インターネット選挙から選挙ゴロを一掃せよ
石原宏高らの選挙違反(運動員買収)告発の準備のために、本日も東京都の選管に足を運んだ。おや、これまでと様子が違う。なにやら忙しそうなざわついた雰囲気。そう、都議選も参院選も近いからだ。
各陣営の選挙責任者と思しき人物が、熱心に選管の職員から説明を受けている。説明している職員の丁寧さが心地よい。こんなに親切なコーチがいるのだから、誰にでも選挙事務ができる。分からないことは職員に解説を受けてそのアドバイスに忠実であれば問題は起きない。解説をよく聞こうとしないから告発される羽目になる。各陣営で選挙を取り仕切る者は、選挙運動員に「事務員報酬」や「労務者報酬」として、金をばらまきたくてしょうがない。また、もらう方も潔癖感がなく、1日1万円が欲しくて群がってくる。この構図が刑事事件となる。
用事を済ませて、選管の部屋を出ようとしたところで、複数の男性に声をかけられた。「参議院選挙に関係していらっしゃいますね」「もう、新聞広告のご依頼はお済みですか」「インターネット選挙についてはいかがですか」。要するに客引き諸君なのだ。私といえば、この時期に選管の職員との面談をしてきているのだから、客と間違えられるのも無理はない。39階のエレベータに乗り込むまでに、複数の名刺とパンフレットを押し付けられた。
インターネット選挙の解禁は広告業界や選挙コンサルティング業界のビジネスチャンス。そのような捉え方が、実感として伝わってくる。「今回解禁のインターネット広告において、ご期待に添えるよう、ご提案できる体制を整えております」「弊社は…信頼性のノウハウを活かし、必ず皆様のお力になれると自負しています」
具体的に、「ウェブサイト・コンテンツ作成」「ソーシャルメディア対応」「ウェブサイトプロモーション」「献金サポート」などの各項目に、さらに多くの細項目が並ぶ。ある社の「ホームページ制作プラン」の値段表がある。オプション抜きの初期費用が50万円。「デザイン」「制作・保守」「更新ツール」以下が全てオプションだから、トータルではいったい幾らになるのやら。動画撮影は「1日15万円+交通費実費」とのこと。インターネット選挙コンサルや請負は、美味しい商売なのだ。これは、どう考えてもおかしい。
私は、1980年3月25日、盛岡地裁遠野支部で共産党市議が公選法違反で起訴された事件を弁護して、戸別訪問禁止規定についての違憲判決を得た。その判決は、当時東北大学教授だった樋口陽一さんに遠野の法廷まで足を運んでいただいて証言をしていただいたお蔭。政治的表現の自由についての憲法原則のエートスを格調高く語っていただいた。穴沢さんという真面目な担当裁判官が、支部長として職員に、「今日は、とても勉強になる証言がある。時間が許す限りは傍聴をお薦めする」と言われたそうだ。その穴沢さんの判決は、躊躇なく公職選挙法の戸別訪問禁止規定を違憲と断じたが、文書頒布の規制はかろうじて合憲とした。その結論を分けた理由は、戸別訪問はまったく金がかからないが、文書はいささかなりとも金がかかるので規制にまったく合理性がないとは言えないということだった。
金の多寡で選挙が左右されてはならない。インターネット選挙の解禁は、これこそ金のかからない理想の選挙運動ではないかと歓迎したのだが、現実は、ビジネスチャンスとされ、金儲けの手段とされている。これでは、金のある方が有利となる。経済格差が、インターネットサイトの見栄えの差となり、票の差につながり議席の差となる。結局は金が政策にものをいう。どう考えても釈然としない。
候補者を選挙で当選させることをビジネスとして報酬を得る職業一般を「選挙屋」というようだ。選挙コンサルタント、あるいは選挙プランナーといえば少しは格好がよいが、所詮は選挙ゴロ。これに金を払えば、運動買収として犯罪となることを共通の理解としなければならない。
公選法221条1項は、「当選を得しめる目的をもって選挙運動者に対し金銭を支払う」ことを犯罪(運動買収)としている。選挙ゴロの行う選挙運動プランやイメージ作りが、直接選挙民と接触しないから選挙運動ではないというのは詭弁であろう。表現行為は、表現内容の作成と表示行為の両面とから成る。ビラの内容を練り上げる者は選挙運動者ではなく、ビラのポスティングをした者だけが運動者だというのは、オレオレ詐欺の本犯を見逃して、出し子だけの責任を論じているに等しい。
本来、無償で行うべき選挙運動の重要部分を金銭で請け負わせれば、当然に買収罪が成立し、金を払った方ももらった方も処罰されなければおかしい。典型的な選挙ゴロの摘発があってしかるべきだと思う。