あの台風のなか、上野公園の路上生活者は?
昨日(9月11日)は、巨大な台風19号の襲来に、丸一日身構えていた。なすすべもなく、ひたすらに身を固くしていただけのこと。ようやく大過なく一夜が明けて、東京は抜けるような青空。まだ風は強いが、透きとおった空気に陽光がまぶしい。
被災地の皆様には申し訳ないが、まことに、野分の朝こそをかしけれ、の風情。東大本郷キャンパスの銀杏並木は、通路に散り敷いたギンナンの山。臭いがきつい。うっかり履むと足の裏の臭いがどこまでもついてくる。落ちたギンナンに履を納れてはいけない。スズカケや、タイワンモクゲンジの実も散乱している。なんとももったいない。
不忍池では、華のない蓮の葉ばかりが風に揺れている。漢語でハスを「荷」というそうだ。してみれば、「荷風」とは、今日のようなハスの葉裏を翻すさわやかな風だろうか。それとも、蓮の異名の清香を運ぶほのかなそよ風か。
ところで今朝は、路上生活者諸氏の姿が見あたらない。昨夜の雨と風を,どこでどのようにして凌いだのだろうか。避難所で安眠できただろうか。気になるところだが、毎日(デジタル)にこんな記事があった。
路上生活者、台風19号の避難所入れず 台東区「住所ないから」
台風19号の被害が拡大した12日、東京都台東区が、路上生活者などで区内の住所を提示できない人を避難所で受け入れていなかったことが、同区などへの取材で明らかになった。
台東区によると、台風19号の接近に伴って11日午後5時半以降、区内4カ所に自主避難所を開設。12日にこのうちの区立忍岡小の避難所を訪れた2人に対し、「住所がない」という理由で受け入れを拒否したという。
区災害対策課によると、自主避難所は区民対象に開設。避難者には入所時に住所や氏名を記入してもらう。12日に訪れた2人が「住所がない」と説明したため、受け入れられないと伝えたという。同課は「区民が今後来るかもしれない状況だったため、区民を優先した」と説明する。
この対応に、貧困者の支援団体などからは「路上生活者の締め出しだ」という批判が上がっているという。
一般社団法人「あじいる」代表の今川篤子さんによると12日、複数の路上生活者から「避難所に行ったが断られた」という訴えを直接聞いたという。今川さんらが忍岡小を訪れて区職員に確認したところ「住所のない人は利用させないようにと指示を受けた」と回答したという。
区広報課田畑俊典課長補佐は「結果として支援から漏れてしまったのは事実で、今回の対応に多くの批判もいただいている。住所のない人の命ををどう守るか。他の自治体などを参考に支援のあり方を検討していきたい」と話した。
あの嵐のさなかのできごと。こんな会話があったのではなかろうか。
「この避難所で、雨風をしのぎたいのですが」
「あなた、お住まいはどちらですか」
「お住まいって…。ちゃんとしたお住まいがないから、一晩だけでも…」
「ここは台東区民のための施設ですから、区内にお住まいでなくてはね」
「普段は台東区上野公園で暮らしていますが、それじゃだめでしょうか」
「住民登録がなくっちゃね」
「……」
行政としては、この状況においては、手続や形式よりも、まずは誰であれ、生身の人を尊重すべきであったろう。
「『人命』より『住民票』? ホームレス避難所拒否で見えた自治体の大きな課題」というタイトルで、本日13時40分配信の〈AERA dot.〉が、津久井進弁護士(兵庫県西宮市)のコメントを引用している。
「災害救助法では、事務取扱要領で現在地救助の原則を定めています。住民ではなくても、その人がいる現在地の自治体が対応するのが大原則。また、人命最優先を定めた災害対策基本法にも違反する。あり得ない対応です」
「災害対策が進んでいると自負していた東京都でさえ、基本原則が理解されていない現場があることが露呈した。法律の趣旨原則に通じていない自治体が次なる大災害に対処できるのか、極めて強い不安を覚えます。同時に、法律が複雑なうえ、災害救助法は1947(昭和22)年に制定された古い法律です。国も、さらなる法整備を進める必要があるでしょう」
路上生活はこの上なく厳しい。ネットを検索したら、下記のURLを見つけた。形式主義で避難受け入れを拒否する人ばかりではなく、路上生活者に手を伸ばそうと、懸命に努力している立派な人もいるのだ。何もできない自分を恥じつつも、この社会、けっして捨てたものでもないとホッとしている。
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(2019年10月13日)