カジノ解禁法案に反対する
賭博は犯罪である。単に違法な行為というだけのものではない。国家が刑罰権を発動して制裁を科する必要があるとされているのだ。その本質において、互いに相手の財産を奪い合う醜い行為であり、やがては身を滅ぼす行為でもある。単純賭博罪(刑法185条)、常習賭博罪(同186条1貢)、賭博場開張図利罪(同186条2項)。博徒結合図利罪(同)と類型化され、富くじの発売も、発売の取次も、授受も犯罪(同187条)とされている。
「賭博は、お互い負ければ取られることを覚悟でのゲームだ。大人の娯楽として、刑罰をもって禁圧するほどのことはあるまい」という意見は、昔からある。賭場を開帳して、寺銭を稼ごうという有力者の声が大きい。しかし、賭博の実態が、その禁圧の必要性を確認し続けてきた。
ダンテの「神曲」では、賭博を行う者は、「他人の不利を自己の利とせし」罪によって地獄に堕ちている。最高裁は、「国民の射幸心を煽り、勤労の美風を損い、国民経済の影響を及ぼす」と説明している。賭博とは、マクロに見れば参加者から収奪するシステムにほかならない。宝くじもおなじ。
賭博あるいは博打は、人を不幸にする。賭博の公認は、大規模に不幸な人をつくり出す。横文字にして、賭博や博打をギャンブルといい、賭場をカジノと言い換えても、事情はまったく変わらない。
昨今は、賭博の経済効果が喧伝されている。そして、イメージを一新しようと、「IR」などと言葉をもてあそぶ。IRとは、定着しているInvestor Relationsの略語ではなく、Integrated Resortの訳語、カジノを中心とした複合型娯楽施設のことだそうだ。「統合型リゾート」の訳されている。その狙いは、賭博の本質が発散する胡散臭さをカムフラージュすることにある。
超党派の「IR議連」が立ち上げられ、議員立法で「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」が昨年12月に提出された。認可業者が、国の認定を受けた地域でカジノを中心とする「特定複合観光施設」を設置・運営できるとするもの。その法案の審議が連休明けから動き出すと観測されている。
法案の推進母体となっている「IR議連」の正式名称は、「国際観光産業振興議員連盟」。最高顧問として安倍晋三、麻生太郎、石原慎太郎、小沢一郎などのおぞましい面々が並ぶ。業界の利権とのつながりが懸念され、それあらんか、維新の会がことのほか熱心だ。
経済紙誌に、「1兆円の市場規模」「いや、年間で総額400億ドル(約4兆円)の売り上げを期待」「ラスベガス、マカオに次ぐ巨大施設建設を」「ロビー活動活発化」「お台場に」「大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)に」「震災からの復興の目玉に」と、景気のよい話と危ない話しとが踊る。博打奨励の尻尾を隠して、「海外の観光客を誘致してお金を落としてもらい、国内の雇用を増やし、経済を活性化させる」などと「大義」が説明されている。とりわけ、2020年の東京五輪招致がカジノ設立のチャンスと捉えられている。業界には、これ以上ない美味しい話し。庶民には不幸のばらまき。
もちろん、カジノ解禁法案に反対の世論は健在である。特に注目されているのが、弁護士の動き。昨日(4月12日)、「多重債務者の支援に取り組んできた弁護士らが、法案に反対する団体を設立し、全国で反対運動を行なっていくことなどを確認した」ことが報道されている。
彼らは、社会問題としての多重債務問題のおおきな一因として、ギャンブルやギャンブル依存症があることを、深刻に受けとめてきた。これまでは、競馬、競輪、パチンコ、宝くじの類である。「ギャンブルで借金を作り、家族や仕事を失う悲惨な人たちを私たちは見てきました。そうした犠牲を基に経済活性化を目指す国でいいのでしょうか」という代表(新里宏二弁護士・仙台)の言葉が紹介されている。人の不幸に向かいあってきた弁護士グループの言葉として重い。IRの公認は人の不幸に輪をかけることになる。
これから、国会議員に反対を訴えていくほか、大阪・沖縄・東京・仙台など、カジノの誘致を検討しているといわれる自治体に対して、具体的な反対運動を行なっていくことを確認したという。
カジノは、人を不幸にする。人を不幸にしての経済振興はあり得ない。また、カジノ誘致には、基地や原発の誘致と同じ匂いがする。基地や原発に依存した経済の二の舞となることが目に見えている。
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「ローズマリーの庭」
イングリッシュガーデン愛好家のバイブル「ローズマリーの庭にて」の著者ローズマリー・ヴィアリー(1919?2001)は四月について以下のように書いている。
「ガーデニングに関心のある者にとって、春とは、大地の温度が上昇するときを意味する。道端に雑草が生えてきたらいよいよ種のまき時だ。わざわざ寒暖計で測定しなくても、まいたものは必ず発芽してくれる。それともう一つ、大地の匂いが良い年はすべてのものの生育が良好と期待していい。」
「四月とは名ばかりの寒い日が続いたのでヘッジロウ(生け垣)には春の気配は全く感じられない。葉を落とした灌木の枯れ枝がそう思わせるのだ。が、そうみえるだけで生き物たちは本格的な春に備えて着実に活動を始めている。注意していれば生け垣に沿って早足で駆けていくウサギの後ろ姿を見かけるはずだし、枯れ枝と紛らわしいのでわかりにくいだけで、ウズラたちも何やら忙しそうだ。『三月の声を聞くといてもたってもいられなくなる』といわれる活発な野ウサギたちにいたっては、長い後ろ足を最大限に生かして野原をぴょんぴょん飛んで跳ねている」
90年代に日本ではイングリッシュガーデンブームが巻き起こった。およそ似て非なるものであることは承知しながら、みな競って、日本の狭い庭にカタカナ名前の花苗を植え、装いを凝らしたものだ。雑誌や写真誌もイギリスの広大な庭に咲きそろった美しい花壇の写真を載せた。「キングサリ」の黄金色のアーチや「ホワイトガーデン」、「香りの庭」に夢中になり、英国庭園ツアーに大挙した。
その有名な庭園のひとつ「バーンズリーハウス」のオーナーが、高名な女性ガーデンデザイナーのローズマリー・ヴィアリーさんだった。「バーンズリーハウス」は英国でも特に美しいコッツウォルズ地方にある。コッツウォルズ特産の蜂蜜色のライムストーンで300年以上前に建てられた、典型的な英国の美しい屋敷である。その庭をローズマリー・ヴィアリーさんが30年以上かけて、手作りで造りあげ公開していた。4エーカーというから5000坪ほどの庭である。広大ではあるが、手に負えない広さではない。憧れにぴったりの、田園地帯の「良きイギリスの庭」だったと思う。生前のローズマリーさんに会った人たちは彼女の気取らない実直で穏やかな人柄に魅了されたようだ。目の前に造り上げられた美しい庭を見、彼女の数々の著作に触れれば当然なことだ。「聖地」を訪れる「巡礼者」は全世界から引きも切らなかったことと思われる。
私も写真で見たキングサリのアーチに魅せられて、せめて黄色い藤の花房を見上げてみたいものだと、苗屋から買ってきては何本も枯らした思い出がある。白い花や香りのある花に関心が向くようになったのも、それからのことである。
「毎年四月下旬には野生のパルサティラ・バルガリス(セイヨウオキナグサ)を観に行くことにしている。石灰岩がむき出しの西向きの急斜面に何千、何万というブルーの花が咲き乱れるのである。崖の下から見上げるようにすると一番よく見える。花は6センチほどの短い茎に隠れて見にくいからである。・・この素晴らしい花畑の地主はグロスターシャー自然保護トラストからの要請で、花が咲き出してから種子が完全に地面に落ちるまでのあいだ、家畜を一帯に近づけないと約束したそうである。トラストはこのような自然を後世に伝えていくための地道な活動を全英五十箇所で行っている。そのほか成人向けの教育プログラムと子ども向けの自然観察など、その活動は幅広く、頭が下がる思いだ。」
ここに出てくるトラストとは、英国において歴史的名所や景勝地を保護するために1895年設立されたボランティア団体、通称「ナショナル・トラスト」のこと。現在27万ヘクタールの田園地帯、960キロメートルの自然海岸、300カ所余りの歴史的建造物、230カ所余りの庭園が寄贈され、買い取られたりして、保有、公開されている。「ピーターラビット」の著者ビアトリス・ポターの保存した湖水地方やチャーチル首相が幼い頃過ごした邸宅チャートウェルなどが有名である。
このように書いたローズマリーさん亡きあと、「バーンズリーハウス」は残念ながら、ナショナルトラストの保有するところとはならなかった。ホテル業者に売却されて、宿泊客と食事をする客だけに庭は公開されているという。聖地が冒涜されたような、少々切ない気持ちになりながら、ガーデナーとしてのローズマリーさんの夢の結実の庭園がどのような形でも長く受け継がれていきますようにと切に願う。
(2014年4月13日)