澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

ILOが日本政府に、「日の丸・君が代」強制の是正勧告

本日(3月30日)の東京新聞社会面に下記の記事。ILO(国際労働機関)が、日本政府に「教員に対して『日の丸・君が代』を強制せぬよう是正勧告を出した、という内容。いささかの感慨をもって読んだ。

「ILO、政府に是正勧告」というメインの見出し。これに、「『日の丸・君が代』教員らに強制」がやや小さい活字で、その前に並んでいる。ILOが日本政府に是正を勧告した内容が、「『日の丸・君が代』を教員らに強制していること」と読み取れる。

 学校現場での「日の丸掲揚、君が代斉唱」に従わない教職員らに対する懲戒処分を巡り、国際労働機関(ILO)が初めて是正を求める勧告を出したことが分かった。日本への通知は4月にも行われる見通し。勧告に強制力はないものの、掲揚斉唱に従わない教職員らを処分する教育行政への歯止めが期待される。

 ILO理事会は、独立系教職員組合「アイム89東京教育労働者組合」が行った申し立てを審査した、ILO・ユネスコ教職員勧告適用合同専門家委員会(セアート)の決定を認め、日本政府に対する勧告を採択。今月20日の承認を経て、文書が公表された。

 勧告は「愛国的な式典に関する規則に関して、教員団体と対話する機会を設ける。規則は国旗掲揚や国歌斉唱に参加したくない教員にも対応できるものとする」「消極的で混乱をもたらさない不服従の行為に対する懲罰を避ける目的で、懲戒の仕組みについて教員団体と対話する機会を設ける」「懲戒審査機関に教員の立場にある者をかかわらせる」ことなどと求めた。

 1989年の学習指導要領の改定で、入学式や卒業式での日の丸掲揚と君が代斉唱が義務付けられて以来、学校現場では混乱が続いていた。アイム89メンバーの元特別支援学校教諭渡辺厚子さんは「教員の思想良心の自由と教育の自由は保障されることを示した。国旗掲揚や国歌斉唱を強制する職務命令も否定された」と勧告を評価している。

 これまで教育方針や歴史教科書の扱いなどを巡る勧告の例はあったが、ILO駐日事務所の広報担当者は「『日の丸・君が代』のように内心の自由にかかわる勧告は初めてだ」と話している。

 実は、昨日(3月29日)、東京新聞記事に出て来る渡辺厚子さんから、下記の「個人声明」をいただいていた。

ILO/ユネスコ教職員勧告適用合同専門家委員会(CEART) 勧告

 国際労働機関(ILO)と国連教育科学文化機関(ユネスコ)の合同機関であるILO /ユネスコ教職員勧告適用合同専門家委員会(CEART)から、「日の丸・君が代」問題申し立てに対する報告・勧告が出され、2019 年3 月20 日付で公表されました。初めての勧告です。
 2014 年にアイム89東京教育労働者組合は、CEART に対し、10・23通達による卒業式および入学式における「日の丸・君が代」起立斉唱職務命令と教職員処分、そして卒業式・入学式の従来の実施内容変更と実施指針強制等の施策は、日本政府が1966年の教員の地位に関する勧告に違反しており、教員の地位勧告を遵守するようとの申し立てを行いました。
 この申し立ては2015年第12回セッションにおいて検討が開始され、CEART は、日本政府からの情報提供・回答を検討した結果、2018 年10 月1 日から5 日に開かれた第13回セッションにおいて報告・勧告を採択しました。そして3 月20 日、第335回ILO 理事会において、この報告書に留意し、報告書を公表することが承認されました。同時に本年6月に開かれるILO総会の基準適用委員会に討議資料として報告書を提出することが決定されました。
 勧告内容は、6項目に及びます。
? 式典における教職員の義務規則に関して、教員団体と対話し合意すること。規則は、国旗掲揚や国歌斉唱に参加したくない教職員にも対応できるものとすること。
? 懲戒の仕組みについて教員団体と対話する機会を持つこと。
? 懲戒審査機関に教員の立場にあるものを関わらせるよう検討すること。
? 現職教員研修(再発防止研修)を懲戒や懲罰の道具として利用しないよう見直し改めること。(カッコ内は主催者注)
? 障害を持った生徒や教員、障害生徒と関わるもののニーズに照らし、愛国的式典に関する要件を見直すこと。
? 上記勧告に関する諸努力について、その都度セアートに報告すること。
東京都では、10・23通達発出以後、「日の丸・君が代」起立斉唱職務命令に従わなかったとしてのべ483名が戒告、減給、停職処分されています。裁判所によって処分が取り消されても現職教員は同一案件で戒告再処分されています。
沈黙をしいられ、服従させられる子どもや教職員たちにとって、「日の丸・君が代」問題に関して初めて出されたセアート勧告は、大きな希望となります。
学習指導要領で縛り、教職員には市民的自由の保障はないとする政府・裁判所に対して、いかなる場合においても個人としての思想・良心の自由の権利は守られる、と明確に勧告した意義の大きさはあまりあります。また、ブラックボックスであった懲戒処分に関しても審査機関に当事者である教職員の意見が反映される手立てをとるよう勧告しました。加えて「日の丸・君が代」処分後に、必ず懲罰的に行われる再発防止研修についても明確に否定しました。
10・23通達以来、障がい児学校において、例外なく高いステージ使用が義務付けられ、それまでバリアーフリーのフロアーで自力で動いていた子ども達が、高い壇に阻まれて動けなくさせられてきた現実など、障害のある子ども達の実情をしっかり把握し、子どものニーズにあった卒業式・入学式をするよう勧告されたことは本当に意義深いことです
日本の教職員・教育にとって希望を沸き立たせるこの勧告は、日本にとどまらず、世界のあちこちで苦悩し呻吟する教職員達にも、権利擁護と教育の質の向上にむけ、大きな勇気を与えるものです。
子ども達自身のためにあるべき教育が、安倍政権によって、戦前教育へと引き戻されつつある今、今回勝ち取った勧告は、大きな意味があります。この勧告を生かしていく努力を重ね、どの子ものびのびと息をしていける教育、多文化共生の学校を作っていくために、共に闘っていきましょう。
   2019 年3 月29 日
 アイム89東京教育労働者組合元組合員
 元特別支援学校教員
 「良心・表現の自由を!」声をあげる市民の会
   渡 辺 厚 子

これで、事情はよくお分かりいただけたことだろう。日本の最高裁が容認した日本独自のローカルルールが、グローバルスタンダードに照らして批判を受け、是正を勧告されているのだ。

但し、当面直接に批判されているのは、国ではなく自治体である。とりわけ、東京と大阪が突出している。東京都・大阪府の教育委員諸君には、虚心に考え直していただきたい。あなた方が主導している、教員への国旗・国歌(日の丸・君が代)への敬意表明強制は、国連の機関から反省を迫られているのだ。

ところで、ILO(国際労働機関)は国連の専門機関ではあるが、その前身は「1919年に、ベルサイユ条約によって国際連盟と共に誕生しました」というから国連よりもはるかに古い。今年が創設100周年である。1944年、「フィラデルフィア宣言」と呼ばれる憲章を作成し、これが今もILOの憲章として生きている。その「国際労働機関憲章」前文の中に、次の文章を読みとることができる。

「世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができる」「いずれかの国が人道的な労働条件を採用しないことは、自国における労働条件の改善を希望する他の国の障害となる」「締約国は、正義及び人道の感情と世界の恒久平和を確保する希望とに促されて、且つ、この前文に掲げた目的を達成するために、次の国際労働機関憲章に同意する。」

我が国が、野蛮極まる國体を護持するために絶望的な兵員の生命を消耗する戦闘を続けていた1944年当時に、文明世界は、かくも格調高い理念を掲げていたわけだ。今の課題に引きつけて翻訳してみたらこうであろうか。

「日本という国が、教員に対して、国旗・国歌(日の丸・君が代)への敬意表明という非人道的な労働条件を押し付けていることは、他の国の人道的な労働条件の改善の障害となる」「この労働条件改善の障害が蔓延すれば、大きな社会不安を起こす不正、困苦及び窮乏を多数の人民にもたらす」「そのことは、とりもなおさず世界の平和及び国際協調が危くされることにほかならない」
(2019年3月30日)

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Published in 土曜日, 3月 30th, 2019, at 22:51, and filed under 日の丸君が代.

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