澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「知らなかったから問題ない」では済まされないー安倍「疑惑内閣」は出直せ。

政治とカネについて疑惑が浮上すると、必ずこう繰り返されてきた。「些細なミス、訂正すれば済むことだ」「法的には問題ないが道義的責任を感じて辞任する」「疑惑を指摘されたカネは直ぐに返還したから、もう問題はない」。それで済まされたのでは民主主義が泣く。今国会で、もう一つのフレーズが付け加えられた。首相自身の言葉としてである。

「知っていたかどうかが重要な要件で、知らなかったから問題ない」というものだ。えっ? 我が耳を疑った。政治家がそんなことを言って開き直ってよいのか。ましてや疑惑の元締である安倍首相がそんなことを言って、批判の矢ぶすまにならないでおられるのか。この国はそれほど生温いのか。権力者に寛大なのか。信じがたい。

西川公也農相の辞任直後に、下村博文文科相の疑惑が浮上した。政治団体の無届け、そして無届け政治団体を通じてのヤミ献金の疑いである。しかも、政治資金規正法違反の疑惑だけでなく、政治資金収支報告書の記載から見えてくる「闇の勢力との黒い交際疑惑」などのスキャンダルが「教育行政をつかさどる責任者として、明らかに不適格」なのだ。しかし、ドミノ倒しになっては政権がもたないとばかりの必死の抵抗を続けている。

ところが、下村だけでなく、さらに望月義夫環境相、上川陽子法相にも疑惑の火がついた。この両名は、いずれも、補助金受領者からの献金を禁じた公職選挙法に違反するというもの。国からの補助金受領者からの政治家への献金は、「補助金受領にお骨折りいただいたことへの謝礼」と見られかねない。見方によっては、キックバックともとらえられかねない。だから、政治とカネとの汚い疑惑を断ちきり、カネに左右されない政治への信頼をゆるがせにしないための制度なのだ。

望月・上川の両閣僚は、この信頼を裏切った。世間はこう考えざるを得ない。「やはり、政治家にカネを渡している企業に補助金が行くんだ」「補助金をもらった企業は、やはり政治家に金を渡してお礼をし、次もよろしくと挨拶するのだ」と。

だから、安倍首相は、望月・上川の両閣僚と一緒に、政治の廉潔性への信頼を汚してたことに対して、深謝しなければならない。ところが、反省の弁を述べるどころか開き直って発したのが、「本人は知らなかったのだから、責任がない」「指摘されてわかったから直ぐカネは返した」「これで何の問題もない」というのだ。

改めて、政治資金規正法第1条を掲げておきたい。安倍晋三も下村博文も望月義夫も、そして法務大臣の立場にある上川陽子も、よくこの条文をかみしめるべきである。

第1条(目的) この法律は、議会制民主政治の下における政党その他の政治団体の機能の重要性及び公職の候補者の責務の重要性にかんがみ、政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため、政治団体の届出、政治団体に係る政治資金の収支の公開並びに政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正その他の措置を講ずることにより、政治活動の公明と公正を確保し、もつて民主政治の健全な発達に寄与することを目的とする。

望月・上川両名の責任は、「寄附の質的制限」違反であり、その根拠条文は以下のとおりである。

第23条の3
第1項 国から補助金交付の決定を受けた会社その他の法人は、当該給付金の交付の決定の通知を受けた日から同日後1年を経過する日までの間、政治活動に関する寄附をしてはならない。
第6項 何人も、第1項の規定に違反してされる寄附であることを知りながら、これを受けてはならない。

第1項が企業に対する献金禁止規定であり、第6項が政治家の側に対する献金受領禁止規定である。違反に対する制裁は、両者とも「3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金」となっている。

確かに、政治家を処罰するためには、「第1項の規定に違反してされる寄附であることを知りながら」という要件の充足が必要である。しかし、何よりも、問題は政治家の行為が犯罪として成立するかどうかではない。先に引用した政治資金規正法の趣旨に明記されているとおり、「政治活動の公明と公正を確保するために」「国民の不断の監視と批判の下に行われ」ことを最重要とするのが法の趣旨である。政治家は、犯罪構成要件の充足如何を問題としてたれりとする次元であってはならない。政治に対する国民の信頼を傷つけたことを謙虚に反省し謝罪しなければならないのだ。それでこそ、「民主政治の健全な発達」を期待することが可能となる。

なお、政治家が自分に政治献金してくれる企業の動向に無関心であることは考えにくい。しかも本件の場合、「鈴与」が受領した補助金の額は2件で合計2億円を超える巨額である。常識的には「知らなかったはずはない」として追及を受けて当然というべきだろう。安倍晋三流の弁護の仕方は強引に過ぎる。また、仮に本当に知らなかったとすれば、相手方企業だけに犯罪が成立してしまうことになる。そのような事態を作出したことにおいて、政治家としては失格と言うべきではないか。

予算委員会での追求の先頭に立っている民主党の諸議員は、よく調べて鋭く質問している。とりわけ、「下村大臣は教育を食い物にしていると言っていい」は、本質をよく衝いていて小気味よい。声援を送りたい。

それにしても、今次安倍内閣は政治とカネの疑惑まみれ。指を折れば、松島みどり・小渕優子・宮澤洋一・江渡聡徳・西川公也、そしてこれに加えて時の人となっている下村博文・望月義夫・上川陽子の3閣僚。「襟を正せ」「姿勢を改めよ」では言葉が足りない。やはり、「顔を洗って出直せ」というしかないのではないか。
(2015年2月27日)

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