宮崎緑・新東京都教育委員を期待しつつ見守りたい。
以前から内定と報道されていたことだが、宮崎緑(千葉商科大学教授・元ニュースキャスター)が東京都の教育委員になった。昨日(9月30日)「任命に係る議会の同意」を得たことでの正式決定。任期は4年間、本日(2015年10月1日)から2019年9月30日までである。
これで、東京都の教育委員は下記の6人となった。
教育長 中井敬三 ?18年 3月31日
委 員 木村 孟 ?16年10月19日
委 員 乙武洋匡 ?17年 2月27日
委 員 山口 香 ?15年12月20日
委 員 遠藤勝裕 ?18年 3月12日
委 員 宮崎 緑 ?19年9月30日
率直に申しあげて東京都教育委員の評判はきわめて悪い。石原都政時代のお友だち人事で、鳥海厳、米長邦雄、横山洋吉ら札付きの右翼が任命され教育現場を荒廃させてきたからである。石原都政が過去のものになってからも、残滓を引きずって真っ当な姿勢を取り戻していない。
今年、東京都内23区の教育委員会の一つとして、「つくる会」系の中学校歴史・公民の教科書を採択していない。都教委だけが、突出して、歴史・公民ともに、育鵬社版を採用しているのだ。これひとつ見ても、都教委はおかしい。
都立高等学校の歴史教科書の各学校ごとの採択についても、実教出版株式会社の「高校日本史」を採択するなと各校に圧力をかけている。この教科書に、次の記述があるからだというのだ。
「国旗・国歌法をめぐっては、日の丸・君が代がアジアに対する侵略戦争ではたした役割とともに、思想・良心の自由、とりわけ内心の自由をどう保障するかが議論となった。政府は、この法律によって国民に国旗掲揚、国歌斉唱などを強制するものではないことを国会審議で明らかにした。しかし一部の自治体で公務員への強制の動きがある。」
この記述の真実性に疑問の余地はない。しかし、都教委は「一部の自治体で公務員への強制の動きがある。」が、自分への批判だと思い当たって面白くないのだ。バカバカしさに呆れるしかない。
このような都教委ではあるが、乙武洋匡や山口香の任命は明らかに、石原都政の時代には考えられない人事であった。アンシャンレジームからの脱出にひとすじの光明を灯すものとの印象を受けた。しかし、今日まで、その希望は現実とならないままにややもすれば立ち消えそうになっていた。そこに宮崎緑である。
「人格が高潔で、教育、学術及び文化に関し識見を有する」というのが、教育委員の要件である。教育委員の諸氏に、そんなレベルの立派な仕事を期待するものではない。ごく普通の感覚で、教育行政に責任を持ってもらいたい。
私は、新任の教育委員にお願いをしてきた。
明日の主権者を育てる教育環境を整備する重責を担っていることを自覚していただきたい。自分の目で、「日の丸・君が代」強制問題の資料をよくお読みいただきたい。そして、自分の頭でこの問題をよく考えいただきたい。事務局職員の作った要約レジメだけを読んでいたのでは、あなたの職責を全うしたことにはならない。都民への責任を果たしたことにはならない。
長いものではないから、少なくとも、代表的な最高裁判決はよくお読み願いたい。教育庁の事務局に頼らずとも、その程度の検索能力はお持ちだろう。最高裁判決が、都教委の「日の丸・君が代」強制を苦々しく見ていることをよく理解していただけるはず。多数意見でさえ、処分は原則戒告に限り、それ以上の重い処分は違法として取り消している。このことだけでも都教委の恥ではないか。半数を超す最高裁裁判官が補足意見を付して、「日の丸・君が代」強制を都教委のイニシャチブでなんとか解決せよとしてる事実を重く受け止めねばならない。さらに、筋の通った少数意見が「日の丸・君が代」強制は違憲だと厳しく批判していることも知ってもらわねばならない。「日の丸・君が代」強制に反対している弁護団の見解にも耳を傾けてもらいたい。
少なくとも、「日の丸・君が代」強制が真面目な教師を悩ませていることを、憲法や教育基本法が想定している教育のあり方を荒廃させていることをご理解いただきたい。
もう、10年も前のことになるが、関東弁護士会連合会の広報紙「関弁連だより」の「わたしと司法」という欄に、宮崎緑インタビュー記事がある。
そこで、大学での活動を聞かれて、宮崎はこう語っている。
「政策情報学です。20世紀までの学問は,専門化,細分化されて,1つ1つは研ぎすまされたけれど,「木を見て森を見ず」というところがあったと思います。「森」がわしづかみで見えるような学問的な受け皿がなければ新しい時代の対応はできないであろうという考えから今学術会議等でもアカデミズムの再編が課題になっています。そこで,新しく作られたのが政策情報学です。
政策情報学部というのは日本では初めての学部です。物事に対するアプローチが様々な角度から行われ,斬新なことをすることが可能です。「政策」情報学と言っていますが,これは,公的機関の意思決定だけではなくて,企業でもいいし,個人のポリシーでもいいんです。意思決定全てが対象です。」
同氏には、ぜひとも専門としている政策情報学の手法で、10・23通達発出とその後の全過程を対象に分析してしていただきたい。都教委が「日の丸・君が代」強制に踏った意思決定の真の意図・動機をつぶさに検証していただきたい。検証の資料としては、都教委を被告とする山ほどある裁判資料で十分だろう。
そのようにして、「木を見て森を見ず」ということに陥ることなく、「森」をわしづかみで見えるようにして、新しい時代への的確な対応をお願いしたい。それこそ、同氏の任務であり職責ではないか。
たくさんの裁判を抱えていることは、都教委の自慢にはならない。しかも、その多くで都教委は敗訴しているのだ。裁判所からも批判されるその体質を改め、処分の繰りかえしに終止符を打つ努力をお願いしたい。
宮崎緑・新教育委員任用を、石原や石原後継時代とはひと味違ったニュー舛添人事だと思いたい。宮崎新委員の動向に期待しつつ見守りたい。
(2015年10月1日・連続914回)