澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

毎日新聞「記者の目」をお勧めする

物心ついたころから、毎日新聞を読みつづけてきたような気がする。その昔、毎日小学生新聞も読んでいた。その毎日が最近元気がよい。ライバル紙に勢いがなくなったことからの印象であれば、少しさびしいが。
本日(5月6日付)の紙面も、気骨にあふれた記事が多い。

社説は、「憲法と秘密保護法」。「国民主権なお置き去り」とのタイトルで、特定秘密保護法を「いったん廃止すべき」と結論している。国民主権原理から説き起こし、「国の持つ重要情報が幅広い行政の裁量で『秘密』とされ、国民の目に届かない仕組みができれば国民主権の基盤は大きく崩れる」と原則論を述べた上、政権にはこの法律の運用において行政の恣意をチェックする手立てを講じようとする熱意が見えないことを具体的に指摘している。そういえば、今日でこの悪法が成立してちょうど5か月。あきらめずに、異議申し立てを続けようというジャーナリストの心意気に共感する。

毎月第1火曜日の「社説を読み解く」が、「竹富町VS文科省」として、教科書採択問題を取りあげている。「毎日新聞はこの間、4度にわたってこの問題を社説に取りあげてきた。論説委員たちの議論で共通したのは、この問題を教科書選びの在り方を見直す機会にすべきだという提案と、是正要求にまで及んだ文科省の姿勢を厳しく批判する視点である」という。私も当ブログで何度か取りあげたが、毎日の立ち場は、確かに「竹富町の自主性を尊重すべき」ものと一貫している。

この解説記事のとおり、我田引水でなく毎日社説が各紙をリードしていたと思う。東京の社説がこれに続き、朝日はまことにヌルかった。読売・産経の2紙は、政権の機関紙かと見まごうばかり。本日の「読み解く」は、中央5紙と琉球新報・沖縄タイムスの地元2紙の各社説の内容を客観的に紹介して、その意見の違いの拠って来たるところを解説している。姿勢がしっかりしているから、読み応え十分。

毎日に勢いがあるのは、おそらくは第一線の記者に、とりわけ若い記者に、制約なく書かせているからなのだろう。その象徴が「記者の目」。本日は、静岡支局の平塚雄太記者が「第五福竜丸・ビキニ事件60年」という記事を書いている。これも読み応えがある。

第五福竜丸やビキニ水爆実験は、核兵器の恐怖の象徴として語られた。その目指すところは原水爆の廃絶となる。しかし、3・11以後は放射線被曝に焦点が当てられることが多くなっている。本日の「記者の目」も、専ら福島原発事故に重ねての被曝問題を論じている。焼津というローカルな地域を見つめる確かな「目」が、歴史的にも地理的にも、大きく拡がった世界の大きな問題を捉えることができるということを教えている。

平塚記者の記事の大意は、以下のとおり。
「60年前のビキニ事件での放射線被害は、第五福竜丸だけではなかった。日本の貨物船や漁船1000隻近く(厚生省調査では漁船856隻)が被ばくした可能性がありながら、日米両国は当時、被害を第五福竜丸だけに矮小化した」「米国は、ビキニ事件をきっかけに日本で反米、反核感情に火が付くのを恐れ、日本はこれに追随して、被ばく者を切り捨てた」「本来なら国の責任で、被ばくが疑われる関係者をきちんと調べるべきで、今からでもビキニ事件の被ばく実態を調査し、放射線被害の教訓とすべきだ」

記者は、「事件翌年の55年日米原子力協定が結ばれ、原子力基本法が成立。日本の原発開発はビキニ事件にふたをする格好で国策として走り出した」ことを指摘して、「都合の悪いものを消し去ろうとした核大国・米国の身勝手さ」と「それに追従した日本政府の情けない姿勢」に憤っている。まったく、そのとおりだ。

しかも、ことは過去の問題ではない。「東京電力福島第1原発事故に見舞われても住民被ばくを過小評価し、原発再稼働を急ぐ日本政府の姿勢を見ると、『国策優先』という歴史が繰り返されているように見える」と、福島原発事故に重なる国の姿勢を批判している。

その視点から、記者は広島市立大広島平和研究所の高橋博子講師の次の言を紹介している。
「日本政府は安全保障や経済的な理由で米国の原子力政策に追随し、自国民の被ばくから目を背けた。福島の原発事故でも住民の被ばく線量などを積極的に公表しておらず、その姿勢はビキニ事件から変わっていない」

記事は、「久保山さんは『原水爆の被害者は私を最後にしてほしい』と言い残して絶命した。その遺志をかなえるためにも、ビキニ事件の真相を解明しなければならない」と結ばれている。その言や良し。

不幸にも、第五福竜丸の存在が福島原発事故によって脚光を浴びている。平塚記者には、核を操る人間の傲慢さと、核の被害に蓋をしようという国策とに、憤りを持ち続けて、第五福竜丸にまつわる記事を地元から発信していただきたい。その記者の正義感からする憤りの記事を制約なしに掲載する毎日であって欲しい。一人の毎日ファンからの要望である。

なお、以上の3本の記事は、以下のURLで読める(と思う)。
http://mainichi.jp/opinion/news/20140506k0000m070086000c.html
http://mainichi.jp/shimen/news/20140506ddm004070017000c.html
http://mainichi.jp/shimen/news/20140506ddm005070014000c.html
(2014年5月6日)

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Published in 火曜日, 5月 6th, 2014, at 15:18, and filed under 未分類.

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