澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

政治とカネの関係を糺そう。カネで攪乱されることのない真っ当な政治の確立を。

本日(9月30日)、東京地検特捜部は「日本歯科医師連盟」(日歯連)の幹部3人を、「迂回寄付を巡る政治資金規正法違反」で逮捕した。しかし、ザル法ももたまには役に立つではないか、と言ってはおられない。改めて、政治資金規正法について考えてみたい。

選挙戦とは言論を武器とした闘いである。政治戦一般も同じことだ。候補者や政治家のそれぞれの陣営が、有権者に対して言論で働きかけ、「我が陣営こそ有権者に利益をもたらす政策をもっている」「そしてそれを確実に実行する」と力説して有権者からの支持を競い合う競争をしているのだ。運動の主体は候補者個人であるよりは各候補者を取り巻き支持する有権者集団であり、勝敗の審判は有権者の投票として現れる。

選挙戦の武器は言論に限られる。これが民主主義の公理としてあるルールだ。カネはその最大の攪乱要素である。政策の優劣ではなく、選挙資金の多寡で投票結果が決まり、議席が左右されるとしたら…トンデモナイ事態ではないか。とはいうものの、実は現実の政界は、とりわけ保守政界は、トンデモナイ事態になっていて、ここから抜け出せない現実にあることが公知の事実となっている。

たとえば、「規制緩和を目指して官僚と闘う政治家」に、行政からの規制に服する立場にある事業者から8億円ものカネが提供されたりするのだ。げに、民主主義の敵はカネである。カネに汚い政治家と、カネで政治を操ろうと陰でうごめくスポンサーと。このような輩がはびこって、害虫さながらに完全な駆除はなかなか難しい。

これを規制しようというのが政治資金規正法なのだが、これがザル法であることは天下に周知の事実である。この法律の理念はとても良く書けている。しかし、所詮はこの法をザルにした選挙で議席を得ている政治家たちが作った法律。ザルの目は粗く大きい。

本日の日歯連幹部3人の逮捕は、「迂回寄付を巡る政治資金規正法違反」容疑とされているが、「迂回寄付禁止違反罪」という犯罪構成要件があるわけではない。規制法の量的規制を脱法しようとして、不自然な迂回寄付の形式をとったが、その実質において「虚偽記載」であり、「量的制限超過」として同法違反になると認定されたのだという。やや分かりにくい。

被疑事実は、被疑者らにおいて「2013年参院選の際、日歯連が組織候補として擁立した石井みどり参院議員(自民)=比例代表=の関連政治団体『石井みどり中央後援会』に対して同年1月と3月に2回、日歯連から政治団体間の年間寄付上限額(5000万円)を超過した合計9500万円を寄付。さらに、うち5000万円については同年1月23日に西村正美参院議員(民主)=比例代表=の関連政治団体「西村まさみ中央後援会」に寄付し、石井後援会に同日、同額を寄付した。これが「迂回寄付」に当たり、政治資金収支報告書に虚偽の記載をしたとされている。」(毎日)

よく読めば分からないでもないが、あまりに回りくどい。文章を読む意欲を失う。犯罪をもっと厳しく取締り、分かり易くするための法改正が必要だ。ザルの目を限りなく小さくする、あるいは目を塞いでしまおうということだ。

これも毎日新聞に、二人の有識者のコメントが紹介され、はからずも意見が一致している。私も大賛成だ。
「政治資金制度に詳しい神戸学院大の上脇博之教授(憲法学)は、04年の事件を踏まえ、『前回の事件をきちんと反省していない表れだ。(支援する候補を)当選させるために(資金が)いくら必要かをまず考え、それを実行するために、あの手この手を使って法の網をくぐり抜けようとしたのだろう』と組織としての問題を指摘。その上で政治資金規正法のあり方について、『企業・団体献金をまず禁止して、迂回献金についても厳格に制限すべきだ』と話す。」

「税理士の浦野広明・立正大法学部客員教授(税法学)は『政治活動が厳しく制限されている日歯のような団体が、政治団体(日歯連)を使って政治的な活動をしていること自体が問題。企業・団体献金という制度があるから事件が再び繰り返された。廃止を検討すべきだ』と話した。」

現行法は日歯連から政治家への寄付を認めたうえで、寄付の金額を規制している。これがよくない。企業や団体からの献金を認めていることが、ザルのザルたる所以なのだ。企業(株式会社や企業連合)献金も、団体(労組・業界団体)献金も禁止しなければならない。そうすることによって、日歯連から流れ出たカネが直接に石井後援会に入ろうが、いったんどこかの団体を経由し、いくつかの流れに分岐して迂回して政治家の手に渡ろうが、金額の多寡を問うこともなく、すべてアウトになる。つまり、政治資金や選挙資金は、個人の献金に限るとするのだ。個人のカネだけが浄財。もっとも、大金持個人が政治を左右することのないよう、現行法のとおりに年間の寄付額の上限を定めておく必要はあろう。

考えてもみよ。日歯連からの9500万円のカネの出所の源は、日本中の歯科医の懐ではないか。日本中の歯科医がこぞって自民党を支持しているはずがない。歯科医から強制徴収した金を、日歯連の財政とし、これを自民党や自民党候補の後援会の資金に回すなど、歯科医一人ひとりの思想良心・政治信条を侵害する所為ではないか。

政治資金の拠出は有権者個人に限る。政治資金の拠出はいかなる形でも強制されてはならない。そして、誰の目にも政治資金の動きが明瞭になるように、時を移さず公開すべきことが要請される(現在は、年1回の収支報告で足りる)。こうして、透明性を徹底することによってはじめて、カネが政治を支配する現状を変えていくことができる。これは世直しといってよい。

そしてもう一つの問題点。政治資金の貸付が、いまはエアポケット同然の規制外に放置されている。だから突然、スポンサーから政治家に8億円もの闇の金が渡ったことが明るみに出て、世間を驚かせることになる。この巨額のカネが、政治資金規正法に基づく政治資金収支報告書にも、公職選挙法上の選挙運動費用収支報告書にも、まったく記載がないことが咎められない。この法の不備を、整備しなければならない。

企業・団体献金の禁止と政党助成金制度の廃止。この二つが、政治とカネの関係を正常化する二大テーマなのだ。そして、政治資金・選挙資金の貸し付けの規制についても、しつこく主張し続けよう。
(2015年9月30日連続913回)

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