商品先物取引の規制緩和に反対します(パブコメ)
商品先物取引法の施行規則(農林水産省・経済産業省令)改正案についてのパブコメ募集に関して、その第102条の2第1号・2号案に反対します。この部分の改正案を撤回されるよう求めます。
同規則同条各号の改正案は、個人顧客を相手方とする商品先物取引について、現在原則禁止となっている不招請勧誘(顧客の要請をうけない訪問・電話勧誘)を実質において解禁するものです。その結果として、今沈静化している商品先物取引被害が再び蔓延することは灯を見るより明らかで、多くの人に不幸をもたらすことになります。その立場から、強く反対の意見を申し述べます。
私は消費者サイドの弁護士として、約40年にわたって消費者被害と向き合ってまいりました。痛感することは、電話という簡便なツールから始まる消費者被害があまりに多いということです。利殖勧誘だけでなく、商品勧誘や役務勧誘タイプの消費者被害も、悪徳詐欺商法も、その多くが電話から始まっています。
まさしく、「被害は一本の電話から始まる」のです。
あるいは、「不幸は電話線を伝わってやって来る」のです。
この不幸の源をしっかりと断ち切らなければなりません。いったん断ち切ったはずの不幸の源を、なんとまた復活させようなどとはもってのほかと言わねばなりません。
商品先物取引への参加者は2種類に分かれます。そのひとつは、「当業者」として最終的に商品の売り手買い手となる者。主として大規模な生産者や商社などの事業者がこれに当たります。もうひとつは、スペキュレーター(「投機家」)として、売買差益を求めて取引に参加する者。この人々の中には、取引を知り尽くした「投機家」の名にふさわしいプロもあり、仕組みやリスクに理解のない素人も含まれています。実は、これまで多くの素人が先物業者の勧誘によって取引に参加し、短期間で大きく損をして取引から去っていく。常に新しい素人の補給を繰り返すことで成り立っていたのが、この業界の実態でした。
先物取引における「投機」は、いわゆる「投資」とは違って、新たな価値や利潤を生むことはありません。「投機家」間の賭博の掛け金の拠出に過ぎないのです。「賭博をしているに等しい」と比喩的に表現しているのではありません、文字どおり「賭博そのもの」、丁半博打とまったく同じなのです。サイコロの目の替わりに変動する売買価格となっているだけのこと。賭博の勝ちは、必ず同額の(正確には寺銭をプラスした)負けを伴います。先物取引もまったく同じ。取引差益は、必ず同額の(正確には手数料をプラスした)差損から生じます。手数料を捨象すれば、差益と差損は常にゼロサムとなる世界。ウィンウィンは絶対にあり得ないのです。
プロとアマとが混じって賭博をしているのですから、勝負は目に見えています。一時的なフロックは別として、アマに勝ち目はありません。絶えずリクルートされ続けている多数の素人が、一握りのプロと手数料稼ぎの先物取引業者のカモになっている構図が浮かびあがってきます。こうして深刻な先物取引被害が蔓延しました。その、被害者集団を常に補給し続ける手段の主たるものが電話勧誘だったのです。
電話による甘い勧誘文言に乗じられての先物取引被害は、消費者被害の典型でした。勧誘する方はプロですから、「利益が生ずることの断定」は避けつつ、巧みに利益を得られそうな幻想をふりまいて、新規顧客を誘うのです。ちょうど、食虫植物がその甘い香りで虫を誘うように、です。
ですから、先物取引被害の防止の決め手は、不招請勧誘の禁止と認識され続けてきました。2009年7月の法改正で、ようやくその実現があり、2011年1月からの施行によって、確実に被害の減少に実効をあげてきたのです。なんと、それをこのほど実質解禁しようというのです。到底容認し得ません。
なぜ、今、こんな時代に逆行する「改正」なのか。ひとえに「規制改革」「規制緩和」なのです。今回の省令改正は、規制緩和策の一環として行われるものです。それだけ事態は深刻と言わねばなりません。
改正の趣旨について、主務省は、「規制改革実施計画(平成25年6月14日閣議決定)を踏まえた不招請勧誘禁止等に関する見直しを行うため、『商品先物取引法施行規則』及び『商品先物取引業者等の監督の基本的な指針』について所要の改正を行うものです」と明記しています。
商品先物取引における規制緩和とは、「業者の商行為の自由を拡大して、委託者保護のための規制を緩和する」とということであり、消費者の保護よりは業者の利益を優先する姿勢の表れにほかなりません。「消費者被害は自己責任、それよりは萎縮せずにのびのびと企業の経済活動をさせるべき」という、新自由主義的な発想がこのような政策の転換をもたらしているものではありませんか。
商品先物取引の制度そのものをなくせとまでは主張しません。しかし、過去幾多の委託者トラブルが明らかにしているとおり、仕組みが複雑でリスクが高い商品先物取引は、本来、投資知識が豊富で余裕資金のあるプロの投機家の世界で素人が手を出せる世界ではありません。少なくとも、電話・訪問による不招請勧誘は禁止が大原則でなくてはなりません。
もし、仮にこのまま改正案が省令となるようなことがあるとすれば、アベノミクスの3本目の矢の正体は、消費者を狙った毒矢であると指摘せざるを得ません。多くの人を不幸にする不招請勧誘禁止の実質解禁には強く反対いたします。
(2014年5月7日)