小渕優子不起訴に異議ありー政治資金規正法をザル法にしてはならない
ナッツ姫ではなく、ドリル姫こと小渕優子議員の話題。
各紙の報道によれば、「4月28日東京地検特捜部は、政治資金規正法違反(虚偽記載など)容疑に関し、小渕氏については、認識していた証拠がないなどとして不起訴処分(嫌疑不十分)とした」という。報道は、殆どが地検の発表をそのまま伝えるだけだからもどかしいが、このニュースは明らかにオカシイ。
4月27日の各紙は、一斉に「特捜は小渕優子本人に任意で複数回、事情聴取していた」と報道していた。そして、「小渕氏は自身の関与を否定したもよう」というのも、各紙一致した内容。その翌日には、一転して不起訴報道である。起訴されたのは、いずれも元秘書の2人だけ。特捜は、「小渕についても一応は調べは尽くした」という形作りを処分直前になってリークしたのだろう。すべては筋書き通りとの印象。
この件については、「群馬県の市民団体」が告発したと報じられているが、告発状の内容までは報道されていない。常識的には、小渕の行為については、まずは政治資金収支報告書の会計責任者としての記載者本人との共同正犯として虚偽記載罪が成立するという容疑を主位的な被告発事実とするだろう。しかし、捜査の結果その立証が困難である場合に備えて、予備的に過失犯である政治資金規正法第25条2項の政治団体の責任者の罪を被告発事実としたはずである。
この規定は、政治家常套の「すべては秘書のやったこと」「知らぬ存ぜぬ」というシッポ切り逃げ切り術を封じるための歯止め条項である。この活用が、政治資金規正法をザル法とすることを防ぎ、政治をカネの汚濁から救う光明となる。
本件の場合、元秘書の2名は、会計責任者として「法第12条第1項の報告書又はこれに併せて提出すべき書面に虚偽の記入をした者」にあたる。
法25条2項は、会計責任者に虚偽記入罪が成立した場合、「政治団体の代表者が当該政治団体の会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠つたときは、50万円以下の罰金に処する」と定める。
分かり易く翻訳すれば、「政治資金管理団体・未来産業研究会の代表者である小渕優子は、元秘書2名を未来産業研究会の会計責任者に選任するについても、あるいは選任後適正に収支報告書を作成するよう監督するについても、十分な注意をすべきであったのにこれを怠ったと認められるときには、罰金刑を科せられる」ということなのだ。
この法第25条2項の政治団体の責任者の罪は、過失犯である。しかも、重過失を要せず、軽過失で犯罪が成立する。会計責任者の虚偽記載罪が成立した場合には、当然に過失の存在が推定されなければならない。資金管理団体を主宰する政治家が自らの政治資金の正確な収支報告書に責任をもつべきは当然だからである。
小渕において、特別な措置をとったにもかかわらず会計責任者の虚偽記載を防止できなかったというなにか特殊な事情のない限り、会計責任者の犯罪成立があれば直ちにその選任監督に過失があったとして刑事責任も生じるものと考えなければならない。そうでなくては、政治家本人に責任を持たせようとした法の趣旨は失われ、政治資金規正法はザル法となって、政治の浄化は百年河清を待たねばならないことになる。
なお、小渕が25条2項によって起訴されて有罪となり罰金刑が確定した場合には、政治資金規正法第28条第1項によって、その裁判確定の日から5年間公職選挙法に規定する選挙権及び被選挙権を失う。その結果、小渕は公職選挙法99条の規定に基づき、衆議院議員としての地位を失う。そのような結果は、法が当然に想定するところである。いかなる立場の政治家であろうとも、厳正な法の執行を甘受せざるを得ない。選挙でミソギが済んだなどという言い訳は利かないのだ。
だから、「小渕氏については、認識していた証拠がない」などの理由で「不起訴処分(嫌疑不十分)とした」という報道は的外れでオカシイのだ。本件では、小渕は政治資金収支報告を全面的に元秘書に任せていたことが明白である。まさしく、選任及び監督に関して、政治家として払うべき注意を怠ったことが明々白々ではないか。
たまたま、この時期、小渕の資金管理団体「未来産業研究会」には「収支報告書に記載していない支出が計1億円近くに上ったことが取材で分かった」などとと報じられてもいる。政治資金規正法をザル法にしてはならない。ドリルでの証拠隠滅も許しがたい。
告発をされたグループには敬意を表する。と同時に、さらに徹底した追求をされるよう要望したい。政治資金規正法25条2項を死文にしてはならない。まずは、是非とも検察審査会への審査申し立てをお願いしたい。
(2015年4月30日)