「特定秘密保護法 その危険性」についての街頭の訴え
マリオン前をご通行中の皆様、しばらく耳をお貸しください。私は、人権擁護に携わる弁護士として、これから安倍内閣が国会に上程しようとしている法律の危険性について訴えます。その法律の名前は、特定秘密保護法案と言います。
私たちは、政府や行政がいったい何をしているのか、何をしようとしているのか。よく知りたいし、知らねばならないと考えます。
たとえば、原発について。
どうして原発がつくられのか。原発の技術と核兵器開発との関係はどう考えられてきたのか。誰がどのように安全神話を拵え、火力発電や水力発電よりも安価だという計算をしたのか。どうして事故が起こり、今どうなっているのか。汚染水は、本当にコントロールされ、ブロックされているのか。
たとえばTPPについて。
その交渉はいったいどうなっているのか。政府がどんなところを着地点と考えているのか。その結果、消費者や、生産者や、労働者に、どのような影響があるのか。
たとえばオスプレイについて。
どうして安全といえるのか。沖縄での訓練の計画はどうなっているのか。本土ではどこを訓練基地にして、いつどんなルートで飛行するのか。その騒音はどの程度ものとされているのか。
また、たとえば、東京から50キロの距離にある横須賀の原子炉について。
原子力空母ジョージ・ワシントンに積んである60万キロワットの原子炉2基の安全性はいったい誰がどのようにして確認しているのか。あの空母に核兵器は登載されていないのか。大地震大津波で、核は東京湾を汚染することにならないのか。
私たちは、主権者として、自分たちの国の方針に責任をもたなければなりません。そのためには、これらの大事なことを知らねばなりません。そうでなくては政治に参加することができません。国の政策にイエスかノーかの判断をすることもできません。国民には主権者として、国政の基礎となる情報について知る権利があります。行政の透明性と情報公開こそが大原則。政府を秘密の壁で守ることは、国民の知る権利を侵害し、民主々義をないがしろにすることです。
戦前は、国民の「知る権利」などありませんでした。政府や軍部は、国民に対して、知らせたいことだけを知らせ、知られたくないことは、機密・秘密としました。その秘密は、国防保安法、軍機保護法、陸軍刑法・海軍刑法などでバッチリ守られていました。その漏洩は最高刑として死刑の威嚇をもって禁圧されたのです。
ですから、戦時中は天気予報はありませんでした。気象情報は敵国に洩れてはならない軍事秘密だったからです。台風情報も台風による被害も秘密でした。地震が起きて大きな被害が起きたことも秘密でした。もちろん空襲の被害も秘密、太平洋の各地で戦況が不利なことも重大な秘密でした。国民には、大本営発表の嘘の情報しか与えられず、国民生活よりも政府の都合が優先されました。
もし、正確な戦況について、あるいは空襲被害の正確な情報が、国民に知らされていたら、無謀な戦争はもっと早く終わることができたでしょう。東京大空襲の10万の死者も、沖縄・広島・長崎の悲劇も救えたはずです。
しかし、政府は国民に真実を知らせたら、戦争を続けることができなくなると考えました。国民には政府が必要と考える情報だけを知らせればよい、それ以上に国民に真実を知らせることは有害だ。政府にとって不都合なことを国民に知らせることは犯罪として許さない。これが、秘密保護制度の基本の思想です。国民を操作するのに、こんなに便利な道具はない。国民の側から見ればこんなに危険なものはありません。
今また、「夢よもう一度」と、戦前と同じような秘密保護の法律が作られようとしています。それが、安倍内閣が10月の臨時国会に上程する予定の特定秘密保護法案。これが成立するようなことになればどうなるでしょうか。
思い出してください。1972年の沖縄返還の際には、表向きは核抜き本土並み、非核3原則が沖縄にも適用されるはずでした。しかしこれには、日米の間に核つき返還の密約があったのです。これは、最高の外交秘密であり、軍事秘密でもありました。
その密約の存在は、当時から噂されていました。気骨あるジャーナリストであれば、関係者に取材を試みるでしょう。有能で誠実なジャーナリストであれば、口を割らない当局者に、何度も執拗に、真実を語るよう要請し説得することでしょう。特定秘密保護法では、これが秘密保持者の特定秘密漏示を唆したという、教唆罪になります。普通は、教唆は唆された本犯の罪が成立しなければ教唆は未遂となって処罰されません。ところが、この恐ろしい法律は、たとえ秘密の取材が不成功に終わっても、教唆の未遂罪が罰せられるのです。最高刑は懲役10年。政府にとってはなんと都合のよい、国民と民主々義にとっては、なんと恐るべき法律ではありませんか。
そもそも安倍内閣が目指しているものは憲法改正です。改正の眼目は9条にあります。安倍晋三という人は、そして安倍を支える今の自民党内閣は、戦争を絶対に禁止した憲法9条の平和主義が大嫌いなのです。その改正をしたいけれども、憲法改正は難しい。それなら、憲法改正せずに、解釈を変更したり、憲法9条を空洞化してしまうような法律を作ってしまえ。幸いに、選挙では大勝して数の力で押し切ることができそうだ。これが、安倍内閣の考え方。そのような、9条無力化の法律の第1弾が、この秘密保護法なのです。
この法律で秘密として保護の対象になるのは、「我が国の安全保障に関する事項のうち特に秘匿することが必要なもの」です。それを?防衛、?外交、?スパイ活動防止、?テロ活動防止、の4分野について、行政機関の長が、「特定秘密」として指定し、その秘密を漏らしたり、不正に入手したものに重罰(最高刑懲役10年)を科すという内容です。
当然その中心は、軍事秘密の保護にあります。憲法9条を空洞化するとは戦争ができる国をつくるということ。同盟国であるアメリカの要請あれば、地球の裏側までも行って、ともに戦うことができる国にしておきたいということです。そのためには、軍事機密の保護が必要です。これはアメリカからの強い要請でもありますが、戦争をするためには軍事機密を保護する法律が必要なのです。
私は、弁護士として、「日の丸・君が代」強制に抵抗する裁判をこの10年続けています。石原慎太郎や猪瀬直樹の教育行政は、戦前の国家主義を思わせるものがありますが、特定秘密保護法が成立すれば、国家主義を通り越して、軍国主義の第一歩へと踏み出すものと考えざるを得ません。
「日の丸・君が代」強制反対の裁判の中で、良心的な教師の皆さんが、口を揃えて言います。「戦前、戦争は学校から始まった」。彼らは、再び子どもを戦場に送るような教育をしてはならないと決意しています。あるいは、「戦争は秘密から始まる」と言うこともできます。国民の知る権利の侵害から、軍国主義や現実の戦争が始まることも十分にあり得るのです。
皆さん、私たちと一緒に、是非この危険な法案の国会上程に反対の声を上げてください。国会上程される様なことがあれば、法案の成立に反対してください。平和な日本を守るために。心から訴えます。
(2013年9月21日)