澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

ビキニ水爆被災60年・連続市民講座第1回「その国内的影響」

 1945年8月 6日
 1954年3月 1日
 2011年3月11日

以上は人類が永久に記憶しなければならない日。とりわけ、日本人である私たちにとって忘れることのできない日。

8月6日は、人類が核という自殺手段を手に入れたことをこの上なく残虐な方法で明示した日。3月1日は兵器としての核の威力が極限に達して、ヒロシマ型原爆の1000倍規模の水爆(「ブラボー」15メガトン)が爆発した日。そして、3月11日は核と人類が共存できないことが明らかとなった日。いずれの日にも日本人が犠牲となった。第五福竜丸の被ばくは原水爆禁止運動の起点となり、また今福島原発事故の放射線被害の教訓ともなっている。核兵器の脅威と、核の放射線被害の恐怖との結節点でもある。

今年は、その第五福竜丸の被ばくから60周年。本日は、記念行事のひとつとしての連続市民講座の第1回。公益財団法人第五福竜丸平和協会と明治学院大学国際平和研究所との共催での「いま水爆の時代を問う?核と向き合い明日へ」の4回シリーズのうちの「第五福竜丸被ばく・ビキニ事件をたどる。その国内的影響」。午後1時に開会して閉会は5時15分。たいへん充実した「講座」だった。いささかくたびれるほどのレベルの高さ。

最初に、20分余の科学ドキュメント「死の灰」が上映された。第五福竜丸の甲板に付着して持ち帰られた「死の灰」の分析と、ビキニ近海の放射線汚染を調査した俊鶻丸のドキュメント。当時の緊迫した雰囲気が伝わってくる。

俊鶻丸は、水産庁が企画した調査船。その第1次の調査航海は、54年5月15日に竹芝桟橋出港となっている。3月1日に被ばくした第五福竜丸が一直線に母港焼津に寄港したのが3月14日。16日に読売が「世紀のスクープ」記事を掲載。乗組員全員が東大附属病院で「急性放射能症」と診断されたのが3月20日である。3月下旬には水産庁がビキニ海域の総合調査企画を開始し、4月に各分野の科学者から成る調査顧問団を編成し、調査船に乗り込む調査団22名と報道班9名を人選、水産講習所の俊鶻丸に測定器具・分析器具、ガスマスクまでを積み込んでの出港であった。その迅速性に驚かされる。帰港は7月4日。

本日の講座の前半は、「被ばくと関わった科学者に聞く」として、当時直接に死の灰の分析に当たった池田長生さんと、俊鶻丸に乗り組み手製の測定器を駆使して環境放射線を測定した岡野眞治さんお二人の講演。お二人とも、もうすぐ90歳。直接お話を聞くことがでたことだけで貴重な体験であった。

「死の灰」の正確な分析と、俊鶻丸の海洋調査とは、「放射線など大したことはない」「日本は大袈裟に過ぎる」と言っていたアメリカに、恐怖の根拠を突きつけるものとなった。遅ればせながら55年2月に、アメリカも調査船タニー号を派遣するが俊鶻丸の調査結果を追認することとなった。

俊鶻丸の調査は、水爆実験への強力な批判の根拠となった。三宅泰雄博士(第五福竜丸平和協会・初代会長)は、次の言葉を残している。
「水爆実験に伴う多くの研究や観測、これらはいかにうまく水爆を使うかというための研究である。俊鶻丸のみが世界でただひとつ、いかにして人類を水爆の危険から守るか、というヒューマニズムに立脚した研究を行った」(「死の灰と闘う科学者」より)

本日の講座の後半はお二人の水産・海洋学専門家の講演と質疑。「ビキニ事件とマグロ」(水口憲哉さん)、「放射能雨と地球環境」(青山道夫さん)。パワーポイントを使っての詳細な講演だった。講演内容は、近々ブックレットとして出版される予定。加筆のうえ表やグラフを添えてのものとなるはず。楽しみに待ちたい。

本日の講演では、当然のことのごとくに、会場からの質問は福島第1原発事故による「海洋汚染」と「水産物の安全性」に集中した。過去の問題でもなく、将来のリスクとしての問題でもない。まさしく現在進行中の放射線被害の恐怖は、核と人類との共存があり得ないことをものがたっている。かつては、原水禁運動にも「原子力の平和利用」というスローガンが掲げられていた。3・11を経た今、兵器としての核利用も、原発としての核利用も、人間の手に負えぬものとの認識が多くの人に共有されている。

第五福竜丸平和協会が、被ばく60周年を記念して出版した記録集の「第五福竜丸は航海中」の帯に、「核なき世界に」としっかり書き込まれている。第五福竜丸の航海が目指すさきは、核兵器も原発もない世界なのだ。

次回の市民講座は、6月14日(日)午後1時30分より。場所は明治学院大学。テーマは、「ビキニ事件、日米関係への影響」、報告者と演題は以下のとおりである。
(1)公開外交文書に見る第五福竜丸被ばくビキニ事件と日米関係・市田真理(展示館学芸員)
(2)ビキニ事件の米政策への影響と日米関係・太田昌克(共同通信編集委員)
(3)ビキニ事件と経済界の動向・山本義彦(静岡大学名誉教授)

今回は専ら理系だったが、次回は社会科学系。これも充実したものになりそうだ。参加希望者は、第五福竜丸平和協会の下記ホームページから事前の申込を。
http://d5f.org/top.htm
(2014年4月20日)

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Published in 日曜日, 4月 20th, 2014, at 23:45, and filed under 第五福竜丸.

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