軍機保護法の悪夢
日本ジャーナリスト会議(JCJ)が、昨日(9月12日)付で「特定秘密保護法案に反対する声明」を発表している。全文は、http://jcj-daily.seesaa.net/でお読みいただきたい。
さわりは、以下の2パラグラフである。
「当然報道関係の取材が処罰対象にされかねず、報道の自由に大きな影響を与え、国民の知る権利が制約されることになる。」
「私たちは、戦前の政府と軍部が『軍機保護法』などで国民の目と耳をふさぐことによって、侵略戦争の道に突き進んでいった苦い経験を忘れるわけにいかない。安倍内閣が明文改憲だけでなく、法律を変えたり作ったりする中で、実質的に改憲の道を進めようとしている状況の下で、この特定秘密保護法の策動を許すわけにはいかない。」
そして、「国民の皆さんがこぞって、この法案への反対に立ち上がってくださることを改めて呼びかける」と結んでいる。
改めて、「軍機保護法」に目を通してみる。
1899(明治32)年7月の公布で、1937(昭和12)年に全部改正され、軍国主義を支える法律となった。ということは、がんじがらめに国民生活を規制した。全文21か条。最高刑は死刑。終戦直後に廃止されている。
軍機保護法第1条は、「本法ニ於テ軍事上ノ秘密ト称スルハ作戦、用兵、動員、出師其ノ他軍事上秘密ヲ要スル事項又ハ図書物件ヲ謂フ」。要するに、軍隊のすべてが軍事上の秘密である。1条2項「前項ノ事項又ハ図書物件ノ種類範囲ハ陸軍大臣又ハ海軍大臣命令ヲ以テ之ヲ定ム」。陸海軍大臣は何でも機密に指定することができる。
第2条が、「軍事上ノ秘密ヲ探知シ又ハ収集シタル者ハ六月以上十年以下ノ懲役ニ処ス」。これで、ジャーナリストは、一網打尽となる。まさしく、「国民の目と耳をふさぐことによって、侵略戦争の道に突き進んでいった苦い経験を忘れるわけにいかない」。
秘密保護に関する法律の恐ろしさの本質は、「何が秘密かは秘密」であることにある。何が刑罰に触れる行為であるのか、事前には分からない。この点、今回の秘密保護法もまったく同じ。当然に、処罰を恐れてメディアは萎縮する。国民の知る権利が、侵害される。権力には好都合なのだ。
この法律が、天気予報をなくした。港湾の写真撮影を禁止した。地震の被害の発表も許さなかった。空襲の被害についてもだ。
作家山中恒に、「暮らしの中の太平洋戦争」(岩波新書)という著作がある。この中に、防衛総司令部参謀陸軍中佐・大坪義勢なる人物の、空襲被害の「おしゃべり禁止」訓辞が引用されている。権力を握る者の情報秘匿に関するホンネを語ったものとして貴重な資料である。
「日本の国民が直さなければならないのは、お喋りを止めることです。何でもかんでも、真相をつかまずしゃべることはやめてもらいたい。真相を発表することが、よい悪いとの問題を抜きにして、絶対にお喋りはやめて欲しい。これが第一です。
次に何故(空襲被害に関する)真相を発表しないかという問題は、日本国民に対して大いに発表したいのですが、…日本でいわれたことは筒抜けです。だから、日本国民に対してもいえないのです。向こうとしては、知りたくてたまらないでいるわけですが、日本が真相をいわないので、ホトホト弱り抜いています。何とかわかれば、今度はこの手で行こうと、いろいろ新手を考えるのですが、日本が何ともいわないので、閉口頓首しているのがアメリカの状態です。将来何とか、国内にだけ知らせて、外国へ知らせないという方法をとりたいのですが、それは百年くらいしないと出来ないと思う(笑声)。現在は、日本人に知らすことは、全部外国へもれてもよいという心得でやらねばならないのです。
外人にもれることを覚悟していなければいえない。空襲の真相は、更になお効果的な空襲をお願いしますと、相手に頼む場合にのみ、発表すべきです。だから、真相は発表すべからざるもの、従って国民は絶対に想像でものをいわないこと、黙って政府のやり方について行くことにしたい。」
古来、為政者の本音は、「民は由らしむべし。知らしむべからず」である。論語の原義は正しくは「可(べし)」を可能の意味に読むのだそうだが、それでは面白くも可笑しくもない。当為の意味に読んで初めて気の利いた警句になる。
今も昔も、東も西も、国家から小グループまで、情報を握る者が権力を握る。権力のあるところに情報が集中し、情報のコントロールによって権力は自らを維持し肥大化させる。
「空襲の被害を受けた国民が、被害の規模を知る必要はない。つべこべ被害状況などおしゃべりしてはならない。黙って政府のやり方について来い」。これが為政者の本音である。
9月3日に公表された、「特定秘密の保護に関する法案の概要」の中に、〔知得〕という耳慣れない用語が出てくる。「特定秘密の提供を受けて合法的に『特定秘密を〔知得〕した者』が秘密を漏らせば懲役5年の刑を科す」とされており、「国会議員や関与した国会職員も処罰されます」(12日付赤旗解説)、というもの。この〔知得〕という用語は、軍機保護法の21か条の条文の中で5回繰り返されている「頻出用語」なのだ。
安倍晋三にとっては垂涎の「軍機保護法」。さすがに、そのままの形では法案化できない。できるだけ、これに近づけて、「由らしむべし、知らしむべからず」の法律を作りたいのだ。
私は、徹底してこれに抵抗したい。民主々義社会においては、行政情報は全国民の共有財産である。為政者に独占させてはならない。
ところで、昨日のブログで秘密保護法反対のパブコメをお願いしたところ、「さっそく、パブコメ送信しました」と連絡してくれた方、本当にありがとうございます。励まされます。ぜひ、さらに広めてください。
(2013年9月13日)