植村隆さんの新しきよきスタートを祈念申し上げます
植村さん、「韓国カトリック大学校」に招聘教授として就任とのこと、昨日の記者会見の報道で知りました。おめでとうございます。
記者会見の記事は以下のようなものです。
「慰安婦報道に携わった元朝日新聞記者で北星学園大(札幌市)の非常勤講師、植村隆氏(57)が来年春にソウルのカトリック大の客員教授に就任することになった。植村氏が26日、北星学園大の田村信一学長と記者会見して明らかにした。
植村氏をめぐっては昨年、朝日新聞記者だった頃に執筆した慰安婦関連の記事について抗議が北星学園大に殺到。退職を要求し、応じなければ学生に危害を加えるとする脅迫文も届いていた。」(共同)
私は、植村さんやご家族へに対する常軌を逸した人身攻撃に胸を痛めていた者の一人です。煽動する者と煽動に乗せられる者一体となっての、植村さんへの陰湿で卑劣な攻撃の数々は、日本社会の狭量と非寛容をこの上なく明瞭に露呈しました。この国と社会がもっている、少数者に冷酷な深い暗部を見せつけられた思いです。また、この国のナショナリズムがもつ凶暴さを示しているようにも思います。残念ながら、私たちはけっして開かれた明るさをもった国に住んではいません。卑劣な匿名の攻撃やいやがらせを許容する雰囲気はこの社会の一部に確実にあるといわざるを得ません。
しかしまた、私たちの国や社会は、そのような卑劣漢だけで構成されているわけではありません。陰湿な北星学園に対する攻撃や、ご家族への攻撃を中止させ、防止しようという良心を持つ多くの人々の存在も明らかとなりました。不当な攻撃を許さないと起ち上がる人々の勇気を見ることもできました。その良心と勇気こそが未来への希望です。
昨日(26日)の記者会見が、北星学園大学の田村信一学長と植村さんとの共同で行われたことが、両者に祝意を贈るべきことを示しています。北星学園大は、右翼の卑劣な攻撃に屈することなく植村さんの雇用を護りぬき、そのことを通じて建学の理念と大学の自治とを護り抜きました。韓国カトリック大学校は、北星学園の提携大学で、植村さんの招聘には、今は韓国に在住の植村さんの教え子たちの尽力があったとのこと。すばらしいことではありませんか。
もっとも、北星学園に来年度も植村さんの雇用を継続するかどうか迷いのあったことは聞いていました。最大の問題は、警備費用の負担だとか。その額は年間3000万円とも、3500万円になるとも。右翼の直接攻撃は目に見えて減ってはきたけれど、大学としては学生の安全を守るために手を抜くことができない。そのための費用は、この規模の大学としては大きな負担になるといいます。大学の苦労はよく分かる話。
植村さんに対するいわれなき攻撃はそれ自体不当なものですが、攻撃の矛先をご家族や大学に向けるという陰湿さには、さらにやりきれない思いです。大学が経済的に追い詰められているのなら、応援団は金を集めねばなりません。
脅迫を告発した弁護士グループの仲間内では、「カンパを呼びかけなければならないようだ」「そのためには、まず自分たちが応分の負担をしなければならない」「民族差別を広言する右翼のための出費は馬鹿馬鹿しいが、これが民主主義のコストというものだろう」「卑劣な右翼に、『人身攻撃して、植村を大学からヤメさせた』という成功体験を語らせたくない」「雇用継続を可能とする程度のカンパ集めは可能ではないか」「カンパを集めること自体が差別や暴力と闘う世論を喚起する運動になるのではないか」などと話しあっていました。
暫定的にではあるにせよ、植村さんの雇用がハッピーな形で継続することを大いに喜びたいと思います。
本日(11月27日)朝日新聞が、「本紙元記者、韓国で教鞭へ」という、暖かく、希望を感じさせる見出しであることにもホッとしています。
なお、産経の報道で知りましたが、植村さんは一連の経過について「来年手記の出版を目指している」とのこと、また北星学園は、「再発防止のために経験を検証総括し、広く社会に問いたい」としておられるとのこと。いずれも大事なこととして、完成を期待いたします。
もう一つ、植村さんの札幌地裁提訴事件移送問題での緒戦の勝利おめでとうございます。たまたま、記者会見の11月26日のマケルナ会事務局からの連絡ですと、「植村さんが桜井良子氏などを名誉毀損で札幌地裁に訴え、桜井氏ら被告が東京地裁で審理するよう最高裁に不服を申し立てていた移送問題は、26日、最高裁から被告らの抗告をすべて棄却するとの連絡がありました。これで札幌地裁での審理が確定しました。」とのこと。
櫻井良子(本名)被告らは訴訟を東京地裁へ移送するよう申立をし、札幌地裁は東京に在住する被告らの応訴の都合を重視する立場から、いったんは移送を認めました。これを札幌高裁の抗告審が逆転して札幌地裁での審理を認めました。その高裁の決定がこれで確定したということ。
この種の事件遂行は、意気に感じて集まる弁護士集団によって担われます。せっかく、札幌の若手弁護士諸君が情熱をもってやる気になっているのに、訴訟を東京に移すことになれば、弁護士たちの腰を折ることになってしまいます。それに、もしこの手の事件が、被告の都合を優先して原告の居住地でできないことになるとしたら、同種の被害者が裁判を起こせず、泣き寝入りを強いられることにもなりかねません。
ともかく、これで張り切って、札幌訴訟が動き出すことになります。幸先のよい裁判のスタートに、良い結果が期待されるところです。
(2015年11月27日・連続第971回)