新内閣法制局長官は、安倍政権に抵抗できるだろうか
昨日(5月20日)の参院外交防衛委員会で、横畠裕介内閣法制局長官が就任後初めて国会答弁した。アントニオ猪木委員(日本維新の会)の集団的自衛権の行使に関する質問に対して、集団的自衛権の定義については「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにかかわらず実力をもって阻止することが正当化される権利」とした上、「他国に加えられた武力攻撃を実力で阻止することを内容とするものであるため、そのような武力の行使は憲法上許されない」と述べた旨報道されている。
「憲法上許されない」とは、単に、「政府はこれまでそのように解釈してきた」という文脈で述べられたのか、あるいは憲法解釈上論理必然的に「許されない」という趣旨なのか、報道では判然としない。質問者の猪木委員も詰めてはいないようだ。
横畠氏の次長から長官への昇格は5月16日。昇格以前の次官時代にも答弁には立っている。たとえば、2月6日の参院予算委員会。「内閣法制局次長が初答弁 入院中の長官代理で」とのタイトルで、次のように報道されている。
「体調不良で検査入院中の小松一郎・内閣法制局長官の代理を務める横畠裕介次長が今国会で初めて6日の参院予算委員会で答弁した。横畠氏は現行の憲法解釈を堅持してきた内閣法制局出身だが、この日は安倍晋三首相が前向きな憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認をめぐる質問で「現時点では意見は差し控える」と答弁。行使容認に前向きな小松氏の代役に徹した。
この日、社民党の福島瑞穂前党首が現行解釈の確認を求めたが、横畠氏は『意見を差し控える』と3度にわたって繰り返し、質疑が中断。再開後に『政府としては、行使は許されないと解してきた』と答弁した。
なお、小松氏は同様の質問に答弁する際、『集団的自衛権をめぐる憲法解釈は現時点では従来通りだ』と前置きしていた。」(朝日)
横畠氏は山本庸幸前々長官の次の長官候補だった。順当に行けば、長官になれるところを、安倍政権の思惑で、異例の外務省からの横滑り長官人事の割を食った。誰がみても、憲法解釈を変更するための不自然で強引な人事の犠牲者。安倍政権に疎まれたのだから立派な人物なのだろう。硬骨漢なのだろうとのイメージがあった。小泉政権当時の国会で、集団的自衛権は行使できないとする現行解釈に沿う見解を示していたともいう。
さて、この点がどうなのだろうか。5月16日の東京夕刊は、新長官記者会見を「法制局新長官 横畠氏、容認前向き」と報道している。
「政府は16日の閣議で、小松一郎内閣法制局長官(63)を退任させ、横畠裕介内閣法制次長(62)を昇格させる人事を決めた。体調不良で職務続行が困難と判断した。横畠氏は解釈改憲に関し記者団に『およそ不可能という前提には立っていない。遅れることなく、しっかり研究していきたい』と集団的自衛権の行使容認をにらみ前向きに検討する考えを示した」という記事。
まだこの記事だけでは分からない。政権は、横畠氏が安全パイであることを確認して新長官に据えたと考えるべきなのかも知れない。いや、人の信条はそんなにたやすく変えられるものではないというべきなのかも知れない。また、所詮官僚機構の中で抵抗は無理だと考えるべきか、この地位の大きさから政権への抵抗を期待可能と言うべきか。官僚機構の中の一個人の資質や健闘に期待するのではなく、世論の大きなうねりをつくることが大切ではないか。
思いは多様で、いま結論は出せない。固唾をのんで見守るばかり。
(2014年5月21日)