澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

最高裁裁判官国民審査の結果をどう見るべきか

(2021年11月30日)
 先月(10月)の末日が総選挙だった。期待を大きく裏切った無念な結果。にわかに勢いづいた有象無象が改憲論議の推進を喚き始めている。

 そして、11月末日の今日、立憲民主党の代表選だった。西村候補か逢坂候補に期待したが、結果は最悪の泉賢太当選だった。野党第一党も、重心が右に動いたと言わざるを得ない。国内で初めての、コロナウイルス・オミクロン株感染発症というニュースもあった。憂鬱なこの頃である。

 総選挙と同時に行われた最高裁裁判官の国民審査の結果はどうだったか。評価は難しい。11月27日、ZOOMで日民協プロジェクトチームの「まとめの会議」を開催した。大山勇一事務局長の議事録で、その内容をご紹介しておきたい。

 冒頭に西川伸一さんから、「今回の最高裁裁判官国民審査」と題してパワポを使っての報告があった。見事な分かりやすい下記の分析。

*今回の国民審査においては、夫婦別姓訴訟という国民に知られた事件の判決(しかもわずか半年前の判決)が争点化された。こうした基準を示すことで注目を集めることができる。

*「×」の数(罷免率)の順位は、
  きれいに夫婦別姓訴訟での判決姿勢で分かれた。
 (A)夫婦同姓強制は「合憲」 4人 罷免率順位1?4位
 (B)夫婦同姓強制は「違憲」 3人 罷免率順位5?7位
 (C)別姓訴訟判決に関与せず 4人 罷免率順位8?11位

*(A)(B)の各群がいずれも(C)群よりも罷免率が高い。これは、意識的な国民の選択の結果。リベラル派は「(A)に×を」、保守派は「(B)に×を」とお互いに呼びかけ結局リベラル派が数を制し、「×を付けよう」という呼びかけの対象にならなかった(C)群が最も罷免率が少ない結果となった。

*罷免率は最大と最小で、「1.9ポイント」という大きな差が出た(過去2番目)。

*NHKなど、多くのメディアで精力的に国民審査について報道した。
(産経新聞記者からすると、「民業圧迫」!?とのこと)

*「夫婦別姓合憲派4人」「違憲派3名」「新任4名」のそれぞれ3つのグループ内では、順序効果(番号の若い人ほどバツが多く付く)があらわれている。

*「審査対象の人数」と「バツの数」は反比例する。これを言い出した政治学者の名をとって、「ダネルスキー効果」という。つまり、審査対象が多いと、バツを書くのを途中で止めてしまう。したがって、審査対象が少ないと、一人当たりのバツの数は多い。

*今回は、有権者が、十分に吟味をして意識的「×」を付ける裁判官を選んだ。

*分かりやすい争点が明示できれば、国民審査は有効に機能する。

★わかりやすい「争点」があれば国民審査は機能する例は、第21回(2009/8/30)国民審査の際の「1票の格差」をめぐる判断で「×」票に差がついたことがある。
 このとき、那須弘平裁判官が、「『あの大法廷判決は、それほどまでに非常識な判決だったのか』と心の中でぼやいたこともある」「不安感が心中を横切らなかったかといえば嘘になる」と述懐している。(「国民審査体験記」『法曹』2017年2月号、6-7頁。)⇒国民審査を経た別の1票の格差訴訟の最高裁判決で違憲に転じる。

この報告の後に、活発な下記の意見が交換があった。

●任命後すぐの国民審査は無意味ではないか。
 しかし、これは憲法改正をしなければ改善されないのかもしれない。

●順序効果をなくすために、回答用紙の判事の記載順序を固定せずに、一枚一枚、ランダムにすれば良い。記載順序を別々にすることは今の印刷技術だったら容易にできるはず。

●選挙に比べて、いつもマスコミは報道しない。マスコミの注目度があがれば、さらにバツの数も増えるのではないか。

●最高裁判事が国民審査の結果を気にしているということは噂には聞いていたが、那須公平氏が文書で公表していることは知らなかった。
(なお、このことが影響しているかどうかわからないが、後日の「一票の格差」訴訟では、那須氏は「合憲」から「違憲」に転じているとのこと)

●総数としては、バツの数が少なかったのは残念。しかし、これも良く吟味した結果なのだろう。

●今回の取り組みは、スタートが遅かった。争点とするテーマを早めに決めて進めることが大切。メディアへの働きかけが重要であることを学んだ。

●恒常的なPTがあれば、さらに良いのではないか。

●サイボウズ社長は夫婦別姓訴訟の当事者だが、国民審査について、「シングルイッシュー」で訴えた。さて、私たちは、トータルでどのように働きかけるべきか。

●夫婦別姓について弁護士や市民が運動をしているということをあらかじめ知っていたら共闘も運動の糾合もできたのではないか。

●今後は、国民審査制度の問題点について検討していくべきではないか。

●国民審査は取り組めばその分だけ最高裁についての関心が広がったという実感がある。

●かつては大阪でも「司独」(司法の独立と民主主義を守る国民連絡会議)の活動を行ってきた。投票日当日も車を回して投票を呼び掛けた。

●選挙管理委員会への申し入れを復活したほうが良い。かつては、「用紙になにも書かなければ信任したことになる。そうしたくない人は用紙を受け取らず返すことができます」という注意書きを貼りだせと要請した。多くの選管が告知してくれた。

●国民審査法を改正することはできないのか。まずは審査をする意思があるか否かで区分けをして、意思がある人についてのみ投票に参加してもらうとか。

●夫婦別姓に反対する勢力がいる。その勢力は、「違憲」判決を出した判事にこそバツをつけるように運動をしたそうだ。

●この活動を通じて、日民協の認知度がアップしたと思う。夫婦別姓について意見が寄せられたのも、それだけこのリーフが注目を受けたからではないか。

●今後は、重要な最高裁判決が出て、個別の判事の意見が出されるたびごとに、「法民」で、その意見を紹介・批判しておくと、集積になる。

●憲法を変えるのはなかなか大変。国民審査法を変えるだけでも大きな改善を図ることができる。記載順番のランダム化などは法改正でできるはず。

●次の国民審査まで少し時間がある。その間にどのようなことに取り組むのか。
最高裁判事の任命方法についてか、審査方法の改善なのか。また、裁判例について学習していくということもある。

●任命手続きの透明化はかならず検討していかなければならないだろう。

●私たち法律家にとってよい判断材料と思われる判決でも、国民にとってはよいとは言えない場合もあるのでは。争点が見つからないときはどうするか。行政法の困難な問題については国民に分かりやすく提示するために工夫が必要。

●任命プロセスが不透明である。例えば、学術会議による推薦枠があっても良いのではないか。しかし、学術会議は、影響力はあるはずなのにあまり関心はないようだが。

●弁護士からの選出についても透明性がない。最高裁(事務総長)への意見を出すべき。

●今回の法律家の運動を市民に知らせていく必要がある。これまで悪い最高裁判決によって労働運動は押されてきた。国民審査の運動を市民に知らせれば、かならず参加してくれる。

●このリーフを地域で配布したら、とても好評だった。

●司法の民主化について、議論のきっかけになった。

●地元の市民連合などに対して、司法の問題を政策協定に入れるように要望した。

●野党共闘がさらに発展して、最高裁改革に結び付けばよいのだが。

●23期の書籍「司法はこれでいいのか、裁判官任官拒否・修習生罷免から50年」を紹介したら、みんな「わくわくしてきた」と元気になる。

●ぜひ、この成果をアピールにして対外的に発表するべき。

●リベラルで知られていた三井裁判官は、「裁判官に対しては厳しく接しないとすぐに堕落していく」と言っていた。時には忌避をするくらい。

●安保違憲訴訟でも悪い判決が続いている。最高裁を変えていくという目標を持つことが大切。

●かつての司独は、公明・総評・日民協が一体となって運動をしていた。その中で、日民協は事務局を担った。

●鷲野さんはこういった運動をしていたにもかかわらず、中央選管の委員になった。鷲野さんの退任直後に、選管への申し入れをしたことがある。丁寧な対応だった。

●もっとも、中央選管は方針を決定するところではない。各地方の選管に、方針を伝達するのみ。最終的な判断は都道府県の選管ごとになされる。

●市民に宣伝する中で、「最高裁と言えども批判していいんだ」という意識を初めてもったとのこと。主権者が意見を言うのは大切。ふだん裁判官は批判されないから、なおさら批判すべき。

●法曹一元の問題も取り組むべき課題。まずは弁護士任官者に話を聞いてみるというのはどうか。適任者は多くいるはず。

●法曹一元については、韓国では実現している。その経験に学ぶということで、先日京都弁護士会でシンポが行われた。

●国民審査法の改正について、かつては改正案が出されて議論がなされた。70年代には社会党が改正案を出したはず。また大阪弁護士会も書籍を出している。東京弁護士会も出しているはず。

●裁判官任命手続きについて、行政手続きなのだから、情報公開請求をしてみるという方法もありうる。

●最高裁裁判官任命諮問委員会という制度がかつてあって、一度だけ実施された。しかし、有効に機能しなかったようだ。これは一度きりの運用でその後に廃止された。

●司法改革の議論がなされたときも、最高裁判事任命についてはほとんど議論がなされていない。

●このPTを発展させて、司法問題を検討するPTにしてはどうか。その成果を、来年、「司法制度研究集会」で発表してみてはどうだろう。

役割分担を決め、次回を設定して散会した。

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Published in 火曜日, 11月 30th, 2021, at 18:51, and filed under 未分類.

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