「圧殺の海」を観に行こうー辺野古新基地建設反対闘争に連帯して
旧友からの音信は嬉しいもの。私の場合は、大学の教養課程の語学(中国語)クラスをともにした27人の仲間が最も懐かしい。人生のスタートラインに立つ手前で、見通しの効かない不透明な将来を語りあった貴重な友人たち。
あれから50年にもなるが、あのころの友人のそれぞれの未来は相互に交換可能だったのだと思う。別にあったかも知れない自分の人生を考えるとき、リアリテイを伴って思い浮かべることができるのは他の26人の現実の来し方。そのなかの一人に、「朝日」に就職して記者人生を全うし、その後「熊野新聞」に移った小村滋君がいる。「もしかしたら、私にも朝日や毎日、あるいはNHKの記者としての人生だってあり得たのかも知れない」「いやそれはあり得ないかな」などと考える。
昨年久しぶりの同級会で、小村君は、新宮の大逆事件関係者顕彰運動について熱く語った。今は廃止された刑法の大逆罪は、法定刑が死刑しかない。その罪名で起訴された者が、首魁幸徳秋水以下の26名。1911年1月に言い渡された判決は死刑24名、有期刑2名であった。この恐るべき天皇制政府による蛮行の犠牲者の中に、「紀州新宮グループ」がある。大石誠之助、高木顕明、成石勘三郎、成石平四郎、峰尾節堂、崎久保誓一の6名。
小村君は、地元の記者として、彼らの事蹟を発掘していたとのこと。いま、彼ら受難者は、「平和・博愛・自由・人権の先覚者」とされ、その「志を継ぐ」という碑が地元に建立されているそうだ。小村君などの地道な調査によるものなのだろう。
さて、刑死100年を記念して、新宮グループの中心人物だった大石誠之助を新宮市の名誉市民にしようという運動が盛りあがったのだそうだ。大石は「ドクトル(毒取る)」の異名で慕われた社会主義者の名物医師。その診療所の玄関には、「(診察費は)できるだけ払ってください」という札が掛かっていたという。
2011年3月新宮市議会は、市民運動が進めてきた「大石誠之助を名誉市民に」と求める請願について、なんと7対10の賛成少数で不採択とした。小村君はこれを残念がる。そして、「新宮の大逆事件に触れていただくときには、大石誠之助を名誉市民にする運動では、共産党市議団の裏切りで市議会で否決されたことを書くように」と念を押されている。共産党市議団にも言い分はあるのだろうが、残念ながら小村君の信頼を裏切ってしまったようだ。細かい経緯は、「大逆事件と大石誠之助ー熊野100年の目覚め」(現代書館刊)に書いてあるそうだ。この書物も、実質小村君が編集したものだという。
ところで、その小村君からEメールで「気まま通信」がときおり送られてくる。配信先は20人程度だそうだ。これは究極のミニコミ。今回は、大阪十三のミニシアターで観た映画「圧殺の海」の感想。辺野古基地建設反対に体を張る人々を描いたドキュメンタリーだ。「気まま通信」では彼の興奮が伝わってくる。これだけは観ておかなくては、と思わせる文章になっている。以下は、その抜粋。
「沖縄ファン」をヤマトに増やそうー映画「圧殺の海」を見て
黒いカーテンを開けると、小さな部屋に、ほぼ満席の観客の視線が一斉に私を見たように思った。「こんなに沢山の仲間がいる」私は、会場に暖かいものがあふれている気がした。ひとり一人、数えたら35人。
安倍政権は昨年7月から辺野古新基地建設に着工、これを阻止しようとする住民を圧倒的な力で押さえこもうとしてせめぎ合いが続いている。
カメラはいつも住民の側にいた。キャンプ・シュワブのゲート前で機動隊と揉み合うときも、海にカヌーで漕ぎ出して海保のボートに追い回され海に投げ出されたときも、カメラは住民の側から、海の中から、当局側を捉えていた。
そして11月の沖縄知事選、12月の総選挙で沖縄4選挙区とも辺野古反対の「オール沖縄」が勝った。にも拘わらず、安倍首相ら閣僚は、面会を求める翁長・沖縄知事に会わなかった。映画は、選挙結果について菅官房長官が「辺野古は粛々と進めるだけ」と鉄仮面のような表情で語るのを映し出していた。
映画が終わって、私は興奮を胸にエレベーターホールに出た。他の30人余も恐らく同じ気分だったろう。「昼食でも一緒しましょう!わざわざ和歌山から来た人を何もなしで返すわけにはいかん」ちょっと恰幅のいい男性が、背の低い日焼けした男性に話しかけていた。大きな声が、映画の興奮の余韻を表していた。「和歌山はどちらですか」「海南です」と二人の問答。私もエレベーターに一緒に乗り込んだ。和歌山かぁ、私も和歌山県の端っこにいた、昼食を一緒したい、と申し込もうか、いやいや見ず知らずが割り込んで邪魔してもなあ。結局、私は遠慮した。しかし胸に暖かいものが湧いた。
この映画は続映を重ねている。「問い合わせが多いので」という。ヤマトンチュウも捨てたもんじゃない。いや沖縄の民意を露骨に敵視し無視する安倍政権の態度が沖縄びいきをふやしているのかもしれない。ヤマトンチュウは元来、判官びいきなのだ。巨人・大鵬・卵焼き人種も多いが、弱い阪神や広島ファンも多いのだ。
1月30日の朝日新聞夕刊に、沖縄県に「ふるさと納税」する人が増えているというコラムが掲載された。例年、1月は1桁しかないのに今年は21日までに96件471万円余が送られてきた。安倍政権の沖縄への対応に対し、「ささやかながら沖縄を応援したい」との声が県税務課に届いているという。
沖縄の大村博さんからの年賀状に『日本の平和と民主主義の展望は沖縄から生まれると言ってよいでしょう』とあった。その前段には、保守やら革新やら古い枠組みを破って、反基地・反辺野古に結集した『オール沖縄』が、昨年の選挙で全勝したことが誇らしげに書かれていた。大村さんは、昨年8月に設立された「琉球・沖縄の自己決定権を樹立する会」の代表幹事の一人だ。「樹立する会」は、沖縄の非武の伝統に基づき基地のない島、東シナ海を平和と共生の海とし、沖縄に国連アジア本部の誘致をめざすという。私も、この会に入れてもらった。新宮の「くまの文化通信」の仲間にも入会希望者はいる。沖縄のささやかな応援団は確実に増えている。これが「本土」に平和と民主主義の展望を開くことに繋がり、大村さんの年賀状の予言が実現するのだ。2015年の初夢でもある。
映画の上映スケジュールは、下記「森の映画社」のサイトをご覧いただきたい。
http://america-banzai.blogspot.jp/2014/11/blog-post.html
東京では、ポレポレ東中野で2月14日(土)?3月13日(金)まで。
小村君があれだけ勧める映画だ。私も観に行こうと思う。沖縄での闘いに連帯の気持を表すためにも。
(2015年2月19日)