「民主主義が死に瀕した9月17日」この日の怒りを忘れてはならない。特別委員会「採決不存在」にこだわり続けよう。
9月25日午後1時。醍醐聰さんと私とで、「安保関連法案採決不存在の確認と法案審議の再開を求める申し入れ」の署名32,101筆を持参して、山?参院議長と特別委員会鴻池委員長の各議員事務室に赴いた。もちろん事前のアポを取ってのことである。醍醐さんの事前のアポは、ファクスで残されている。鴻池議員宛の文面は以下のとおり。
参議院「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」
委員長 鴻池祥肇様
申し入れ文書と署名提出のご連絡と面会のお願い
先ほどお電話をし、金子様に応対いただきました東京大学名誉教授の醍醐聰と申します。
このたび、私どもは9月17日の参議院安保特別委員会で行われたとされる5件の採決(いわゆる「安保関連法案」の「採決」を含む)は参議院規則で定められた表決等に関する規則に照らして種々、大きな問題を孕んでいると考え、貴職ならびに参議院議長・山崎正昭様宛に書面で申し入れをさせていただくこととしました。
つきましては、先ほどのお電話でお伝えしましたように、急なお願いではありますが、明日、9月25日の午後1時過ぎに貴職の国会事務所へ有志の内の2,3名(今のところ、澤藤統一郎と醍醐聰)が出向かせていただき、申し入れ文書を提出させていただきたく、お願いいたします。
なお、私どもは9月21日以降、この申し入れについて賛同署名を募りましたところ、本日9月24日13時の時点で2万6千筆を超える賛同が寄せられました。明日、これらの名簿も併せて提出させていただきたいたいと考えております。
また、貴国会事務所に出向かせていただきました折には、短時間の面会もお願いしたく、ご検討をお願いいたします。
池住義憲(元立教大学大学院特任教授)
生方 卓(明治大学准教授)
浦田賢治(早稲田大学名誉教授)
小野塚知二(東京大学・経済学研究科・教授)
奥田愛基(SEALDs)
小中陽太郎(作家・ジャーナリスト)
澤藤統一郎(弁護士)
清水雅彦(日本体育大学教授)
醍醐 聰(東京大学名誉教授)
高麻敏子・高麻亘男(自営業)
藤田高景(村山首相談話を継承し発展させる会・理事長)
森 英樹(名古屋大学名誉教授)
以上のとおり、アポの趣旨は明瞭である。署名の内容を摘記して、これを提出したい旨明記してある。電話番号もファクス番号も伝えている。にもかかわらず、9月25日約束の時刻に参議院議員会館の鴻池事務所に赴いた私たちは意外な「お・も・て・な・し」を受けた。鎌田亘顕(かまだひろあき)秘書は、「申入書だけは受けとるが、署名簿は受領してよいものかどうか判断できない。議員本人の判断を得るまで、お預かりできない」という対応に終始したのだ。「署名簿など受けとりたくはない」という態度が見え見えだった。
署名者の数は、わずか5日間で32,101。メディアも組織も介さない、メールの鎖で繋がった市民の一人ひとりの怒りや憂いや望みが、集積されて3万2000を超えたのだ。期限を区切って5日間としたのは、会期が終了する以前に議長と委員長とに提出しようとのことだったからだ。
この緊急の署名を鴻池事務所は受領せず、「いまは議員本人が不在なのだから署名を受けとる判断は私にはできない」と繰り返すのみ。「では今日中に議員と連絡を取っていただきたい」というと、「週明けにならなければお返事はできない」。やむを得ず、私の名刺を渡し、秘書氏からの名刺をもらって議員本人の指示を仰いだ上での回答期限を9月29日(本日)とした。回答の方法は鎌田秘書から澤藤の事務所に電話をいれることと約された。
ここまでが、9月25日の話。そして週明けの昨日と今日、当然に鴻池事務所から連絡があるだろうと待ち続けた。署名を受けとるとなれば、追加分を含めて議員の手許に持参しなければならないと思ってのことだ。
28日月曜日、何の音沙汰もなかった。本日29日午後4時になっても何の連絡もない。やむなく、こちらから電話をしてみた。女性職員が電話に出た。
「弁護士の澤藤と申します。秘書の鎌田さんをお願いします。」
『鎌田は本日は地元におりまして、事務所にはおりません。』
(えっ? いったいなんだ、それは。)
「25日にそちらに伺った者で、そのとき持参した署名簿を受領するか否かのお返事を29日までにいただけるということで、電話をお待ちしていたのです。連絡が取れませんか」
『折り返し電話をさせるよう伝えます』
私の電話番号を伝えて、
「4時半まで待ちますので、よろしくお願いします。」
といったん電話を切った。
4時18分に、鴻池事務所から電話がかかって来た。鎌田秘書からではなく、女性職員が次のように述べた。
『直接に鎌田とは連絡が取れませんでしたので、事務所としてお返事いたします。
申入書は受領いたしました。
しかし、署名簿は受領しません。
既に本会議も終わっている現在、この署名は鴻池が受領すべき内容ではないと思われます。鴻池ではなく、参議院なり、別のふさわしい機関に提出をしていただくようおねがいします。署名簿と言えば、大事なものですから、そのようにお願いいたします。』
「それは、鴻池さんから直接のご指示ですか。」
『そうです。議員から下りてきたものです。』
「鴻池さん、申入書には目を通されたのですか。」
『見ています。』
「いつご覧になったのですか。」
『25日から、今日までの間のいつかだと思います。』
「ちょうど『金帰火来』の期間にあたりますが、地元にいらっしゃっていたのではありませんか。」
『いえ、ずっと東京におりました」
「そちらからお電話いただけるということでお待ちしていたのですが、私が電話をしなければすっぽかされるところだったのでしょうか」
『内部の連絡態勢が悪くて申し訳ありません』
ざっと以上のやり取りで、これ以上の会話の継続は無駄と判断した。
鴻池議員には、国民の声に耳を傾けようという誠実さがない。彼に多少なりとも、議員として国民の声に耳を傾けねばならないという真摯さがあれば、署名簿を受領すべきであった。異論はあっても、耳に痛い批判でも、議員たる者は国民の声を誠実に聞く耳を持たねばならない。
電話とファクスによる事前のアポで、どのような署名を持参するかは伝えてあるのだから、受けとるべき署名であるか否かの判断がつかないはずはない。筋違いの署名であればともかく、議会制民主主義の根幹に関わる事態についての国民の批判ではないか。これに聞く耳を持たないとは、言語道断。恐るべき、聞く耳もたずの議員というほかはない。
繰り返すが、われわれがこの署名活動を急いだのは、会期内に持参しようとしてのことである。会期末が27日だから、25日午前10時で署名を締めて、集計して持参した。ところが、このときには受領せず、グスグスしておいて、あとになって「本会議は終わったから受領できない」とは何ごとか。
意見はいろいろ異なるところはあるだろう。言い分もあるに違いない。その意見を堂々と述べれば議論になる。ところが、「本会議は終わったから」では、議論を逃げたことにしかならない。こういう小ずるさ、姑息さは、意見の相違以前の問題として批判されねばならない。委員長として問答無用で、意見を封じた体質が滲み出ているのだ。
鴻池議員は、「もう本会議は終わった」「あの『強行採決』も過去のもの」とうそぶいているのだ。何度でも繰り返そう。国民にとって何よりも大切なことは、この違憲の法案審議が突然打ち切られて、暴力的に採決があつたとされてしまったこの事態を記憶し続けることだ。法案の廃止に向けてどんな対策を構想するにせよ、その原点にある法案審議の暴力を忘れず記憶し続けることだ。採決があったとされているあの混乱の事態が立憲主義と民主主義とそして平和主義を壊したのだ。決議など不存在、あったのは騒然たる混乱と自民党の「だまし討ち」の暴挙だけだ。
このことをけっして忘れず、こだわり続けよう。
(2015年9月29日・連続912回)