澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

これは安倍政権の国辱的行為だー外務省の外国紙への言論介入

私は、国のつく言葉が嫌いだ。国威・国体・愛国・憂国・国士・国粋・挙国・国富・国益・国母・国是・国策・国論・国賊・売国・国禁…。どれもこれも嫌なイメージがつきまとう。

中でも、「国辱」が大嫌い。「我が誇るべき国家の名誉を傷つけた。許せぬ」という、思い込み激しい罵り言葉として使われる。多くの場合、ウルトラナショナリストが激情赴くままに議論を拒絶した発語だから始末に悪い。

しかしときに、なるほどこれこそは「国の恥」にあたる「国辱的行為」ではないかと思いあたることがある。それが国自身のなせるわざで、政権に強く突き刺さる鋭さをもつのであれば、敢えてこれは「国辱もの」と言ってよいのではなかろうか。

本日(4月28日)の朝日が報道する「特派員『外務省が記事を攻撃』 独紙記者の告白、話題に」という記事の内容がまさしくそれ。安倍政権と外務省が挙国の態勢で、憂国の志から碧眼の賊徒を懲らしめ、国威を発揚せんとした愛国美談の一幕。しかし、これこそまぎれもなく国恥であり国辱ではないか。そのような批判の語として用いるのが、「国辱」の正しい使い方であろう。

その記事には、メインの見出しのほかに4本のサブの見出しがついている。「政権批判 総領事が独本社訪れ抗議」「東京滞在5年 離日に際し告白」「記者『昨年あたりから変化』」「識者の人選にも注文」というものだ。紙面に勢いがあふれている。権力批判のジャーナリズム健在を示す記事だ。これは下記のURLで読める。是非とも拡散して、多くの人に読んでもらおうではないか。再びの「国辱」が繰り返されることのないように。
http://www.asahi.com/articles/ASH4P6GZ3H4PUHBI02T.html?iref=comtop_6_06

記事は「昨年来、日本の外務官僚たちが、日本に批判的な外国特派員の記事を大っぴらに攻撃している」と指摘するもの。有り体に言えば、日本の国家総掛かりでの言論への介入である。それも、ドイツやアメリカの有力紙へのもの。おそらくは氷山の一角として明らかになった、ドイツ有力紙元東京特派員の驚くべき告白がメイン。そして、「米主要紙東京特派員」への在米日本大使館からの批判メール事件を紹介している。さすがに、よく行き届いた直接取材で信憑性はきわめて高い。由々しき問題と、憂国せざるを得ない。

主要部分を引用しておきたい。
 注目されているのは、独紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)のカルステン・ゲルミス記者(56)が書いた英文の寄稿「外国人特派員の告白」だ。日本外国特派員協会の機関誌「NUMBER 1 SHIMBUN」4月号に掲載された。これを、思想家の内田樹(たつる)さんがブログに全文邦訳して載せ、ネット上で一気に広がった。

 ゲルミス氏は2010年1月から今月上旬まで東京に5年余り滞在した。発端となる記事をFAZ紙に掲載したのは昨年8月14日のこと。「漁夫の利」と題し、「安倍政権が歴史の修正を試み、韓国との関係を悪化させているうちに、中韓が接近して日本は孤立化する」という内容の記事だった。これに対し、中根猛・駐ベルリン大使による反論記事が9月1日付のFAZ紙に掲載された。

 ここまではよくある話だが、寄稿が明かしたのは、外務省の抗議が独本社の編集者にまで及んでいた点だった。記事が出た直後に、在フランクフルト日本総領事がFAZ本社を訪れ、海外担当の編集者に1時間半にわたり抗議したという。

 寄稿によると、総領事は、中国が、ゲルミス氏の記事を反日プロパガンダに利用していると強調。さらに、総領事は「金が絡んでいると疑い始めざるを得ない」と指摘した。また、総領事は、ゲルミス記者が中国寄りの記事を書いているのは、中国に渡航するビザを認めてもらうために必要だからなのでしょう、とも発言したという。

 ゲルミス氏は寄稿で、「金が絡んでいる」との総領事の指摘は、「私と編集者、FAZ紙全体に対する侮辱だ」と指摘。ゲルミス氏は「私は中国に行ったことも、ビザを申請したこともない」とも記している。

 当事者たちに、現地で直接取材した。昨年8月28日、FAZ本社を訪れたのは坂本秀之・在フランクフルト総領事。対応したのは、ゲルミス氏の上司に当たるペーター・シュトゥルム・アジア担当エディター(56)だった。

 シュトゥルム氏によると、同紙に政府関係者が直接抗議に訪れたのは、北朝鮮の政府関係者以来だったという。シュトゥルム氏は「坂本総領事の独語は流暢だった」と話す。総領事は中国のビザ取得が目的だったのだろうと指摘したうえで、「中国からの賄賂が背後にあると思える」と発言したという。シュトゥルム氏は「私は彼に何度も確認した。聞き違いはあり得ない」と話す。

 現在勤務する独北部ハンブルクで取材に応じたゲルミス氏は、「海外メディアへの外務省の攻撃は昨年あたりから、完全に異質なものになった。大好きな日本をけなしたと思われたくなかったので躊躇したが、安倍政権への最後のメッセージと思って筆をとった」と話した。

 ゲルミス氏が、機関誌に寄稿したのは「日本政府の圧力に耐えた体験を書いてほしい」と、特派員協会の他国の記者に頼まれたからだ。その後、記事への反応を見ると、好意的なものが多かったが、「身の危険」をほのめかす匿名の中傷も少なからずあったという。「日本は民主主義国家なのに歴史について自由に議論できない空気があるのだろうか」と語る。

 シュトゥルム氏もこう話した。「我々は決して反日ではない。友好国の政府がおそらく良いとは思えない方向に進みつつあるのを懸念しているから批判するのだ。安倍政権がなぜ、ドイツや外国メディアから批判されるのか、この議論をきっかけに少しでも自分自身を考えてもらいたい」

もう一つは「日本大使館、識者の人選に注文」というもの。記事のコメンテーターへのクレームという話題だ。

 米主要紙の東京特派員は、慰安婦問題に関する記事で引用した識者(コメンテーター)について、在米日本大使館幹部から人選を細かく批判する電子メールを受け取った。同特派員は「各国で長年特派員をしているが、その国の政府からこの人を取材すべきだとか、取材すべきでないとか言われたのは初めて。二度と同じことをしないよう抗議した」と話したという。

外務省が嫌ったコメンテーターとは、中野晃一・上智大教授であり、代わって外務省国際報道官室幹部が政権御用達として秦郁彦を推薦するメールを送信しているという。このメール全文までは報道されていないが、メールの存在と内容は外務省が認めているという。

はたして日本に、権力の干渉を受けることなく表現する自由は健在なのだろうか。
おなじみになった、「国境なき記者団」の「世界報道の自由度ランキング 2015」では、日本は180カ国(地域)中の61位である。かつては11位と高位にランクされた時代もあったが、安倍政権になって以来急速に評価を下げ、「先進諸国」中の最下位に甘んじている。アジアでは、台湾(51位)、モンゴル(54位)、韓国(60位)の後塵を拝しする立場。この日本の自由度ランキングは、安倍政権が続いている限りのことだが、来年さらに顕著に順位を落とすことが確実である。

なお、このランキングでは北朝鮮が179位である。ドイツ有力紙の編集者が、日本の総領事の行為について「政府関係者からの直接抗議は北朝鮮以来」と言っているのは示唆に富む。安倍政権は、北朝鮮に比肩されているのだ。

この事態は、安倍政権の末期症状として見るべきなのか、あるいは恐るべき言論弾圧時代の幕開けなのか。憂国の情に堪えない。
(2015年4月28日)

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