやるといったが、あれからもう2年が経過している。今のところ、知らぬ存ぜぬで、これはまったく実行されていない。志位さんの公約というのはそういう軽いもんなんでしょうか」
志位:共産党ウオッチャーで有名な松井さんがご存じないというのは驚きましたが、私たちはホームページで、文通費の使途をすでに公開しております。公表した通り、文通費の趣旨を踏まえて活用し、人件費と選挙には使っておりません。会計処理はすべて、領収書と伝票に基づいて行い、領収書と伝票を保管しており、ルールができればいつでも提出する用意はあります。
…領収書、私、維新の会についてちょっと調べてみたんですが、ここに持ってきた杉本和巳議員の使途報告書は、100万円の文通費の全額を杉本議員自身が支部長を務める政党支部に入れており、領収書はこの2枚付いておりますが、領収書を発行したのも杉本議員、領収書を受け取ったのも杉本議員、何に使われたのかはまったくのブラックボックスです。この使途が何かが大事なのであって、使途を公表して初めて公表したといえるのではないでしょうか。
この問題についてもう一言申し上げますと、先ほど「身を切る改革」ということ議論になりましたが、そんなに身を切るのがお好きなら、政党助成金を返上したらいかがと、私は思います。
こういうのを、みごとな「切り返し」「返り討ち」というのだろう。あるいは、「効果的逆襲」「ブーメラン効果」「ツケが回る」「形なし」「ぐうの音も出ない」「身から出た錆」…。維新には党首の発言にファクトチェックの助言をする態勢がないのだろうか。いずれにせよ、憲法を大切に思う有権者は、けっして維新に投票してはならない。
(2019年7月5日)
梅雨空ぐずつく中、本日で6月が終わる。天皇交替とそれに伴う新元号騒ぎはやや落ち着き、通常国会が会期の延長なく閉幕し、鳴り物入りの大阪G20もさしたる話題なくスケジュールを消化した。
ところで、大阪に集まった各国首脳の顔ぶれ。知性ある人の影は薄く、知性の欠けた人物ばかりが我が物顔の振る舞い。およそ人類の理想とは無縁で、人権や民主主義、格差の是正などになんの関心もなさそうなトランプ、習近平、プーチン、そしてトランプにものが言えない安倍晋三。もうひとり、カショギ殺害の犯人と名指しされているサウジの皇太子など。なるほど、これが今の世界の縮図なのだ。
週明けの明日、7月1日からは本格的な参院選挙戦。日本国憲法の命運にかかわる選挙だが、自ずと焦点はアベノミクスの評価となり、具体的には「消費増税」の可否と「年金問題」が争点となる。憲法改悪阻止のために、政権与党の経済政策の失敗を論じなければならない。
このほど発刊となった、日本民主法律家協会の機関誌「法と民主主義」6月号は、そのような問題意識から、「アベノミクス崩壊と国民生活」を特集した。
https://www.jdla.jp/houmin/index.html
下記のとおり、緊急の特集に素晴らしい執筆者を得ることができた。
特集★アベノミクス崩壊と国民生活
◆特集にあたって … 編集委員会・南 典男
◆今、一番心配すべきことは何か グローバル経済と日本 … 浜 矩子
◆アベノミクスを歴史の文脈でとらえる … 山本義彦
◆安倍政権による「全世代型社会保障」への軌跡 … 二宮厚美
◆アベノミクスと増税・消費税 … 浦野広明
◆アベノミクスと漁業… 加瀬和俊
◆アベノミクスと日本の財政 … 醍醐 聡
■連続企画●憲法9条実現のために〈23〉
安倍改憲を吹っ飛ばせ!自民党改憲Q&A徹底批判
(改憲問題対策法律家6団体連絡会・安倍9条改憲NO!全国市民アクション主催 院内集会より)
・集会で明らかにされた「自民党改憲Q&A」の嘘とごまかし … 大山勇一
◆司法をめぐる動き
・冤罪救済と誤判の防止に向けて … 高見澤昭治
・5月の動き … 司法制度委員会
◆メディアウオッチ2019●《選択の季節に》
トランプ、年金、イージスはつながっている 政府がウソを言うのは当たり前か? … 丸山重威
◆あなたとランチを〈№46〉
さあこれから飛ぶぞ … ランチメイト・大久保賢一先生×佐藤むつみ
◆改憲動向レポート〈№15〉
「憲法9条改正など私たちにはありえない。世界の真珠だ」(国文学者・中西進先生) … 飯島滋明
◆トピックス●いまなぜ西暦併用アピールなのか … 稲 正樹
◆時評●「裁判所にだけは行きたくない!」「弁護士のお世話にはなりたくない!」 … 今 瞭美
◆ひろば●不便にして、かつ有害。日常生活からの元号排除を … 澤藤統一郎
「法と民主主義」(略称「法民」)は、日民協の活動の基幹となる月刊の法律雑誌です(2/3月号と8/9月号は合併号なので発行は年10回)。毎月、編集委員会を開き、全て会員の手で作っています。憲法、原発、司法、天皇制など、情勢に即応したテーマで、法理論と法律家運動の実践を結合した内容を発信し、法律家だけでなく、広くジャーナリストや市民の方々からもご好評をいただいています。定期購読も、1冊からのご購入も可能です(1冊1000円)。
お申し込みは、下記のURLを開いて、所定のフォームに書き込みをお願いいたします。なお、2019年6月号は、通算539号になります。
https://www.jdla.jp/houmin/form.html
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◆特集にあたって
内閣支持率を支えてきたアベノミクスは、崩壊する過程に入ったと思う。
内閣府が公表する景気動向指数が2019年1?3月期、4月期と連続して「悪化(景気後退の可能性が高い)」になった。株価や不動産価格が高かったのは、日本銀行が莫大な国債を買って金融緩和を続け、株、不動産信託を購入して買い支えてきたからだ。国の借金は鰻登りに増加したが、成長戦略は失敗し、名目GDPは停滞したままである。膨大な財政負担だけが残った。
他方、アベノミクスは国民生活に深刻な危機をもたらしている。
老後の資金形成で「およそ2000万円必要になる」などとした金融庁の審議会がまとめた報告書が国民に大きな不安をもたらしている。
社会保障制度だけでなく、実質賃金及び家計消費の低下、地域経済の衰退、地銀・信金の経営悪化、内需の衰退、貿易収支の赤字化など、国民生活全般に深刻な危機が生じている。戦後憲法のもと築かれてきた社会保障制度、雇用・賃金を保障する労働基本権制度、所得再分配機能を持った税制度、地域を活性化させる地方自治制度などが、アベノミクスによって加速度的に壊されている。
本特集は、本年7月に予定されている参議院議員選挙を前にして、アベノミクスが日本経済と国民生活の深刻な危機をもたらしていることを明らかにし、アベノミクスから抜本的に転換する経済政策を展望しようというものである。
浜矩子氏(同志社大学教授)は、グローバル経済の中でのアベノミクスの特異性として、?国家主義を標榜する最もたちの悪い「ディグローバル」(国境を越えた人々のつながりの破壊)であること、?キャッシュレス化(実は、物理的現金から電子的現金に現金決済の形態を切り替えること)を推進し、権力が市民の現金取引を捕捉しようとしていること、?ギグエコノミー化(フリースタイルで働くこと)と称して、働く人々の人権を蔑ろにし、生産性向上のために使おうとしていること、そしてこの三つが関連し合っていることを指摘している。
山本義彦氏(静岡大学名誉教授)は、ナチスが経済を安定させてナチズム体制を構築したのと同様に、第二次安倍政権が経済の浮揚によって改憲を実行しようとしていることを喝破した上で、アベノミクスの6年間が給与水準の低下、消費税増税や年金給付の低下をもたらして国内市場を制約していると指摘し、給与条件の向上、正規労働力の本体化、中小企業の生産活動の強化、法人税の適切な負担、介助労働の条件向上など、アベノミクスと真反対の方向に舵を切ることを展望している。
二宮厚美氏(神戸大学教授)は、安倍政権7年間で社会保障費の削減が4兆2720億円に及び、圧縮されたのが医療・年金・介護の高齢者向けの福祉(「高齢者三経費」)であること、削減の理由として「高齢者三経費」の対応に消費税率10%への引き上げが必要(「社会保障・税一体改革」)と述べていたことを明らかにした上で、安倍政権はその後「一体改革」に代えて「全世代型社会保障」のキャッチフレーズを持ち出し、消費税増税後も高齢者三経費に回さないで済まし、社会保障費削減を基調とする政策を続けるとしており、ペテンであると鋭く問題を指摘している。
浦野広明氏(立正大学法学部客員教授)は、安倍政権の消費増税8%によって、?消費支出が減って今に続く深刻な不況を引き起こしたこと、?消費税収入の大部分が法人税減税の穴埋めと軍事費に消えたこと、?消費税は企業の(利益+賃金)にかかるので、企業の外注化を促してリストラを促進したことなどを指摘した上、消費税増税を中止して人権を基軸とした税制(応能負担の原則・税金を福祉に使う)に転換することを展望する。
加瀬和俊氏(帝京大学教授)は、安倍内閣による漁業・農業の「成長産業化」方針の下で、漁業法が大幅に改変され、企業的経営体が優良漁場を優先的に確保し、免許された海面を私有地のように排他的に占有し続ける仕組みが作られ、?小規模漁業者を排除し、?都道府県行政を国の付属物とみなし、?現場の実情を軽視していると指摘している。アベノミクスによって、漁業のみならず地域経済全体が壊されようとしている。
醍醐聡氏(東京大学名誉教授)は、アベノミクスにおける財政について、防衛関係費の後年度負担残高の伸びが大きいこと、装備品の価格や納期は米政府が主導しており、米側の納品書と精算書の記載に食い違いがあったこと、その一方で、市民生活に直結する社会保障関係費と地方交付税ののびが大幅に抑制されてきたことなどを指摘している。
アベノミクスからの政策転換を、広く訴え、安倍内閣を追いつめ、日本国憲法がかがげる人間らしい生活を取り戻す闘いのために、ともに頑張りましょう。
〈「法と民主主義」編集委員会・南典男(弁護士)〉
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「ひろば」(執行部関係者の巻末コラム)欄は、私(澤藤)が書いた。「不便にして、かつ有害。日常生活からの元号排除を」という標題。
4月1日に新元号が発表され、5月1日新天皇就任となった。だからといって世は何も変わらず、また変わってはならない。にもかかわらず、メディアは浮き足立ち、これに乗せられた人々の「代替りフィーバー」「令和フィーバー」現象である。政権の思惑どおりであったろう。
30年前は下血報道が長く続いた後の天皇の死に伴う交替劇だった。国民に前天皇の死に対する弔意が求められ、日本社会の少なからぬ部分が唯々諾々とこれに従った。歌舞音曲の自粛が申し合わされ、大きな社会的同調圧力が可視化された。
あのとき、よく分かった。天皇を「国民統合の象徴」としている憲法規定は、ナショナリズム喚起の有用な道具なのだ。対内的・対外的な国民統合の道具は、政権にとって便利な統治の装置なのだ。
今回の新天皇就任には、天皇の死が伴っていない。国民主権原理を逸脱した前天皇のメッセージが生前退位容認の特例法となったからだ。そのために、今度は祝意強制の圧力が蔓延した。新天皇就任祝意一色のメディアの垂れ流し、前天皇礼賛の提灯記事・提灯番組の羅列が大きな役割を果たした。その提灯メディアに乗せられて、戦前・戦中を彷彿とされる提灯行列までが行われたという。
「住民たちがちょうちんを振ったり万歳三唱をしたりして歓迎の気持ちをあらわすと、両陛下は、上下左右にちょうちんを振ってこたえられました。…… 両陛下の姿が見えると住民から歓声があがり、両陛下は、何度も手を振ってこたえられていました。」というのが、NHKの報道である。ここに、主権者の姿はなく、臣民の残滓が見えるのみ。
あらためて、象徴天皇制礼賛ないし受容のイデオロギーとの対峙が課題となっているが、その課題は、象徴天皇制を支える小道具との日常生活での対決として具体化する。その中で最重要のテーマが、「日の丸・君が代」強制への抵抗と、元号使用の拒否であろう。
元号という紀年法は、天皇の在任期間と緊密に結びつけられた天皇制の付属制度であることから、その表記が通用する地域は限定され、存続期間も有限である。明らかな欠陥紀年法。ビジネスには、不便極まりなく、国民生活にも元号は廃れつつある。先年、ある皇族女子の婚約記者会見での発言が、すべて西暦で語られていたことが話題となった。
ところが、裁判所は5月1日以後文書の日付に新元号を使い始めた。当然に、事件番号もである。訴状や準備書面の主張部分はすべて西暦を用いても、固有名詞である事件番号は元号を用いるしかない。そこで、裁判所を孤立させたい。弁護士はすべからく、西暦を使おうではないか。そうすれば、やがては法律文書も、判例検索もすべて西暦表記に統一せざるを得なくなる。
もっとも、現状は楽観できない。人権派と思しき弁護士の元号使用に愕然とすることがある。本誌への寄稿にも、時に元号表記があって戸惑わざるをえない。
時代遅れの元号表記、不便というだけではない。国民の主権意識覚醒の障害として有害なのだ。日常性から排除しなければと思う。(弁護士 澤藤統一郎)
(2019年6月30日)
「戦争屋にだまされない厭戦庶民の会」から、『厭戦庶民』の32号と33号が届いた。小さなパンフだが、とても面白い。充実している。肩肘張らないつぶやきもあれば、肩肘張った論文もある。石川逸子さんの詩もあり、みごとな替え歌もあり、言葉遊びもある。肩書を「弁護士・平和委員会代表理事」として内藤功さんも書いている。多くは、神奈川県内の活動家、それも元気溢れる高齢の方の発言集。
この会は、名物活動家・信太正道さんが主宰していた。元特攻隊員だったが出撃寸前に敗戦となって命ながらえた方。戦後は海上保安庁職員、海上自衛隊、航空自衛隊をへて日航機長となった。徹底した非戦論者で、9条改憲阻止の信念と活動に揺るぎがなかった。
信太さんは2015年11月10日に亡くなられたが、その遺志を継ぐ人々が「戦争屋にだまされない」とする、「厭戦庶民の会」の活動を続けているのだ。ひとりの人の熱意が、その人の死後にも他の人に受け継がれる好例。
この会の会則は、9か条ある。その第9条が、以下のとおりである。
「(不戦の誓い)私たちは、戦争を放棄し、軍備および交戦権を認めません」
「改憲的護憲論」には反対を明確にしたうえ、反アベ政権の運動においては、そういう人とも批判的に共闘を、という学習会の報告もなされている。
時節柄、天皇や天皇制、元号に関わる論稿が多い。象徴天皇制を厳しく指弾する意見もある。こんな記事が目を惹いた。
「私は天皇制は勿論、天皇の存在そのものに絶対反対なのです。」という立場を明確にした方の、かなり長い論文の次の一部分。
「戦直後、当時の共産党を中心に、天皇制打倒が叫ばれた。しかし、そこには天皇制の捉え方について、二つの意見があった。
一つは、徳田球一書記長のとらえ方=天皇とは、どう言い繕っても、排他的民族主義・侵略性の思想を秘めた国のトップである。今こそ(この敗戦という大転換期に)即これを無くさないかぎり、いかなる共和的民主国家も出来得ない。というもの。
今一つは、野坂参三に代表されるとらえ方=天皇には二つの側面がある。一つは絶対的天皇制権力機構であり、他方は宗教的側面である。天皇制権力機構は即廃絶すべきであるが、他の天皇の宗教的側面は国民が天皇を慕っているのだから、今、それをも即打倒というべきでなく、後の、国民投票によるべきだ。 そして結果的に…いろんな経緯はあるとしても日本の新憲法に、この野坂泰三氏の思想が取り入れられた。
天皇の制度権力機構は廃止する。しかし日本国の象徴として天皇を残す。である。」
「天皇制の忌まわしさにおいて、その独裁的権力機構と、その宗教的といえる精神的なもの象徴天皇制とどちらが恐ろしいか、私に言わせれば後者です。」
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そして、紹介したいのが、疎開世代の「戦争体験」。
美空ひばり「一本の鉛筆」と
「日米安保闘争」
私の「厭戦」の原点です
長谷川徑弘(84歳)
毎年5月の「平和のための戦争展inよこはま」に「美空ひぱり?一本の鉛筆」の展示を担当して久しくなります。
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これには、私が「太平洋戦争」下、横浜から箱根に集団疎開していた時に、母親が「粗末な便箋に鉛筆書きの手紙」を毎月1通出してくれた思い出があるからです。
今年(2019年)6月24日は美空ひぱり没後30年です。
新聞・TVなどで、回顧番組があるでしょうが、「一本の鉛筆」の紹介があるかどうか。若い人たちには、「ひぱり」が、忘れられてきているかも、気がかりです。
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「一本の鉛筆」のメロディも歌詞も、淡々としていますが、共に彼女の心情をこめた最高のものです。メロディは低音域でゆったりした3拍子。
歌詞には
「一本の鉛筆があれば戦争はいやだと私は書く」
「一枚のザラ紙があれば あなたをかえしてと私は書く」
「一本の鉛筆があれば 8月6日の朝と書く」
「人間の命と書く」
「ザラ紙」は「わら半紙=上質紙に対して下等紙」の事。
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こうした歌詞が、私が疎開先で受け取った母からの「便箋に鉛筆書き」の手紙とダプルのです。
その母は、5・29横浜大空襲の後の6月9日、産後の体を壊して他界。赤子も後を追う。私と妹は集団疎開先に居て、母の死に顔を見られなかった。
「母を返して」。
こんな事も。戦後、親戚預けになった弟2人が、他人様への気苦労人生でか、数年前に病み他界。今、残りは、年長組の兄・私・妹の3人。人生が逆さまになった。
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「戦争体験者」は、「戦争体験」を語り続けなければなりません。「過去」の先に「現在と未来」があるから。
ひばりさんは、横浜大空襲の前、4月16日の磯子地区の“はみ出し爆撃”で被災して。
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私の住まいの玄関脇に「一本の鉛筆?ひばり」の手製ボード、メーデーなどには手製プラカー
ドを抱えて出かけます。どこかで見かけたら、私です。
私のもう一つの。“厭戦”は、「日米安保条約」です。
?1952年「旧安保」(「起ちあがれ(安保破棄の歌)」、
?1960年「新安保」(子ども遊び「アンポハンタイ」/6・23全国統一行動)、
?1970年「10年固定期限終了・安保廃棄6・23集会各地で盛り上がる」。
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この後、「安保闘争」は影が薄くなって、はや50年・半世紀になろうとしています。
私は、「諸悪の根源・日米安保条約」と指摘する畑田重夫先生(95歳)からいただいた「生涯学習・生涯青春」の直筆色紙を、机前に貼りつけ、がんぱっています。今、84歳。
今、このような無数の先輩たちが、「改憲阻止」「安倍ヤメロ」の運動の先頭にいる。
(2019年6月25日)
ご近所のみなさま、ご通行中の皆さま。こちらは、本郷湯島九条の会です。
私は、本郷5丁目の弁護士ですが、日本国憲法とその理念をこよなく大切なものと考え、いま、憲法の改悪を阻止し、憲法の理念を政治や社会に活かすことがとても大切との思いから、志を同じくする地域の方々と、九条の会をつくって、ささやかながら憲法を大切しようという運動を続けています。
会は、毎月第2火曜日の昼休み時間を定例の街頭宣伝活動の日と定めて、ここ本郷三丁目交差点「かねやす」前で、改憲阻止と憲法理念の実現を訴えて参りました。とりわけアベ政権の、憲法をないがしろにする姿勢を厳しく糾弾しつづけてまいりました。
さて、みなさま。今通常国会は、6月26日で閉会となります。会期の延長はなく、総選挙との同日選もない模様。7月4日に参院選の公示となり、21日投開票の見通しです。
この参院選挙の争点はなんでしょうか。真正面から、「憲法改正の是非を問う選挙」と言って差し支えないと思います。そのため、大切な選挙戦となって
安倍晋三という政治家がいます。歴史修正主義者で、政治の私物化に余念のない人物。こんな男を、内閣総理大臣にしているのが、今の時代の空気なのです。総理大臣と言えば、行政のトップで、憲法を遵守し擁護すべき義務を負う立場。にもかかわらず、彼は、日本国憲法が大嫌い。改憲に執念を燃やしています。本当は全面的に憲法を変えたいのだけれど、それは到底無理だから、手はじめにせめて4項目だけを変えたい。これが、彼の改憲論です。4項目の筆頭には、「9条改正」が掲げられています。9条1項と2項をそのまま残すと言いながら、これを死文化させるのが、「アベ流9条改憲論」にほかなりません。
彼の改憲論は、自民党の参院選選挙公約の6本の柱の中に、しっかりと書き込まれました。この自民と、これを支持する公明・維新の3党が、改憲派です。
公明・維新以外の野党が、改憲阻止勢力。全国に32ある参院選挙一人区のすべてで、立憲主義を大切しようという野党が、市民連合を仲介者として、13項目の共通政策をもって候補者調整をすることに合意しました。その13項目の筆頭が、「改憲を許さない、国会での改憲の発議を許さない」という改憲阻止の政策です。
こうして、「改憲派3党」対「改憲阻止の野党共闘」という構図ができあがり、改憲をめぐっての選挙戦が始まろうとしています。
もちろん、選挙の争点はけっして改憲の是非にとどまるものではありません。しかし、ほとんどの具体的な政策の対立は改憲の是非に重なり、改憲問題に収斂すると言って過言ではありません。
たとえば、沖縄・米軍辺野古新基地建設強行問題。あるいは1機100億円を超すF35を105機も購入するというバカげた予算の使い方。どちらも結局は、9条の平和主義と武力による安全保障という基本的な立場のせめぎ合いではありませんか。
またたとえば、消費税10%への増税の可否。庶民に優しい税制なのか、金持ち優遇の税制を進めるのか。憲法25条が定める福祉の理念を進めるのか退歩させるのかの問題にほかなりません。
原発再稼働反対。最低賃金を全国一律で、時間給1500円に。選択的夫婦別姓の実現。いずれも、憲法の理念からは当然の政策です。
みなさま。日本国憲法とは、人権の尊重・民主主義の徹底、平和と国際協調を唱った法体系です。今必要なのはその改正ではなく、憲法に盛りこまれている豊かな理念を現実のものとする努力ではないでしょうか。
7月の参院選は、憲法の命運にとっての大切な選挙です。平和を望むみなさま。人権や民主主義を大切に思うみなさま。労働条件の改善や、子育ての環境の充実、障がい者やお年寄りに優しい、手厚い福祉社会の実現を希望するみなさま。ぜひ、自民・公明・維新の改憲勢力にではなく、共通政策を掲げる野党共闘の陣営をご支援いただきたいのです。
今、お配りしているビラの裏面に、野党の共通政策13項目を記載しています。ぜひとも、お読みください。よろしくお願いします。
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1 安倍政権が進めようとしている憲法「改定」とりわけ第9条「改定」に反対し、改憲発議そのものをさせないために全力を尽くすこと。
2 安保法制、共謀罪法など安倍政権が成立させた立憲主義に反する諸法律を廃止すること。
3 膨張する防衛予算、防衛装備について憲法9条の理念に照らして精査し、国民生活の安全という観点から他の政策の財源に振り向けること。
4 沖縄県名護市辺野古における新基地建設を直ちに中止し、環境の回復を行うこと。さらに、普天間基地の早期返還を実現し、撤去を進めること。日米地位協定を改定し、沖縄県民の人権を守ること。また、国の補助金を使った沖縄県下の自治体に対する操作、分断を止めること。
5 東アジアにおける平和の創出と非核化の推進のために努力し、日朝平壌宣言に基づき北朝鮮との国交正常化、拉致問題解決、核・ミサイル開発阻止向けた対話を再開すること。
6 福島第一原発事故の検証や、実効性のある避難計画の策定、地元合意などのないままの原発再稼働を認めず、再生可能エネルギーを中心とした新しいエネルギー政策の確立と地域社会再生により、原発ゼロ実現を目指すこと。
7 毎月勤労統計調査の虚偽など、行政における情報の操作、捏造の全体像を究明するとともに、高度プロフェッショナル制度など虚偽のデータに基づいて作られた法律を廃止すること。
8 2019年10月に予定されている消費税率引き上げを中止し、所得、資産、法人の各分野における総合的な税制の公平化を図ること。
9 この国のすべての子ども、若者が、健やかに育ち、学び、働くことを可能とするための保育、教育、雇用に関する予算を飛躍的に拡充すること。
10 地域間の大きな格差を是正しつつ最低賃金「1500円」を目指し、8時間働けば暮らせる働くルールを実現し、生活を底上げする経済、社会保障政策を確立し、貧困・格差を解消すること。また、これから家族を形成しようとする若い人々が安心して生活できるように公営住宅を拡充すること。
11 LGBTsに対する差別解消施策、女性に対する雇用差別や賃金格差を撤廃し、選択的夫婦別姓や議員間男女同数化(パリテ)を実現すること。
12 森友学園・加計学園及び南スーダン日報隠蔽の疑惑を徹底究明し、透明性が高く公平な行政を確立すること。幹部公務員の人事に対する内閣の関与の仕方を点検し、内閣人事局の在り方を再検討すること。
13 国民の知る権利を確保するという観点から、報道の自由を徹底するため、放送事業者の監督を総務省から切り離し、独立行政委員会で行う新たな放送法制を構築すること。
(2019年6月11日)