澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

強行採決の無理は、安倍政権の手痛い傷となっている

衆議院での強行採決によって、「稀代の悪法」である特定秘密保護法案審議の舞台は、参議院に移った。怒りの一夜が明けての今日。少し整理して考えて見たい。

法案は、衆議院では可決したが、相当の無理を重ねてのこと。安倍自民も翼賛野党も、この無理による手痛い傷を負っている。衆院通過の代償は、この上なく高価なものとなっていることを冷静に見なければならない。

まず、安倍自民。他の改憲諸策動とパケージでの特定秘密保護法を見るとき、その反憲法的な姿勢の尖鋭さが誰の目にも明確化しつつある。しかも、法案の問題点が国民に知られ、急速に反対や疑問の声があがるようになると、これを恐れての審議打ち切り、強行採決である。メディアの論調も、あらゆる世論調査の結果も、少なくとも、慎重審議を求める声が圧倒している。何を焦って、この圧倒的世論に逆らってのこのタイミングでの採決強行なのか。その損得の計算を彼らは正確にしているのだろうか。強行採決をした今、メリットとデメリットどちらが優るものと考えているのだろうか。

強行採決は反対世論と運動の火に油を注ぐものとなっている。また、本日の各紙とも、修正案が解決し得ていない本法案の問題点を鋭く指弾している。そのボルテージは格段に高くなっている。それだけでなく、いくつかの紙面では、安倍政権のもつ危険な体質を批判する論調が見えてきている。60年安保の時に、「安保反対」から「岸を倒せ」にコールが変わっていったことが想起される。昨日の採決強行は、「安倍を倒せ」コールのわき上がる端緒となった記念すべき日となるかも知れない。

ついで、翼賛三野党(公明・みんな・維新)。安倍極右政権の補完勢力として重要な役割を担っている。その在り方が明確になってきた。

とりわけ公明は、「庶民の味方」を任じて、多くの「庶民」を危険な方向に誘導する悪質な役割を果たして罪が深い。「平和の党」や「福祉の党」の看板を掲げて、売っているものは、安倍ブランドの「戦争」と「福祉切り捨て」の2商品である。多くの人を、間接的に安倍政権への支持者に再編していることが次第に明瞭になりつつある。今回の採決強行で、安倍自民と同罪の公明の役割への批判は免れない。

維新とみんなは、これまで非自民のスタンスをとってきた。ともに「第三極」として誕生して、自民党に愛想をつかした国民の受け皿を任じている以上は、安倍自民との差別化を演出してみせねばならない。いずれも、ナショナリズムの分野で、あるいは新自由主義の政策で、自民党よりも右にあることを競ってきた。しかし、今回の特定秘密保護法審議では、露骨に自民党の補完勢力としての正体を露わにした。それでも、維新は、修正協議に応じたことで、メディアからの手痛い批判を浴びて、強行採決には加わらなかった。そのことで、辛うじて自民べったりではないところを見せた。それに比べて、みんなは、そのような演出さえも行わず、自民補完勢力の素顔を丸出しにした。既にその存在自体が賞味期限切れに至っていることを明示したといえよう。

共産党を中心とした国会内の改憲阻止勢力は議席のうえでは少数だが、国会外での広範な国民運動や市民運動と結びついており、けっして孤立していない。議席の数は、明らかに国民世論とねじれており、固定的に見るべきではない。小選挙区制のマジックのタネが封印されれば、議席の分布は大きく塗り替えられることになるだろう。

民主や生活の党などの中間勢力は、世論の風向きを敏感に察知して、慎重審議の姿勢を崩すことをしなかった。評価に値するものと言えよう。国民運動の盛り上がりは、このように院内に波及する。

世論の動向に敏感なことは、実は翼賛各党も同様なのだ。彼らには、世論に対決してこれを説得する気概も自信も持ち合わせていない。たとえば公明は、看板と中身が異なっても、政権与党としてあることの旨味から、安倍政権を補完している。その矛盾を種々のポーズで取り繕い、言い訳をしているのだ。みんなや維新は、政権の吸引力と世論の批判の間で揺れている。

メディアについても事情は同じ。96条先行改憲論においても、集団的自衛権行使容認論においても、国民運動の進展がメディアの論調を健全なものに変え、維持し続けている。昨日の強行採決についての批判の論調も、世論の支持を予測できればこそのもの。その批判の論調が、また、世論を勇気づけている。

昨日の強行採決の損得勘定を決するのはこれからだ。少なくとも、強行勢力も痛手を負っていることを確認しよう。我が方は落胆することなく怒りを燃やし、この怒りのエネルギーで廃案を目指す運動の高揚を目指そう。

なお、本日の朝日社説「民意恐れぬ力の採決」に敬意を表する。同社説は、「数の力におごった権力の暴走としか言いようがない」と始まり、末尾は「論戦の舞台は参院に移る。けっして成立させてはならない法案である」と結ばれている。その言やよし。同じ紙面に掲載の「朝日川柳」欄から2句を紹介する。うまいものだ。私の気持ちとぴったりだ。

   反論に耳傾けず国傾(かし)ぐ
   言いました伺いました終わりです

(2013年11月27日)

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Published in 水曜日, 11月 27th, 2013, at 21:23, and filed under 未分類.

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