澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

集団的自衛権行使の現実・「100年前の日本」と「現在の英国」と

10月27日付東京新聞トップの記事が、調査報道のお手本のような内容。ヨコの見出しが、「第1次大戦 日英同盟で合祀1333人」。これは、「第1次大戦時、日英同盟に基づく英国からの要請に応じた日本の参戦の結果、その戦闘で死亡し靖国に合祀された軍人総数は少なくも1333人にのぼる」ということ。それだけなら歴史の一コマの発掘に過ぎないが、この記事は優れてジャーナリステックな意味合いをもっている。タテの大見出しが「『戦域限定』参戦なし崩し」となっている。いうまでもなく、記者の関心は、集団的自衛権行使の具体的なイメージ提供にある。100年前の実例から集団的自衛権行使の恐さを伝えようとしている。

リードに、「開戦当初、日本軍は『戦域限定』で出兵を求められたが、日英両国は戦況の変化を優先することで戦域を拡大させ、その結果、戦没者が増大していく状況が浮き彫りとなった」とある。これが結論だ。

本文に「日英同盟を名目に日本がドイツに宣戦布告する際、英国は中国や太平洋への日本の権益拡大を懸念する中国や米国の意向に配慮し、日本の参戦地域を青島近郊の膠州湾以外に拡大しないように求めた。しかし、英海軍の極東での戦力不足や戦況の変化などに伴い、英国側から太平洋や地中海などへの派兵を求められた。地中海への派兵は日英同盟の適用範囲外だったため、日本政府は派兵に慎重だったが、米国や日本の商船がドイツの潜水艦部隊に沈没させられる被害も続出し、日本も海軍派兵を決定。参戦当初の『戦域限定』は有名無実化した」という。

3面「核心」欄の解説記事に、「第1次大戦『戦域拡大』」「集団的自衛権に教訓」「邦人保護名目も骨抜き」「2次大戦遠因にも」と見出しが並ぶ。

その問題意識は次のとおり明らかにされている。「日英同盟を名目に第一次世界大戦に参戦して、戦没し靖国神社に合祀された日本の陸海軍軍人らが、少なくとも千三百人余に上ることが明らかになったが、当初『戦域限定』が条件だった戦争が拡大したのはなぜか。安倍晋三首相は集団的自衛権行使の範囲を『限定的』と強調するが、専門家は『いったん軍を派遣すれば歯止めがかからず、被害拡大を招く恐れがある』と現代にも通じる歴史の教訓を指摘する」「戦域や戦力を限定した海外派兵がいかにもろく、簡単に骨抜きにされるものか」

まだ、集団的自衛権などという概念のなかった時代。日本は、大国である同盟国イギリスからの参戦要請を断ることもできずに地中海にまで参戦した。当初の限定参戦は、結局なし崩しに戦線拡大に至って日本軍の将兵に多数の戦死者を出したという調査報道となっている。
<平間洋一・元防衛大教授(軍事史)の話>として、「日本は日英同盟を理由に参戦したが人やモノ、情報を動員する総力戦で、戦域を限定することは不可能に近い。」とのコメントが印象的。

その100年後、東京新聞記事の出た10月27日に、英国が13年にわたったアフガニスタン駐留からの撤退を完了したという報道がなされている。こちらは英国の立場はかつての大英帝国ではなく、大国アメリカからの要請による集団的自衛権を行使しての参戦の重荷である。

2001年の9・11事件後、アメリカは個別的自衛権を行使するとしてアフガンへの攻撃を始めた。北大西洋条約機構 (NATO)諸国はテロ攻撃に対して「集団的自衛権」を発動した。英国は、その一員として、2001年以降、アフガニスタンの治安維持を目的に、米軍が率いる国際治安支援部隊(ISAF)の下で13年間にわたって駐留を続けてきた。その英軍がようやく10月27日、拠点にしてきた南部ヘルマンド州の基地をアフガン側に引き渡し、戦闘部隊が撤退が完了した。

この間にイギリスはどれだけの犠牲を払い、何を得ただろうか。朝日の報道が手際よくまとめている。「13年間の英軍の駐留部隊はのべ14万人、死者は453人に上り、かかった総費用は190億ポンド(約3兆3千億円)ともいわれる。英BBCの世論調査では、国民の42%が介入前と比べて英国が『より安全でなくなった』、68%が英国のアフガン介入は『価値がなかった』と答えるなど、多数の犠牲を出した長期の軍事作戦の成果に懐疑的な英世論を示す結果となった。」

集団的自衛権の行使とは、ここまでの覚悟が必要なことなのだ。100年前も今も、である。多数の犠牲と大きな負担を強いられる。それでいて、軍事作戦の効果に懐疑的な世論をつくり出すだけで終わるものともなる。いや、さらに次の大戦争の遠因にさえなるのだ。

集団的自衛権行使については、このような実例報道の積みかさねを期待したい。
(2014年10月30日)

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