澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「桜・前夜祭収支疑惑」で、安倍晋三を第2次告発

(2020年12月21日)
「『桜を見る会』を追及する法律家の会」の結成が本年2月。その「会」が、本日(12月21日)安倍晋三前首相に対する第2次告発状を東京地検特捜部に提出した。

「会」は、安倍晋三による国政私物化の象徴としての『桜を見る会』を刑事的に追及することを目的とし、その前夜祭の収支における意図的なゴマカシを東京地検に告発している。本年5月21日に《安倍晋三》と《その後援会代表である公設第1秘書》、《会計責任者》の3名を、政治資金規正法違反(政治資金収支報告書不記載)と、公職選挙法違反(有権者に対する寄付)の被疑事実を告発した。これが、第1次告発である。

同日の告発状提出者は622人に及んだが、さらにその後の追加賛同者を得て、現在の第1次告発状提出者の人数は980人に達している。

国政を私物化し、政治倫理を崩壊させた安倍晋三の罪は重い。しかし、政治資金規正法違反や公職選挙法の寄付などの構造は、政治家安倍本人ではなく、秘書や会計責任者の責任を主たるものとして組み立てられている。だから、政治家安倍晋三は、「自分は何も知らない」「問題があるとすれば、秘書の責任」「あるいは、会計責任者だろう」と言って、逃れようとする。

報道によれば、「秘書だけ立件して略式で済ませ」「安倍晋三は不起訴処分」というのが、特捜の方針だという。それを、防止するための急遽の第2次告発である。

私の見解では、「第2次告発」のポイントは、晋和会代表者・安倍晋三の責任を政治資金規正法25条2項で問うところにこそある。

★ 安倍晋三の「知らぬ存ぜぬ」「秘書が…」は法25条2項については通じない。
★ 《会計責任者の法25条1項の罪が成立》≒《代表者安倍の同2項の罪も成立》
★ 安倍の25条2項の罰金刑が確定すれば、公民権停止となり、議員失職となる。
★ だから検察は、安倍に対する捜査を徹底しなければならない。

※報道によれば、「桜・前夜祭」の会場となったホテル側からの領収証の宛先は、安倍晋三の政治資金管理団体である「晋和会」であったという。つまりは、「補填資金」の出所は「晋和会」だったことになる。しかし、晋和会の政治資金収支報告書に前夜祭の収支についての記載はない。

※とすれば、まず、晋和会の会計責任者(西山)の不記載罪(法25条1項)が問われねばならない。これを免責する理由は見あたらない。
*25条1項「(政治団体の会計責任者が)政治資金収支報告書の提出をしなかつた場合に最高刑禁錮5年」

※同時に、晋和会の代表者である安倍晋三の刑事責任も免れない。
*25条2項「前項の場合において、政治団体の代表者(安倍晋三)が当該政治団体(晋和会)の会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠つたときは、50万円以下の罰金に処する」

つまり、安倍晋三が収支の不記載について「知らぬ、存ぜぬ」「秘書の責任」を押し通して、25条1項の罪責を会計責任者だけに押し付け、最高刑禁錮5年の罪責を免れたとしても、「会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠つたとき」には処罰され、罰金を科せられることになる。

※問題は、「会計責任者の《選任》及び《監督》について政治家に要求される相当の注意」の水準である。会計責任者の不記載罪が成立した場合には、当然に過失の存在が推定されなければならない。資金管理団体を主宰する政治家が自らの政治資金の正確な収支報告書の作成に、常に注意し責任をもつべきは当然だからである。

被告発人安倍において、十分な措置をとったにもかかわらず会計責任者の不記載を虚偽記載を防止できなかったという特殊な事情のない限り、会計責任者の犯罪成立があれば直ちにその選任監督の刑事責任も生じるものと考えるべきである。
とりわけ、被告発人安倍晋三は、当時内閣総理大臣として行政府のトップにあって、行政全般の法令遵守に責任をもつべき立場にあった。自らが代表を務める資金管理団体の法令遵守についても厳格な態度を貫くべき責任を負わねばならない。

※25条2項の法定刑は、最高罰金50万円に過ぎないが、被告発人安倍晋三が起訴されて有罪となり罰金刑が確定した場合には、政治資金規正法第28条第1項によって、その裁判確定の日から原則5年間公民権(公職選挙法に規定する選挙権及び被選挙権)を失う。その結果、安倍晋三は公職選挙法99条の規定に基づき、衆議院議員としての地位を失う。
*政治資金規正法第28条第1項「第23条から第26条の5まで及び前条第2項の罪を犯し罰金の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から5年間公職選挙法に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。」
*公職選挙法99条「当選人は、その選挙の期日後において被選挙権を有しなくなつたときは、当選を失う。」

※この結果は、法が当然に想定するところである。いかなる立場の政治家であろうとも、厳正な法の執行を甘受せざるを得ない。本件告発に、特別の政治的な配慮が絡んではならない。臆するところなく、検察は厳正な捜査を遂げるべきである。**************************************************************************

告  発  状 (第2次・抜粋) 

被告発人
住所 山ロ県下関市上田中町…
氏名 安倍晋三
職業 衆議院議員・晋和会代表者

住所 山ロ県下関市東大和町…
氏名 配川博之
職業 安倍晋三後援会代表者・同前会計責任者

住所 山口県下関市東大和町…
氏名 阿立豊彦
職業 安倍音三後後会会計責任者

住所 千代田区永田町 衆議院第一議員会館1212号室 晋和会事務所
氏名 西山 猛
職業 晋和会会計責任者

告発の趣旨

 被告発人安倍音三、被告発人配川博之、被告発人阿立豊彦及び被告発人西山猛の後記第1の1ないし5及び第2の1ないし5の所為は、刑法60条、政治資金規正法第25条1項2号、同法12条1項1号ホ及び同2号に該当する。
 被告発人安倍音三の後記第3の所為は、政治資金規正法第25条2項、同条1項、同法12条1項1号ホ及び同2号に該当する。
 被告発人安倍音三の後記第4の所為は、政治資金規E法第27条2項、同法25条1項、同法12条1項1号ホ及び同2号に該当する。
 被告発人安倍晋三及び被告発人配川博之の後記第5の1および2の所為は、刑法60条、公職選挙法249条の5第1項及び同法199条の5第1項に該当する。
よって、上記の被告発人らにつき、厳重な処罰を求め、告発する。

告発の事実

第1 (略)
第2 (略)
第3 被告発人安倍は、晋和会の代表者であるが、政治資金規正法第12条1項により山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、上記第2の3ないし5の所為について仮に故意がなかったとしても、晋和会の会計責任者である被告発人西山の選出及び監督につき相当の注意を怠った。

告発に至る経緯

 2020(令和2)年5月21日、法律家621人が、2018(平成30)年4月20日同催された「安倍音三後援会桜を見る会前夜祭」に関して、被告発人安倍、被告発人阿立及び被告発人配川を政治資金咀正法第25条1項2号(収支報告書不記載)の罪で、また被告発人安倍及び被告発人配川を公職選挙法249条の5第1項(寄附)の罪で東京地検に告発し、大きく報道された。その後も、同じ内容の告発は続き、告発人は現在、980人に達している(第1次告発)。
 しかるに東京地検特捜部は、いまだに上記告発人らに対し、捜査の進捗状況を明らかにしないばかりか、再三の問合せに対しても、告発を受理したかどうかすら、「捜査に関わることはお答えできない」などとして明らかにしない。極めて不当かつ不誠実な対応であり、強く抗議する。
 同年11月23日、読売新聞が、「『桜を見る会』の前夜祭を巡り、安倍氏らに対して政治資金規正法違反容疑などでの告発状が出されていた問題で、東京地検特捜部が安倍氏の公設第1秘書らから任意で事情聴取していた」、「前夜祭の飲食代などの総額は、参加者の会費だけでは不足していた」と報道したのを皮切りに、報道機関各社が独自取材に基づき、捜査内容を報道し始めた。
これまでの報道によれば、収支報告書不記載の罪で時効にかからない2015(平成27)年4月から2019(平成31)年4月まで5回開催された前夜祭において、参加者らから徴収する1人5000円の参加費ではホテルへの支払額に足りず、差額分を被告発人安倍の政治資金団体晋和会がホテルに対し現金で支払っていたとのことであり、毎年の参加費及び補填額も明らかにされている。ホテルからは晋和会宛ての領収証が発行されていたが、被告発人安倍側はこれら領収証を廃棄していたということである。
また、ホテル側はつねに前夜祭の明細書を作成し、後援会に渡していたということである。
被告発人安倍は、国会において、「会費はホテル側が設定した。安倍事務所の職員が会場入り口で会費を受け取り、その場でホテル側に現金を渡した」、「後援会に収入支出は一切なく、政治資金規正法への記載は必要ない」、「ホテルからの明細書も見積書もない」と再三答弁してきたが、こうした答弁が客観的に虚偽だったことが明白になった。
 現在、報道によれば、検察は、公設第1秘書及び事務担当者の収支報告書不記載につき政治資金規正法違反により略式起訴をして罰金刑とし、被告発人安倍については「事情聴取」の上、年内に不起訴処分とする予定であるとされている。
しかし、本件は、7年8か月にわたり内閣総理大臣の地位にあった披告発人安倍の後後会や資金管理団体が犯し続けてきた犯罪であり、しかも国会で虚偽答弁を重ね続けたこと、国会での追及後である2020(令和2)年5月に提出した2019(令和1)年分の収支報告書にもあえて収支を不記載としたことなど、悪質かつ重大な犯罪であり、決して秘書だけの処罰、略式請求により犯罪の全容が国民に公同されない処理で済ませるべき事業ではない。
また、捜査の過程で、後援会だけでなく、被告発人安倍が代表者となっている政治資金団体晋和会から資金が拠出されたことが明白になったにもかかわらず、晋和会の収支不記載についての被疑事実がいっこうに報道されないこと、第一次告発で指摘した後援会員らに対する寄附行為についても捜査が及んでいる様子がうかがわれないことも、不可解であり、問題である。
 私たちは、12月1日、東京地検特捜部に対し、徹底した捜査と真相解明を尽くし、略式起訴で終わらせず正式起訴をせよとの要請書を提出し、同月8田こは東京地検特技知に対し再度の要請書を提出するとともに、東京簡易裁判所裁判官に対し、仮に略式請求がなされても事案の重大陸に鑑み正式裁判をせよとの要請書を提出したが、東京地検特捜部はこれらの要請を受け止めることなく、年内に捜査の幕を引くことを公言している。
 そこで、私たちは、安易な事件終結を許さないため、このたび改めて、2015(平成27)年4月から2019(平成31)年4月まで5回開催された前夜祭に関する2016(平成28)年5月から2020(令和2)年5月まで5回提出された、後援会及び晋和会の収支報告書の不記載による政治資金規正法違反の犯罪と、2018(平成30)年4月および2019(平成31)年4月の前夜祭における後援会員らに対する寄附による公職選挙法違反の犯罪について、被告発人安倍らを告発するものである。
告発対象を過去5年内ないし3年内の行為に限定したのは、公訴時効の関係であって、これら犯罪は2013(平成25)年4月の第1回目の前夜祭から7年7回にわたって行われてきたことを重く受け止めるべきである。

告発事実のポイント

(略)
4 被告発人安倍の悪質性
一少なくとも2019(令和1)年分の収支報告書不記載には「故意」がある
前述のとおり、被告発人安倍は、国会において、「会費はホテル側が設定した。安倍事務所の職員が会場入りロで会費を受け取り、その場でホテル側に現金を渡した」、「後後会に収入支出は一切なく、政治資金規正法への記載は必要ない」、「ホテルからの明細書も見積書もない」などと再三答弁してきたが、こうした答弁が客観釣に虚偽だったことが明白になった。
被告発人安倍は、国会においても、また補填が明らかになった現在に至っても、「自分は知らなかった」、「秘書が自分に隠していた」として、秘書に責任を押し付け、自らに故意はなかったと供述して逃げ切ろうとしているようである。
しかしながら、そもそも「安倍事務所」の実質的代表者である被告発人安倍が、自らの政治団体の金の流れや収支報告書の内容について、「知らない」ことはあり得ない。
2013(平成25)年4月に初めて開催した前夜祭については、同年5月10日、晋和会が補填分82万9394円を株式会社パノラマ・ホテルズ・ワン(ANAインターコンチネンタルホテルの運用会社)宛てに支払い、2014(平成26)年5月に提出された晋和会の収支報告書には、上記支出を「会合費」として記載している。あえて契約主体である後援会ではなく晋和会が支出し、しかもわかりにくい「会合費」として記載したこと自体、補填を隠す意図が明白である。ところが、翌2015(平成27)年5月に提出した収支報告書以降ほ、支出を記載すること自体をやめている。これは、小渕優子衆議院議員の関連政治団体の収支報告書不記載が発覚し、同議員が閣僚辞任に追い込まれたことの影響ではないかと報道されている。こうした「安倍事務所」ぐるみの隠蔽工作について、被告発人安倍が全く知らなかったことがあり得るとは思われない。
少なくとも、「桜を見る会」や「前夜祭」が国会で厳しく追及された2019(令和1)年11月以降、被告発人安倍が、真実はどうなのかと改めて真剣に把握しないはずがない。被告発人安倍は、その上で、意図的に虚偽答弁を重ねて追及から逃げ切ろうとしてきたのであり、極めて悪質である。
確実に言えることは、2019(令和1)年分の収支報告書を作成提出した時期は、2020(令和2)年5月、つまり上記の国会での厳しい追及の後だったということである。新たに2019(令和1)年分の収支報告書を作成するにあたり、被告発人安倍は、収支の不記載が犯罪となることを明確に認識しており、2019(平成31)年4月の前夜祭での参加者から徴収した会費額やホテルの請求額を確認することは容易にできたにもかかわらず、あえて収支を記載しなかったのであって、このことは、被告発人安倍に明確な犯罪の「故意」があったことに他ならない。

 告発事実第3(会計責任者の選任監督につき相当の注意を怠った)
この罪は、第一次告発の対象とはしなかったものであるが、政治資金規正法第25条2項は、政治団体の会計責任者が収支報告書に収支を記載しなかった(同条1項)場合、「政治団体の代表者が当該政治団体の会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠ったときは、50万円以下の罰金に処する」と定めている。
被告発人安倍は、晋和会の代表者である。
万一、被告発人安倍に晋和会の収支報告書の不記載につき故意が認められなかった場合でも、政治資金団体である晋和会の会計責任者である披告発人西山の「選任及び監督について相当の注意を怠った」と言えるであろう。
晋和会の事務所は衆議院第1議員会館の被告発人安倍の事務所1212号室にあり、報道によれば、ホテル側は上記事務所に集金に行き、その部屋にある金庫から被告発人西山が補填分を現金で出金し、ホテル側こ手渡して領収証を受領したということである。被告発人安倍の本拠地である議員事務所に常駐する秘書が、政治資金を後後会の宴会の補填費用として出金し、通常であれば口座に記録を残すところを、あえて現金払いにして隠蔽工作を行っていたのである。百歩譲って、安倍が収支報告書不記載について「知らなかった」としても、このようなことをする人物を会計担当者として選任し、なおかつ監督を怠ったことにつき、被告発人安倍は責任を免れることはできない。
ちなみに被告発人西山は、2020(令和2)年2月4日、首相官邸付近の路上で、くわえ煙草で放尿し、麹町警察署に連行され始末書処分を受けている。

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