澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

原発事故地元被害者の「東電への感謝」

もうすぐ、あの驚愕と痛恨の日から3年になる。3・11は、自然災害としての震災・津波と、人災としての原発事故被害の両者について、真剣に向かいあうべき日となった。人類がその体験を積み重ねることによって進歩できる存在だとしたら、この深刻な体験から我々は何を学ぶべきだろうか。

各紙がそれぞれに考える材料を提供してくれている。本日(3月9日)の毎日朝刊の1面と4面に、「ストーリー 原発に裏切られた町?この怒り、どこへ誰へ」という渾身のルポがある。長文だが、このような記事こそジャーナリズムの本領だろう。袴田貴行記者の労作。

ルポは、福島県双葉郡大熊町の鈴木幸夫さん(88)を追う。先月26日、避難先の会津若松から帰還困難区域にある自宅に一時帰宅してみると、盗難に遭って家中が荒らされ、野生動物が侵入したのか床はふん尿だらけの惨めさ。

鈴木さんは、「こんちくしょう、こんちくしょう」と呟く。なぜこんなことになったのか、誰が悪いのか、どこへ怒りを向ければいいのか、分からない。やりきれなさが丸めた背中からにじんだ、と描写されている。

鈴木さんは、町議会議長の経験もある地元の重鎮として原発推進の旗振り役を務めた人。東電が2008年に発行した福島第1原発の記念誌には、鈴木さんが原発事故を懸念する人たちに「車の事故の方が心配が大きい」と言って不安を打ち消した逸話が紹介されている。

その鈴木さんが、古里を追われる原因を作った原発や東電への憎しみはないという。「東電には今でも感謝している。事故の復旧は彼らにしかできない。力を尽くしてほしい」とも。

大熊に豊かさをもたらしてくれた東電への感謝の思い。子と孫計5人が東電や関連会社に就職してもいる。大いに実利をもたらした原発であった。

ルポは次のように記している。
「福島のチベット」−−。昭和30年代、農業以外にめぼしい産業がなく、高度経済成長から取り残された双葉郡はそう呼ばれていた。大熊町は54(昭和29)年に大野村と熊町村が合併して生まれたが、慢性的な財政難で職員の給料さえ遅配することがあった。
だが、原発誘致により76年には地方交付税不交付団体となった。企業の進出で税収が伸びただけでなく、原発立地自治体などには施設の設置や稼働を促進するため国から「電源3法交付金」が支給された。74〜12年度に町が受け取ったのは計212億円で、原発事故のあった10年度には町の歳入の2割強を占めた。同年度の町の財政力指数(自治体の財政力を示し、「1」を上回るほど自立度が高い)は1・39で、福島県内でダントツの1位だった。

「出稼ぎがなくなり、家族と一緒に暮らせるようになって幸せ」がもたらされたのだ。

記者は、最後に原発推進の旗を振ってきた鈴木さんの今の気持ちを確かめる。「過去の判断に悔いはないのか」と。鈴木さんは「後悔はない」ときっぱり答える。「原発でもなかったら、大熊は寂しい町で終わっていたよ」

原発建設の地元では、原発誘致による地域振興を求めざるを得ない現実があった。これだけ深刻な事故が生じて自らの故郷が失われてなお、「東電には今でも感謝している」という現実の重さ。これまで東電と原発を抜きにして地域振興策はなく、これからも東電抜きの復旧の構想を描くことができないのだ。このような人々の民意に支えられて、原発が建設され維持されてきた。けっして、「押し付けられた」「欺されていた」ということではない。

今回の都議戦に関してノーマフィールドさんが言った「「いのち」よりも「生活」の選択」、という言葉を思い出す。本当は命が大切なのだ。世代をつなぐ命の安全を第一選択として、「脱原発こそ最重要の課題」と言わねばならない。しかし、そのような悠長なことは言っておられない。それよりも、現実の「生活」の課題を何とかしてもらわねばならない。脱原発の課題の重要性に目をつぶっても、雇傭や福祉や子育てや、そのほかの緊急の課題の充実が多くの人から求められる。それを責めることはできない。原発と生活とが緊密に結びついている福島の地元ではもっと深刻だ。「生活優先」は、「脱原発を最重要課題とはしない」レベルではない。親原発、親東電と言わざるを得ないのだ。

戦争もよく似ている。「いのち」と「生活」を分離したうえでの生活優先の選択が戦争遂行の推力となる。植民地政策、軍需景気、軍需産業による雇傭の創出、戦争推進派の羽振りのよさ、職業軍人としての誇りや生き甲斐…。戦争は、「実利」と結びついていた。少なからぬ人々の「民意」に支えられてこそ戦争は遂行された。けっして、国民が天皇や政治家に「押し付けられた」、「欺されていた」からだけではない。だから、あれだけの惨禍のあとでも、戦争の旗を振った人々が、本心から戦争を反省したわけではないのだ。同じ状況では、同じ歴史が繰り返されるだろう。

15年戦争の日本人犠牲者は310万人。戦没皇軍兵士の遺族には、莫大な軍人恩給が振る舞われた。これも、戦争と結びついた「実利」。同時に戦争批判の口封じの側面も見なければならない。

同じ「毎日」の「今週の本棚」欄に、安岡章太郎の「歴史の温もり」が紹介されている。評を書いたのは井波律子さん。辛うじて戦争を生きのびた安岡はこう言っているそうだ。
「平和は、一人一人が辛抱づよく戦争に反対し、心底から平和を守ろうとする以外に守りようがないというのは、一見タヨリないようだが真実の言葉であろう」

たしかにそうだと深く頷かされる。しかし、もう一方で、戦争に実利を見出す構造の克服こそが大切なのだという思いもつよい。植民地政策や、軍需景気、軍需産業に頼らない、庶民生活の豊かさの底上げが重要だ。格差の拡大、貧困の蔓延は戦争への実利と、それゆえの戦争支持の民意の基盤となるだろう。

原発についてもことは同じではないか。豊かさの不平等の克服が必要だ。格差の縮小、とりわけ地域間格差、産業間格差をなくしていく政策こそが、問題の解決につながるのだと思う。この格差がなくなれば、自然の豊かさに恵まれるだけ、地方に居住することがメリットになるだろう。自然とともに生きることこそ、人の理想であり、「いのち」を大切にすることなのだ。
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NHK籾井会長、百田・長谷川両経営委員の辞任・罷免を求める署名運動へのご協力のお願い

下記URLからどうぞ
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/post-3030-1.html
http://chn.ge/1eySG24
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    NHKに対する「安倍首相お友だち人事」への抗議を
☆抗議先は以下のとおり
 ※郵便の場合
  〒150-8001(住所記入不要)NHK放送センター ハートプラザ行
 ※電話の場合 0570?066?066(NHKふれあいセンター)
 ※ファクスの場合 03?5453?4000
 ※メールの場合 下記URLに送信書式のフォーマット
    http://www.nhk.or.jp/css/goiken/mail.html
☆抗議内容の大綱は
  *籾井勝人会長は即刻辞任せよ。
  *経営委員会は、籾井勝人会長を罷免せよ。
  *百田尚樹・長谷川三千子両経営委員は即時辞任せよ。
  *経営委員会は、百田尚樹・長谷川三千子両経営委員に辞任勧告せよ。
以上よろしくお願いします。
(2014年3月9日)

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Published in 日曜日, 3月 9th, 2014, at 23:55, and filed under 未分類.

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