澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

杉田水脈の「いいね」に、損害賠償を命じる逆転判決。

(2022年10月21日)
 昨日言い渡しの、下記東京高裁民事判決報道が大きな話題となっている。昨日の東京はこの上ない晴天。その天候同様の晴れやかな判決だった。

「杉田水脈議員に一転、賠償命令 『いいね』で伊藤詩織氏への侮辱」(朝日)
「伊藤詩織さん逆転勝訴、杉田水脈氏に賠償命令 中傷投稿に『いいね』」(毎日)
「伊藤詩織さん中傷ツイートに繰り返し『いいね』…自民・杉田水脈氏に2審は55万円の賠償命令」(読売)

 この愚行を繰り返した杉田水脈なる人物、信じがたいことだが政治家である。現在なお衆院議員、そして総務政務官。政治・政治家の劣化を嘆く声は高いが、政治家としての劣度においてこの人の右に出る者は少ない。日本の主権者が、このような政治家に貴重な議席を与えているのだ。我が国の民主主義の水準が嘆かわしい。

 杉田は2018年6?7月、ツイッター上で「枕営業の失敗」「ハニートラップ」「売名行為」などと伊藤を中傷した第三者の投稿計25件に「いいね」を押した。なにゆえの愚行だったか。その動機は、単に暇だったからではあり得ない。おそらくは、安倍晋三を中心とする政治グループへの帰属意識と忠誠心の証しであったろう。

 安倍晋三あればこその政治家杉田水脈である。その杉田の伊藤詩織攻撃は安倍陣営へのエールではあろうが、この上なくみっともないことになった。安倍晋三亡き後の寄る辺なき杉田水脈、果たしてこれまでのようにはしゃぎ続けることができるだろうか。

 私は、この判決に目を通していない。報道された限りでの理解だが、本件は名誉毀損訴訟ではなく、侮辱を請求原因とする訴訟である。名誉毀損の請求原因が「公然事実を摘示する表現で、原告の社会的評価を低下させた」という構成になるのに対して、侮辱では「公然と原告の人格を毀損する表現をした」となる。

 一般に、名誉毀損では「事実の摘示が必要」だが侮辱では不要、名誉毀損の侵害法益は「社会的評価」だが侮辱では「名誉感情」だと説かれる。しかし、厳密には、名誉毀損と侮辱とを分けるものは微妙である。その意味では、伊藤・杉田事件は貴重な侮辱事案の判決となった。

 この事件、本年3月の一審・東京地裁判決では請求棄却判決となっている。ツイッター上の「いいね」は、「必ずしも内容への好意的・肯定的な感情を示すものではない」「ブックマークなどの目的で使われることもあり、」「感情の対象や程度は特定できず、非常に抽象的、多義的な表現行為にとどまる」と、名誉感情を毀損する人格攻撃としての侮辱表現があったと認めなかったようだ。

 控訴審では一転、名誉感情の毀損を認めて原判決を変更し、杉田に55万円の支払いを命じた。決め手となったのは、「いいね」を押した行為だけに着目するのではなく、杉田が以前からインターネット番組などで伊藤の批判を繰り返していたことなどを勘案して、「名誉感情を害する意図があった」「国会議員の『いいね』は一般人とは比較しえない影響力がある」と、目的(主観)・効果(客観)両面での侮辱の成立を認め、賠償請求を認容した。欣快の至りである。

 昨夕の毎日(デジタル版)が、「杉田水脈氏の差別発言の数々」の解説記事を掲載している。その一部を抜粋しておきたい。杉田水脈とは何者であるかがよく分かる。

「性暴力被害に『女性はいくらでもウソをつけますから』」

 「20年9月の自民党内の会議では、行政や民間が運営する性暴力被害者のための「ワンストップ支援センター」を全国で増設する方針などを内閣府が説明した際、「女性はいくらでもウソをつけますから」と、被害の虚偽申告があるように受け取れる発言をした。 この発言を巡っては、大学教授らでつくる「公的発言におけるジェンダー差別を許さない会」が21年2?3月に実施したネット投票で、ジェンダーに関する問題発言のワースト1位に選ばれた。」

待機児童問題でも持論

 「保育園への入所選考に落ちた母親がブログにつづった「保育園落ちた日本死ね!!!」という言葉が話題になった16年には、保育所の増設などを求める動きに対し、産経新聞のニュースサイトでの自身の連載で「子供を家庭から引き離し、保育所などの施設で洗脳教育する。旧ソ連が共産主義体制の中で取り組み、失敗したモデルを21世紀の日本で実践しようとしているわけです」「コミンテルン(共産主義政党の国際組織)が日本の一番コアな部分である『家族』を崩壊させようと仕掛けてきました」などとつづり、物議を醸したこともある。」

「生産性がない」発言で雑誌が休刊に

 「18年、月刊誌「新潮45」8月号に「『LGBT』支援の度が過ぎる」とのタイトルで「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」と寄稿。
 『多様性を受け入れて、さまざまな性的指向も認めよということになると、同性婚の容認だけにとどまらず、例えば兄弟婚を認めろ、親子婚を認めろ、それどころかペット婚や、機械と結婚させろという声も出てくるかもしれません』と性的少数者を差別する主張を展開した。 この寄稿に対して当事者や支援者から批判が殺到し、自民党本部前などで抗議集会が開かれる事態となり、「新潮45」は18年10月号で休刊となった」

杉田氏「多様性否定したことない」

 「一方、今年8月15日の総務政務官の就任記者会見で「新潮45」への寄稿について問われた杉田氏は「私は過去に多様性を否定したこともなく、性的マイノリティーの方々を差別したこともございません」と説明した。」

 この「多様性否定したことない」という杉田発言について、「なるほど、『女性はいくらでもウソをつけますから』というとおりだ」などと言ってはならない。「いくらでもウソをつける」のは、『女性』ではなく『杉田水脈』という政治家なのだから。

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