秘密保護法案の秘密に迫ろう
今月3日に「概要」が公表された「秘密保護法」案(旧名は「秘密保全法」。フルネームは「特定秘密の保護に関する法律」)に対して、反対意見や声明が続々と発表されている。それぞれの立場からのもので、各団体や個人の個性がよく顕れており、民主々義はいまだ健在の感を強くしている。
私が目にした範囲だが、下記の4件を読むことで、問題点を網羅的に把握することができると思う。これで、秘密保護法の秘密に迫り、解き明かそう。そして、法案成立の阻止に力を貸していただきたい。
(1) 新聞労連機関紙・号外(2013/06/01)
http://nagoya.ombudsman.jp/himitsu/130601.pdf
(2) 日弁連・パブコメ意見(2013/09/12)
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2013/opinion_130912.pdf
(3) 自由法曹団・パブコメ意見(2013/09/17)
http://www.jlaf.jp/iken/2013/130917_01.pdf
(4) 日本ペンクラブ声明(2013/09/17)
http://www.japanpen.or.jp/statement/2013/post_442.html
(5) ついでに、私の訴え(2013/09/21)も挙げておこう。
上記(1)は、架空のニュース記事の形で、仮にこの法案がが成立したらこんなことになるという、記者の立ち場から警鐘を鳴らすもの。労働問題を追いかけていた記者が、取材の過程で「あたかも地雷を踏むがごとくに」秘密に触れて逮捕されるというリアリティに溢れた想定。逮捕にとどまらず、徹底した秘密の保持は、刑事弁護の活動にも支障を与えることになる。さすがにプロの技。読ませるし、考えさせられる。記者の立ち場からの問題提起だが、国民の知る権利を根こそぎ奪うということだ。新聞労連のホームページにアクセスしても、部外者にはこの記事に到達できないのがもったいない。
上記(2)は、A4・26頁のボリューム。最も体系的で詳細、法案がまとめられた経過もよく分かる。但し、日弁連意見という制約があって、政治的な背景事情や推進勢力の狙いなどについての叙述は薄い。反対理由の項目だけを確認しておきたい。
※ そもそも立法事実がない
(1) ボガチョンコフ事件によっても立法事実があるとはいえない
(2) 内閣情報調査室職員による情報漏洩事件から立法事実があるとはいえない
(3) 尖閣沖漁船衝突事件にかかる情報漏えい事案から立法事実があるとはいえない
(4) 国際テロ対策に係るデータのインターネット上の掲出事案からも立法事実があるとはいえない
※ 「特定秘密」の範囲が広範で定義が不明確である
(1) 「特定秘密」の範囲が広範にすぎる
(2) 「防衛」秘密の範囲が広範不明確である
(3) 「外交」情報が広範不明確である
(4) 「外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止」に関する情報が広範不明確である
(5) 「テロ防止活動」に関する情報が広範不明確である
(6) 特定秘密の「表示」は限定と無関係であること
※ 人的管理について
(1) 適性評価制度についての立法事実の欠如と内容が不明である
(2) プライバシー権等が侵害される
(3) 差別的取扱いの危険がある
(4) 適正手続の保障が危ぶまれる
※ 罰則について
(1) 過失による漏えい行為処罰の不当性
(2) 未遂犯処罰の不当性
(3) 共謀行為・教唆及び煽動の不当性
(4) 特定秘密の取得行為の処罰が取材行為等を委縮させる
(5) 法定刑が重すぎる
(6) 曖昧で広範囲な処罰規定の目指すところ
※ 国会及び国会議員との関係
※ 裁判を受ける権利と秘密保全法制
※ 特定秘密保護に関する法律が憲法の保障する人権を侵害する
(1) 秘密保全法制が国民主権と矛盾する
(2) 違法秘密と擬似秘密まで保護されてしまう
※ いま必要なことは情報公開の推進である
上記(3)は、日弁連のような制約をもたない「戦う弁護士」集団の忌憚のない見解。この法案を単独でとらえることはせず、改憲・国家安全保障基本法・国家安全保障会議設置関連法の制定などと一体のものとして把握し、「日本の軍事・警察・治安国家化を目指すものである」という視点からの徹底した批判。
*国政に関するあらゆる重要情報を国民の目から隠蔽する目的
*秘密の範囲が広汎かつ不明確であること
*処罰の範囲が不当に広汎でありかつ法定刑が重すぎること
*立法権・司法権を侵害し、三権分立に反すること
*国民の憲法上の諸権利を侵害し、国のあり方を変質させる
上記(4)は、コンパクトによくまとまっている。キーワードは、権力から表現者に対する「威嚇効果」と、表現者の「萎縮効果」である。
項目を拾ってみると、
1.「特定秘密」に指定できる情報の範囲が過度に広範である
2. 市民の知る権利、取材・報道の自由が侵害される
3. 行政情報の情報公開の流れに逆行する
4.「適正評価制度」はプライバシー侵害である
5. このような法律を新たに作る理由(立法事実)がない
以上のとおり、秘密保護法は、国民主権原理・基本的人権・恒久平和主義に鋭く対立する。以上に挙げた各項目でほぼ問題点は尽きていると思われる。敢えて1点つけ加えるならば、この秘密保全法は戦争準備法として、軍拡と同じ効果をもつ。近隣諸国に、平和や緊張緩和のシグナルではなく、威嚇と警戒のシグナルを送ることになる。
この法律の制定が、「我々は、防衛秘密を厳重に取り締まることにする。近隣諸国のスパイ活動の危険に厳正に対処する」という宣言にほかならない。近隣諸国に対する挑発となり緊張関係をつくり出す。
そのような観点からも、反対をしたい。
(2013年9月25日)