岸田文雄商法に騙されるな ー 口先ばっかり、総論ばっかり、看板ばっかり、包装ばっかり。羊頭狗肉ではないか。
(2021年10月10日)
私は弁護士として消費者問題に取り組み、悪徳商法と闘ってきた。そして、長年思い続けてきた。どうして人は、こんなにも簡単に、悪徳商法に騙されて甚大な被害を受けるのだろう。その思いは、どうして人は、こんなにも簡単に、政権の嘘に騙され甚大な被害を受け続けるのだろう、という思いと重なる。
悪徳商法は、決して大事なお金を強奪することはない。「私を信用してお金を預けてくだされば、きっと倍にもしてお返しいたします。約束は必ず守ります。あなたのために誠心誠意はたらく、私を信頼してください」。こう言われて、納得ずくで大事な金を渡すのだ。この点、政権もまったく同じだ。
悪徳商法は、手を変え品を変え、目先を変えて、繰り返し消費者を襲ってくる。騙す方も必死だ。なるほどそれなら儲かりそうだというスキームを構築し、いかにも誠実そうな態度を装う。このサプリを飲むと若返ります、必ず利きます。この化粧品を付けると美しくなります。必ず効果ありますという、あのまやかし商法の「必ず儲かります」バージョン。
政権もよく似ている。決して大事な票を強奪することはない。「私を信用して政治をお任せくだされば、きっと素晴らしい社会を作ります。約束は必ず守ります。あなたのために誠心誠意はたらく、私を信頼してください」。こう言われて、納得ずくで大事な票を奪うのだ。
アベに騙され、アベ後継のスガに騙され、もう騙されまいぞと利口になった国民の目の前に、今度は目先を変えた岸田政権だ。「人の言うことを聞くことが特技です」とは、目先ならぬ耳先を変えてのセールス。もう、騙されるのはこりごりだ。
岸田の看板は「新しい資本主義」で、その中身は「成長と分配の好循環」だ。これはあくまで包装で実際何を売ろうとしているのかは分からない。真剣に聞けば聞くほど分からなくなる。それでいて、アベやスガとは違って、「約束は必ず守ります。あなたのために誠心誠意はたらく、私を信頼してください」。こう言われてもねえ。易々と、大事な票をやるわけにはいかない。
「成長と分配の好循環」というだけでは、「お任せいただければ、うまく経済まわしますよ、と言っているだけ。何をどうしようというのか、具体策が見えないから、悪徳商法と同じなのだ。
「成長と分配の好循環」の意味が、「まず成長、しかる後に分配」なら、格差と貧困を生み出してきたアベノミクスと変わらない。「まず分配で、しかる後に分配がもたらす成長を」というのなら新味があるし期待もできよう。
では、分配をどうするのか。その具体策がなければ、口先ばっかり、看板倒れ、包装だけの悪徳商法と変わりがない。
この点について、一昨日(10月8日)の所信表明演説なんと言ったか。総論は、美しいのだ。
「新自由主義的な政策については、富めるものと、富まざるものとの深刻な分断を生んだ、といった弊害が指摘されています。世界では、健全な民主主義の中核である中間層を守り、気候変動などの地球規模の危機に備え、企業と政府が大胆な投資をしていく。そうした、新しい時代の資本主義経済を模索する動きが始まっています。今こそ、我が国も、新しい資本主義を起動し、実現していこうではありませんか。」
これは下記のように読むべきなのだ。
「アベノミクスは典型的な新自由主義経済政策でした。その結果、富めるものと、富まざるものとの深刻な分断を生み、社会の閉塞感を高める弊害が顕著になりました。さすがに世界では、この間健全な民主主義の中核である中間層を守り、気候変動などの地球規模の危機に備え、企業と政府が大胆な投資をしていく。そうした、新しい時代の資本主義経済を模索する動きが始まっています。長く続いたアベ・スガ政権の失政で、日本経済は大きく世界に遅れ、一部の者に富が集中して社会の健全さが失われつつあります。今こそ、我が国も、アベノミクスの呪縛から脱皮して新しい資本主義を起動し、実現していこうではありませんか。」
ところが、「分配戦略」の具体策がない。所信表明演説では、4つの柱が語られた。
「第一の柱は、働く人への分配機能の強化」「第二の柱は、中間層の拡大、そして少子化対策」「第三の柱は、看護、介護、保育などの現場で働いている方々の収入を増やしていくこと」、そして「第四の柱は、公的分配を担う財政の単年度主義の弊害是正」だという。いったいなんだ、そりゃ。
本気で分厚い中間層の拡大を目指して所得の再分配をしようというのなら、まずは抜本的な税制改革だろう。消費税は撤廃するか、少なくとも半減しなければならない。税収不足は法人税を増税せよ、所得税の累進率を高めよ。そして、富裕税を創設せよ。金融所得に対する分離課税もやめて富める者の不労所得への課税を強化せよ。不公平を是正するのに、何の遠慮も要るものか。そうすれば、「親ガチャ」などという言葉もなくなる。
ところが、岸田はやるべきことをやらない。小出しに「森友事件の再調査をやります」と言って、引っ込める。「金融所得課税もやるやる」と言って、「当面触れない」と引っ込めた。
やるやる詐欺、羊頭狗肉商法、誠心誠意を装う悪徳商法ではないか。くれぐれも美しい総論に惑わされまい。具体策を見極めよう。大事な票を掠めとられぬようにくれぐれもご用心。