澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

東京都教育委員諸氏よ、恥を知りたまえ

またまた、都教委の暴挙。私は怒りが治まらない。

昨日(6月27日)の都教委定例会は、下記の議決を採択した。少し長いが、全文をお読みいただきたい。これが、「委員の総意の下の議決」と発表されている。傍聴者の報告では、司会者の木村孟委員長を除いて、誰の発言もないままの議決だったとのこと。

標題「平成26年度使用都立高等学校(都立中等教育学校の後期課程及び都立特別支援学校の高等部を含む。)用教科書についての見解」

本文「都教育委員会は、各学校において、最も有益かつ適切な教科書が使用されるようにしなければならない責任を有しており、教科書の採択に当たっては、採択権者である都教育委員会がその責任と権限において適正かつ公正に行う必要がある。
平成26年度使用高等学校用教科書のうち、実教出版株式会社の「高校日本史A(日A302)」及び「高校日本史B(日B304)」に、「国旗・国歌法をめぐっては、日の丸・君が代がアジアに対する侵略戦争ではたした役割とともに、思想・良心の自由、とりわけ内心の自由をどう保障するかが議論となった。政府は、この法律によって国民に国旗掲揚、国歌斉唱などを強制するものではないことを国会審議で明らかにした。しかし一部の自治体で公務員への強制の動きがある。」という記述がある。
平成24年1月16日の最高裁判決で、国歌斉唱時の起立斉唱等を教員に求めた校長の職務命令が合憲であると認められたことを踏まえ、都教育委員会は、平成24年1月24日の教育委員会臨時会において、都教育委員会の考え方を、「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱について」(別添資料)にまとめ、委員総意の下、議決したところである。
上記教科書の記述のうち、「一部の自治体で公務員への強制の動きがある。」は、「入学式、卒業式等においては、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導することが、学習指導要領に示されており、このことを適正に実施することは、児童・生徒の模範となるべき教員の責務である。」とする都教育委員会の考え方と異なるものである。
都教育委員会は、今後とも、学習指導要領に基づき、各学校の入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱が適正に実施されるよう、万全を期していくこととしており、こうした中にあって、実教出版株式会社の教科書「高校日本史A(日A302)」及び「高校日本史B(日B304)」を都立高等学校(都立中等教育学校の後期課程及び都立特別支援学校の高等部を含む。以下「都立高等学校等」とする。)において使用することは適切ではないと考える。
都教育委員会は、この見解を都立高等学校等に十分周知していく。
都教育委員会は、委員総意の下、以上のことを確認した。
平成25年6月27日 東京都教育委員会」

要するに、実教出版教科書の「日の丸・君が代強制」に関する記述が気に食わないから、都立校では使用させないというのだ。なんという、「日の丸・君が代強制」問題へのこだわりようだろうか。なんという、思い上がった非民主的な権力体質。これでは日本国憲法下での教育を語る資格はない。国定教科書時代の教育への逆戻りではないか。「人格が高潔で、教育、学術及び文化に関し識見を有する」という教育委員の要件が泣いている。

いうまでもなく、実教出版の教科書は検定を合格している。しかも教科書調査官の修正意見に応じてのこと。
「実教出版の日本史Aには11年度の検定で『政府は国旗掲揚、国歌斉唱などを強制するものではないことを国会審議で明らかにした。しかし現実はそうなっていない』との記述に文部科学省の意見がつき、後半を『公務員への強制の動き』などと書き換えて合格。文科省によると、日本史Aの全国シェアは約14%という。」(毎日)

もう一度、都教委が不適切とした記述をお読みいただこう。
「国旗・国歌法をめぐっては、日の丸・君が代がアジアに対する侵略戦争ではたした役割とともに、思想・良心の自由、とりわけ内心の自由をどう保障するかが議論となった。政府は、この法律によって国民に国旗掲揚、国歌斉唱などを強制するものではないことを国会審議で明らかにした。しかし一部の自治体で公務員への強制の動きがある。」
まずは、この記述の正確さを確認しよう。資料にあたるまでもなく、誰が読んでもその正確性は明白だ。国会の審議経過がこのとおりであることも、「一部の自治体」が東京都や大阪府を指していることも自明のこと。

ところが、「都教委幹部は、『公務員への強制』という表現は明らかに間違っており採用するわけにはいかない、と話している」というのが毎日の報道。いったい、この教科書のどこに間違いがあるというのか。どんな不正確があるというのか。言えるものなら、具体的に言ってみろ。さすがの文科省検定調査官さえ、これ以上は一字一句文句の付けようもないとして、検定合格とした記述だ。

都教委の10・23通達と、それに基づく各校長の起立・斉唱・伴奏の職務命令、そしてこれに従わないとしての苛酷な懲戒処分、これを『公務員への強制』と言わずして何というのだ。東京都だけで、懲戒処分件数は450件に達している。「強制は間違い」という都教委幹部の言は、嘘も甚だしい。恥を知れ。

もっとも、この教科書の記載が正確なことは、実は都教委もよく知っている。正確な記述であればこそ、骨身に沁みて痛い。痛いからこそ、教科書として使われることを拒絶したのだ。

先に見たとおり、都教委の決議は教科書を排斥する理由を「都教育委員会の考え方と異なるものである。」と明言している。つまりは、都教委には、特定の考え方がある。この考えとは異なる教科書の使用は不適切である。たとえ検定に合格した教科書でも都教委の考え方と異なるものは認めない、というのである。これでは、子どもたちの真実を知る道を閉ざすことになる。

公権力が特定のイデオロギーをもってはならない。特定の考え方を押しつけてはならない。だから、国定教科書がなくなった。にもかかわらず、都教育委員会の考え方と異なるものであることを理由に特定の教科書排除を広言していることに驚かざるを得ない。これを国定教科書時代への逆戻りというのだ。こんな代物が「委員の総意の下の議決」とされている。民主々義のイロハも弁えぬ教育委員諸氏よ、恥を知れ。

なお、前掲議決中に引用されている「平成24年1月24日の教育委員会臨時会議決」とは、同月16日の最高裁判決に動転した都教委が急遽臨時会を開いて校長らの動揺を鎮めようとしたもの。
「国歌斉唱時の起立斉唱等を教員に求めた校長の職務命令が合憲であることは、平成24年1月16日の最高裁判決でも改めて認められたところである。都教育委員会は、この最高裁判決の趣旨を踏まえつつ、一人一人の教員が、教育における国旗掲揚及び国歌斉唱の意義と教育者としての責務を認識し、学習指導要領に基づき、各学校の入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱が適正に実施されるよう、万全を期していく」という内容。

この1・16最高裁判決は二面性を持っている。その一面は、10・23通達とこれに基づく起立・斉唱等の職務命令を違憲とまでは判断しなかった。この点は、教員側に不満の残るところである。しかし、同判決は都教委を厳しく指弾するもう一面を有している。すなわち、「国旗に向かって起立し国歌を斉唱する行為や君が代の伴奏をする行為」が、客観的に国家に対して敬意を表明する行為であることを認め、その行為の強制が命じられた教員の思想・良心を侵害する側面をもつことを明瞭に認めた。そのうえで、懲戒処分のうちもっとも軽い戒告は、実害のないものとして処分有効であるが、減給・停職など実害を伴うものについては、これを処分違法として取り消したのである。

以前にもこのブログに書いたが、懲戒処分は、軽い方から戒告・減給・停職そして極刑としての免職まで4段階ある。1・16判決以前には、都教委は処分量定を累積加重の取扱いとしていた。初回の不起立で直ちに戒告、2回目は減給(10分の1)1か月、3回目は減給6か月、4回目となると停職1か月、5回目停職3か月、6回目停職6か月。そして、おそらく7回目は免職を予定していた。
われわれは、都教委が発明したこの累積加重の処分方式を、「思想転向強要システム」と名付けた。信仰者には「背教強要システム」でもある。不起立・不斉唱は思想・良心に基づく行為である以上、思想や良心を都教委の望む方向に変えない限り、処分は際限なく重くなり最後には教壇から追われることになるのだ。

行政に大甘の最高裁も、さすがにこれはひどいと思ってくれた。1・16最高裁判決は、都教委の「思想転向強要システム」「背教強要システム」を断罪した点で、都教委には痛恨の判決であったのだ。しかも、補足意見に見るべきものがある。都教委をたしなめ、強制を排して現場を正常化せよとの裁判官の肉声が聞こえる。

このような自らに不都合な判決内容はことさらに無視して、あたかも都教委の暴走を最高裁が容認したかのごとく描き出す、その破廉恥な態度も不愉快極まる。もう一度、申し上げよう。東京都教育委員の諸氏よ、恥を知りたまえ。
(2013年6月28日)

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Published in 金曜日, 6月 28th, 2013, at 23:54, and filed under 未分類.

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