夫婦別姓訴訟での判決姿勢が分けた最高裁裁判官国民審査の結果
(2021年11月7日)
思えば、先週の日曜日が総選挙の投開票日。あれから1週間だが、遠い日の出来事のようでもあり、昨日のことのようでもある。期待と現実の落差が大きく、まだしばらくは元の気分になれない。
同じ日に、最高裁裁判官の国民審査。こちらは、それなりの手応え。中央選管の広報も、各紙の報道も、それなりのものではあったが、さて誰に「×」を付けるべきか、実は参考にならない。
日民協プロジェクトチームの国民審査リーフレットが、「この裁判官に、こういう理由で「×」を」と明示しての訴えたことが好評だった。
一応の総括案が提示されたのでご紹介したい。
2021 国民審査の結果について
第1 不信任の数が多い順 (左の数字は、記入用紙を右から見た並び順です)
1)深山卓也(67)=裁判官出身 4490554 票(7.85%)
5)林道晴(64)=裁判官出身 4415123 票(7.72%)
6)岡村和美(63)=行政官出身 4169205 票(7.29%)
11)長嶺安政(67)=行政官出身 4157731 票(7.27%)
3)宇賀克也(66)=学者出身 3936444 票(6.88%)
8)草野耕一(66)=弁護士出身 3846600 票(6.73%)
7)三浦守(65)=検察官出身 3838385 票(6.71%)
2)岡正晶(65)=弁護士出身 3570697 票(6.24%)
4)堺徹(63)=検察官出身 3565907 票(6.24%)
9)渡辺恵理子(62)=弁護士出身 3495810 票(6.11%)
10)安浪亮介(64)=裁判官出身 3411965 票(5.97%)
第2 「夫婦別姓」が争点化された
上記の審査対象の裁判官は、いずれも不信任とはなっていませんが、下記の新聞報道のとおり、また西川伸一先生のご指摘のとおり、夫婦別姓訴訟で何の悩みもなく「合憲」とした 4 人の判事のみが7%を超えています。
また、具体的な裁判への関与がない岡、堺、渡辺、安浪の各氏は下位4人に入っています。
「夫婦別姓訴訟」について大きな争点を作り上げたという意味では、私たちの活動も大きな役割を果たしたと言ってよいと思います。
第3 各社報道(抜粋)
朝日 7%を超えたのは、6 月の最高裁決定で夫婦別姓を認めない民法規定を合憲とする多数意見に加わった深山氏、林道晴氏、岡村和美氏、長嶺安政氏の 4 人(以下、敬称略)だった。
毎日 夫婦別姓を認めない民法の規定を「合憲」と判断した 4 人の裁判官の罷免を求める率が、他の7 人の裁判官と比べて 2 ポイント前後高かった。特定のテーマで罷免を求める率に突出した差が出るのは異例。
東京 不信任率が最も高かったのは、深山卓也氏の7.9%。「夫婦別姓」を認めない現行の民法と戸籍法の規定について「合憲」と判断した4人の罷免を求める率が、他の7 人と比べて高い傾向となった。
NHK 西川教授は「対象となった11人のうち、罷免を求める割合が7%を超えた 4人はいずれも夫婦別姓をめぐる判断で『民法の規定は憲法に違反しない』という結論に賛同していた。一方、6%台やそれ未満の7人は『憲法違反』と判断、または当時、就任していなかった。夫婦の名字をめぐる議論は身近なテーマで、選挙の争点の1つにもなっていて、1%の差が生じたのは決して偶然ではなく、それぞれの裁判官の判断が投票行動に影響した可能性が高いと考えられる」としています。
そのうえで「裁判官の判断に対して、国民が意思を示したのだとすれば、国民審査の意義に沿うもので歓迎すべきことだ。一方、今回は、就任したばかりで最高裁での仕事ぶりが十分に分からない裁判官が4 人も審査の対象となるなど、制度の課題は多い。国民審査を、より質の高い制度にするための議論が必要だ」と指摘しています(NHK)。
第4 若干の分析
1 夫婦別姓「明確合憲4人組」とその他の比較
夫婦別姓「明確合憲4人組」(深山、林、岡村、長嶺)の罷免可の平均は、7.53%。一方で、その余の判事7名の罷免可の平均は、6.41%。両者は、1.17 倍の差があります。かなり有意な数字だと思います。
特に、他でも悪い判決を出している深山・林は、岡村・長嶺に比べても、罷免可の率は、高いといえます。
2 最上位と最下位の比較など
また、最上位の深山と最下位の安浪の差は、1.31 倍にも達します。
3 2017 年は、夫婦別姓が争点化しにくかった
2017 年国民投票(審査は 7 名)では、夫婦別姓については、判断材料にはならなかったようです。というのも、合憲判断(2015 年)に加わった小池、大谷(その他の 5 人は関与なし)については、小池は確かに最上位ですが、大谷は 7 人中 4 位です。
このときは、違憲判断を下した 5 名の判事が既に退官していたことから、「対比」の打ち出しができませんでした。
4 過去 5 回分の最上位と最下位の比較
2017年国民投票(審査は7名)では、最上位と最下位の差は、1.15倍です(8.56%と7.47%)。
2014 年国民投票(審査は 5 名)では、1.14 倍(9.57%と 8.42%)。
2012 年国民投票(審査は 10 名)では、1.10 倍(8.56%と 7.79%)。
2009 年国民審査(審査は 9 名)では、1.29 倍(7.73%と 6.00%)。
2005 年国民審査(審査は 6 名)では、1.05 倍(8.02%と 7.63%)。
今回は、近時の中では、最上位と最下位の差が一番大きく表れたと言えます。