リベラル・ノンリベラル・アンチリベラル ー各紙社説の分類
各紙が各様に、特定秘密保護法案の行方について、社説に見解を述べている。
赤旗は別格として、「毎日」が量・質ともに群を抜いている。同紙は、既に「特定秘密保護法反対宣言紙」である。法案が衆院に上程された10月25日以後の社説は10本。うち9本が「秘密保護法案を問う」と標題を付したシリーズもの。法案の問題点をあらゆる角度から徹底して解き明かそうという気迫が感じられる。社説だけではない。解説記事にも、「余録」にも、編集長のコメント欄にも、また投書にも、特定秘密保護法反対の気概が横溢している。廃案を求める姿勢に揺るぎなく、「権力には一歩も引いてはならない」とするジャーナリスト魂に脱帽するしかない。
10月26日 秘密保護法案 国会は危険な本質見よ
11月 5日 秘密保護法案を問う 国民の知る権利
11月 6日 秘密保護法案を問う 国の情報公開
11月 7日 秘密保護法案を問う 国政調査権
11月 8日 秘密保護法案を問う 重ねて廃案を求める
11月10日 秘密保護法案を問う テロ・スパイ捜査
11月12日 秘密保護法案を問う 歴史研究
11月13日 秘密保護法案を問う 強まる反対世論
11月14日 秘密保護法案を問う 野党 成立阻止が目指す道
11月15日 秘密保護法案を問う 報道の自由
毎日に比較すればもの足りないところが残るとは言え、朝日も、法案反対の姿勢を貫いている。
10月26日 特定秘密保護―この法案に反対する
10月30日 秘密保護法案―首相動静も■■■か?
10月31日 情報を守る―盗聴国家の言いなりか
11月 6日 秘密保護法案―社会を萎縮させる気か
11月 8日 特定秘密保護法案―市民の自由をむしばむ
11月12日 秘密保護法案―極秘が支えた安全神話
11月16日 特定秘密保護法案―成立ありきの粗雑審議
11月16日 特定秘密保護法案―身近な情報にも影
そして、本日の朝日2面「日曜に想う」に、星浩特別編集委員の「秘密保護法案 あの頃の自民なら」という「準社説」。「あの頃」というのは、1985年に自民党が「スパイ防止法案」提案した頃のこと。自民党内の戦争体験世代のバランス感覚があの法案を廃案にした、という文脈。具体的に挙げられている議員の名は、宮下創平・梶山静六・野中広務・加藤紘一・河野洋平の諸氏。いま自民党中枢にその諸氏あらば、「こんな法案が提出されることはなかったのではないか」「この法案は政権政党としての自民党の劣化を映し出している」と結ばれている。
次いで、「東京」である。そのリベラルな姿勢の印象に比して、社説の本数は意外に少ない。しかし、社説の内容はきっぱりと廃案を求めるものとなっている。
10月23日 「戦前を取り戻す」のか 特定秘密保護法案
10月31日 日本版NSC 秘密保護法を切り離せ
11月 8日 特定秘密保護法案 議員の良識で廃案へ
以上のリベラル3紙だけでなく、ノンリベラル紙も瞥見してみよう。
まずは、日経。最近1か月の関連社説は下記の2本。
10月20日 秘密保護法案はさらに見直しが必要
11月16日 疑念消えぬ秘密保護法案に賛成できない
意外に内容は悪くない。「安全保障にかかわる機密の漏洩を防ぐ枠組みが必要なことは理解できる。だがこの法案は依然として、国民の知る権利を損ないかねない問題を抱えたままだ。これまでの国会審議では、疑念がむしろ深まった印象さえある。このままの形で法案を成立させることには賛成できない。徹底した見直しが必要である」「法案が成立すると、国政調査権や国会議員の活動を制約するおそれもある。三権分立の根幹にかかわるこうした議論も深まっていない。このまま拙速に成立を急げば、将来に禍根を残すだろう」とけっして政府・与党に与するものではない。が、なんとなく他人事についての通り一遍の記述。自社のジャーナリストとしての使命に関わるものという真剣味が感じられない。自社は弾圧対象にはなく、「安全圏」にあるという意識ではなかろうか。
さて、問題の「読売」である。関連社説は本日分を入れて3本。
10月24日 秘密保護法案 国会はどう機密を共有するか
11月 8日 秘密保護法案 後世の検証が可能な仕組みに
11月17日 秘密保護法案 将来の「原則公開」軸に修正を
秘密保護の法律は必要との立ち場。そのうえで、与野党の修正協議を促す基本路線。
「安全保障戦略の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)の機能を充実させる上で、欠かせない法整備だ。国民から疑念を抱かれぬよう、与野党は議論を尽くし、合意点を探ってもらいたい」「与党時代に同様の法制を検討した民主党も、修正協議に参加すべきだろう」という。
しかし、その読売でさえ、「政府が特定秘密の対象を際限なく拡大し、都合の悪い情報を秘匿しかねないとの懸念は根強い」「半永久的に情報が秘匿されるといった批判もある」と問題点を認めている。そこで、「重要なのは、一定期間後に特定秘密情報を『原則公開』すると明示することではないか。後日あるいは遠い将来でも、公開するとなれば、政府の恣意的な指定に歯止めをかける効果が期待できる」と提案する。また、「仮に、捜査当局の判断で報道機関に捜査が及ぶような事態になれば、取材・報道の自由に重大な影響が出ることは避けられない。ここは譲れない一線だ」とも言わざるを得ない。
この「戦前取り戻し法」の成立に手を貸せば、いかに「政権寄り」姿勢を標榜するノンリベラル紙といえども、我が身の不幸に帰結することを覚悟しなければならない。
最後は、アンチリベラル紙「産経」である。およそジャーナリズムとは無縁の存在として無視してもよいのだが、少しだけ言及しておきたい。関連社説は次の1本だけ。
10月24日 秘密保護法案 国会はどう機密を共有するか
もちろん、政権ベッタリ新聞の面目躍如に「今国会での成立を図ってほしい」という基調。それでも、「政府が恣意(しい)的な解釈、拡大解釈を行う懸念は残る。特定秘密を扱う公務員が取材に対して萎縮し、結果として情報隠しとなる恐れもある」「制度の運用に当たって政府には、『国民の知る権利』を担保する『取材・報道の自由』への十分な配慮を強く求めたい」とは言うのである。
特定秘密保護法案については、強く廃案を求めるリベラル派と、法案の修正協議によって妥協の道を探れとするノンリベラル派、そして、「今国会での成立を求める」とするアンチリベラル派に分かれる。説得力においてリベラル派が圧倒しているが、法案審議の帰趨は予断を許さない。
なお、ノンリベラル・アンチリベラルの両派といえども、リベラル派が指摘する法案の問題点・危険性は認めざるを得ない。そして、この法案の成立を急がなければならないとする根拠を提示する論調はない。産経といえども「今国会成立」とは一応は言いながらも早期成立を必要とする理由は一言も述べてはいない。十分な審議を要求することは、圧倒的多数の国民の声である。政府も自・公も、この声に背を向けてはならない。