澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

学術会議6候補の任命は、岸田政権の重大な課題だ。

(2022年1月14日)
 学術会議が推薦した6候補に対する菅義偉の任命拒否は、権力による学問の自由蹂躙という大事件である。2020年10月1日のその事件が未解決のままに2度の年越しを経て、一昨年のこととなった。こんな「首相の違法行為」が放置されてよいはずはない。岸田政権は、安倍・菅のデタラメを承継してはならない。速やかに前首相の違法を是正して、6名を任命しなければならない。

 昨日(1月13日)、岸田はこの問題をめぐって学術会議の梶田隆章会長と会談した。岸田は、「聞く耳」をもつことを、自分の美点と誇示している。「聞く耳」は重要だが、それだけでは何の意味ももたない。聞いたことをどう活かしどう実行するのか、それが問題ではないか。この会談で聞いたことを聞きっぱなしにして済ますのか、6人の任命実現につなげるのか。その姿勢を厳しく問わなければならない。聞くフリだけでは、タチが悪い。

 主要メディアの、この会見に関する報道の見出しを拾ってみた。
 読売 首相、学術会議の会員候補6人任命拒否は変えず…「当時の首相が判断し一連の手続きは終了」
 赤旗 「任命拒否」変えず 首相、学術会議会長と会談
 東京 首相、学術会議の任命拒否「もう結論でている」 梶田会長と面会
 NHK 首相 学術会議の梶田会長と会談 “今後は官房長官窓口に対話”
 毎日 岸田首相、任命拒否問題で学術会議と対話の姿勢 梶田会長と面談
 朝日 学術会議の6人任命拒否問題「検討していく」 岸田首相、梶田会長に
 産経 学術会議任命拒否 岸田首相「菅氏が決めたこと」

 読売・東京・赤旗・産経は、岸田の姿勢を「聞いただけ」と否定的に厳しい見出しの付け方。これに対して、NHK・毎日・朝日は、「今後の対話と検討に期待」と温かく見守る姿勢。

 とりわけNHKが暖かい。「日本学術会議が推薦した会員候補が前の政権で任命されなかったことに関連し、岸田総理大臣は学術会議の梶田隆章会長と会談し、今後は松野官房長官を窓口として対話を進めていきたいという考えを伝えました」というリード。

 もっとも、「岸田総理大臣は『6人については、任命権者である当時の総理大臣が最終判断したもので、一連の手続きは終了したと承知している』と述べました」とは明記している。その一方で、「今後は松野官房長官を窓口として学術会議側と対話を進めていきたいという考えを伝えました。梶田会長は『少なくとも松野官房長官が担当となって検討していただけるということなので、前向きに捉えたい』と述べました」と期待を滲ませた報道となっている。

 各紙の報道も内容は大同小異。岸田の「もう結論は出ている」「手続きは終了した」という発言をメインとするか、「今後も対話を進めていきたい」とする部分に重きを置くか。これは、岸田への幻想を切り捨てているか、持ち続けているかという各メディアの姿勢によるものではあるが、それだけでもないようだ。

 世論の指弾が岸田をどれだけ追い詰めているのかということについての評価の差もあるのではないか。岸田は、世論に押されてやむなく学術会議会長との会談に応じざるを得なかった。情報公開請求や審査請求も利いているに違いない。という見方からは、NHK・朝日・毎日タイプの見出しになる。その評価がなければ、読売・東京・赤旗タイプとなろう。

 また岸田について、安倍菅政権の残滓に縛られざるを得ないと見るのか、あるいはこの件を期に安倍菅政権から脱してリベラルな岸田色を出して世論の喝采を得ようとするサプライズもありと見るのか。

 各紙は、記者団の取材に応じた梶田会長の談話として、「首相は学術会議と対話する姿勢を示し、松野官房長官をその窓口とすると応じた」「(任命拒否について)検討いただけるということなので前向きに捉えたい」「少なくとも官房長官にご担当いただいて、ご検討いただけるということなので、前向きにとらえたい」などと話したと報じている。

 今後の「検討」の内容は予測しがたいが、基本は世論の高揚次第なのであろう。菅だけでなく、この件の黒幕とされた杉田和博官房副長官も既にその地位にない。世論を見ての岸田の決断次第で、6人の任命(任命拒否の撤回)は可能ではないか。

今年も暮れに被告発人安倍晋三を不起訴処分とする通知

(2021年12月29日)
 午過ぎに、伊藤文規という差出人からの簡易書留郵便を受領した。「ハテ、伊藤文規さん、お名前に覚えのあるようなないような」。封を切ってみると、東京地検特捜部からの処分通知書。下記のとおりのなんとも味気なく、つまらない文面。検察審査会の議決に基づいて捜査をしてはみたが、またまた安倍晋三を不起訴にしたというだけのこと。

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東京都文京区×××
 澤藤 統一郎 殿

処 分 通 知 書

令和3年12月28日

東京地方検察庁        
検察官検事  伊 藤 文 規


 貴殿から令和2年5月7日付け及び同年12月22日付けで告発のあった次の被疑事件は,再検査の結果,下記のとおり処分したので通知します。

1 披 疑 者  (1) 安倍晋三
         (2) 配川博之
         (3) 西山 猛
2 罪名 (1),(2)につき,公職選挙法違反
     (1),(3)につき,政治資金規正法違反
3 事件番号 (1) 令和3年検第18083号
       (2) 同      18084号
       (3) 同      18085号
4 処分年月日  令和3年12月28日
5 処分区分  不起訴

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 被告発人安倍晋三が告発の標的。主敵であり、巨悪でもある。あとの二人は、脇役であり、小悪である。配川博之は安倍晋三の公設第1秘書。安倍晋三とともに政治資金規正法違反で告発されたが、配川のみが略式起訴となり政治資金規正法違反(収支報告書不記載)罪で100万円の罰金刑に処せられて納付した。が、尻尾を切った安倍は、しぶとく起訴を免れた。

 また、西山猛は、安倍晋三の資金管理団体である晋和会の会計責任者。安倍晋三が主催した「桜を見る会」前夜祭の経費の支払いは、晋和会の名義でなされていた。にもかかわらず、その経費は安倍晋三後援会も晋和会も収支報告書に届けていない。そして、このことを指摘されるや、明らかに辻褄の合わない操作をして報告書を訂正したのだ。みっともない、汚い、安倍晋三のやり方。これでも、またまたの不起訴だという。

 この通知には、既視感がある。私の昨年末のブログをたどってみる。年末になると検察が安倍告発に、幕引きしようとするのだ。安倍こそ、国政私物化の権化、民主主義の敵、改憲の尖兵。安倍を倒さでおくべきや。検察は、その安倍を最も打撃の少ない時期を見計らって、処分しようとする。検察の矜持と威信はどこに行った。

2020年12月19日 「安倍晋三年内不起訴へ」の報道には、とうてい納得し得ない。
2020年12月21日 「桜・前夜祭収支疑惑」で、安倍晋三を第2次告発
2020年12月23日 「秘書がやったこと」という弁明を許さない
2020年12月26日 「安倍晋三告発に対する処分通知書」

下記のような記事もある。
2021年7月31日 「検察はその威信をかけて、安倍晋三を徹底捜査し起訴せよ ー 国民世論は安倍晋三不起訴に納得していない。」
2021年3月19日 「桜を見る度に思い起こそう。そして語り継ごう。桜を見る会を私物化した、とんでもない首相がいたことを。」

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昨日、「桜を見る会」を追及する法律家の会が、以下のとおりの緊急声明を発表した。

2021年12月28日

「桜を見る会」を追及する法律家の会
事務局長 弁護士 小野寺 義 象 
世話人  弁護士 米 倉 洋 子 
世話人  弁護士 泉 澤   章

               外

 私たち「『桜を見る会』を追及する法律家の会」(以下「法律家の会」という)は、本日、東京地検特捜部が、安倍晋三元首相らを再び不起訴処分にしたことについて、下記の声明を発表する。

1 法律家の会は、安倍元首相がその在任中、「桜を見る会」の前夜祭を都内一流ホテルで催した際、参加した後援会員らに対して公職選挙法で禁止されている寄附行為を行ない、その収支について政治資金規正法所定の収支報告をしなかったことは、明白な犯罪行為であるとして、2020年5月21日、東京地検特捜部に第1次刑事告発を行った。この告発は、過去に例を見ない977名もの法律家による大規模告発となった。さらに、法律家の会は、同年12月21日、検察の捜査によって新たに判明した安倍元首相が代表である資金管理団体「晋和会」の補填金の関与を追及するため、第2次告発を行った。

しかし、これらの告発に対して東京地検特捜部は、同年12月24日、後援会責任者1名を政治資金規正法収支報告不記載罪で略式起訴するのみで、安倍元首相については不起訴処分とした

  そこで、法律家の会は、この不起訴処分を不服として、21年2月2日、東京検察審査会に審査申出を行い、これを受けて、同年7月15日、東京第一検察審査会は、安倍元首相らを「不起訴不当」とする議決を行った。法律家の会は、この議決後の同年8月27日、後援会による収支報告書訂正もつじつま合わせの虚偽記載であるとして、第3次刑事告発を行った。

 今回の東京地検特捜部による不起訴処分は、東京第一検察審査会による上記「不起訴不当」の議決と、第3次告発に対してなされたものである。

2 昨年末の12月24日になされた東京地検特捜部による安倍元首相の不起訴処分は、首相(当時)の違法行為への関与という重大な問題に踏み込むことなく、問題を矮小化して幕引きしようとした政治的な判断であり、安倍元首相も、これで政治生命の危機は乗り切れたと考えたに違いない。

しかし、東京第一検察審査会は、検察の幕引きを容認しなかった。

東京第一検察審査会は、安倍元首相の公職選挙法違反(寄附)及び政治資金規正法違反(晋和会会計責任者に対する選任監督責任)について不起訴は不当とし、さらに、晋和会会計責任者の政治資金規正法(収支報告不記載)についても、不起訴は不当と議決した。

議決は、「総理大臣であった者が、秘書がやったことだと言って関知しない姿勢は国民感情として納得できない。国民の代表である自覚を持ち、清廉潔癖な政治活動を行い、疑義が生じた際には、きちんと説明責任を果たすべきである。」と、安倍元首相の政治家としての資質の欠如を痛烈に批判した。

また、前夜祭参加者の寄附の認識について「寄附の成否は個々に判断されるべきであり、一部の参加者の供述をもって参加者全体の認識の目安をつけるのは不十分である。単純に提供された飲食物の内容だけで認識を判断するのは相当でない。」とした。

さらに、安倍元首相の犯意について、「秘書らと安倍の供述だけでなく、メール等の客観的資料も入手した上で、安倍の犯意の有無を判断すべきである。」とし、晋和会の収支報告不記載については、「前夜祭開催に西山は主体的、実質的に関与していた。領収書は、一般的には宛名に記載された者(晋和会)が領収書記載の金額(前夜祭の不足分)を支払ったことの証憑とされ、宛名となっていない者が支払ったという場合は、積極的な説明や資料提出を求めるべきであり、十分な捜査が尽くされていない。」と、検察捜査の生ぬるさを具体的に指摘して厳しく批判した。

このような議決に基づいて再捜査をするのであれば、東京地検特捜部は、捜査対象者を拡大したうえで事情聴取を継続し、さらに強制捜査を実施してメール等の客観的資料の検討を徹底して行うなどの捜査を遂げる必要があった。しかし、議決後、東京地検特捜部が、強制捜査を含む大規模かつ徹底的な捜査を行ったなどという情報に接したことはない。今回の東京地検特捜部による不起訴処分は、おざなりな再捜査による結果と言わざるを得ない。

3 さらに、第3次告発は、安倍元首相の秘書を略式起訴する際に「訂正」された後援会の収集報告書の虚偽性を突くものであり、違法な寄付金の原資がどこから来たのかに関わる重要な告発である。収支報告書の「訂正」がつじつま合わせの虚偽記載であることが明白である以上、不起訴処分が妥当であるとは到底言い難い。森友学園問題の国賠訴訟で被告となった国は、本年12月15日に、請求を「認諾」することで訴訟を強制的に終了させ、真相を闇に葬ろうとして、世論の強い批判を浴びている。本日の東京地検特捜部による不起訴処分も、政権を忖度して真相究明に蓋をするものであり、検察の存在価値自体が厳しく問われることになる。

4 今回の東京地検特捜部の不起訴処分により、第1次・第2告発は終了したが、第3次告発については、今後、東京検察審査会への審査申し出をする予定である。

私たち法律家は、わが国で法の支配が徹底され、「桜を見る会」と前夜祭問題における法的責任の所在が明確になるまで、これからも追及の手を緩めることはない。
以上

本降りの雨のなか、本郷三丁目交差点「かねやす」前で

(2021年11月9日)
 (本郷湯島九条の会・石井 彰)
 本降りの雨のなか、本郷三丁目交差点「かねやす」前で、7人の会員がプラスターを掲げ、「9条改憲許さず」の声を上げました。

 衆議院総選挙の結果について3人の弁士はそれぞれ「9条改憲の危機」を訴えました。自公維新が改憲に必要な310議席を大幅に上回る334議席を獲得し、「野党共通政策」を掲げた立憲民主党・日本共産党・社会民主党・れいわ新撰組は110議席と改憲勢力の33%に終わったことに警鐘を鳴らしました。

 メディアは野党共闘の「失敗」を喧伝し、何とか野党共闘の分断を図っていることを訴えました。一方、野党統一候補は62議席を獲得し、惜敗率80%以上の選挙区は54選挙区に上り、合わせると116選挙区になり、289選挙区の40%で接戦、大接戦になっていたことを知らせました。この接戦区で競り勝つことでできていれば、自民党は確実に過半数を割っていたのです。

 岸田文雄首相は、11月1日、「党是である憲法改正を積極的に進めたい」と発言し、30議席増の維新の松井一郎代表は「来年の参議院選挙は改憲の国民投票」をおこないたいと力説しました。私たちは、衆参両院の憲法審査会をこれ以上動かしてはいけない、そう訴えました。

 さらに今こそ立憲主義、憲法に基づいた政治、民主主義を貫くことの重要性を訴えました。戦後一貫して憲法9条を守り、ふたたび戦争しないことを世界に宣言した日本の約束を果たさなければならない。それはまさに戦前のような「ものをいえない社会」に戻してはいけないことだ、そう訴えました。

 [プラスター] ★人類の理想戦争放棄の9条、★9条改憲、戦争できる国ストップ ★改憲論議は不要不急 ★戦争の泥沼を忘れたのか ★私たちは憲法9条を守ります。★格差・貧困をなくせ、税源は金持ちから 大企業から

○ みなさま本当にご苦労様でした。衆議院総選挙の結果、ますます日本の支配層は頭に乗って国民を蔑ろにする政治をおこなうことになるでしょう。負けてはいられません。多くの国民とともに9条を守り、温暖化をはじめとした地球的課題解決のためのたたかいを一層強めなければなりません。頑張りましょう。

 次回は12月14日、赤穂浪士の討ち入りの日です。多くのかたがたのご参加をお待ちしております。


(以下、澤藤)

 マイク代わります。雨の中ですが、ほんの少しの時間、お耳貸してください。

 この度の総選挙は、8年9か月に及んだ安倍・菅政権の国政私物化に対する審判のはずでした。ところが、その対策として、自民党は直前に表紙になる顔を取り換え、看板を付け替えました。看板代えたところで自民党商店の売ってる商品は同じじゃないか、国民はそんな姑息な小手先に欺されるほど愚かではない、というのが私たちの思いでした。…が、結果を全体としてみれば、もののみごとに騙されてしまったようです。

 自民党が議席を減らしたにせよ過半数を確保し、そして改憲・反共「ゆ党」の維新にも勢いづかせてしまいました。この選挙結果は、無念で重いと言わねばなりません。
 
 岸田自民党は、安倍・菅政権とは別物なのでしょうか。岸田さんは、「新しい資本主義」を掲げ、「成長と分配の好循環」を謳っています。これ、なんだか、お分かりですか。イメージだけが目新しく、何かやってくれそうで、実は空っぽ。これ、悪徳商法の手口です。気をつけなくてはなりません。

 岸田さんの言うことは、「資本主義」とも「古い資本主義」でもない、「新しい資本主義」。「新自由主義」ではない「新しい資本主義」。そりゃいったい何じゃ?その言葉、とうてい自分でも分かって使っているとは思えません。

 無内容なことをもっともらしく語って聞かせることこそが、悪徳商法の手口の基本。皆さん、騙されちゃいけない。

 もう一つの岸田キャッチフレーズが、「成長と分配の好循環」。なんという無内容。これまで9年近くもどちらもできなかったから、看板を掛け替えざるを得なくなったのです。問題はどうしたら、成長や分配を実現できるかなのに、具体策ないままに両方やりますでは悪徳商法の、「実現性のない甘い投資勧誘」。こんな初歩的詐欺に引っかかってはいけません。

 古くも新しくも資本主義は資本主義。資本による利潤の追求を認め、必然的に富の偏在と貧富の格差を生み出し、むしろ貧富の格差を積極的に容認する社会。さまざまな矛盾が噴出するのは当然のことです。その矛盾は、この社会に生きている人間の尊厳を傷付けます。それをどう克服するのか。産業革命以後人類が直面している大きな課題です。

 資本主義の生み出す諸矛盾を平和的に解決する手段として議会制民主主義を意識し、これを活用しなければならないのではありませんか。選挙を通じて、格差や貧困にあえぐ人々の政府をつくることが目標です。

 その方向を指向して、少なくとも公助の手を広く差し伸べる政府でなくてはなりません。「成長」か「分配」かを問われれば、「成長」は資本の自己責任で結構、「分配」こそが公助を責務とする政府の取り組むべき課題です。

 資本主義が必然的に生み出した富の偏在を、議会制民主主義が可能とする作用で大胆に再配分して真の公正を実現すること。労働運動や多様な社会運動と連携しあるいは支えられつつ、議会内に、そのことをなし得る勢力を形作ること。それこそが、この社会に生を受けたすべての個人の尊厳を擁護するすべではありませんか。

 私は確信しています。人権や民主主義尊重の思想が社会的に力をえて、まっとうで公正な議会と行政府を構成することによって資本の横暴を克服することが可能であることを。

 今、その途上で逆流に遭遇していますが、決して本流を変えることはできません。  

自民党の選挙公約は、安倍菅政権への反省にもとづくものになっていない。

(2021年10月29日)
 第49回総選挙の投票日が明後日に迫っている。今回の選挙は、何よりも7年8か月に及んだ安倍・菅政権への審判である。これからも漫然とその腐敗と失政の継続を容認するのか、それとも転換するのか。その判断は、主権者国民、つまりは私たち自身の投票にかかっている。

 安倍・菅政権の腐敗について多くを語る必要はない。「モリ・カケ・桜・クロカワイ、カジノに卵に息子の会食」と並べるだけで、十分だろう。かくも、国政を私物化した政権はミゾユウであろう。しかも、国政私物化には、行政文書の隠匿・廃棄・改竄がつきまとい、今なおその全容が解明されていない。これ以上の自民党政権の継続は、アベノフハイを闇に葬ることにつながりかねない。

 安倍・菅政権の失政の第1がアベノミクス、無能の象徴がアベノマスク、そしてその壊憲政治の最大のものが戦争法制定の強行であろう。政権運営のスタイルは、決定的な説明不足。異なる意見には耳を貸さず、国会では「数の力」で押し通す独善性。これで国民からの信頼を得られるはずはない。

 掛け替えられた看板となった岸田自民党は、率直に安倍・菅政権の失敗を認め、そのどこをどう立て直すかを語らなければならない。それなくして、国民からの信頼を取り戻すことなどできようはずもない。が、岸田にはそれができない。アベ・アソウ・アマリの援助での現在の地位なのだから。

 そのような岸田自民党の選挙公約。自民党の選挙パンフレットは、内容希薄な美辞麗句の羅列だが、私には、その合間合間に次のように聞こえる。太宰治の「トカトントン」のごとくに。

【前文】
 新しい経済のかたちを生み出す「成長」と「分配」を柱とした政策を。少子化問題解消のために、子育てへの不安に応える抜本的な政策を。国民の生命と財産を守り抜くために、毅然と対応する外交を。信頼と共感。それこそが政治を前に進める原動力だ。国民の声をしっかりと受け止め、寄り添い、全力で挑む。新しい時代を皆さんとともに。
 ⇒とはいうものの、「国民」も「皆さん」も、あなたのことではない。

【新型コロナ対策】
・人流抑制や医療提供体制確保のための方策について、行政がより強い権限を持てるための法改正を行う。
 ⇒その権限は強けりゃ強いほどよい。常に、強すぎるほどの権限が欲しいんだ。

【新しい資本主義】
・究極のクリーン・エネルギーである核融合開発を国を挙げて推進し、次世代の安定供給電源の柱として実用化を目指す
 ⇒とはいうものの、これがたいへんな金食い虫。そして完成できれば、自前の核抑止力。

【農林水産業】
・2030年5兆円の輸出額目標の達成に向け、輸出産地・事業者の育成、品目団体の組織化、戦略的サプライチェーンの構築、加工食品輸出に取り組む中小事業者への支援を行う
 ⇒そりゃ、現行の家族農業・家族漁業を潰そうということじゃないか。

【経済対策】
・マイナンバーカード機能のスマートフォン搭載、健康保険証としての利用や運転免許証・在留カードとの一体化、社会保障・税・災害の3分野以外への情報連携を拡大し、マイナンバー利活用を推進する
 ⇒デジタル技術で徹底した管理化社会の実現。これこそ長年の権力の夢の現実化だ。

【復興】
・福島については国が前面に立ち、2020年代をかけて、帰還希望者が全員帰還できるよう取り組む
 ⇒いつまでも補償の継続は負担だから、打ち切るってだけのこと。

【経済安全保障】
・戦略技術・物資の特定と技術流出の防止に資する「経済安全保障推進法」を策定する
 ⇒それって、戦争準備の常套手段だよね。

【外交】
・北朝鮮に対しては、首脳会談の実現など、あらゆる手段を尽くし全ての拉致被害者の即時一括帰国を求める。
 ⇒安倍流の好戦外交では、1ミリも問題が動かなかった。このことの反省は?

【安全保障】
・弾道ミサイルへの対処能力を進化させ、相手領域内で弾道ミサイルなどを阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させる新たな取り組みを進める
 ⇒そいつはアブナイ。相手国にも日本領域内で弾道ミサイルなどを阻止する能力保有の口実となる。

【教育】
・道徳教育、高校新教科「公共」、体験活動の充実により、公徳心を持ち、日本の伝統文化を引き継ぎ発展させる人材を育成する
 ⇒そりゃ見当違い。まるでどこかの権威主義国家みたい。権力が、自分の思惑に合うよう、主権者の人格を型にはめてはいけない。

【憲法改正】
・衆参両院の憲法審査会で憲法論議を深め、憲法改正原案の国会提案・発議を行い、国民投票を実施し、早期の憲法改正を実現することを目指す
 ⇒おやおや、岸田自民はアベのしたこと、何も反省していないんだ。これじゃダメだ。

今、国民すべてが主権者としての自覚に目覚めるべきとき。

(2021年10月19日)
 いよいよ総選挙だ。
 本日、第49回衆議院選挙の公示。選挙区に857人、比例代表に194人(重複立候補者を除く)の計1051人が立候補を届け出、各党の党首がそれぞれの第一声を上げた。この選挙で求められているのは、9年間に及ぶ腐りきった安倍・菅政権への主権者からの審判であり、その継続を断ち切っての政権の転換である。

 主権者のはずの国民だが、普段はなかなかその実感をもちにくい。安倍菅政権下ではなおさらのことだった。今こそ、すべての国民が主権者としての自覚に目覚めなければならない。でなければ、また、これまでと同じような、腐敗した政権の支配に屈し続けなければならない。

 理想的とは言えないにせよ、野党の共闘態勢は大きく前進している。289の小選挙区のうち、213選挙区で立民、共産、れ新、社民の野党共闘候補が自公の候補者と対決する。議会制民主主義の基本の通りに、選挙を通じての民意を反映した政治の前進を期待したい。そして、望むべくは、政権の転換である。

 「1強」とも、「官邸支配」とも、「国会軽視」とも、「官僚の私兵化」とも呼ばれた安倍・菅政権であった。官僚に忖度を余儀なくさせ、国政を私物化し、公文書を隠匿し改竄し廃棄する官僚文化を醸成し、嘘とゴマカシの羅列で、国民の信頼を喪失してきたこの腐敗の政権。それが、いまだに実質的に継続しているのだ。これに「NO!」を突きつけなければならない。

 具体的な政策の問題点は、野党間共通政策となった「6本の柱・20項目」に網羅されているが、私は、強調すべきは以下の3点だと思う。

 第1は、経済政策である。アベノミクスの評価と絡んで、「成長と分配」の論争。
岸田文雄は、自民党総裁選では明らかに分配重視の見解を述べていたのに、ブレて後退し「まず成長、その果実を配分にまわす」に立ち位置を変えた。これでは、アベノミクスと変わらない、9年間の格差拡大と停滞とを継続するだけのことになる。

 適切な所得と富の再分配あってこその国民の福利である。社会の極端な経済格差と貧困を解決するための政権交代が必要なのだ。そのために、消費税の撤廃ないし半減、法人税の増税・累進化、富裕税の創設、所得税の累進性の強化、金融所得への課税強化が不可欠である。

 「新自由主義」を否定しつつ、「新しい資本主義」を唱える岸田だが、だんだんと自分でも何を言っているのか分からなくなってしまっているのではないか。

 第2は、政治姿勢の抜本的転換である。嘘とゴマカシのない、説明責任と透明性を確保した政治と行政が行われなければならない。そのために、安倍菅政権下の、モリ・カケ・サクラ・河井等々の徹底調査を選挙の争点としなければならない。

 そして第3点は多様な生き方を保障する人権の確立である。端的には、ジェンダーがテーマとなっている。中でも、選択的夫婦別姓制度採択への賛否が分水嶺になろう。今や、頑固な家族制度墨守派に占拠されている自民党だけが少数反対派となってミジメな孤立をしている状況ではないか。

 ところで、本日午前10時15分と16分、総選挙の第一声に国民が湧いている時刻に、北朝鮮が弾道ミサイルを「東の方向に発射し、日本海上に落下したものと推定される」との政府発表があった。これが、騒ぐほどの規模や態様のものであるか否かはまだ分からない。が、たいへん不愉快な北朝鮮の行動である。

 このような一国のパフォーマンスが、各国にどのような影響を与えるかの分析なしに行われるはずはない。このミサイル発射は、明らかに、日本の総選挙を意識した挑発であると考えざるを得ない。日本を挑発して北朝鮮の存在を誇示して、軍事的な緊張を高めようとしているのだ。

 言うまでもなく、この北朝鮮の狙いは自民党の好戦勢力の歓迎するところ。そのことがよく分かったうえでの、選挙に際しての毎度の礼砲なのだ。

 自己目的化している北朝鮮の先軍政治を堅持し、引き締めるためには、常時の軍事緊張が必要なのだ。折々に、ミサイルも発射しなくてはならない。事情は、日本の軍産複合体や自民党の鷹派にとっても同じことだ。お互いに、相手を敵視し挑発し合うことで、持ちつ持たれつ軍備の増強をはかっているのだ。

衆議院解散の日に後楽園駅頭で野党共闘への支持を訴える。

(2021年10月14日)
 後楽園駅頭のみなさま、文京区内の本郷で弁護士をしている澤藤大河と申します。この場をお借りした演説会の冒頭に、文京革新懇を代表する立場で一言申し上げます。

? 本日、衆議院が解散しました。19日総選挙公示、31日投開票となります。この第49回総選挙は、文字どおり、日本の運命に関わる選挙であり、政権を変え得る選挙になります。

? これまで9年間の安倍・菅政権は、幾つもの顕著な負のレガシーを重ねてきました。
  強引な憲法改正への前向き姿勢と、核兵器禁止や軍縮への後ろ向き姿勢。3・11後における原発再稼働容認政策。権力を私物化し、嘘とゴマカシ、公文書の隠蔽・改竄を恥じない政治姿勢。低所得者に厳しい重税化政策と、大企業・富裕層への減税をセットの不公平な経済政策。その結果としての、所得格差の拡大、貧困の広がり…。そして国力の地盤沈下。さらに、極端に無能で、無為無策のコロナ対策…。
 
? この惨憺たる9年間の民主主義の危機、経済の衰退を立て直す役割を担うという触れ込みで、岸田新内閣が誕生しました。しかし、彼にはその力がありません。
  彼は、早くも「聞くだけ岸田」「口だけ岸田」「ブレブレ岸田」と異名をとっています。安倍や麻生や甘利に抑え込まれた岸田では、民主主義の建て直しも、中間層再構築の経済立て直しもできないのです。

? 打開の道は野党に託すしかありません。立憲野党の連立政権ができるのなら、安倍・菅政権9年間の負のレガシーを清算することができます。大企業や富裕層との癒着やしがらみがないからです。
 
? 幸い、市民連合の提言に応じて、立憲野党4党の「総選挙における野党共通政策の合意」が成立しました。その6本の柱、20項目の政策は、安倍・菅政権の負のレガシーとの対照が際立つ内容となっています。

? たとえば、「金持ち優遇」と批判が高い株式譲渡益や配当益に一律20%の税率を課す金融所得課税。いったんはこれを見直すと明言して、結局はブレて撤回しました。またたとえば、安倍内閣の政治の私物化を象徴する森友事件。いったんはその再調査をすると明言して、これも結局はブレて撤回しました。

? 野党政権が実現すれば、共通政策に従って、「消費税減税を行い、富裕層の負担を強化するなど公平な税制を実現し、低所得層や中間層への再分配を強化する」ことができます。

? また、野党政権が実現すれば、共通政策に従って、「森友・加計問題、桜を見る会疑惑など、安倍、菅政権の下で起きた権力私物化の疑惑について、真相究明を行う」ことができます。「日本学術会議の会員を同会議の推薦通りに任命する」ことの実行もできるのです。

? 確実に、政治を変えることができます。低所得層や中間層を経済的に豊かにします。風通しのよい、透明性の高い政治が行われるようになります。

? 選択的夫婦別姓制度やLGBT平等法などを成立させるとともに、ジェンダー平等をめざす視点から家族制度、雇用制度などに関する法律を見直すとともに、保育、教育、介護などを充実することになります。弱い立場にある者が生きやすい社会を作れるのです。

? それには、まず選挙に勝たねばなりません。その第1の関門が、小選挙区制の下での選挙協力です。候補者の調整です。文京革新懇は、早急に4野党を中心とした反与党勢力が候補者調整協議をされた上、統一候補を擁立して、自公勢力に打ち勝つ成果を挙げるよう呼びかけます。

? 選挙協力は決してたやすいことではありません。場合によっては、気の合わないグループ同士でも協力しなければなりません。自公政権を倒して、政権の転換を実現するためには、必要な妥協はせざるを得ません。

? それぞれの野党の皆様は、国民のために、是非とも、小異を捨てて、大同に就くようお願い申し上げます。そして、区民のみなさま、平和や脱原発を実現して命と暮らしを守るために、汚れた政治を一掃して透明性の高い政治を実行するために、野党共闘へのご支援をお願いいたします。

岸田文雄商法に騙されるな ー 口先ばっかり、総論ばっかり、看板ばっかり、包装ばっかり。羊頭狗肉ではないか。

(2021年10月10日)
 私は弁護士として消費者問題に取り組み、悪徳商法と闘ってきた。そして、長年思い続けてきた。どうして人は、こんなにも簡単に、悪徳商法に騙されて甚大な被害を受けるのだろう。その思いは、どうして人は、こんなにも簡単に、政権の嘘に騙され甚大な被害を受け続けるのだろう、という思いと重なる。

 悪徳商法は、決して大事なお金を強奪することはない。「私を信用してお金を預けてくだされば、きっと倍にもしてお返しいたします。約束は必ず守ります。あなたのために誠心誠意はたらく、私を信頼してください」。こう言われて、納得ずくで大事な金を渡すのだ。この点、政権もまったく同じだ。

 悪徳商法は、手を変え品を変え、目先を変えて、繰り返し消費者を襲ってくる。騙す方も必死だ。なるほどそれなら儲かりそうだというスキームを構築し、いかにも誠実そうな態度を装う。このサプリを飲むと若返ります、必ず利きます。この化粧品を付けると美しくなります。必ず効果ありますという、あのまやかし商法の「必ず儲かります」バージョン。

 政権もよく似ている。決して大事な票を強奪することはない。「私を信用して政治をお任せくだされば、きっと素晴らしい社会を作ります。約束は必ず守ります。あなたのために誠心誠意はたらく、私を信頼してください」。こう言われて、納得ずくで大事な票を奪うのだ。

 アベに騙され、アベ後継のスガに騙され、もう騙されまいぞと利口になった国民の目の前に、今度は目先を変えた岸田政権だ。「人の言うことを聞くことが特技です」とは、目先ならぬ耳先を変えてのセールス。もう、騙されるのはこりごりだ。

 岸田の看板は「新しい資本主義」で、その中身は「成長と分配の好循環」だ。これはあくまで包装で実際何を売ろうとしているのかは分からない。真剣に聞けば聞くほど分からなくなる。それでいて、アベやスガとは違って、「約束は必ず守ります。あなたのために誠心誠意はたらく、私を信頼してください」。こう言われてもねえ。易々と、大事な票をやるわけにはいかない。

 「成長と分配の好循環」というだけでは、「お任せいただければ、うまく経済まわしますよ、と言っているだけ。何をどうしようというのか、具体策が見えないから、悪徳商法と同じなのだ。

 「成長と分配の好循環」の意味が、「まず成長、しかる後に分配」なら、格差と貧困を生み出してきたアベノミクスと変わらない。「まず分配で、しかる後に分配がもたらす成長を」というのなら新味があるし期待もできよう。

 では、分配をどうするのか。その具体策がなければ、口先ばっかり、看板倒れ、包装だけの悪徳商法と変わりがない。

 この点について、一昨日(10月8日)の所信表明演説なんと言ったか。総論は、美しいのだ。
「新自由主義的な政策については、富めるものと、富まざるものとの深刻な分断を生んだ、といった弊害が指摘されています。世界では、健全な民主主義の中核である中間層を守り、気候変動などの地球規模の危機に備え、企業と政府が大胆な投資をしていく。そうした、新しい時代の資本主義経済を模索する動きが始まっています。今こそ、我が国も、新しい資本主義を起動し、実現していこうではありませんか。」

これは下記のように読むべきなのだ。
「アベノミクスは典型的な新自由主義経済政策でした。その結果、富めるものと、富まざるものとの深刻な分断を生み、社会の閉塞感を高める弊害が顕著になりました。さすがに世界では、この間健全な民主主義の中核である中間層を守り、気候変動などの地球規模の危機に備え、企業と政府が大胆な投資をしていく。そうした、新しい時代の資本主義経済を模索する動きが始まっています。長く続いたアベ・スガ政権の失政で、日本経済は大きく世界に遅れ、一部の者に富が集中して社会の健全さが失われつつあります。今こそ、我が国も、アベノミクスの呪縛から脱皮して新しい資本主義を起動し、実現していこうではありませんか。」

ところが、「分配戦略」の具体策がない。所信表明演説では、4つの柱が語られた。
「第一の柱は、働く人への分配機能の強化」「第二の柱は、中間層の拡大、そして少子化対策」「第三の柱は、看護、介護、保育などの現場で働いている方々の収入を増やしていくこと」、そして「第四の柱は、公的分配を担う財政の単年度主義の弊害是正」だという。いったいなんだ、そりゃ。

 本気で分厚い中間層の拡大を目指して所得の再分配をしようというのなら、まずは抜本的な税制改革だろう。消費税は撤廃するか、少なくとも半減しなければならない。税収不足は法人税を増税せよ、所得税の累進率を高めよ。そして、富裕税を創設せよ。金融所得に対する分離課税もやめて富める者の不労所得への課税を強化せよ。不公平を是正するのに、何の遠慮も要るものか。そうすれば、「親ガチャ」などという言葉もなくなる。

 ところが、岸田はやるべきことをやらない。小出しに「森友事件の再調査をやります」と言って、引っ込める。「金融所得課税もやるやる」と言って、「当面触れない」と引っ込めた。

 やるやる詐欺、羊頭狗肉商法、誠心誠意を装う悪徳商法ではないか。くれぐれも美しい総論に惑わされまい。具体策を見極めよう。大事な票を掠めとられぬようにくれぐれもご用心。

森友事件について、利害関係のない第三者による徹底した再調査を。

(2021年10月8日)
 確かに言いましたよ。「私・岸田文雄の特技は、人の話をしっかり聞くこと」とね。だってね。これまでの総理が、ひどかったものね。ほとんど人の言うことに聞く耳もたない総理が続いた9年間。その結果、国民からそっぽを向かれたんだから、こういうしかないでしよう。政治の要諦は、「信なくば立たず」ですよ。

 そして、おっしゃるとおり、人の言うこと聞かない総理のしでかした事件の象徴が森友学園事件でしたね。総理夫妻の責任を揉み消す仕事を押し付けられて、善良な公務員が自殺にまで追い込まれたんじゃないかと、国民の多くが疑念をもっている。このままでは、国民の信頼を得られず、自民党は崩壊しかねません。

 「多くの皆さんが政治に国民の声が届かない、あるいは政治が信じられないと切実な声を上げておられました」。こんな事態ですから、国民の声を聞きますよと言わざるを得ないじゃないですか。で、耳を傾けたら、当然に森友事件の徹底解明を求める再調査をせよという国民の声が聞こえて来ますよね。だから私は、総裁選立候補直後に、「国民の声に耳を傾けます」「森友事件の再調査をやります」と確かに言いました。

 でもね。安倍さんが怒ったんですよ。多分、「森友事件を蒸し返して再調査などするのなら、総裁にはしないぞ」「仮に総裁になったとしても、徹底して潰してやるぞ」ということでしょうね。そりゃあそうでしょうね。あの人のことだから。

 だから私は、方針を変えました。ほら、よく言うでしょう。「君子は豹変す」とか、「過ちては即ち改むるにはばかること勿れ」とか。私は君子ですから、再調査はもうしないってことにしたんですよ。「私・岸田文雄の本当の特技は、安倍さんのお話をしっかり聞くこと」なんですから。

 おかげで、目出度く、私は総裁になり、総理にもなれた。そうしたら、赤木雅子さんからの直筆のお手紙ですよ。「財務省の公文書改ざん問題の再調査をしてください」というわけ。これにはコマッタ。きっと、安倍さんだと良心の呵責って感じないんでしょうけど、私はそんな鉄面皮じゃあないから困ってしまう。

 赤木を立てれば安倍立たず、安倍を立てれば世論が立たない。さあ、どうする、どうする。どうしましょうかね。

 その手紙は、「私の話を聞いてください」で始まるんですよ。そして、「夫は、亡くなる前に改ざんや書き換えをやるべきではないと本省に訴えています。それにどのように返事があったのかまだわかっていません」と続く。「夫が正しいことをしたこと、それに対して財務省がどのような対応をしたのか調査してください」というのが主旨だ。「正しいことが正しいと言えない社会はおかしいと思います。岸田総理大臣なら分かってくださると思います」とも書いてある。

 それに、記者会見では、「岸田さんって聞くのが得意、それが長所なんですよね」「だから、きっと私の声も届くはずだし、聞いてくださる感覚があったので、岸田さんに届けるのが一番いいと思いました」「元々は再調査に前向きで素敵な方だと信じています」と説明している。断りにくいよね、これ。

 やっぱり、再調査やることにして、世論を味方に付けるのが得策かな。そしたら、安倍さん怒るだろうな。でも、圧倒的な世論を味方にすれば、安倍さんも恐くはない。ここは、勝負に出てみようかな。安倍さんが怒鳴り込んできたらなんて言おうか。

 「私の特技は安倍さんの話をしっかり聞くことですが、実は聞くだけのことで、聞いたあとことは特技ではないんです」。こう言ったら、お終いだろうな。

 せめてこう言おうか。「安倍さん、森友問題については、本当に信頼できる第三者を選任した外部委員だけで、徹底した再調査をします。で゜すから、安倍さんの身の潔白は徹底して明らかになるはずです。安心してください」とね。あ、安倍さん、真っ青になっちゃった。もしかしたら、そのことが一番イヤなのかも知れない…。

新総裁の政治姿勢 ー 総論は「可」、具体策は「不可」。

(2021年9月29日)
 コップの中の嵐がおさまり、落ちつくところに落ちついたようだ。安倍・菅と、あまりにひどいこの国のトップが9年も続いた。あまりに長かった、国民の声に聞く耳を持たない政治の9年。ウソとゴマカシ、国政私物化の9年でもある。高市早苗以外の人物なら、誰が総裁になっても、少しはマシというべきだろう。ようやく、政権与党に、自らの特技を「人の話をよく聞くこと」というトップリーダーが誕生した。

 岸田文雄は、本日の自民党総裁選開票直後の両院議員総会で新総裁としてあいさつに立ち、こう述べたという。

 「多くの国民が政治に声が届かない、政治が信じられないといった切実な声を上げていた。私は、我が国の民主主義の危機にあると強い危機感を感じ、我が身を顧みず、誰よりも早く総裁選に立候補を表明した」「私たちは『生まれ変わった自民党』をしっかりと国民に示さなければなりません。」

 この言葉は、その後の就任記者会見の冒頭挨拶のなかでも、次のように繰り返されている。

 「国民のみなさまの中に、『国民の声が政治に届かない』、あるいは『この政治の説明が心に響かない』、こうした厳しい切実な声があふれていました。」「今まさに我が国の民主主義そのものが危機にある強い危機感を持ち、私は我が身を顧みずこの総裁選挙、真っ先に手を上げた次第です。」

 これを言葉の通りに聞けば、誰しも岸田の認識を真っ当なものと思うに違いない。「安倍・菅のウソとゴマカシ、国政私物化の9年が、我が国の民主主義そのものの危機」をもたらしたというのだ。だから、この事態を反省し清算する真っ当な政治を行う決意だと思うことだろう。私も、そうであって欲しいと思う。

 ところが記者会見での記者からの質問への回答で、期待は打ち砕かれた。こりゃダメだ。アベ・スガ政権への批判も反省もない。批判も反省もないから、言葉が上滑りして具体性がない。言質を取られまいという物言いだから、国民の胸に響く言葉にならない。これから何をしようというのか、漠然としてつかみようがない。

 記者の質問に答えて、「今のさまざまな政治課題は、国民の協力なく結果を実現することができない時代だと認識している。そういった点から、国民の皆さんにしっかりと政治の説明責任を果たしていきたい」と述べたと報道されている。その言や良し。この人総論を語らせたら、立派にしゃべることができるのだ。採点すれば文句なく合格点。『可』以上は確実。

 ところが、「森友学園」をめぐる再調査をしないのか、という具体的な質問に対する回答は、まったくおかしいものとなる。

 「行政で調査が行われ、報告書が出されている。また司法において裁判が行われ、民事の裁判も続けられており、その判断を見ていかなければならない。こうした行政や司法の取り組みが行われ、それでもいろいろなご意見や思いがあるならば、今度は政治の立場からしっかり説明していかなければいけない」と述べたという。そりゃおかしい。それじゃ旧態依然の自民党、生まれ変われない。完全に不合格だ。『不可』しかやれない。その理由を整理しておきたい。

1 国民のなかに渦巻く政治不信を、まったく理解していない。「行政や司法の取り組みにご意見や思いがあるならば」などと、将来の、あるいは仮定の問題として語る姿勢が不合格。本気でそう思っているなら、決定的な無能力。そう思っているフリをしているのなら、とてつもない不誠実。

2 「行政の調査」への国民の反発を知るべきだ。身内の調査で、多少の尻尾を切ったが膿を出し切っていない。何よりも、安倍晋三の責任に切り込んでいない。然るべき信頼できる第三者による再調査チームの編成が必要なのだ。仮に、安倍晋三が潔白だったとしても、今、それを信じる理性ある人はない。

3 「司法において裁判が行われ、民事の裁判も続けられており」というこの人の言葉づかいは、経過を良く認識していないこと、自信のないことの表れである。「司法において裁判が行われ」は、あたかも刑事裁判が行われたごとき印象の言葉づかいだが、実は刑事の立件はすべて起訴猶予となり立件されていない。もう一度、きちんと経過を把握して、明瞭に見解を述べ直さねばならない。

4 「民事の裁判も続けられて」いることが、再調査を拒否する理由にはなりようがない。自死した赤木さんの遺族が提起した民事訴訟において、国は無責であ類語と言い続けている。果たして、そのような姿勢で良いのかが問われているのだ。第三者による再調査にすべてを委ねることが求められている。それができないのは、安倍晋三に不都合だからと考えざるを得ない。

行政にも司法にも信用を措けない、不十分だということだから、新総裁に期待が大きいのだ。直ちに再調査の態勢を整えていただきたい。それができなきゃ、アベ・スガと、同じ穴のムジナでしかない。少しだけ穏やかなムジナ。

 ああそうか。岸田の言う「危機にある日本の民主主義」とは、「日本の保守政治」のことなんだ。彼は、民主主義の旗手ではなく、自民党保守政治救済の旗手なのだ。そう考えると辻褄が合う。

自民党に自浄能力はあるのか ?「桜を見る会」「前夜祭」公開質問状回答

(2021年9月27日)
 安倍晋三長期政権の権力私物化の象徴が、「モリ・カケ・サクラ」である。そのどれもが、いまだに説明が尽くされていない。安倍晋三の責任が曖昧にごまかされたまま。アベ・スガ政権の後継者を決める総裁選挙も終盤だが、自民党に自浄能力があるのかが問われている。

 そのような問題意識で、「『桜を見る会』を追及する法律家の会」が、本年9月17日付けで、自民党総裁候補4人と野党の代表者7名に、公開質問状を送った。
 https://article9.jp/wordpress/?p=17589

関心は自ずから、自民党総裁候補4人の回答に絞られる。この質問状には、「回答内容は、回答の有無も含め、マスコミ等への公開を予定しております」と明記されている。公開質問状だから当然といえば当然だが、元首相安倍晋三の不祥事を、どのように深刻に受けとめ、どのように再発の防止に努めるのか、誰もが問い質したいところ。野党各党の回答と比較されるのだから疎かにはできまい、と思ったのが浅はかだった。

 自民党総裁選候補者、岸田文雄、高市早苗、河野太郎、野田聖子のうち、河野太郎は積極的な配達証明郵便の受け取り拒否。あからさまな、人の言うことに聞く耳を持たないという積極姿勢を示した。岸田文雄と高市早苗の両名は質問状を受領はしたが無回答。おそらくは、どう答えてよいか、決断できなかったのであろう。

 つまり、国民への受けがよいのは「首相の犯罪を厳しく断罪する姿勢」である。しかしそう回答すれば、まだ健在な安倍から睨まれる。それなら、黙して語らぬのが良策という姿勢。これを「疚しき沈黙」という。結局のところ、岸田、高市、河野、このだれが、総裁・総理になっても、自浄の意思も能力もない。

 これに対して、野田聖子だけが真っ当な姿勢を見せた。下記のとおり、計5問に手抜きのない丁寧な回答を寄せている。他の3候補とは際だった違い。その全文を掲載しておきたい。

1 桜を見る会について
? 検察審査会の指摘について、これは検察官が専門家として判断したものの上に、国民の代表が意見を反映したものと認識しており、賛同します。
? まず「桜を見る会」そのものを今後どうするかについて、私が首相になったときには、全面的に見直しを行い、(コロナを克服してからの)桜を見る会にはすぺての国民の皆様をど招待したい、と考えております。桜は日本の国花です。桜には罪はありません。日本人はこれまで、春を待ち焦がれ、桜を待ち焦がれ、多くの歌に詠んできました。私は、民主主義政治の原点は、政治家が国民とともにあることだと思っています。内閣総理大臣として、希望するすぺての国民とともに桜を楽しみ、国民から勇気と元気を頂いて、明日からの国家へのエネルギーに変える、そのような会に改革したいと思っています。
  次に、安倍総理大臣の行った桜を見る会に関する疑惑についでは、秘書が略式起訴され罰金が確定、安倍議員ど本人が不起訴となりましたが、その後検察審査会で不起訴不当となり、再捜査が行われているものと思います。当面は捜査の行方を見守りたいと思いますが、そもそも民主主義政治における政治家は、あることないこと言われるのが通例ですが、自らの潔白は自らが丁寧に説明すべきものと考えています。

2 前夜祭について
? 検察審査会は専門家である検察官が下した判断の上に、国民の代表が意見を反映したものですので、その指摘を尊重したいと思います。
? これも同様の理由で、検察審査会の指摘を尊重したいと思います。そのうえで、民主主義政治における政治家は、あることないこと言われますし、今はフェイクュュースの脅威にもさらされています。そんな中においても、検察審査会のご指摘の通り、私たちの責務として、自らの潔白は自らが丁寧に説明すべきものと考えています。
? 政治家が説明責任を巣たし終えたかどうかの判断は、極めて難しいものだと思っています、ただし、私たちが民主主義政治における政治家である以上、国民のせめて過半数が納得してくださるまで、私たちは粘り強く説明する責任を負っているものと考えています。

 公明党からも回答があったが、「検察の処分を待つ」とするだけのもの。おそらくは、自民党と連立を組む立場においては、それ以上は言えないということなのだろう。これも、自浄能力がない。

 さすがに、立民、共産、社民、れいわの4党からは、安倍晋三の責任を明確化することに何の忖度もない回答になっている。これは希望だ。残念なのは、維新と国民からは回答のないこと。

 本日(9月27日)、「会」は、記者会見を開いてこの結果を公表した。
 そこで述べられたことは、「このまま、与党の政権が続れば、桜を見る会は同じように曖昧にされ続けてしまうだろう」「野党4党の回答には、自党が政権を担うことになれば、真相解明と責任追及、法制度の改善という積極的な行動に出る、という決意の表明が見られた」ということ。

 総裁選、自浄能力のない候補者の優勢が報じられている。

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